6 黒い靄
Q,スペシャルスペックって何?
A,普通の人は持つことのできない基本チートだらけのスキルセット
基本的には4つの能力を秘めているとされている。スペシャルスペックは所有者とともに成長し、能力が解放される。スペシャルスペックは1人1つしか持つことができない。(ここ重要)
簡単に言うと職業システムのようなもの。
<登場人物>
古河 経→ケルト
佐野 卯月→ユシリズ
増岡 柳太郎→ユウビス
岡田 学人→ガクト
三ツ矢 弾→ダン
阿野部 慎→アマ
男の靄と俺たちの戦いが始まった。
最初に俺は男に目をやり、こいつはなんなのか、あのヘルハウンドの時のように凝視する。情報が出てくるか試すために。
≪生物を認識しました、以下の通りです≫
Name:unknown
レベル:??
スキル:[???][???]
魔法:
【暗黒魔法:神経】 …睡眠術
何だこいつ、情報がない?
靄はまた新しく手に靄を集め、球を作る。今度は大量に。
「ネムレ」
手を突き出すと靄の球がが俺たちに降り注ぐ。
「こうだ!」
俺は手に力を込め手前に突き出した。
≪発動:【荒ぶる大気】≫
周囲の空気に爆発が起き、大きな衝撃によって俺たちに降り注いできた靄は消滅する。
「ナイスだケルト!お返しに喰らいやがれ!」
ユシリズは手に炎をまとわせ狙いを定めた。
<<発動:【大発火】>>
「死ねぇ!!」
靄の目の前で大きな火の塊は破裂する。威力はゲームでよく見る手榴弾以上の爆発だった。
「おお…」
爆発の激しさにへんな声が出てしまった。
「汚ねぇ花火だぜ」
ユシリズはドヤ顔で決め台詞を吐いた。
爆発の煙が引いていくとそこにはまだ靄がいた。ダメージを受けてるようには見えずピンピンとしている。
「えぇ…いるじゃん」
ドヤ顔から一気に顔が落ち込む。
敵の様子を見て、空かさずアマが仕掛けた。
≪発動:【電磁砲】≫
アマが作り出した電流がけたたましい音を立てながらすごい速さで靄に一直線に進んでいく。そして靄の胸を貫く。
「流石にやっただろ…ん?」
確かに胸を貫いた。しかし、靄は弱っている様には見え無かった。
「え?何で?俺の攻撃当たってたよな」
ユシリズとアマのスキルが効かないのはレベルの差か?それとも何か耐性持ちなのか?
くそ、分からない。
「ツギコソ」
靄の球が降ってくる。今度は2倍の量で。
「まだまだ!」
俺はまたスキルでかき消す。毎回球の量が増えている。俺のスキルにも限界があるためそろそろまずい。
≪発動:【時間遅延】≫
何かと思ったら後ろで急にユウビスがスキルを発動する。見ると敵の動きが蟻が歩く程度並みの速度になった。
「今俺のスキルで時間を遅くしてるからあいつは動けない同然だ、作戦会議をしよう」
作戦会議が急遽始まった。俺たちは集合し円陣を組む。
「どうする」
「俺の炎が効かなかった! あの糞幽霊!」
ユシリズが地団駄を踏み、剛毛な髪を掻きむしった。
「俺も攻撃素通りされた」
アマも掌を見ながらショックを受けている様子だ。
「お前らの攻撃が効かないとなると…やばくね!?」
うん、ユウビス……確かにそうなんだよ。攻撃の要が通用しないとなると俺達は勝てる見込みがないことになる。いつまでも守れる訳でもない。ゆっくり流れている時間の中でみんなで考える。黒い靄もゆっくりと俺たちに向かって来ているのが凄いシュールだであった。ユウビスが口を開く。
「とりあえず2人起こさないか?」
ガクトとダンの2人を指した。
「だって何したって起きなかったじゃん」
俺は口をとんがらせる。
「いや、君スキルあるやん、魔法だっけ?」
自分のステータスを見る。
「あ、忘れてた」
俺は2人に向けてスペルを放つとダンとガクトの周りに白い円が出来上がり輝かしく光り出す。そしてその光はその2人を包み込んだ。
≪魔法:完全回復≫
「ん…なんや…なんや!?」
「うぅ…またドン勝つでき…はっ!?ここは!?」
2人が起きた。
「起きたか2人とも」
俺はここまでの状況を説明すると2人はしてやられたかのような顔をしていた。
「くぅー!やられたで!ガクトの様子見に行ったら倒れとって、声おかけようとしたら意識が遠のいてしまってたんよ! まさかの敵で驚いたで」
「すまん、俺のトイレが長すぎたせいで」
私はガクトの肩に手を置いて笑顔で言った。
「無事なら大丈夫!ともかく今はあいつを何とかしないと…」
「あいつ?」
俺達は靄を見るとまだゆっくりとゆっくりとゆっくりと動いている。
ずっとゆっくりだな…悪役のお約束がうち破かれてしまってかわいそうに…。
「ダン聞いてくれ!ユシリズとかアマの攻撃が効かないんだよ! もちろん私も!!」
ユウビスが忘れかけていた焦りの表情を取り戻してダンに報告する。
「…ん? 攻撃? アマとユシリズが?」
「そうなんだよ、今は俺の能力であいつの動きを遅くしてんだけどどうしたものか…ユシリズなんて見てみろよ…」
俺が指を指すと明らかに負のオーラが漂うユシリズの猫背姿があった。
「チッ…あんの糞煙やろう…もう絶対許さないかんなぁ…」
あれは触れちゃいけないやつだ。ああなったユシリズはある意味触れたものに火傷を負わせる。
「た…大変やなあ、アマっちも攻撃したん?」
「俺もやったよ、一発電流ぶち込んだけど微動打にしてなかった」
「え!? アマ電気使えんの!?」
俺はここで何も知らないダンとガクトに今までの俺たちの能力についてを説明した。
「えーとすまん整理させて、ユシリズが炎でアマが電気、ユウビスは時間でケルトがオールマイティ?」
「私のは定かじゃないけど大体は合ってるよ」
「あ、フーン……強いなこのパーティ……」
「でも絶賛問題発生中なんだよね……」
ダンは靄に向かって目を向けると、急にあの靄を見つめ始めた。
「ダン?どうした?」
「なあケルト、さっきこいつに攻撃が効かないって言うてたよな?」
「うん」
「こいつ自体に攻撃したって事やな?」
「そうだけど…」
「1つ言ってもええか?」
「お願いします」
ダンは真剣な眼差しを私の方に向けて口を開いた。
「あいつの中は何もない!」
「何もない?」
ダンはふざけている様子がないのは確かだった。けど俺は『システム』で確認したけどそんな情報や性質なんて一切出てこなかったのはわかっていた。
…ん?“『システム』でダメだった”?
俺はある予想が頭に浮かぶ。
「なあダン」
「ほいほい」
「もしかして…お前それがわかるの?…能力か?」
「多分……え?わからんかったのこいつの正体?こいつ本当にただの煙やで、ほら」
俺の目の前に情報が送られる。
≪生物情報が更新されました、内容は以下の通りです≫
Name:生み出されし浮幽霊
種族:霊
一般スキル:[浮遊] [透過]
魔法:[スリープ]→生物を睡眠状態にする。
耐性:[透過]によりすべての攻撃が無効化されている
詳細情報:この生物は別の呪文、儀式によって生成されたものか間接的に操られている可能性があります。
弱点:操るもの
*解析中*
弱点改定:操るもの→ネクロマンサー
Name:ネクロマンサー
種族:アンデット
魔法:
【暗黒呪文:覚醒】……【幻影領域術】
【特殊呪文:禁術】【死者蘇生:劣]
耐性:[闇耐性]
詳細情報:基本的に影に隠れ、召喚対象に戦わせる為、防御力においては打たれ弱い。
何これ?めっちゃ詳しく情報出てきたじゃん。こいつの召喚元まで特定したじゃん。
ダンは分析系の能力なのか?
……有能かよ。
俺は顔を上げるとダンに言った。
「この情報全員に見せることはできるの?」
「もう送ったで!」
何その電子メール感覚……有能かよ。みんな情報に目を通すとみんなすんなりと認知したようだ。
「通りで効かない訳な」
アマは当然だなと言わんばかりの顔をしながら頭を掻いた。
「だとすると近くにいるんじゃね?」
アマの言う通りこの近くには必ずいる。
どうせユウビスがいるんだし、俺は派手な指示をユシリズにだした。
「ユシリズ」
「はい……」
「この辺り燃やせる?」
それはシンプルな事だった。
ここら一体を燃やしてしまえば探す手間がかなり省けるし、ユウビスにちょちょいと直して貰えば何の問題もない。
俺の言葉を聞いたユシリズは顔を上げ、ポケットからバンダナを取り出すと、もさもさの頭をバンダナでかきあげた。
「俺っちにーーーー任せとけぇーーーー!!」
そう言うとユシリズは大きな深呼吸を繰り返し、後ろを向いて右手に力を込めた。
すると右手に紅いの炎が集まり出し、それは火の巨大な塊を持っているかのようだった。
「死ねやボケーーーーーー!!!!!!!」
そしてその怒鳴り声とともに突きつけた右手から放たれた炎は扇状に放たれ、辺り一面の木々を一瞬にして灰にさせた。何ともまあ木々がまるでゴミのようだ。
「またつまらぬものを燃やしてしまった」
ユシリズはするっと頭のバンダナを外す。
ちょっとかっこいいじゃん…私が女だったら惚れてるな。
まあ嘘だけど。私、今女だけど。
となりではダンが驚きのあまり口が開き、鼻から鼻水が出ていた。
「えぇー! こんななんの!?」
ダンが驚くのも無理はない、こんな威力は俺達でも驚いてるんだから。やっぱり、相当怒ってたんだな、怖い怖い。
「あ、おったで! ほらあれ!」
私には遠くてよく見えない。よーーく目を凝らすと、灰になった木々の中で立ったまま燃え尽きた骸骨がいるのが見えた。
どうやら何が起きたのかもわからなず、炎に飲み込まれて死んでしまったのだろう。
立ったままで。
「あー、あれは木もろともやってしまった感じか、俺も電気浴びせたかったのに」
アマは残念そうに電気を出す素振りをしていた。いやいや、いずれ地球滅ぶぞ、こいつらのせいで。
「おい見ろ! 靄からなんか出てるぞ!!」
ユウビスの声に振り向くとその靄は苦しそうに唸り始める。大きな悲鳴をあげるとともに靄が薄れていくとその中から小さな光と勇ましき中年の男の顔が現れた。
その顔は悲しみの顔で小さく言葉を呟いた。
「届けられなかった……済まない……サラ……エルマ……愛してい……る」
そう言い残すと彼は静かに消えていった。
そして消滅とともに下に何かが落ちた。
私が拾うとそれは父親と母親、そして娘であろう家族3人の写真が埋め込まれている錆びれたペンダントだった。
裏には『愛するものサラへ』と彫られていた。
墓を見ると『ウェスタ・バニランテここに眠る』と刻まれている。
私たちは手を合わせ、日本式で供養をした。
森からは邪悪な気配が消えているのを感じると、光が差し込む道ができているのが見えた。
そして俺たちはこの長きに渡った森の中から抜け出すために歩みを進めた。
光が差すその道の先に何があるのか希望と不安を乗せて。
<敵対生物の討伐を完了しました。アイテムを獲得しました。以下の通りです>
報酬:錆びたペンダント
2020/03/08 2:10 魔物データ一部変更