45 報告
あれから俺たちはモリカの方へと戻り、リベアムール城で報告を行った。バズールの方は城兵達の方で調査をしてくれるとのこと。
ベリュトゥナについてだが今は城の医務室で傷の手当てをしてもらい、安静にしているそうだ。その後、色々話を伺って何も無ければ事件に関わりが無いとの事ですぐに釈放してくれるのだそうだ。
何より、そんな対処がすぐできたのもラミーが詳しく事件の事について話し、説得したからだ。嘘偽りがなく、信憑性が強いという事での特別措置らしい。これはリベアムールが決めたらしく、ラミーは泣いて喜んでいた。
俺たちの周りはこんな感じ、後は、俺たちの事だけだ。リベアムールに事件の報告のまとめと話がしたいと言われ、リベアムールの仕事部屋に呼ばれた。いつものキリッとした黒髪ロングのメイドの後に付いていき、広い廊下を歩いている。ある程度進んだところでメイドが目の前の扉を丁寧に指す。
「こちらがリベアムール様のお部屋でございます、私は外でお待ちしておりますのでご用件が終わりましたらまたお会いしましょう」
「はい、ありがとうございます」
俺もペコッとお辞儀をして、ゆっくりと木製のドアをノックする。
「開いているぞ」
ドアの奥から聞きなじみのある声が聞こえたのを確認すると俺はゆっくりとドアを開ける。そこでは高価な長椅子とテーブルがお出迎えをしてくれた。部屋の壁にはよく分からない絵画が飾られており、部屋の隅には銀色のこの国の騎士の甲冑がおいてあるのが見える。
部屋の中央奥にはまるで校長室のようなデスクで資料を見るリベアムールの姿があった。彼女は俺たちが入ってきたことに気がつくと資料を置いて立ち上がる。
「良く来た!! ご苦労。今回の件に関しての話がある。そこに座れ」
リベアムールの指示通りに手前の椅子に全員腰をかける。それを見てからリベアムールも座った。
「改めて……今回の件に関してだが……初めての仕事で少々妾も不安だったが良き働きぶりだった。
バンディットに関してこちらで調査をした結果、どうやらこやつらがここワンス地方で魔物を生み出していた元凶で間違いない。それに汝らが戦った男以外は脅されて使わされてたただのごろつきだった。捕獲された賊達がそう口を割ったと拷問兵がそう言っていたのだ。良い金儲けになるとか甘い話に乗ったら大変なことになったとか……まぁ、魔族にだまされるなんて人間としてなんとも情けない話ね」
バズールは適当に金をちらつかせて働かせて、使えない奴は始末していったと言うことか。その中には家族がいる者もいたらしい。なんとも、胸糞悪い話だ。
「そして、汝らが巻き込まれた妖精の園襲撃事件の件にも絡んでいた。奴隷商人をしていたドルとゼニに渡していた魔物の取引に絡んでいたのだ。そこで活動資金を調達していたそうだ。これで、この件も完全解決という形にする」
「あの森で出会ったでかぶつの根源もあいつらやったんか。まぁ当然っていえば当然やな」
「ダン、そなたも分かっていたのか?」
「バズールちゅう男は魔物を召喚できるスキルをもっとったからやっぱりそんな事してんたんかなって思ってただけだったんやけど。わしの勘は間違って無かったんや!!」
ダンはドンと胸を叩いてどや顔で俺たちを見る。うぜぇ……
「うむ……中々の推理だ。ダンよ見事であるぞ」
「照れるでーー」
(((((全部、お前の能力のおかげだけどな……)))))
「それと、もう1つ。誘拐された少女の話だ。まさか……親玉の協力者で、しかも妹だったとは……妾も少々驚いたわ」
リベアムールはテーブルに両肘をついて眉間にしわを寄せていた。
「リベアムールさん、あの、本当に解放を許可してくださってありがとうございます」
俺はペコッと座ったままお辞儀をする。リベアムールはクスッと鼻で笑った。
「敵の協力者といえど半ば強引に行った行為は家の放火のみ……そして、その保護者が泣いて妾に頼み込んできた。私は最初から解放する予定だったのに騒がしいやつだった」
「まじで!? 解放する予定だったんですか!? 俺はてっきり牢獄送りで処刑とかだと……」
ユシリズの言葉に俺は想像しただけで青ざめそうになる。
「馬鹿なことを言うでない……汝らを仕事に送り出してからこの仕事が成功することは分かっていたのだ。それに、妾はそう簡単に処刑になどせん。まったく……物騒な事を考える奴だ」
リベアムールは頬を少し膨らませてそっぽを向いた。そんな反応であったため俺の不安感は安心感へと変わり、ほっと胸をなで下ろす。
「まぁ……ケルトよ、少女が解放されたらあの2人のこと、今後も見守ってやるのだ」
「了解です」
「うむ……ああ、それと報酬だが汝らの要望を聞いてやろう。何が良い? 何でも良いぞ?」
俺たちは突然の報酬内容の話で固まる。『何でも良い』だと?
「え……今、何でもって?」
ユシリズはにやけた顔で俺たちの方を向く。明らかに何かいやらしい事を考えている顔だ。こいつには決めさせない。他の仲間を見る……がこいつらも何か変な妄想を膨らませていた。この脳内男子大学生どもが。
こいつらには任せられないと思い、俺はすぐに口を開く。
「私達の願いは……ラミーさんとカナの要望を聞いてあげることです!!」
俺の言葉を聞いて変なことを考えていたみんなの顔が真剣の顔になり、座り直す。
「……本当にそれで良いんだな?」
「お願いします」
「……よい! 良いぞ!! 他人のために自分の報酬を使う。そのやり方、汝らを妾は褒めてやろう!! 分かった。今すぐに手配する。それではこれで話は終わりとする。それでは下がって良いぞ」
「はい、よろしくおねがいします。それでは、失礼しました」
俺たちは立ち上がって、一礼してから部屋を退出する。
「お疲れ様でした、ケルト様」
廊下に出てすぐ、横に案内してくれたメイドがそこにいた。
「わ、びっくりした」
「報酬を人に使うなんて普通の人にはできないことです。ますます尊敬いたしますわ」
「えへへ……ありがとう」
褒められすぎて、俺は顔を赤くし頭を掻いて照れた。
「お帰りでしたら、出口までご案内します」
「えっと、ラミーさんとカナはどこに?」
「2人とも医務室でお休みになられてますよ。お会いになりますか?」
俺は少し考えたが、起こすわけにもいかなかったのでそのまま帰ることにした。
「いや、大丈夫。このまま帰ります。2人に伝えておいてください。いつでも私たちを頼ってくださいねって」
俺はメイドににっこりとした笑顔で伝えるとメイドもはにかんで承諾してくれる。
「かしこまりました……それではこちらに案内します」
メイドに導かれ、そのまま出口の門につくと、門の近くにつけて置いた馬たちに乗り、ケルト達はそのまま家へと帰ったのだった。
その後、
リベアムール自室にて。
「……ケルト。どうやらお主の器に妾は本当に任せても良いかも知れぬのだ」
リベアムールは1枚の資料に目を落としていた。
その資料には『六地方緊急同盟契約書」と書かれていた。
「早速次の仕事の準備をせんと」
リベアムールは早々と自室を出て長い廊下を歩き出した。
 





