31 この度、神の元で働くことになりました
「神の仕事を私に!?」
俺の傷が癒えて落ち着いてから皆と集まり、リベアムールのいる玉座の間へと向かった。「大切な話」とだけ聞かされていた俺は少し緊張した面持ちでいるとリベアムールから言い渡されたのが私の代わりに神の仕事の一部をしてくれとの事だった。
「そうだ。お主が多忙である妾の代わりとなって神の仕事をする……と言う仕事だ。言うならば私の代行になって欲しいと言っているのだ」
「ええっと……でも、それって私に荷が重すぎると思うかと……私には難しいそうです」
私は簡単に受けて良いことでは無い事だと思った。もし、仕事を受けた時点で私はリベアムールの言うならば半身となっているわけだ。俺が変な事をした時点で神の顔に泥を塗ることになってしまう。そうなると、俺にはそれに会った責任がのしかかると言わざるを得ない。
「なに、そう固く考えるで無い。お主はこれまで通り普通に生活して良い。それに少し私の仕事を手伝うだけで良いのだ。そんな国を動かすような事は妾に任せろ。なぁ簡単そうだろ?」
俺はジト目になって質問する。
「仕事というのは……ちなみに…」
「他の地方の神との交流など外交的業務などだ」
「めちゃくちゃ重大な任務じゃ無いですか!!」
外交的業務って取引とかするって事でしょ!? しかも神と……荷が重いどころじゃ無い、俺がやる事は言うならば外交官では無いか。無理に決まってる。前世はただの大学生でコミュ障だった俺だぞ。
「私は忙しいのでな、遠くの方に出向くのは本当に苦労なんだ。妾は神であっても身は1つしか無い。大丈夫だ、何かあれば責任は私が持とう。それで……引き受けてくれるな?」
前からはリベアムールの熱い目力が俺を潰しにかかっていた。それに耐えかねた俺は後ろを振り向くと両肩に手を置かれた。
「神の代わりだぞ!! こんなチャンスはないぞ!! 俺たちも神の関係者で凄くなりそうだぞ!!」
ユシリズの興奮から出る語彙力のない言葉が俺の心に刺さる。
「お前分かってる? 神の仕事ができるって凄いぞ。儲けるかもだぞ?」
アマは他人事のように面白半分で言ってるのが顔から伝わってきた。
他3人も目を光らせている。自分に責任があまりないからって……
俺はまた正面を向くと目力が襲ってくる。もう勘弁して欲しかった。
「お主、なぜ妾がお主にこの仕事を提案しているか分かるか?」
「……どうしてですか?」
そう返すとリベアムールは立ち上がり長い黒髪を振り払った。
「分からぬのか? 妾がお主の力を認め、信頼したのだ。並大抵の事では私も他人に私の仕事など頼めん。妾に認められることは即ち神に認められた選ばれし者という事だ」
「私が……選ばれし者?」
俺を見るリベアムールの黒い瞳は真っ直ぐと前を向いていた。この眼は俺が決闘の時感じた時と同じ眼をしていた。この人も覚悟を持って言っているんだ。貴方になら頼めると、そう言う厚い信頼の眼なんだと気持ちよりも先に体が反応した。こんなにも信頼されたのは前世でも無かった。自分が変な気持ちになってくる。どうして信頼されているのに拒否しようとするのか……その答えはすぐに出た。
『自分に自信が無い』からだった。
前世にいた世界でも一度も挑戦もせずに失敗に怖がり、周りの目に怯えて人の信頼を受け入れる事をしてこなかった。それで何度も失敗してきたことをどうして変えようとしないのか、自問自答するよりも早くリベアムールの言葉が耳に入ってくる。
「引き受けてくれるな? ケルト?」
俺は30秒ほどの沈黙の後、気持ちよりも先に言葉が出た。
「やる……私が……やる!!」
リベアムールの堅い表情が和らぎ、微笑んだ。そして、後ろを向いて指を鳴らした。
「決まりだ。これよりケルトは今日から妾の第2の身体である!! 皆の者はこの者達を丁重に扱うように!!」
そう言い放つと全ての騎士達は剣を上に掲げ、承知の意思を見せ、メイド達はその場に座り私に向かって祈り始めた。仲間達は周りを見渡し驚き戸惑っているのに対して、俺は何故か驚くことはなかった。どちらかと言うと懐かしいような感じがした。俺みたいな奴にはこんな経験などあるわけないはずなのだが、前に同じ事をされたような気がするだけでよく分からない。俺自身は驚いているのだが体は慣れている様子だった。
「堂々としているな、流石妾の半身として見込みのある奴だ。しかし、今お主達に与えられる仕事はまだ無い。お主達には色々迷惑をかけた。民のために働くと誓っていた妾が旅人の1集団も大切にできなかった妾の無礼を許せ」
リベアムールは俺たちに向かって浅く一礼をした。それを見た周りの者達は神が神以外の者に頭を下げるなどあり得ないとざわつきを見せていた。
「いやいや!! 私だけが少し動いただけですから!! みんなもなんとも思ってませんし、私もあなたと戦えて良い経験にもなりました!! お礼は私の方からさせてください」
俺の反応を見て、はっと驚き、口を少し隠し、頬を少し赤くした。
「……尊い……」
彼女の口元からかすかに何か呟いた声が聞こえた気がするがうまく聞き取れなかった。
「ん? 何か仰りましたか?」
「ごほん……何も言うとらんぞ。取りあえず、大切な話というのはここまでだ。これからよろしく頼むぞ、ケルト一行」
俺たちは軽い会釈をし、後ろを振り向いたときだった。リベアムールが何かを思い出したかのように俺たちを呼び直した。
「そういえば、お主達……家名は無いのか?」
「家名? 家名とは何ですか?」
「お主ら家名を知らぬのか? 家名とは先祖代々受け継がれる名前の下につく物なのだが……お主達は珍しいな」
なるほど、名があるのに姓がないと言うこと言いたいのは分かった。しかし、俺たちがここに来たのは死んだのかも分からず、気がついたらこの世界にいて、名前は勝手に決めたんだからどこかの家名なんてあるわけがなかった。しかし、別の世界からやってきたとも言えないし……
俺は少し悩んでから口を開いた。
「私たちは……その……色々あって……名前しかないんですよ……あはは……」
我ながら下手な作り話と作り笑いに自分で引きつつなんとも言えない事を濁すように伝えた。
「ふむ……色々あったのだな……正直に言うと家名がないと言うのは正直変なのだ。そこで提案なのだが、妾がお主達の家名を与えてやろうかと思う。家名があればどこへ行ってもおかしい目では見られることはなくなる。それに、仲間との統率も高まると言うものだ。どうだ? 神から与えられるのだぞ? 」
彼女の言う通りなら持っていないと何かと不便な事になるのであればもらって損はない。俺はみんなに目配せをすると各々が頷いた。それを確認して俺達はありがたく家名を頂くことにした。
「お願いします」
「よろしい……ではお主らの家名は……」
……そうして、俺たちは多くの城のメイドや騎士、召使いなどに派手に見送られた。
外に出ると、宿屋バニランテまで送り届けるための馬車が待機していた。俺たちは初めての馬車に驚きつつ、搭乗していくとリベアムールが声をかけてきた。
「仕事が入るまでは自由に生活して構わん!! 城内に立ち入ることも許可する、いつでも遊びに来るといい!! また会おうケルト!!」
俺達はリベアムール、そして城の人たちに向かって手を振ると馬車はモリカの正門に向かって進み出した。あの人が何を考えているのは良く分からない。しかし、俺たちはまだ分からないことだらけだ。この世界のことも、神についても、そして俺のこの姿についてもだ。この神の仕事に立ち会えば世界が広がるかも知れない。そうしてきっと何かを得られるはずだ。俺たちは神の代行人として責務を全うしながら世の中に貢献していこう。前の世界に変わってできなかったことをしていこう。
城の城壁の門が開くと、門番達が叫ぶ
「神の使者、ケルト=シグムンドに神のご加護あれ!!」
馬車は蹄で足取りの良いリズムを奏でながら城を跡にしていった。
……さて、今日のエルマさんの夕食は何かな?
第2章が終わりました!
次回から3章に入ります
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