21 帰還
妖精達との宴が終わって、俺たちはモリカへ帰ることにした。モリカへの帰還にはシンシアの転送魔法によってモリカの門の前まで転送してくれるとのことだった。大勢の妖精やセルフィア、シンシアが俺たちの別れを見送ってくれた。
「色々とありがとうございました! また来ますね」
シンシアは笑顔で答えてくれた。
「もちろんでございます! いつでもお待ちしておりますわ」
シンシアは俺の頬に軽くキスをした。柔らかい唇が当たった途端、俺の顔は熱くなる。
「は……ひゃい! それではまた!!」
俺たちの下に書かれた魔方陣が緑色に光ると俺たちの姿は一気に消えた。気がつくと視界に広がったのは旅立つときに見たモリカの前に来ていた。正面にはいつもの巨大な門と門番の騎士が見えた。一人の門番が俺たちのことに気がつくと声をかけてきた。
「お前らが妖精からの話にあった冒険者一行か?」
「はい。私たちですけど」
「見事、この都市国家を脅かす闇商人を拘束してくれた。連絡にもあった通り捕らわれていたお前達の連れはこの都市の宿屋で介抱している。今回の入国料はいらぬ。入りたまへ!」
門番は横へはけると大きな門が重々しく開く。
「やった! ただで入国できたぞ!」
ユシリズは意気揚々と都市の中へ入っていく。みんなはやれやれといった表情でついて行った。 ここからはシステムのマップ機能を使い最寄りの宿屋を探した。マップを見ながら歩き回り一つの宿屋に着いた。
「おっ!ここが宿屋やな。サラちゃん大丈夫やろか?」
「まあここじゃなかったらお前の能力で探せば良いだけだろ」
ダンに向かってアマが冷静に正論を言い放つ。
「それは……甘えやでアマ」
「意味が分からん」
後ろの喧嘩はほおっておいて、俺は宿屋に入る。入ると宿屋のエントランスの椅子に見覚えのある金髪の髪の後ろ姿の少女がいた。俺たちは心の底から安心した。そして少女に話しかける。
「ただいま! サラ!」
声をかけるとサラは俺たちの方を向く。サラが俺たちだと気がつくと目に涙を溜めて俺に飛びついてきた。
「ケルトちゃん!! 皆さん!! ほんとにありがとうございますうぅぅ!! 私……とても怖かったです……このまま帰れないのかなって思って……」
サラは泣きながら感謝した。抱きつく強さと俺の服を握る強さから余程怖かったのだろう。かわいそうに。俺はサラの頭を優しくなでる。
「遅くなってごめんね……無事で良かったよ。怪我とかは無かったか?」
俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔をスカーフで拭いてあげた。
「大丈夫……国の人たちが優しくしてくれて私以外の子たちも助けてくれたの」
「そうか、いい人達だったね」
確かにこの国は比較的民に優しい国であること改めて感じた。きっとこの国の神様は人が良いのだろう。そういえば、みんな助けたと言っていたがあいつの姿が見えない。
「サラ、一緒に捕まっていた男性を見て無いか?」
「メフユさんのことですか? メフユさんも確か一緒にいましたが助けてもらってからは姿が見えなくて」
メフユ? ああそうか、こちらの世界での名前か。あいつは一体どこほっつき歩いているのだろうか? 全く世話の焼けるやつだ。一人にさせるのは心配だが、ともかく今はほおっておいても大丈夫そうかも。
俺たちが話していると宿屋のドアが開き、4,5人の鎧を着た騎士達が入ってこちらに近づいてきた。
「君がケルトと言う者か?」
「確かに私がケルトだけど? そういえば、あいつらの後始末の件とサラの保護をありがとうございました」
俺達は深々と騎士達に一礼をした。
「何と礼儀がなった冒険者達だ! こちらこそこの地を脅かす悪人を始末することができてとても喜ばしい。こちらからも礼を言わせてもらう」
俺たちの元日本人としての礼儀の良さはこの世界でも言いように出ていた。この時少しだけ日本人で良かったと思っている。まぁ、今は違うんだけど。
「我々が来たのは他でもない。冒険者の君たちにこれを届けよとリベアムール様に申されて来たのだ」
そう言うと、騎士の一人が鎧の懐から一通の手紙を差し出した。
「リベアムール様ってここの神様のことか?」
「そうなのだ。リベアムール様は諸君らを直々にもてなしたいと申していたそうだ。そして妖精の園で何が起きたのかも詳しく聴きたいと申されておりました」
その騎士の言葉にガクトが反応する。
「神様直々に俺たちをお呼びだってのか? なんか怪しい。この件はそんなに大きい問題だったのか?」
ガクトの言葉に騎士達が反応し応えた。
「我が国家モリカは人間と妖精達が共存して暮らし、民のためにこの地を平和にするのが我らの仕事だ。現に今この地方だけでなくこのローハンド大陸全域に今大いなる脅威が迫ってきているのだ。そうなると今の我々では手が出し切れん。そんな中そこに君たちの活躍を耳にしたときには感謝しなくてはならない。仕事でもクエストでもないのならなおさらだ」
「なるほど。で、どうする? ケルト」
自分で聴きに聴いて俺にパスかよ。まぁ悪い話ではないし、もしこの国の神様と良好な関係を結ぶことができたらこちらとしても有利になれる。しかし、ここはみんなの意見も聞こう。
「どうする? 行っても良いかなダン?」
「いや、そんなん俺に言われても困るし……因みに俺は行きたい。女神様見たい。お姉様系だったらなおさら良い」
なるほどね。はい次。
「ユウビス、どうする?」
「女神様見たい」
ユウビスは真顔で見つめてくる。……はい次。
「ユシリズはどうする?」
「拝みたい」
「アマは……」
「行こう」
お前ら……
答えは出そろったようなものだ。俺は騎士達に城に出向くことを告げた。
「分かりました、君たちのことはリベアムール様に伝えておきます。今日のところはお疲れでしょう。ゆっくり休みを取り、明後日にでもこちらに出向いてください。これは城への地図です」
俺は騎士から受け取った地図の紙を受け取るとシステムが反応した。
<<『リベアムール城』の進路を確認しました。いつでもアクセス可能です>>
どうやら俺がもらった地図に反応してマップに情報が入ったのだろう。これで道に迷うことは無いって事だね。
「それでは私たちは戻る! ゆっくりと休んでくれ!」
騎士達は宿から出て行った。取りあえず、サラの落ち着ける場所へ帰さないと。
「取りあえず、サラを家に連れて行こう。エルマさんにも何があったか報告しなきゃいけないし」
そして俺たちは宿屋を出て、モリカから外に出ると、サラの家である宿屋に連れて帰ることにした。全く長いお使いだったよ……
2時間かけて歩き続け、見覚えのある家が近づいてくる。その家の前に人の影が見えた。それは外に出て掃除をしているエルマさんだった遠くから見てもそわそわしている様子が見えた。俺はエルマさんに声をかける。
「エルマさん! ただいま帰りました!」
声をかけると焦っているような顔をしていた。
「遅かったじゃない! 心配したのよ! こんなに買い物って長かったかしらと思って……」
サラはエルマの胸に飛びついた。
「お母さん!! 怖かったよぉ!!! うわぁぁぁん!!!!」
エルマは急に飛びついて泣いたサラを見て動揺していた。
「ケルトちゃん達! 何があったの!?」
「エルマさん、聞いてください」
俺はこれまでのことを話した。サラに何があったのか、俺たちが何をしたのか、そしてこの事件のことすべてを話した。
「なるほど、そんなことが。ほんとにあなたたちに何とお礼を言ったら良いか。また私の大事なものを救ってくれるなんて。それも2度も。これは運命の神の加護かも知れませんね」
エルマはサラを抱きしめると静かに涙をこぼした。
「皆さん、本当に本当に……ありがとうございます。あなた方は私たちにとって神様です! 本当にありがとうございます」
こんなにも人から感謝されることはなかったからとても不思議な気持ちだった。簡単に言ってしまえばとてもうれしい。でも、俺たちにとっては当たり前のようなことをしてるだけだから当然のこととは思うのだが、力があるおかげって言うのが強いけどこれで人々が喜ぶのであればそれでいい。
「お礼にこの宿屋のご利用を自由にして構いません。行く当てもないのでしょう?これも神が与えてくれたチャンスに違いありません。もちろん関係などはいつも通りでございます。ただ、私たちはあなた達を支える身となりたいのです、よろしいですか?」
この台詞、前にも聞いた覚えがある。妖精の園でのシンシアにも言われた言葉だ。断る理由もない。行く当ても俺たちにはないんだ。俺たちは快く受け入れることがこの人達も喜ぶと思いその提案を承諾した。
「今日からよろしくお願いしますね! エルマさん! サラ!」
「もちろんです。今日は皆様の帰りを迎えるために温かいシチューを作ってたんですよ。それでは中に入りましょうか」
サラとエルマは家の前に並ぶと深く頭を下げた。
「お帰りなさいませ、 親愛なる冒険者の神様」
「お帰りなさいませ! 神様の皆さん!」
俺は2人に対して優しく告げた。
「ただいま」
神様か……ふふっ、悪くないかも
俺は少し笑みをこぼした。そして俺たちは宿屋に入り、今日の夜もエルマさんの手料理で食卓を囲むのであった。
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