1 大災害
Q,これはどんな物語?
A,あなたの目で確かめてください
ここは日本のとある田舎の大学。そこに足早に廊下を走り、人混みをかいくぐり食堂へ向かう者がいた。
「お疲れ! 悪い遅くなった」
お昼となり、ガヤガヤと混み合っている大学の食堂の一席に一人遅れてやってきたのは俺、古河経だ。四角い長テーブルには食堂で買ったラーメンや丼ものの容器がほとんど空でおいてあるのが見える。みんな食うの早すぎ。
「おー来たか、遅かったな」
「おーす」
先に来ていた増岡柳太郎と阿野部慎がスマホから顔を挙げていつもの返事をする。
「経、遅かったね何してたの?」
「今講義がやっと終わってな。あの教授の話長いんだよ……」
バンダナを、毛量の多い頭に巻いた佐野卯月の質問に返答しつつ俺は座れる席を探す。
「あ! 先食べてたで~ここ空いてるで」
「気が利くね、ありがとう弾」
関西弁を流暢に話す三ツ矢弾の隣の席が空いていたので 俺はその席に座り、食堂で買った唐揚げ丼を頬張った。隣では慎と柳太郎がいつものアニメ雑談を始める。俺はアニメ批評家二人の話に耳を傾けることがいつものお昼の日課なのだ。
「柳太郎さ、今冬アニメ見るのあるか?」
「俺かぁ……まああんまし俺もそそられるものないけどあの5人の女の子が出るアニメが気になってるなぁ。声優が豪華すぎで見る方があるかも」
俺は最近忙しくてアニメを見ていなかったため話の内容はよく分からない。それでも俺は2人の話を嫌になることはなかった。
「それ、俺も気になってた」
二人の話を聞いて岡田学人が話に入ってくる。三人がアニメ批評で白熱している中、気がつくといつの間にか俺は昼食を食べ終わっていた。
温かいお茶を一口飲み、心を落ち着かせる。落ち着いたところで、近くから耳がくすぐったくなるような声が俺の耳に入ってくる。
「経……、ねえ経聞いてる?」
「あ……右京いたのか」
「え~気づいてなかったの~」
「いや気づいてたけどあえて気づかなかった」
「えぇ~意地悪だな~」
「これで意地悪ならお前は甘々だな」
「別に良いでしょ~」
長瀬右京は気の抜けたような口調で話しかけてきたのを俺は適当に流した。あんまり話す気にもならなかったと正直に言うと右京は口を尖らせこちらを見ている。
まぁこんな感じな日常が続いている中で、俺にはこのグループに思うことがある。それは、このグループはかなりキャラが立っていることや得意分野があることだった。
慎や柳太郎、学人ならアニメ関係に強く、特に慎は頭が切れるし、学人は冷静で判断力がある。弾なら絵がうまい。そして、右京はマイペースで生きられる。
俺はと言われると何もない……ただ、みんなが羨ましいと思っていた。こいつらとつるんでから俺も何かできるようになりたいと思ったのだろう。その考え方がこじれていつもこんなことを考えているのだ。
「神になれたら何でもできるのかな……」
「急にどないした!?」
いつも考えていた中二病な発言を自然に出してしまい、そして弾にも聞かれてしまった。これはまずい。
「いやぁ!何でもねえよ!」
恥ずかしさのあまり、ごまかすにも声が大きくなってしまった。急いで今言った発言を誤魔化す。
「おお、そうかびっくりしたわ。あんまり聞かんでおく」
「そうしてそうして……」
「ん? そういえば経はシナリオ考えてきたんか?」
俺たちのグループは来年の夏コミのために出すゲームを作ろうとしている。まあ言うなれば同人活動ってものをしようとしていた。
メンバーは俺と弾と慎と卯月と柳太郎の五人。そしてその自作ゲームのシナリオは俺が任されていた。文章を書くのが好きな俺にはかなり適任な役割だろう。
「ああ、そうだったな、まあ導入部分は考えてきた」
「どんなん?」
弾が聞くと俺は誇らしげに答える。
「まず、主人公は…いや…世界は破滅し、主人公とその仲間たちは転生して第二の人生を歩むって感じにしたいんだけど! どう!?」
すぐさま柳太郎が気づく。
「完全に異世界ものじゃねえか」
慎もそれに続いた。
「転生ものね、ありきたりだな」
ダメ押しに学人がたたみかける。
「転生系は某小説サイトだけでいいから」
うん、思った通りボロクソ言われた。知ってた。この批評家スリーカードたちときたら……でもそれとは反対に興味を持ってくれる愚者もあるものだよ。
「どんなんどんなん?」
「俺、異世界もの悪くないと思う。嫌いじゃないです」
「何〜?何の話〜?」
さすが聞き上手の三人だ。弾、卯月、ちょっと違うけど右京も良くぞ聞いてくれた。お前らは優しいよ。
「それで……転生して主人公達は能力を持つんだけど、それがみんなチート級の能力を持つことになるんだけど。その能力を使って世界を練り歩くって物語なんだ!」
俺はどや顔で言ってのけた。
「……」
みんなが黙ったこの空気の中、一人が口を開いた。
「お前、最近のアニメに影響されただろ」
柳太郎の一言に俺は図星でしかなかった。
「そそ……そんなこと……な、ないけど?」
「ほんとぉかぁ?」
目が怖い、目が怖いよ柳太郎。お前はスキル「威圧」でも持っているのか?しかし、柳太郎のスキルに負けじと俺は話を続けた。
「とりあえず、この俺の意見に乗ってくれるやつはいるか!?」
良い返事が帰ってくる期待なんて一切していなかったが、俺は意を決してみんなに声をかけてみた。
「ええんちゃう? 経がどう作って行くかだけどな」
「「「良いと思う」」」
ゲーム製作グループ一同が賛同してくれた。内心やり直しをくらう覚悟くらいはしていたが、あっさりと決まってしまった。
まぁ、少し俺に丸投げなところもあるかもしれない。でも自分の意見が通る瞬間は少し嬉しかった。そしてこの嬉しさを勢いにして、俺はみんなに向かって声をかけた。
「じゃあこれでオッケーな! 明日は俺ん家に集合だな」
無言で5人がうなずく。これで俺たちのプロジェクトが動き出すんだな。うまくいくと良いな。大分不安なところもあるが新たなる一歩が踏み出せそうだ。
「さて、そろそろ講義にいくか」
学人の一言でみんな一斉に立ち上がり、出口付近の食器置き場に向かい、食器を置いて食堂を出た。時計を見ると12時50分になっていた。あと10分で次の講義が始まろうとしていたので急ごうと歩みを始めようとした時、突然床が揺れ始めた。
「地震?」
俺がそう思ったのも束の間に、揺れは激しさを増した。廊下に置かれたホワイトボードは揺れによって廊下を縦横無尽に駆け巡り、陰に備え付けられていた自販機も軽々と倒れてしまっていた。
それでもなお、揺れは激しさを増し止まらない。俺達はその場に伏せて身をかがめた。
「柳太郎助けてーー! しゃれにならん!」
「落ち着け! 」
パニックになっている卯月を柳太郎がなだめているのを見て、俺もみんなに声をかけた。
「みんな大丈夫か!?」
「すごい揺れだな……」
学人が必死に地面に伏せて踏ん張っていた。周りを見ると弾も学人も右京も必死にこの場から離れまいともがいていた。下の階の広いロビ―から大きな悲鳴が響いてくる。それでも、揺れはさらに強くなる。
そしてその時、悲劇が起きた。俺たちが伏せていたその床に亀裂が入り、この大学を両断するかのような地割れが起こった。
「え! まじ! 嘘だろ!?」
俺達は床に這いつくばり、この地割れの穴に落ちまいともがいた。それは他の奴らも同じだっただろう。だが、この災害にそのような抵抗はとても非力で、落ちるのも時間の問題だった。やばい……手がしびれてきた。そろそろ限界が来ている。
「クソッタレ!!!!」
慎が穴の入り口付近で揺れに耐えながらぶら下がっている。これはまずい状況だった。
「大丈夫か!? つかまれ!」
俺が手を伸ばしたそのときだった、俺の真横にあった崖がとうとう揺れに耐えられなくなり崩れてしまった。……卯月と柳太郎と共に。
「「うわぁーーーー!」」
二人の断末魔がけたたましく鳴り響き、その声と姿は深い深い穴の闇へと吸い込まれていった。それは一瞬の出来事だった。死んだのか?そう思った刹那に俺はすぐに慎の方を見る。
「嘘だろ……」
そこに慎の姿はもうなかった。
何でだ……さっきまでいたはずなのに。
気がつくと辺りは俺だけになっていた。
学人……右京にそして弾まで……。
もはや絶望でしかなかった。さっきまでみんな生きていたんだ。普通の生活をしていたんだ。それなのに……どうして。
俺は目の前が真っ暗になったような気がして手に力が入らなくなった。ああ……俺……死ぬのか……こんなにもあっけないのか。
あぁ……やり残したことがたくさんだ。せっかく目標ができたのに達成できないままなんて。家族にもまだ感謝もしてないぞ。
あと、死ぬ前にせめてこの童貞だけは捨てたかった。彼女ほしかったなぁ……。生まれ変わったらこのバッドステータスを早く捨ててやる。あ……押し入れに入れてたやつ……処分するの忘れた。もう良いか、忘れよ。そろそろ手がもう限界だ。
生まれ変わったら『全ての願いが叶う人間』になりたいな……あと、ゲームみたいな世界へ行けたらなぁ……なんてね……
じゃあな…………この世界……
俺は手を離した。
意識が薄れていく中で、冷たい女性の声が聞こえて来る。
「あら? 丁度良いわね……貴方の魂がこの器に合いそう。ついでに、一緒に居た他の人の子もそちらへ送ってあげましょう。人の子よ、その願い、叶えてあげましょう。その世界での事を、貴方達に託します」
その声が頭の中で消えたその時、俺の視界は一瞬だけ光り、そして闇へと変わった。
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