2 女体化転生から始まった
Q,女体化って何?
A,男の体から女の体に代わってしまう現象。男の子なら少し夢に見たことがあるかも?
俺……死んだんだよな。確か……穴に落ちたはずだ。でも地面に打ち付けられる感じはなかったような……死ぬってよくわからないな。
でも、体は至って普通の感じがする。ちゃんと四肢がある。妙に痛みも感じない。どうやらうつ伏せに倒れているのだろう。そして風が吹いているのがわかる。聴覚と触覚も機能している。俺は目を開こうとすると、正常に開いた。見ると辺りには木が生い茂り、地面には草が生えていた。近くに池も見えた。どうやら森の中のようだ。さらに目をこらしてみると、人が何人か倒れているのが見えた。
「動けるのか?」
俺はゆっくりと立つことができた。そして、近づいてみると倒れていた人の中に見慣れた顔がある気がする。かすんだ目をこすって改めて見ると倒れていたのは柳太郎、慎、卯月、学人そして弾だった。
「みんな大丈夫か!? 生きてるか!?」
俺はすぐさま近くにいた柳太郎の体を揺する。
「おい! 起きろ! 柳太郎!」
「う……ん? え? 何処? え……君は誰?」
「頭痛くないか?」
「え? え?」
頭を強く打っているのか、今の状況に困惑しているのか分からない柳太郎は俺を経と認識できずにいた。少し気にはなったが今は気にせずみんなに声をかけ回った。
「ふぁ……なんや!?」
弾が起床。
「う~~ん……なにぃ?」
慎も無事に起床。
「また……ドン勝でき……はっ!? 此処は!?」
学人もなんとか無事起床。(ドン勝?)
「卯月! 起きて!!」
「むにゃむにゃ……もう食べられないよぅ……」
「起きねぇこいつ……」
ここに来てまでねぼすけ発揮とはさすがだよ。まあいい、いつか起きるだろうし。それよりもみんなの状態の様子を見ることが先だ。
「みんな平気か?」
「……」
どうしたのだろうか。みんな、俺の顔をまじまじと見ている様子だった。
「お前……もしかして経か?」
柳太郎が恐る恐る聞いてくる。
「は? 何言ってんだ? 俺以外誰がいるんだよ」
「お前以外がいるんだよ! 俺たちの前に!」
「は?」
「そこに池あるから一回見てこい」
「……分かった」
俺は柳太郎に促されて池の前に足を運び、池をのぞき込んだ。池の水はとても澄んでいていて、周りの情景が綺麗に映し出されている。そして、俺は池に反射された自分の姿を見ると……
「……誰?」
そこに写っていったのはいつも鏡で見ているような男臭くてイケメンとはほど遠い残念フェイスな顔ではなく、顔は小顔の童顔で、銀色の髪が肩まで伸びて、体も小柄になっていた。
「えぇーーー!!! 何これーーーー!?」
心なしか声がいつもより高い気がした。俺は自分で自分の体をまさぐり始める。幸いに服は死ぬ前と同じものだったらしく、そこから俺と判断できたのかもしれない。
それでも体は変化しているのは服の上からでもわかった。髭のないつるつるとした顔、脂肪のないスレンダー体型で胸は少し膨らんでおり、完全にいつもの姿ではなかった。そして俺は下半身にそっと手を伸ばし、あれが無事かを確認する。
「……ない」
ショックだった。
俺が19年間育ててきた男である証がなくなっていた。いつもの膨らみがまるで削られたかのように見事にツルツルになっていて、俺は女の子になっていることに嫌でも気づくのだった。
俺は下を向いてとぼとぼとみんなのところに向かった。そして柳太郎に近づく。
「な?」
「……なかった」
「ん?何?」
「息子が……」
「息子?」
「俺のあれがないんじゃーーー!!!」
「もっと驚くべきところがあるだろ!?」
俺は体育座りでシクシク泣いた。俺の息子が……
ショックを受けている俺を尻目に柳太郎と弾と慎が状況を整理している。
「うーん、俺ら穴に落ちて、変なとこにきてもーたのかもな。え?どう思う柳太郎?」
「いや、俺に聞かれても分からんわ」
弾は腕を組んで考えるが突然の事で考えがまとまらなかった。
「何やねん……何が起きてんねん……慎はなんかある?」
「なんかって何だよ」
「いやぁ、ほら、ここに来る心当たりとかあるやん?」
「有るわけねえだろ」
「まぁそうだわな」
どうやら、みんなもここへどう来たかなどは知らないらしい。学人も顎に手を当てて考えるそぶりを見せるが、少し経って出た結論は…
「分からん」
だった。
そんな中で卯月が目を覚ました。
「うぇ? なに此処? 」
起き上がり、辺りを見渡してから俺らに気づき、寝ぼけ眼のまま近づいてくる。
「まさか、俺たち死んだの?」
目を擦りながら弾に向けて事情を聞いてきた。
「いや、よう分からん。俺らも起きたら此処にいたからどないしようかな言うて」
「そういえば、経は?」
「びっくりすると思うけど、そこにおる子がそうやで……」
弾が指を指す先には美少女が体育座りでシクシクと泣いている。
「息子がぁ……」
「もしかして、あれが?」
「にわかに信じがたいけど、経やで」
卯月は一度深い深呼吸をして口を開く。
「あーーもしかして、俺ら転生した?」
もう、女の子になっちゃったのはしょうがないから取りあえず俺は前向きに考えていくことにした。息子なんてなかった……うん……
「転生なのかどうか分からないけど、取りあえずどこかに飛ばされたのか? 非常に興味深い」
学人はニヤニヤとした表情を浮かべながら周りの森を物色している。
「じゃあ……俺らどうすりゃ良いの」
卯月は少し不安なのか声のトーンが低い。俺たちも不安になりみんな黙ってしまった。
すると、突然俺の目線の左側に、縦に長い四角い枠が出現した。
「わ!? なんだこれ?」
その四角の枠に
<<名前は?>>
と文字が書かれていた。
「なあ、目の前に名前は?って書いたのが出てるんだけど」
俺はみんなに言うと、
「俺もなんか出てきた」
「なんや!? え、ちょっと凄い」
慎と弾にも出ているみたいだったが、俺とは別の方向を見ている。どうやら人の目線によって出ている場所などが違うらしい。
「おお、ゲームみたいだな、どんな原理だ」
「うわぁ、マジで?」
学人も卯月も見えてるようだな。そしてこの四角い枠は、俺が目線をそらしても付いてくるように映し出されるようだ。まるで目にコマンド画面でも組み込まれたかのように。
「名前って……俺は経なんだけど、キーボードは?」
そう言うと目の前には
<<その名前は使用できません>>
と書かれてエラーが起きた。
「あれ? 駄目? てか、俺文字打ち込んで無いよな……」
<<声または思考を伝達することで情報を受け取ります>>
「はぁ、なるほど」
原理は分からなかったが、あっちの世界で見た異世界ものって大体こんな感じだった気がする。
とりあえず、俺達はこれを『システム』と呼ぶことにした。難しいこと考えてもしょうがないからシステムに従って名前を決めよう。
「まあ、女の子になっちゃったし、『経』もおかしいか」
少し考えてみるも、全く名前が出てこない。俺はみんなの様子を見ながら名前の参考を探すことを始める。
「どうすればいいかな?」
「いつもの名前でよくね? 俺はゲームで良く使うこと『アマ』にするけど」
<<『アマ』を認証しました>>
「あっ、なったなった」
あっさりと決めたな。慎はアマか……うーーむ、悩む。
「学人は? 名前決めた?」
「俺はガクトにしてみようかな」
<<『ガクト』を認証しました>>
ガクトか……うーーむ、うーーむ。
「弾は?」
「え? ダンかな」
<<『ダン』を認証しました>>
「残りは俺と柳太郎と卯月か……」
俺は卯月のところへ行くと険しい顔で悩んでいた。
「卯月~~名前決めた?」
「うーん……」
「どんなのにするの?」
「……あのさぁ」
「どうしたの?」
顔を見ると卯月はあからさまに嫌な顔をして頬が赤くなっていた。俺なんかした?
「お前……顔近いんだよ」
「え? いつものことじゃん」
「いや、あのな、お前はいつもと違うだろ……だからその、胸が当たってるんだよ」
「胸?」
俺は自分の胸を見る。見事に卯月の肩にむにゅっと当たっていた。
卯月の顔をまた見ると顔が赤い。ははぁ~~ん、そう言う事か。ちょっとからかってやろう。
「えぇーいいじゃん♡ 別に♡」
俺はぐいぐいと胸を卯月の肩に押し当てる。むにゅむにゅと音が立ちそうだ。
「だぁーー!! 止めろい!」
卯月は暴れる。ロデオマシーンのように引っ付いた俺を振り落とそうと必死になっていた。
これ以上やると可哀想だと思い、俺は手を離した。
「お前は、その、もう男じゃ無いんだから気をつけろ!」
「はーーい♡」
うん、今回のでわかった。男って本当ちょろい。そして女って楽しい。
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