22 特訓
宿で夕食を食べた俺たちは疲労が蓄積されていたこともあってすぐに寝てしまった。そして次の日の早朝俺はまた宿の外に出て能力の研究と特訓を行おうとしていた。外に出るとそこにはユシリズの姿があった。
「よう、こんな朝早くにどこ行くんだケルト?」
「珍しいね、こんな早くにユシリズが起きるなんて今日は嵐でも来るのかな」
俺が空を見るそぶりをするとユシリズは頬を膨らませて怒った。
「良いじゃないか! たまには早く起きてたって」
「ごめんごめん」
「それはそうとケルトお前、前から俺たちが寝てる間に1人で自主練してるって聞いたんだけど、俺も練習しに付き合っても良いか?」
「ちょっと待って、誰から聞いたの?」
「え? ダンだけど?」
あいつ……ばれてたのか。まぁばれたからと言って別に悪いわけでもないがこいつらに至っては能力の加減ができるかどうか……まあ俺がいれば大丈夫か、それにこいつらにも少し強くなってもらわないと見てるこっちも心配になる時がある。俺はしょうが無く連れて行くことにした。
「分かった、一緒に行こう。ちゃんと特訓するんだぞ」
「おう! こう言う自主練は大学でもやってきたから得意だぜ」
ユシリズは大学にいたときは俺と同じ陸上部の長距離所属だった。俺は短距離として活動していたからこいつの練習風景はあまり見たことがなかった。でも俺はこいつが陰でしっかりと努力するやつだと知っている。本当、根は真面目なやつだ。
「じゃあ早速練習するか」
俺は最初に怪我をしないように準備運動から入る。ユシリズもそれに合わせて準備運動を始めた。
「なあ、お前どんな練習するんだ?」
「簡単に言うと新しいスキルとか習得したりとか」
ユシリズは驚いた顔をする。
「え!? そんな簡単にスキルって習得できるの!?」
「そうだけど。でも、能力のスキルの基本となる基本スキルから生み出すって感じかな? 簡単に言うと自分が考えたイメージをスキルで具現化する。分かる?」
ユシリズは顎に手を置いて少し考える。
「例えば俺は炎を操れるから俺の技のイメージを炎で表せば良いって事か?」
「今私がやってる実験ではその考え方でもなんとかなってる例えば……」
俺は目を閉じて自分の周囲にある大気に集中させた。
「イメージは……風のナイフ、私の周囲にまとわせて……」
俺はイメージを膨らませて一気に解き放った。
「『飛来風刃』!」
<<『風支配』のスキルにより以下のスキルを行いました>>
応用スキル:飛来風刃
威力:小
効果:周囲に複数の飛来する真空の刃を出現させる。自身の意思によって操作可能。
<<発動:飛来風刃>>
すると、俺の体の周りの大気から出現した透明な刃が俺の周囲に纏った。俺は近くに合った木に向かって1,2本の刃を飛ばす。刃は見事木のど真ん中に刺さり木が斧で切り落とされたかのように倒れる。さらに残った刃を操作して近くにあった木の棒を切り刻んでやった。
「こんな感じだ! どう?」
ユシリズは目を光らせていた。
「すげぇ! 俺もできるかな!」
「まぁ、そこはイメージと気持ち次第だからやってみないと分からないよ」
「あ! 俺っち良いこと考えたからちょっとやってみていい?」
ユシリズはそう言うと俺から少し離れ、草原の真ん中に立ち、目を閉じた。早朝の流れる優しい風がなびき、風の音だけが響くだけの静けさが、すさまじく集中しているのだと感じる。少し経ってユシリズは地に手を置く。すうっと一息吸うと大声で叫んだ。
「『円炎』!!」
そう叫ぶとユシリズの周囲に一気に火柱が立った。まだ朝の日が出ていないのにもかかわらずそこの周囲だけは炎の明るさで眩しいほど照らされていた。周りの雑草は軽々と焼き尽くされ綺麗な円状に炭になっていた。燃え上がった炎はまだ燃えさかっている。まるで地面から火山の噴火が起こっているかのような威力だった。
「できた!」
<<火炎支配の能力により以下のスキルを行いました>>
応用スキル:円炎
威力:大~超大
効果:自身を中心にして炎上に燃えさかる火柱を地上から出現させる。
火柱の大きさや円の出現範囲など操作可能。
「ケルトできたぞ!!」
ユシリズが喜んでる中、俺はあまりの威力に動揺してしまった。さっき俺が習得した技より格段に俺よりも強さとか威力とか全然桁が違くて……
「すごいな……威力が主に……」
「よし! もっと考えて強くなるぜ!」
「強すぎてもだめだから威力考えろよ?……」
俺は興奮するユシリズに冷静な言葉をかけ、それぞれ実験のような自主トレを続けた。
始めてから1時間経った。結構スキルを覚えた気がする。俺はシステムを確認した。
<<新着情報があります。新たな習得スキルが3件あります>>
ふぅ、短時間では上出来だろう。遠くで練習したユシリズもこちらに戻ってくる。
「いやぁ~スキルって簡単に覚えれるんだな! 練習してて楽しいよ」
ユシリズは上機嫌に笑顔だった。俺がそろそろ宿の方に戻ろうとしたときだった。ユシリズがある提案を促してくる。
「なあケルト、俺と少し戦ってくれよ」
「え? 何で?」
「この先、旅の中でどんな奴らが現れるか分からないじゃん? 下手したらお前よりも強い能力を持った奴らが出てきてもおかしくない世界だ。そこで練習試合という形で俺たちが勝負し合うことでお互い実践にも近い訓練にもなるし、良い運動にだってなる。どうだ?」
確かにユシリズの言う通りだ。今では魔物や通り魔くらいの普通の人間しか相手していなかったけど、いずれは俺たちのようなスペシャルスペック持ちの敵も出てくるかも知れない。少しやって見ても良いかも。
「怖かったらやめても良いぜ」
ユシリズの今の一言で俺のやる気スイッチを完全にオンにしてしまったようだ。煽られたら煽り返す。
「そっちこそ吹き飛ばされんなよ」
こうして俺とユシリズは訓練のまとめもかねて模擬戦をすることになった。





