117 緊急事態発生
お久しぶりです!
覚醒を遂げたサンドリヨンが俺の横へと付き、視線を正面へと向けた。そして、サンドリヨンはマキナに向かって深々と頭を下げた。
「この度は私の生命を戻して頂き、誠にありがとうございます」
その口調も声も全て棒読みのように無機質だったが、どこかこの言葉から暖かさが滲み出ていた。サンドリヨンの言葉を受け取り、マキナは1回だけ頷いて目線を俺に向けた。
「ケルト、貴女に任せてよかった……この子の事、よろしくね」
「任せて下さい」
「うん、ではこれでワンス地方含め、その他の地方の神との協力関係を示す契約は成立されました。時が来ましたら改めて出向くとリベアムールに伝えて欲しい。しかし、長く辛い試練を乗り越えてきたあなた達をここで直ぐに帰らせるのは酷と言うもの……今日は部屋を用意するからゆっくり休んで欲しい」
そういえば、この国に来るまでほぼ休み無しで行動し続けていたからアマもダンも疲労が溜まっているはずだ。勿論も疲れてるし、大きな仕事が終わって心もへとへとになっていた。ここはマキナの言葉に甘えて休む旨を伝えようとした。
その時だった、俺たちの後ろからここに居た俺たち以外の気配を感じ、後ろを振り返る。
「ケ……ケルト様‼︎」
そこには昔、助けたエルフのフェルシアが酷く焦った表情でそこに居た。
ホログラム映像のように映し出されたセルフィアの姿を見て、俺はすぐにセルフィアの元へと近づく。
「セルフィア⁉︎ どうしたの⁉︎」
「申し訳ございません。お仕事中だとお聞きして、ケルト様のいる場所をリベアムール様に教えて頂き、スキル"立体映写"で連絡させて頂きました‼︎」
俺がこの世界に来て間もなかった頃に助けた妖精族。忘れていたが今の俺は妖精族に崇められている存在だった。しかし、あれ以来仕事や色々な出来事によって連絡をあまり連絡が取れていなかったのだが、一体どうしたのだろうか? なんだか嫌な予感がする。そしてその予感はまた、的中してしまうことになった。
「ケルト様‼︎ 今すぐ宿屋の方へお戻り下さい‼︎ 宿屋が襲われているんです‼︎」
「えっ……」
セルフィアのその言葉を聞いた瞬間、一瞬頭の中が真っ白になった。
宿屋が襲われている? 急な出来事に疲労し切った身体と心がついていく事が出来なかった。
「なんやて!? 詳しく聞かせるんだ!!」
ダンも転がる様にセルフィアに接近する。
「私達も急に襲撃があったと伝えられて、現在遅れてやってきたワンス地方の兵士様達と共に妖精族達が交戦をしているのですが、私達が来た時には……もう……」
セルフィアの最後の言葉で宿屋が一体どんな状況になっているのか大体察しがついてしまった。しかし、それを察しているのに、それを心の中でずっと否定している自分がいた。信じられない、信じたくない、その言葉がずっと頭の中を駆け巡っている。
「……エスデスも動き出した」
マキナがそう一言呟く。
「ケルト……ケルト!!」
アマが俺に声をかけ、肩に手を置く。そして激しく揺さぶり、最後に俺の頬を叩いた。
「どうする! お前がしっかりしなきゃ駄目だろ!!」
アマに叱られた。俺がなんとかしなきゃ……そうだ……俺はリーダーだ。俺がショックを受けてはいけない。まだどうなってるかも予想しかできてない。まだ諦めるには早すぎる。一刻も早く宿屋へ戻り、仲間の安否を確認しなくては。
「マキナさん!!」
「今すぐに行きなさい。無礼なんて思わなくて良いから早く……行きなさい」
マキナさんの表情は変わらなくとも、その言葉に宿る優しさが俺の心を奮い立たせた。
「ありがとございます!」
「では、グラウクスをあなた達にお貸しします。安い馬よりも直ぐに目的に向かうことができる筈です。グラウクス、この者達の手助けをしてあげて」
グラウクスはマキナの言葉に反応し、一度甲高い鳴き声をあげる。グラウクスは俺達の近くに歩み寄ると軽々と俺たちの首元を嘴で摘み、背中に乗せた。
俺、サンドリヨン、アマ、ダンの4人が背中に乗ったところでグラウクスは一気に羽ばたきをして身体を宙に浮かせた。
「それじゃあ行ってきます!」
「ええ……御武運を」
その言葉を最後にグラウクスはマキナの居る神の間から出るとそのまま俺達を乗せて、登ってきた穴へと急降下していった。
神の間に居るホログラムのセルフィアがケルト達の出発を見送るとケルト達が一刻も早く辿り着くように願う願いながら静かに消えた。
そして、1人残ったマキナはゆっくりと立ち上がり、城から見える外の景色を見る。
「ケルティディア、私はまた……あれを使わなきゃいけないの?」
マキナは煙に覆われ濁った空を見ながら静かにそう呟いた。
――一方その頃、宿屋バニランテでは大変な事が起こっていた。宿屋は赤い炎に包まれ、バザーの看板は原型など留めていないほどに朽ちていた。
宿屋から少し離れたところでも大きな戦いは起こっていた。
大勢の竜人族とモリカの兵士達が倒れ、生き残り達も瀕死の様子であった。それでもなお、貧弱な武器を手に取って進行してくる魔物達と戦闘をする様子があった。それに合わせて風支配の力を行使し、後方で援護している妖精族達の姿も見える。その中には長でもあるシンシアの姿もあった。
「皆さん! 恐れてはいけません! これ以上の魔物の侵入を決して許してはいけません‼︎」
シンシアの指揮によって大勢の妖精族達が魔物に向かって能力を行使し、前衛の竜人族や兵士が足止めしている魔物達をどんどん撃退していった。しかし、それでも魔物達の数が減っている感じがしなかった。進行してくる魔物達に対して恐れず、兵隊長は仲間に声をかけた。
「後ろではユシリズさん達が戦っているんだ‼︎ ケルト様と
リベアムール様が来るまでは耐え抜くんだ‼︎」
「「「「「おおぉーーーー‼︎‼︎」」」」」
兵士と竜人族は掛け声と共にその魔物の群れへと向かっていく。
そして、宿屋の近くでは仲間達が至るところで倒れている。ユウビス、ガクト、そしてファンロンがアミュラを庇う様に倒れている。アミュラはボロボロと涙を流しながらファンロンに声をかけ続けていた。
「グルグル‼︎ 起きて‼︎ ねぇ……起きてよグルグル‼︎」
しかし、白目を向いたファンロンはアミュラに揺さぶられても全く反応は無かった。
その更に後方には怯え切ったサラを抱きしめるエルマ、泣き着くカナを宥めるラミーがいる。
そして、先頭では2人の男が対峙していた。
「どうだ? 早く渡したらどうだ?」
高身長で銀と紫が混ざった短髪の男がそう言いながら手招きをする。その風貌は如何にも魔族である。
その男の前には全身血塗れのユシリズが立っていた。
片目だけを開けて、意識が朦朧としている様子のユシリズは最早気合いだけで立っている様なものだった。
「はぁ……はぁ……」
「おとなしく不死ノ酒の材料を渡したらどうだ?」
「材……料? てめぇ……今なんつった?」
「聞こえなかったか? 材料だ、不死ノ酒の材料をこのアルカード様に寄こすのだ」
「俺たちの……仲間を……材料呼ばわりするんじゃねぇえええ!!!!」
薄れかけている意識の中でも、ユシリズは激昂し、高ぶったその心を力へと変えた。拳を強く握りしめ、高々とその拳を空へと挙げると炎が大きな龍の姿となり、空を舞う。
「”炎龍”!!」
この技は【火炎支配】の能力で疑似的に炎の龍を生み出して攻撃するユシリズの応用スキルだ。しかし、アルカードはそれを目撃しても静かにユシリズの様子を見ていた。
「ほう……美しい技だ」
「はぁはぁ……これが俺のとっておきだぁあああああ!!!!」
ユシリズはそのままアルカードに向けて拳を振り下ろすと、それに合わせて炎の龍がアルカードに喰らいつきに行く。
それでもアルカードは避けようとはせずに棒立ちで龍を眺めている。まったく動こうとしないアルカードにユシリズは疑問を抱く余裕などなかった。
今すぐにこの生物を殺さなくてはいけないと言う事だけがユシリズの頭の中を駆け巡っていたからだ。
そしてそのまま龍はアルカードの身体を飲み込み、アルカードの身体と周囲は紅い紅い炎の海となった。
「ユシ……リズ……」
その時、少しの間気絶していたユウビスが目を覚ました。ユウビスの目の前では炎の海ができており、ユウビスの顔を炎の明かりが眩しく照らしている。
「はぁ……はぁ……流石に死んだだろ……」
炎を見て、ユシリズがそう言う。
「私が見てきた中で美しい技の一つだ」
「は?」
「えっ?」
火の海の中で発せられた声にユシリズとユウビスが同時に驚いた時、ゆっくりと炎の中から歩み寄ってくる影が見えた。
それは正しく、火傷一つ負っていないアルカードだった。
「おい……嘘だろ……? あれは俺のとっておきなのに……」
自分の必殺技と言っても良い攻撃が効いていない様子を見たユシリズは膝から力が抜けるように崩れ落ちる。アルカードは首の骨を鳴らしながらゆっくりとユシリズに歩み寄ってくる。
「落ち込むことはない。貴様はこのアルカードに褒められたのだからな。そして安心するがよい……お前はこのアルカードの手の中で死ねるのだからな」
「死ぬ……? 俺は……ここで死ぬ? いや……だ……嫌だ!! 嫌だぁあああああああ!!!!」
ユシリズは目の前まで迫った死に発狂し頭を抱えて、地面に伏した。アルカードはユシリズの姿を見て興が覚めてしまったようで、溜息を漏らす。さっきまで勇敢に戦っていたものが突然、死に際が近くなると命乞いをした様子に呆れたのだ。
「なんだ? お前のような勇敢な男でもやはり死を恐れるか……人間とは実に愚かだ。まぁ……良い。これで終わりにしよう」
そうして、アルカードの右腕がユシリズの喉元へと襲い掛かった。
急展開の最中、ここでこの章は終わりです!!
そして次回からはこの物語が大きく動き出す章……
神人誕生編が始まります!
皆様これからも頑張って執筆しますので応援よろしくお願いします!





