37 放火
それから数日間、ケルトはラミーの酒場で働き続けた。酒場は相変わらずケルトに会いたいとする人達で賑わっている。しかし、ケルトも仕事に慣れたのか客への対応も手慣れた様子であった。
「ケルトちゃーん!! 俺にビールをくれ!! ツマミは君の笑顔でな?」
「はーい!! ただ今お持ちします♪ ニコッ♪」
「ケルトちゃん、今日も可愛いねぇ! やっぱりおじさんケルトちゃんみたいなねーちゃんが好みなんだよーん!!」
「それはどーもです♪(棒)」
「おいテメェ!! 何言ってやがんだ!? ケルトちゃんは俺の天使だ!!」
「ばーか!! 俺のマイエンジェルだってんだろ!!」
「私はみんなの天使ですよ♪(棒)」
「「うおぉぉお!!! ケルト様――!!!!」」
酔いどれた男達の対応もこの通り華麗に対応することができるようになった。初めての仕事であったがこれはかなりのレベルアップでは無いのだろうか? 何かスキルでも貰っても良いくらいだけど……
<<確認しました>>
<<『能力生成』発動>>
<<以下の能力を獲得>>
スキル名:【魅了】
種類:特殊
効果:人を引き寄せるカリスマのオーラが漂い、対象を自身の虜にさせる。
お? 今の状況に見合ったスキルを手に入れたぞ。これはマインド系のスキルか………
ちょっといやらしいやつね。今度、ユシリズにでも実験で掛けてみようかな?
店の奥でスキルの確認をしている最中、賑やかな店内から逃げてくるようにラミーさんも店の奥へとやってきた。
「ふぅ……お店が繁盛するのはありがたいけど、大変ね」
「でも、活気が出てきましたね。前まではこんなにお客さんも来なかったんですよね?」
「まあね……でも、家の店をこんな風に活気づけてくれたのはケルトちゃん、あなたのおかげよ」
ラミーさんはポケットから葉巻を取り出す。そして、火を付けると彼女は一服し始めた。
「それにしても上手くいきすぎるわね……あなた何者? まるで招き猫かお店に宿る客を呼ぶ神様みたいだねぇ……ほんと不思議……」
「不思議ですよね……私も良く分からないんです。だから……簡単に招き猫とでも思っててください!」
ラミーは俺の言葉に吹き出し、クスクスと笑った。
「そうかい! じゃあ、招き猫には申し訳ないんだけど今からお使いにでも行ってもらおうかしら」
「任せてください!」
俺はラミーさんから食材と調合に必要な材料が書かれたメモをもらうと、店の裏口から出る。そして、表の町中に出ようとしたときだった。曲がり角に入ろうとしたとき、俺は前方から走ってきた男とぶつかってしまった。その男はかなり急いでいたらしく、かなり速い速度で俺と衝突したため俺は少し尻餅をついてしまう。
「痛た……気をつけて歩いてよ……」
俺が顔を見上げると男は黒い肌をして目に傷を負っている。男は焦った様子で汗びっしょりの様子だった。そして、謝りもせずに俺の横を走って俺が歩いてきた方向へと向かって行く。そのときは男について不思議に思っただけだった。俺は立ち上がり、ラミーから頼まれていたお使いに向かうことにした。
――そうして、ケルトは街へと買い出しがある程度終わり、酒場に帰るところだった。買い物が早目に済み、先々の店で値引きをしてもらっていたケルトはスキップをするくらい上機嫌の様子である。
「ふんふん♪ 今日もいっぱいサービスして貰っちゃったぞ♪ ラッキーラッキー♪」
しかし、ケルトが酒場に近づくほど周囲の人々の動きが慌ただしい様子だった。消火を急げやら酷い有様だやら人々から不穏な言葉が飛び交っている。火事でも起こったのだろうか?
俺は何があったのか俺の向かう道から流れてくる人に話を聞いて見ることにした。その時、正面から小太りのおじさんが俺の方に向かって走ってくる。
「ケ……ケルトちゃん!! 君は外に出ていたんだね!?」
「あっ! 酒場にいつも来てくれるおじさんじゃないですか!! どうかしたんですか? みんな何か慌ただしい様子ですけど」
「大変なんだ!! ラミーさん宅が……酒場リキュレットが火事に!!」
「……え?」
「と……ともかくあそこに戻るのは危険だ!! 消防団が来るまで君は大人しく……あっ! ケルトちゃん!!」
俺はなぜか走り出していた。俺の思考が追いつく暇もなく、ただ自然と身体が動いていたんだ。ただひたすらに酒場へと、仕事場へと駆け込むように……
何故か息が切れない。それどころではない。ラミーさん!! カナ!! 無事でいてくれ!! とただそれだけを思って走った。
店の前に到着すると俺の知っている酒場は赤い赤い炎のに包まれ、木材が焼かれて出た黒い煙が空に高く上がっている。そして、店の周りはパニックになっていた。泣きじゃくる者、負傷している者、リベアムール城の兵士に状況を説明する者が混ざり合い軽い混沌のなかにいるようだった。俺は周りを見るがラミーとカナの姿がない。俺は慌ててシステムを開き、マップで店内を見る。そこには生体反応を表した赤い点がマップ上に1つだけ記されていた。
「ラミーさん!! カナ!!」
「ああ!! 君!! 危ないぞ!!」
俺は兵士の声に耳を貸さず、正面から店の中に入る。店内も赤い炎が酒瓶に燃え移り、狂乱の如く燃え盛っている。俺は店の奥へと向かおうとするが焼け落ちた木材が行く手を阻み、進めない。
「急いでんだ!! どけ!!」
<<発動:獰猛な大気>>
俺は木材をドアごと吹っ飛ばし、中に入る。俺は裏口のある部屋の方へ行くとそこには床に倒れたラミーの姿があった。急いで駆け寄り、声をかける。
「ラミーさん!!ラミーさん大丈夫ですか!?」
声を掛けるが返事がない。
「煙を吸ったのか……急がないとまずい……そう言えばカナはどこだ?」
もう一度マップを確認するがマップにある赤い点は1つのみ。おそらくラミーのものだろう。だとするともう脱出しているのだろうか? そう考えている間にも家は崩れかけてくる。とりあえず出なくては……
俺は裏口のドアをこじ開けて外へと出た。燃え行く家から少し距離をとってまたラミーの様子を見る。
「う……ん……ケルト……ちゃん……」
「気がつきましたか!! 私がいない間に何があったんですか!?」
「裏……口から……火が突然出て……気が付いたら……火が大きくなって……そして……」
家が大きく崩れ落ち、酒場と家は跡形もなく倒壊する。
「カナが……連れていかれた……」
「え……?」





