25 決闘
「決闘?どうして?」
俺は冷静な口調で真剣な眼差しのリベアムールに向かって問いただした。リベアムールは長い髪を振り払うと笑みを浮かべた。
「そなたは赤燐竜を見事討伐し、近辺の中級クラスの魔物も難なく倒した。その力、まさに興味深い。そして何よりも貴方が腰につけているその神器の存在も非常に気になるの……まさかあのシンシアが認めるなんてね……それはどんな力なのか手合わせせずにはいられないじゃない……同じ『能力者』としてね」
俺は耳を疑った。……まさかバレてしまったのか……
俺は周り見渡すと側近達のざわつきが収まらない。
「スペシャリスト? 神様と同じ?」
「あの冒険者が?」
「そんな……身近にいるなんて……」
陰口が聞こえてくる。そんなことよりもなぜばれたんだ?
「その顔は図星のようね……無駄よ……私に隠し事なんて……私には分かるの……あの方に似た力が、手を握った時から感じた。そして神器を見て私の思いは確信に変わった」
あの方とは誰だ? 俺からどんな力があるかは分からないが今はこの状況をなんとかしないとと言う思いでいっぱいだった。
「……なるほど、良く分かりましたね。確かに私たちは能力を持っています。でも今ここで私がリベアムール様と闘う理由が見つからないのですが?」
俺の体から大量の汗が噴き出してくるかのように体が熱くなる。それでも俺は精一杯の強がった顔を見せ続けた。だがそれもお見通しのようにリベアムールは余裕の笑みをを浮かべている。
「お主には理由が無くとも私にはある。私は貴方の力を見たい。大妖精に認められた選ばれし名もなきスペシャリストのな!」
その言い放った言葉の圧で俺はすでに気持ちで押されていた。なんだこの感じは……今まで出会ってきた者たちよりも強力な気迫を感じた。正直に言うならここで神と戦っても俺がまず勝てるわけがない……この世界に来てまだ1週間もたってないと言うのにもう神と手合わせなんて、アマチュアが練習をしないでオリンピック選手に挑むようなものだ。俺の心はプレッシャーと不安で押しつぶされそうだった。その時、後ろから声が聞こえてきた。
「おいケルト大丈夫か? この勝負受けるのか?」
「ユシリズ……本当は受けたくない……でも」
俺が下を向くとユシリズは俺の頭を強く叩いた。
「っ! 何すんだ! 」
「お前何弱気になってんだ! お前は前の世界でも挑戦する事に怖がってたじゃねぇか!やってみなきゃ分からんだろ! どうせ殺されるわけじゃないんだし!」
「そうやで! 神と闘うのもいい経験になると思うで! 俺がやれよって言われたらやらへんけどな! まあケルトなら大丈夫や!」
ユシリズに続きダンも後押しをしてくれた。
残りの3人も笑顔でこちらを見つめていた。
……そうだ、俺は前の世界でも挑戦して失敗するのが怖くていつも自分から何もやってこなかった。けどこいつらの後押しで何とか少しずつ出来るようになって……この世界に来てもこいつらに助けられてばかりだな……
少し変わらないと……
「みんなサンキュー……」
俺はうつむきながらリベアムールの正面に向かって歩き、立ち止まると顔を勢いよくあげ、大声で叫んだ!
「その勝負受けて立つ! リベアムール様! 私の力を見てほしい!」
リベアムールはその言葉を聞くと鼻で笑い、後ろを向いて歩き出した。
「ふっ、そう来なくてはな。さて決闘の準備をしようではないか。こっちだ、ついてこい」
俺たちはリベアムールに連れられて、階段を降りると階段の裏の奥の道へと連れて行かれた。その廊下は長く続いており、果ての無いようだった。
「リベアムール様、私たちをどこへ連れて行くんですか?」
「お主と私がのびのびと戦うことのできる場所だ。もうすぐ着く」
長い廊下を抜けるとそこは屋外へと出た。天井には青い空が広がり周りは観客席に囲まれたまるでローマのコロッセオのような、いやコロッセオその物だった。中央まで向かうとリベアムールはこちらを振り返った。
「ここがリベアムール城で管理しているモリカ唯一の闘技場だ。ここでは定期的に闘技大会やサーカスなどイベントに使われているのだが、今回は特別に使うことを認めた。まあ私が主だから特別も何もって話なのだが。
ここの闘技場は綺麗な円を描いており、敵も味方も同じ状況下で戦うことができる。言わば正々堂々と戦えるというわけだ。
「ここが妾とお主が戦う場所だ。どうだ? 不満はないか?」
俺は周りの様子を確認するがこれと言った仕掛けがないことを確認した。
多分この人のことだからそう言う卑怯なまねはしないだろ。
「分かった。ここで良いです」
「そうか、それではルールについて説明する。 戦闘範囲はこの闘技場内で行う。対戦者の攻撃手段は武器とスキル、習得しているのならスペルも可とする。勝敗の決定は対戦者のどちらかが戦闘不能、降参の宣言だ。注意点として、これは殺陣ではない。相手に全力で向かうのは当たり前だがすべて峰打ちにするように。それは絶対条件だ。基本的な決闘のルールはこんな感じだ。良いか?」
「ええ、問題ないです」
「あと、お主らの仲間は妾たちの決闘を観客席で眺めていたまえ。そうそうは見れんぞ?妾の戦いは」
5人を一瞥し、再び俺の方に顔を向ける。
「間も無く始める! 10分間準備の時間をやろう」
「ありがとうございます」
俺はみんなの元に近づくと心配の眼差しが5人から感じた。
「ケルト気持ちは大丈夫か? 突然神と闘う事になったのは俺も予想外だ。でも応援はする! 頑張れよ」
ユウビスが俺の方に手を乗せ、いつもは見せない真剣な眼だった。
「うん、やれる事はやってみる」
「大丈夫やで、なんかあったらシステムがあるんや! それで意思疎通を測れば何おとかなるで!」
「ダン、解析頼むよ」
「俺たちはみてるだけだが、まぁ死ぬなよ。それだけ」
「死ぬわけないだろアマ。大丈夫、ありがとう」
ガクトがポケットから液体が入った瓶を取り出した。
「これは俺の分のポーションだ。そんなに使う機会がなかったからお前に渡しておく。ボス戦前に勇者に道具を渡すのは当たり前だろ」
「ありがとう! 危なくなったら使う」
俺はガクトの分のポーションを受け取る。
「そろそろ時間だ!」
リベアムールが呼んでいる。そろそろか……
「じゃあ、行ってくる」
「「「「「頑張れよ!!」」」」」
5人の声援を聴くと思わず背筋が伸びた。そうだ、やらなくては。気持ちで負けては舐められる。5人は観客席の方へ、俺は闘技場の中央へと歩いていく。そしてリベアムールと俺は対峙した。リベアムールは相変わらずの余裕の表情、一方で俺は体が小刻みに震える。顔も強張った表情で余裕ではない。
「どうした? 緊張するのか?」
リベアムールはニヤッと笑った。俺に圧を掛けるように。
こんなんじゃダメだ………
俺は両手で自分の頬を音が鳴るほど叩き、気合いを入れて気持ちを入れ直す。そして腰につけたティターニアを抜き出し構えた。
「もう大丈夫です! さあ、やりましょう!」
「ほう……成る程……では………参る!」
リベアムールも戦闘態勢をとった。ぱっと見て武器は何も無く、何を仕掛けてくるのか分からない。集中しろ……俺……気がつくと観客席には5人の仲間と城のメイドや騎士たちが集まり、オーディエンスが増えていた。しかし、2人の圧倒的な集中力を感じ誰も声を発することができないでいる。
闘技場には風の音だけが鳴る。一時の静寂の後、鐘の音が鳴った。こうして俺と神の戦いの火蓋が切られた。





