27 運命の賭け
「そうだ、次はこんなのはどうかな?」
そう言うとリベアムールの周囲の足場に紫色の魔方陣が描かれた。そしてその魔方陣はこの闘技場全体の足場を覆うように範囲を広げていった。
「何をする気ですかこれは?」
「まぁ良いではないか、ここから面白くなる」
今のところ至って何も変化がないのが少し怖いがリベアムールの攻撃を受けると言ったのは自分だ。何が起きても良いように備えなくては。
「では行くぞ……『大地の大牙』!」
すると、闘技場の足場全体を覆っている魔方陣の範囲内の地面が急に揺れだした。俺の足元が特に大きく揺れている違和感を察して俺は咄嗟にその場を離れた。その瞬間に俺の元いた大地が槍のように隆起したのだ。危なかった……もしあの時避けていなかったらなんて想像したく無い。しかし、地面の揺れは収まらない。俺が避けた後もまた足場が大きく揺れた。
まさか……
そう思った刹那、案の定俺の足元の大地がまた槍のように隆起したのだ。俺は休む暇なく更にその場から離れようとした。しかし、少し反応に遅れてしまい大地の槍が俺の肩を貫く。だが、大きく貫いたわけではなかったため肩からは少量の出血で済んだのは不幸中の幸いだった。
駄目だ……避ける隙も、技を試す余裕もない。ただただ奴の技を食らっているだけだ。実験を実行できるタイミングが合わない。
「これが妾の能力の中の一つ『領域支配』。支配系スキルの中では珍しい分類のスキルだ。今魔方陣が張られている範囲内の物質や人を自在に操ることが可能だ。どうだ? 面白いとは思わないかい?」
地面から大地の椅子を作り出し、そこに腰かけたリベアムールは足を組んで座った。
「ええ、ずいぶんとユニークなスキルですね。 私も欲しいくらいですよ」
俺は皮肉を交えた簡単な会話の最中に傷ついた肩に手を当てて肩の修復を行った。肩の傷口が塞がったのを確認すると俺は決心した。
次だ……次の攻撃で実行しよう。このままではただ攻めで押される一方だ。奴の動きに合わせるんだ。
俺はそう自分に言い聞かせるとまた剣を構え直した。
「私はまだいけます!」
「お主ならそう来なくてはな。 では……行くぞ!『大地の大牙』!」
また俺たちが踏みしめている大地が大きく揺れ出す。それに合わせて俺は足に神経を集中させ風を纏わせた。ここからだ、ここから相手の攻撃に遭わせて回避し、相手の後ろに回る。これに成功すれば神と有利に戦える。
足下が大きく揺れ、そろそろ槍が出てくる予兆を察した。そして、大きく大地が盛り上がった瞬間を俺は逃さなかった。
……今だ!
その瞬間に俺は回避を試みた……が、その時体は動かなかった。風を纏った足で蹴り上げた体はただ普通のジャンプをしただけのように宙に浮く。大地の槍は宙に浮いてなすすべのない俺の両腕両足に突き刺さり、俺は貼り付けの状態となった。両腕と両足から見たことがないくらい出血していた。
何……でだ? どうして……動かなかった? まさか……やり方を間違えたのか?
痛い……四肢が……もう……感覚が……
俺の意識が薄れていくのを感じた。やばい、頭が真っ白に……なっ……て……
そしてケルトは気を失ってしまった。
大地の揺れる音が止んでから闘技場は一瞬静寂に包まれた。
傍観席で見ていた仲間達は唖然とし。瞬きすらする事ができなかった。
「ケルトォォーーーーーー!!!」
静かな闘技場にユシリズの怒号とも言える叫びが響き、反響でこだまする。その悲しみの叫びはただただ静寂に吸い込まれていくだけだった。
……
真っ暗だ……何も見えない……意識を失ったはずなのに意識を感じる……目が開かない……なんだ? どうなっているんだ? 体も動かないし、痛みも感じない。
死後の世界なのか? また死にそうになっているのだろうか?
俺の意識は今謎の世界にいた。風景は何もなく、ただただ真っ暗で何も見えない。
困惑する俺に透き通った女性の声が聞こえてくる。
『……汝よ……ケルトよ……聞こえますか?』
この声は……俺の夢に良く出てくる謎の声に似ている……いや……一緒だ。
俺は返答しようにも意識しかないため聞くことしかできなかった。
『久しぶりに来てみたけど……調子はどうかしら? その様子だとまだ力を使い切れてないようね……それにリベアムールごときにやれてるようじゃ私の元にはこれないわよ?……立ち上がりなさい。あなたはここで倒れるような人……いや、神ではないわ。あなたの能力……実は強力すぎるから一部規制をかけてたんだけど、あなたの今までの行いを見て分かったわ。あなたはこの力を良い方向に使ってくれるって……だから、真の力を使用することを許可します……もう一度立ち上がりなさい……』
声は俺にそう告げた後、俺の視界に大きな光が広がった。
その光は闇で真っ暗だった世界が照らされていく。その光が眩しいほどに光があふれたとき、俺の意識が戻ってきた。それと同時に俺の体から光があふれ、辺りにはじけ飛んだ。
気がつくと俺は大地の槍の呪縛が消え、貫かれた両腕両足が元通りになっていた。
「戻ってきた……」
俺が突然の復活により周りは状況を理解できていない様子だったが俺を見て仲間達が大きく歓声を挙げた。振り返ると仲間達の声が聞こえてくる。
「ケルトォォーーー!! 良く戻ってきた!!」
ユシリズは悲しみの叫びから歓喜のうれし泣きへと変わった。
「お前すげえよ!! これなら絶対いける!!」
ユウビスがあんなに大きく叫んでいるのは珍しいことだった。だからこそ俺はうれしく感じた。
「心配してくれてありがとう……」
俺は体を正面にむき直し、軽く動かす。いつもより体が軽く感じられた。これが……真の力なのか?
いや……違う……
俺は急いでシステムを開き、スキルリストを確認する。
「これは……」
俺はシステムに表示されていることに目が離せなかった。嘘だろ……これ……ずるだろ……
一方で急な出来事にでもリベアムールの表情でこちらを眺めていた。
「あの光……やはりな……」
リベアムールは俺に向かって長く細い指を俺に指した。
「ケルトよ!! 重傷からの生還見事だった!! だが、決闘はまだ続いておるぞ!! ここからはお主の判断で決闘の続行を決める!! さあどうする?」
俺はシステムを閉じると静かに視線をリベアムールに向けた。
「まだ終わらないわ! 私は続行する!」
それを聞くと安心したかのように笑った。
「そうだ! そうでなければならない!! お前の力はそんな物ではない!! 来いケルトよ!!」
そう言うと植物の蔓がリベアムールの背中から大量に出現し、無数の蔓が俺に向かってくる。しかし、俺は焦らなかった。攻撃が俺に届く前に俺は心の中であることをつぶやいた。
そして、鋭く尖った無数の蔓が俺の体を捕らえ、体中を貫通させた。
「勝負あったか……」
リベアムールが落ち着いた口調で言った。
……とでも思ったか?
串刺しになった俺の体は突如ぼやけ風に吹かれてその影は消えていった。
「なっ!?」
リベアムールは咄嗟の出来事に思わず声が出ていた。そして、リベアムール自身は察したのだ。そして後ろから声が聞こえた。
「残像だよ……」
俺が神の後ろにまわりこんでいることに。
 





