23 模擬戦 ケルトVSユシリズ
特訓の最後として模擬戦をすることになったケルトとユシリズは日の出が差し込むこの草原に立ち、お互いを見合っていた。俺は、模擬戦であるのにもかかわらず体がかなり緊張していた。慣れていないのもそうだが何よりも友達であり、仲間と戦うのに何か違和感があった。
「ルールは武器は取りあえずなしでお互い能力のみで戦う。どちらかが降参したら終了で良いな?」
ユシリズが勝敗決定の提案をしてくる。もちろん異論は無いのでそのルールで受け入れることにした。
「良いよ。私は手加減しないよ。手加減する敵なんていないからね」
「当たり前だぜ」
ユシリズは微笑し構える。俺もいつでも動けるように構える。にらみ合う2人はどちらが先に動くか様子を見合っている。これが嵐の前の静けさというのか。風が草木をなびかせる音だけが響いている。
「いくぜ! 『大発火』!」
最初に仕掛けたのはユシリズだった。俺の目の前には激しい爆発が起きる。俺は即座に回避し受け身を取り反撃の準備をするが、爆風の煙からユシリズが飛び出してくる。
「遅いわ!」
そのまま距離を詰めてきたユシリズは炎の纏った拳で俺の腹部に攻撃をしてきた。その拳はそのまま腹部に命中……かと思ったか?
「甘いぜ」
俺はユシリズの攻撃が当たる寸前に大気の刃を腹部に作り出し攻撃を防いでいた。
「なにっ?」
ユシリズは動揺するも刃を打ち払い、すぐに距離を取って離れた。ユシリズの動きの早さはこの実践で分かった。だてに前の世界から体を鍛えて動きをならしていただけのことはある。でも俺にも負けていないことがあった。それで勝負するしかない。
「攻撃スキルで防御するなんてなかなかやるじゃん。でもこれはどうかな?」
ユシリズは右手を大きく回し始めた。その回す速度は、段々と速くなっていく。それと共にユシリズの足下から炎の渦が生み出され、ユシリズの体の上に集まり、その渦は形を変え、全体が炎でできた宙を漂う龍が出現した。その龍は体長5メートルはあるのではないかと言うくらいの体格をしており、鱗や毛並みはすべて炎で表現されていた。
「ケルト、このスキルはかなり俺の傑作だと思うんだがどうだ?」
「ああ、凄いよ。見るからに強そうだもん」
俺はユシリズのスキルのアイデアは見事だと思った。初めての割には完成度が高い。普通の人間の曲芸師でもこんな芸風はできないだろう。だが俺はそれに屈することはなかった。炎の龍はユシリズの頭上で燃えさかり、俺に今にも飛びつかんとする面持ちでいた。
「ケルト、ここで参ったと言えばこの龍をお前の前から消してやる。どうだ?」
ユシリズは俺に煽りの言葉をかけてくる。しかし、俺はその言葉を鼻で笑った。
「そうしたいところだけどそれはできない。俺もプライドがあるからね!」
「そうか、じゃあ食らってもらおう! せいやぁ!」
ユシリズは躊躇無く炎龍を俺の方に向かわせた。
そう、俺は負けるわけにはいかない。仲間に負けていては仲間達をまとめていくことはできない。そして何よりもこの世界でも負けることが俺の中では嫌だった。俺の仲間は前の世界でも色々と輝いていた。でも俺だけは何もなかった。この世界に来て俺は能力を得た。それも神のような力を。それならなおさらこいつらの中でも一番上に立ちたい。お前が鍛えてきた体力で勝負をするなら、俺は頭で勝負だ!
「『風の盾』」
<<発動:風の盾>>
俺の方に向かってくる炎龍の道を阻むかのように炎龍の目の前に突如風が強く吹いた空間が出現する。もちろん壁ではないため炎龍はそのまま通過していく。
「おいおい、それだけじゃ俺の炎龍は止められないぜ?」
ユシリズの煽りの言葉に対して、俺はにやりと笑う。
「ああ、俺はこの龍を止めたりはできない。だから、消すんだよ。この風の盾……誰が1カ所にしか発動してないと言ったかな?」
ユシリズが驚き見ると突風の吹き荒れる空間が炎龍の道にいくつも出現していた。風の盾が主を守るかのように。そして、みるみる、炎龍の炎が消えていき、最後の風の盾の空間で強風にやられ、あっけなく消えてしまった。
「そんな……俺のとっておきだったのに」
「風で受け止められないなら、強い風吹かせて火なんて消えちゃえみたいなこと考えたら成功できたんだ。これもアイデアだね」
ユシリズはあっけに取られたような顔をしていた。俺は服を払ってユシリズの前に行く。
「さすがユシリズだよ。やっぱり体鍛えてたお前のそのパワフルな感じがスキルに出てて良かったよ。お疲れ様!」
ユシリズに手を差し出すとそれに対して手を握り返してくれた。
「くぅー! 悔しいけど今回俺も詰めが甘かった! ケルト、次も特訓する時また一緒にやっても良いか?」
俺は笑顔で答えた。
「もちろんだ。まだ分からないことだらけだからな、勉強しようね! あ、そうそう1つ言いたいことがあるんだけど?」
「何だ?」
「女の子には少し手加減するもんだよ。馬鹿!」
俺は舌を出して怒るそぶりを見せた。
「気をつけます……」
そんなこんなで俺たち2人の模擬戦は終了した。今日はユシリズから沢山学んだ。それにしてもあのユシリズの力は強い。もし、真に自分の力を自覚したときはどうなるのだろう……それが悪い方向に行かなければそれでいいと今は思っている。もしもそんなことがあったら……いや、考えるのはやめておこう。今は普通の彼らを見守るしかない。
俺は模擬戦で感じた思いを胸に残し、ユシリズと宿に戻った。戻るとみんな朝食のためにダイニングに集まっていた。
「お帰りー! 特訓はどうやった?」
ダンがニコニコと笑いながら聞いてきた。わざと大げさに言ってるかのようだったが、俺たちは声をそろえて答える。
「最高だったよ!」
「最高だったぜ!」
そんな俺たち2人を見てエルマがクスクスと笑みを浮かべながらお皿を持ってきてくれた。
「お疲れ様~はい♪ 今日のメニューはベーコン&スクランブルエッグセットですよ~♪」
エルマの作ったキラキラと輝くようにおいしそうな料理を俺たちは頬張った。朝食を食べ終わるとガクトが話しかけてきた。
「ケルト、今日遂にリベアムール神の城に行くのだが? 準備は大丈夫か?」
城に行くのに準備が必要だろうか? ガクトは緊張してるのだろうか?
「ん? 特に何も無ければ大丈夫だよ? どうした?」
「いや、あの国のお偉いさんと会うわけだから何言われても良いようにしとくべきだと思って」
そうだな、会って話がしたいってどんな話になるのかも分からないわけだからそこは考えておかないとね。
「そうだね、言ってくれてありがとうガクト」
今日は初めてこの世界の神様に会う。どんな人なのか分からない。あわよくば人ではないかも知れない。今俺の気持ちは緊張と期待が半分ずつある状態である。一体何者なんだろうか?
今日は初めてこの世界の神と会う日。
さてと……荷物を確認しようかな……





