26 実力の壁
俺とリベアムールはお互いを見つめ合い闘技場の中央で構えの姿勢を取っていた。俺は神器ティター二アを構えている一方でリベアムールは何も持っておらず手ぶらだった。きっと何か隠し持っているのだろう。
「リベアムール様、あなたは武器を持たないの? あなた不利になるだけだけど?」
リベアムールの口元が緩み、にやりと笑う。
「別に良いわ。武器を使うことが絶対条件ではない。それに、妾はお主の力を直で味わいたいのだ。遠慮はいらん、今は妾を神などと考えず1人の相手だと思ってかかってきなさい」
なるほど、一応武器は持っているが手慣らし程度に素手で行くって事か。さすが神様、ナチュラルに余裕と煽りを同時に兼ね備えた行動をしてくれる。なら、俺がリベアムールの武器を出させるまでに至れば良いって訳か。まあ、頑張ってみるか。俺が先に攻撃を仕掛けた。
「行きますよ! 『飛来風刃』!」
<<発動:飛来風刃>>
俺は周囲の大気に集中させ、俺の周りには浮遊する風の刃を出現させた。
「ほう、風支配か……」
俺は右手をリベアムールに向けると浮遊していた風の刃はリベアムールに向かって飛んでいく。無数の刃がリベアムールを切り裂かんと降り注いだ。しかし、まるで動きを感じ取れているかのようにリベアムールは俺の技をあざ笑うかのようにわざと紙一重で避けていく。降り注がれた風の刃は地面に刺さり、消えていった。
「その程度か?」
「なわけないですよ! 『風神竜巻』!」
<<発動:風刃竜巻>>
リベアムールを中心とした周囲の大気を集め大きな竜巻を発生させた。その竜巻はリベアムールを飲み込んでいく。巨大化した竜巻に飲み込まれ外からはリベムールの姿は見えない。観客席で見ていたユシリズが拳を挙げた。
「やった!捕らえたか!」
しかしその隣で冷静に見ていたガクトが口を出した。
「いや、まだだ」
俺は竜巻が弱まらないようにコントロールしていた。ドンドンと竜巻の大きさは大きくなっていた。しかし、手応えがない。そう思ったそのときだった。巨大な竜巻の内側から大きな衝撃波が起こり一瞬にして竜巻は吹き飛ばされた。リベアムールは傷一つ付いてなかった。
「なんだ? こんな力で赤燐竜を倒したのか? そうというなら笑えてくる! まだ赤燐竜の方が脅威であるわ!」
カチン…………
俺は完全に怒った。ここまで馬鹿にしてくる奴は高校の同級生以来だ。確かに俺には力が足りないのは分かっている。分かりきった事だ。だけど、俺ももう優しい顔はしない。やつは神ではない。今は俺を馬鹿にする敵だ、そう思うと怒りが立ちこめてくる。俺の生前の過去の出来事、これまでのことに対する不満と苛立ちが襲ってきた。その思いは考えよりも先に行動に出てしまっていた。
「馬鹿……するんじゃねぇ!!」
俺はリベアムールに近づき、ティターニアを振るった。しかしすべての軌道を華麗に躱されてしまう。右に切っても左に切っても斜めに切ってもすべて避けられる。しかし、俺は乱舞をやめなかった。
「どうしたのだ? 全く当たらないではないか?」
この行動には理由があった。俺はただ攻撃を当てるために雑に攻撃している訳ではないことを。
ティターニアによる猛攻を軽々と避けていたリベアムールが俺の大振りの一斬りを避けたときにそれは気づいた。リベムールの背中には冷たい感触があった。
「壁!?」
そうだ、俺の攻撃は当てるためではない。相手に避けさせることで自然と移動させ闘技場の隅の壁まで誘導してやる。そうすれば動きなんて限定されてしまうのだ。俺は剣を振るうのをやめて、左手に大気を瞬時に集めた。
「食らえ!!」
<<発動:獰猛な大気>>
「しまっ……」
俺の手から出た大きな破裂音と共に衝撃波が起こった。その衝撃波により闘技場の壁が派手に壊れ、崩れた。これでどうだ……少しはダメージが入ってると良いのだが。
「なんちゃって」
後ろから声がしたのに気づき振り返る。そこには無傷でたたずんでいるリベアムールがいた。体どころか服も汚れている場所はなかった。
「そんな……どうして……」
「種明かしをするとあなたが最後に見たのは妾の残像。風の力を使って加速して残像を生み出し、紙一重で回避できたってところね。風支配にはこう言う使い方もあるのよ、覚えておきなさい」
「まさかあなたも使えるのね……風支配……」
俺の中では良い作戦だと思ったがやはり神にはまだまだのようだ。それに同じ能力を持っていたのは正直驚いた。額から流れる汗を拭うとまた剣を構え直した。この時点で疲れ切っている俺に対して、リベアムールは汗どころか息切れ一つしていなかった。
「でも、最初よりはなかなかやるようになったわね」
「それは……どうも……はぁはぁ……」
「あら? もう疲れてるのかしら? だらしないわね」
思いと体が比例していない。おのれが体力不足であることを今非常に悔しいと感じた。
ここへ来て前世の俺が運動をしてこなかったことに後悔を感じている。俺は大きく深呼吸をした。そして高まった鼓動を落ち着かせる。今度は防御態勢に入り、リベアムールの攻撃に備えた。
「次は妾が魅せる番だな。 妾の技を見られるのは珍しいのだぞ? その身をもって味わうといい」
リベアムールの目つきが変わった。そして、辺りから感じられる雰囲気が変わった。冷や汗によって寒気を感じているのか、それともこの者自身に恐怖を抱いているのか自分でさえも分からなかった。ただ、形容し難いオーラをリベアムールから感じるようになった。
「いくぞ……」
一言を俺に言うと目で捕らえていたはずのリベアムールが目の前で消えた。
「え?……」
「こっちだ」
俺が驚き困惑する前に後方から耳元で囁かれた。俺は反射で振り向くもそこには誰の姿もない。息もつかぬまままた後方から囁かれた。
「遅い遅い、こっちだ」
俺は振り向くと同時に剣で振り切ると切れたのはぼやけたリベアムールの影だけだった。
「それも残像だ」
いつの間にかまた俺の後ろに回り込まれていた。振り返り見ると、その表情は相も変わらず余裕の表情をしている。
「残像ばかりではつまらんだろう? 慌てるでない。もっと面白いもの魅せてやろう」
リベアムールが高く腕を上げると地面から巨大で太い蔓がまるで触手のように出てきた。
「何か生えた!?」
「さあ! 踊りなさい! 『束縛の無限蔓』」
リベアムールが腕を俺の方に向けると生きているような多数の蔓が俺に向かって襲いかかってきた。その蔓達は俺の腕や足に絡みつこうと狙ってくる。俺は向かってくる根を剣で切り落とし、隙間をぬって回避を行った。しかし、蔓は切っても切っても底なしに生えてくる。俺はそれに対処しきれずに、とうとう一本の蔓に足を取られてしまった。
「しまった!」
俺は体制を崩すと一気にその蔓は俺の両腕ともう片足に絡みつき、身動きがとれなくなった。蔓には細かな棘が着いており、絡みついたその腕と足に食い込ませてくる。棘が刺さったところから少量の血が流れ、嫌らしい具合の痛みが襲ってきた。
「くっ……」
「遅いから捕まるのだ。 少しばかりは動ける奴だと思っていたが期待外れか……」
「いや……まだだよ」
俺は周囲に風の刃を作ると拘束している蔓を切り落とした。俺はその場に膝を付き、両腕両足から流れ出る血を垂らしながら呼吸を整えて立ち上がった。
急いで回復しなきゃ……
「まだ立つに決まってるわよね。お主はそうでなくてはいけない」
俺は胸に手を当てて、自分を癒す意識を集中させるとと、俺の周りに光の円が出現し、その光は俺の傷を癒やしていく。
<<詠唱:完全回復>>
「なに? お主……回復魔法も使えるというのか? ……これはますます興味深い」
完全に元通りになった体をなめ回すように見ながら、顎に手を当て俺の方を見ていた。
一方で俺は頭の中で次の戦略を立てていた。
どうする……これ以上同じ攻撃をしても読まれて当たるわけがない。そしてあの超スピードの回避と移動力……明らかに俺の方がついて行くことは不可能だ。それにしても遅い遅いと挑発して来る奴だ。こう見えても前世では陸上部だったんだぞ。よく足の速い人のフォームとかまねして練習してたなぁ。
……ん?フォーム? まね? 練習?
……そうかこれだ。
俺はふと思った前世の経験からある作がひらめいた。
いけるかも知れない、今の俺なら!
「リベアムール様……お願いがあります」
「ん? なんだ?」
「次もリベアムール様が攻撃を仕掛けて来てください。今の私では攻撃を仕掛けても無意味だと思いまして」
「ほう……なるほど、良いぞ。ただし、次の攻撃で倒れないでくれよ?」
「分かってます……お願いします」
やるしかないんだ……まねるんだ。相手よりも早く動くんだ。集中しろ。俺ならできる
欺け。やってやる。そうだ、神と同じ動きをするんだ俺!





