33 酒場リキュレット
買い物の帰りに寄った酒場での揉め事を (アマが)力でねじ伏せた。そして、賊の撃退のお礼に無料で商品を1品提供してくれるのだそうだ。俺たちはカウンター席に座るとウェイトレスがにこやかにメニューを俺たちに渡した。
「お客様、先ほどお客様に多大なご迷惑をおかけした上にまさか助けていただけるなんて思いませんでした。本当にありがとうございます!!」
女の子はペコペコとお辞儀をする。さっきまでのおびえていた様子とは打って変わり、少し安心した様子をしていた。
「まぁ……あんなの見せられたら助けないわけにも行かなかったし」
「お優しいお客様で良かったです。えへへ……」
アマの言葉に女の子はとても明るい無垢な笑顔を見せた。その笑顔をした彼女はとても可愛い。この世界の女の子達は笑顔が得意なのだろうか? そんなこと考えながらメニューに目を落とそうとするとカウンターから女性のハキハキとした声が聞こえてくる。赤い髪を後ろにゴムで結び、中肉中背よりも少し筋肉質と言うのが綺麗な赤いドレスの上からでも分かる体をしているが、大人っぽいとても美しい女性だった。顔や肩などに目立った傷が見当たらなかったため元戦士とかの類いではない。
「ありがとね二人とも!! まさか、あそこまで強いとは思わなかった。最近あーゆー変な賊が私に胡散臭い金儲けの話とかしてくるもんでさ、いくら追い払っても何度も来るんだよ。はぁ~もてる女はつらいわね~」
「あはは……そうなんですか」
俺は下手くそな愛想笑いをするが店主さんは俺たちに元気に話を続けた。
「そういえば自己紹介がまだだったね、私の名前はラミー=リキュレット。そこにいるウェイトレスはカナだ」
「はーい!! カナ=シェイカーでーす!! このお店の名物看板娘だよーー♪」
カナの元気の良さはサラと同じ感じがした。歳も同じくらいのように見えるから2人が出会ったらすぐ仲良くなれそうだ。ブラウンのショートヘアーのふわふわした形と性格がマッチしていてとても可愛らしい。
「私はケルト=シグムンドと言います。こっちは仲間のアマ=シグムンド。よろしくお願いしますね! ラミーさん!! カナさん!!」
アマも少し頭を下げ一言挨拶をする。
「うんうん、今日はお礼にうちの特製カクテルを飲んでいって! だけど……ケルトちゃんにはまだ早いから自家製のブラッドオレンジュースで我慢して頂戴ね♪ カナ!!」
ラミーが手を叩くと店の奥からカナが出てきた。
「はーい!! こちらリキュレット特製ブラッディーオレンジュースでーす♪ 絶妙な酸味と甘みで飲みやすいブレンドジュースだからケルトちゃんでもおいしく飲める♪ やったね♡」
俺の前に出されたのはグラスにトマトジュースのように赤い色をしたオレンジジュースだった。本当は俺もお酒が飲みたかったがこの身なりではしょうが無いと思い、ストローを使ってジュースを口に吸い入れた。あ……結構おいしい。
<<物質を解析中……>>
<<解析完了>>
<<解析結果は以下の通りです>>
アイテム名:ブラッディーオレンジュース
種別:調合物
調合成功率:80%
詳細:果物の一種であるオレンの果実の果汁100%を使用した特製のジュース。オレンは表面の皮は綺麗な緑色をしており、その中の果肉はとても赤いのが特徴的。農家達からはその赤さを「血の果実」と呼ばれている。このアイテムにはオレンの実と更に甘みを足すためにシュガーフラワーの蜜を混ぜ合わせている。
なるほど、独自にブレンドしてるのか。このお店はかなり自家製を売りにしているらしい。
おいしい……おいしくて止めることができない。
「あははーー♪ 可愛い♪」
チューチューとジュースをおいしそうに飲んでいる俺の頭をカナが撫でてくる。
「さあ、私も作りますかーー!! アマくんはどんなお酒が好き??」
「強くて、おしゃれな奴でおねがいします」
「じゃあ、少し待っててね!」
ラミーは腕まくりをすると棚から何種類かの酒を取りカウンターに並べていく。そして、その酒をシェイカーの中に分量を量らずに入れていくとそのシェイカーを丁寧に振り始めた。その姿はバーテンダーそのものだった。ある程度シェイカーで混ぜた酒をグラスに移すとラミーはポケットから赤い小瓶と黄色い小瓶を取り出す。
「ふふふ……ここからが酒場リキュレットでしか見られないパフォーマンスを見せてあげる!!」
そう言うとラミーは2つの小瓶の中に入った液体を一滴ずつ入れた。滴がグラスの酒の中に入ると透明だった酒が黄色と赤色が水面に乗った。そして、手元にあった鉄の棒でかき混ぜると目を閉じた。すると赤色と黄色が混ざり、グラスの酒が光り出した。その目の前にいた俺とアマは目の前で生まれた眩しい光に驚き、手でその光を遮る。
「ま……まぶしぃ……なにこれ……」
「ええ……俺の知ってる酒作りじゃない」
しかし、俺は敢えて手をずらしてその光の先を見ようとしたそのときだった。その光は更に光を増すとこの店全体に広がる。気がつけば俺はまた手で目を覆っていた。そして、光が収まると同時に俺たちは手を目から離すと赤と黄のマーブルな色が透明な状態に戻り、液体の中が虹のようにキラキラと薄く光っていた。
「ふぅ……できたできた。お待たせしたね。こちらラミー特製カクテル『レインボーオーシャン』でございます。なんてね♪」
その輝く酒がアマの前に出されると少々驚いた様子のアマだったが頂きますと一言言うとそれをグイッと飲んだ。
「お! いい飲みっぷり!!」
アマは最後までごくごくと酒を飲むとグラスは一気に空になった。飲み干した酒のグラスを置くと息を漏らす。
「ぷはぁーー!! うまい!! なんだこの酒……どんどん喉を通っていくし、ほのかな渋みと酸味と甘みと辛み、全ての味覚のバランス良い……初めて飲んだ」
「うれしいねーー♪ つくったかいが」
アマがそんなに褒めるなんて……よっぽど旨い酒なのだろう。俺は羨ましいと思いつつもただよだれを垂らしてみているしかなかった。するとシステムが反応し始める。
<<解析中……>>
<<解析完了>>
<<解析結果は以下の通りです>>
アイテム名:レインボーオーシャン
種別:調合酒
調合成功率:0.01%
詳細:複数の酒に赤色の危険度10の花『デスガベラ』の蜜と黄色の危険度9の実『ヒドラ血』の粉を調合させた伝説級の名酒。『デスガベラ』の蜜は通常一舐めすると体が燃えるような痛みを感じ死んでしまうとされる劇薬である。『ヒドラの血』もまた劇薬の1つに入る。しかし、その2つを旨く混ぜるとどんな食品も究極においしく仕上げることができるとされているが、その調合成功率の難しさに全ての調合師たちでも作ることが難しいとされている。
成功率0.01%!? それを成功させた!? そしてさっきの光……
俺はこの情報を見てすぐさまアマの顔を見る。アマも俺の方を見ていた。アイコンタクトを取るとアマは軽く頷いた。そう、アマも俺もこの人は普通じゃない事を悟ったのだ。
ラミーも『能力所有者』かも知れない
2020/2/19 挿絵を追加しました。