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女体化転生から始まる異世界新(神)生活〜TSした元男子大学生、第二の人生はチート能力【創造者】を手にして神の元で働く傍らでいつの間にか『神』扱いされる〜  作者: 霞杏檎
5章 同盟交渉編

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116 埃被り姫

お待たせしました!

 俺たちは光に飲み込まれて、気がつけば等の周りに広がっていた池の景色が広がっていた。目の前にはさっきまでいた啓蒙ノ塔の姿が見える。近くには入る前にマジックゴーレムと戦った啓蒙ノ塔へと通じる橋もあり、ここが正に塔の目の前であるというのが分かった。どうやら塔を無事に脱出できたようなので、取りあえずは一安心だ。背中には連れてきた魔動機、周りにはアマとダン、そしてライザの姿が見え、全員いるのを確認する。


「これでお別れだな、ケルト」


「え、もう行っちゃうんですか?」


「ここに居る理由はもう無い。それに禁術が書かれた本が持ち出したとばれれば、私は追われる身になる。そうなる前に早々と故郷に帰って私の目的を果たす」


「そうなんかーーもっとライザさんとお話してみたかったわーー」


「なに、この世界で生きていればいずれまたどこかで会えるのだ。一度の別れでも、この縁が切れることなど無い」


 そう言いながらライザが手を前に出すと地面に白い魔方陣が生み出される。


「”召喚術(サモン)”!飛行馬(ペガサス)!」


 ライザが呪文を唱えると生み出された魔法陣から羽の生えた白い馬が生まれた。この馬でライザはセカン地方までやってきたのだろう。


「おおぉ!! すげぇ!!」


「天馬が召喚召喚された……」


 ダンとアマが召喚された馬に驚いている間にも、ライザは飛行馬に跨る。飛行馬に跨ったそのライザの姿はいつもよりも大魔導師のような風格であり、どこか見とれてしまいそうになる。

 こんなにも堂々として、魅力のある女性はこの世界には多く感じる。リベアムールもそうだが、ライザも神でなくとも一人の”人間”として憧れる。


「ではみんな、また会おう」


「うん! ありがとうライザさん!!」


 俺が笑顔で感謝の言葉を伝えるとライザは俺たちに向けて優しくはにかむ。そしてライザが合図をすると飛行馬は大きく翼を羽ばたかせ、広大な空へと勢いよく飛び立った。

 飛び立ってからもライザは軽く手を振ってくれていたので、ライザの姿が見えなくなるまで俺は手を振ってライザを見送った。

 ライザの姿が見えなくなって、俺たち3人は顔を見合わせる。


「じゃあ、俺たちも目的を果たしに行こう」


「せやな」


「おう」


 ライザとも別れたので、俺たちは俺たちの目的をしっかりと果たすことにする。それに俺の背中に乗っている人型魔導器の事も心配だ。

 俺が背中に背負ったその人型魔導器の顔を見る。側から見れば、気持ち良く眠っている美女にしか見えないのだが……いや、その人間の様なリアリティが見過ごせなかった要因でもある。

 まぁ、この子をマキナに合わせれば何か対処はしてくれるだろう。なんせ、マキナは全ての魔導器の生みの親だからな。

 そんな希望を持ちながら、塔の近くに待機させておいた移動用の馬に魔導器を乗せる。

 しっかり3人分の馬が生きていたので安心した。前みたいに魔族に殺されていなくて本当によかった。

 俺とアマ、そしてダンがそれぞれ馬に乗り込むと一気にハイエロストンへと続く街道を走らせた。


 数時間後――


 ハイエロストンへと無事到着した俺たちは再びこの国の神であるマキナ=グラウコービスの前へと立った。


「ケルト……待ってました……」


「遅れて申し訳ございません、マキナさん」


「いえ、もう……私の元へ帰って来ないと思っていたから。貴方達が無事に戻ってこれで良かった」


 マキナは俺達が元気そうに戻ってきた事に静かに口元を緩ませて、口角を上げていた。その様子に俺も嬉しくなりながら、早速目的の物を鞄から取り出す。


「はい、これが契約条件の物ですよね?」


「そ……それは! 正しく、無限ノ歯車(ディープルギア)!」


 俺はゆっくりとマキナの近くへと歩み寄り、その純白なアルビノ色のマキナのその手に歯車を手渡した。

 無限ノ歯車をマキナに渡した瞬間、その手に乗った歯車が淡く光り、反応を見せた。


「魔力が……流れ込んできます。無限の……終わりのない力が」


 すると、マキナの背中と大型魔力供給補助武装魔導とを繋ぐ線がマキナの背中から1本ずつ取れていく。全部の線が外れた時、ゆっくりとその場でマキナが立ち上がる。マキナが振り返り、身体と繋がりが外れた魔導器に無下ノ歯車を押し当てると、歯車が神器に吸い込まれた。そして、神器は大きく光りを見せる。

 眩く光るその神器は最早直視できない。


「ま、眩しい……!」


「えらい幻想的やで!」


「うわ、まぶしっ」


 あまりの眩しさに3人は顔を背ける。しかし、マキナだけは真っ直ぐにその瞳をその光に向けていた。そして、光りが収まった時、ようやく前を向くことができた。

 その頃にはマキナの目の前でひとりでに稼働している神器とそれを眺めるマキナの姿があった。


「ケルト、アマ、ダンよ。貴方達の活躍により、私が居なくともこの国が動き続けることができます。……分かりました。約束通り同盟を組み、この世界の為に共に戦いましょう」


 その言葉に俺は感極まり、笑顔が溢れ出た。

 代行人始まって屈指の大仕事、それを見事こなすことが出来た。その嬉しさは前世の世界で味わう事がなかった分、俺たちにとっては最高の経験だった。直ぐにも俺たちは頭を下げて感謝の言葉をかけた。


「ありがとうございます!」


「これからも宜しく」


「はい! あ、それと実はマキナさんに見て頂きたいものがあります」


「何?」


「ちょっと待ってて下さい。ダン、魔導器は?」


「俺の後ろにあるで」


 俺はダンに任せておいた人型魔導器をダンの後ろから担いで持ち、マキナの前に寝かせた。


「これは……魔導人?」


「マキナさん、これは私達が塔を登り切った時に部屋で倒れていた魔導器です。一人でいるのが可哀想だったので持ってきちゃったんですけど、この子をどうにかすることはできませんか?」


 マキナはしゃがんでその魔導器を眺め見る。マキナの手がその魔導器の顔に触れた時、マキナが口を開いた。


「これは、ケルティディアに遣わせた魔導人……」


「え?」


 ケルティディア……それは多くの神が口に出し、口を揃えて愛していたと言われているこの世界の先代の神。その神の遣いであったその魔導器があの場所にあるとは一体どういう事なのだろう。


「いつのことでしょう……ケルティディアに私が渡した魔導器。彼女はこの子を大切にしてくれていた筈なのに……どうして?」


 ケルティディアに一体何があり、彼女の所有物であったこの神器がどうしてあの場所にあったのかそれは分からない。しかし、俺にとって重要なのはそこではない。もしこれが普通の魔導器なら俺もここまで持ってくる事は無かったはずだ。しかし、俺は何かこの魔導器から不思議な何かを感じ取ったのだ。他の魔導器にはない特別な何か。人はそれを運命と呼ぶのかもしれない。俺が特別扱いしてしまう程、魅力を持った魔導器だ。

 だからこそ、俺はマキナに願いがある。


「マキナさん、この子にまた命を吹き込むことは出来ますか? 魔導器を統べるマキナさんならこの魔導器を生き返らせる事ができると思って……お願いします!」


「……」


 マキナは俺の言葉を聞き取ると自身の胸元に両手を合わせると祈る様に目を閉じた。


「我が能力"知識神(アテナ)"よ……この者の命を与える原動力をもたらしたまえ」


 そう呟くと、マキナの手にダイヤモンドの様に光り輝く鉱石の塊が生まれていた。


「これは魔導石、魔導器達の生命(コア)。魔導石は私の力"知識神"よりもたらされた【魔力支配】でのみ生み出す事が許された物質。これをこの子に……」


 マキナの手に持ったその魔導石が横たわった魔導器の腹部へと落とされる。その魔導石は腹部に触れた時、一瞬の閃光と共に消えた。そして、少しの静寂の中で魔導器の手がピクッと動く。今まで閉じられていたその瞼がゆっくりと開かれ、魔導器の青い瞳をその時、初めて見る事になった。覚醒と共に老化した人間の様に色が落ちた髪が、艶やかな水色の神に染め上がってゆく。

 ゆっくりと上体を起こし、自分の手を見て軽く動かした後、俺の方を見た。


「マ……マスター?」


「え?」


 その時、彼女は俺の身体に手を回して自身の身体に寄せ付けた。


「マスター……ご無事で何よりです」


 涙や声の震えは無いものの、どこか優しく主人を思う気持ちが伝わってきたのだ。しかし、突然の事で俺も困惑している中、マキナが優しく諭した。


「その人は貴方のマスターではありません。貴方のマスターはもう……この世にいない」


 その言葉を聞いて、彼女はゆっくりと俺から離れる。しかし、彼女の表情は何も変わってはいなかった。


「……抱きしめた瞬間、分かりました。貴方はマスターでは無い……と。しかし、分かったこともあります。貴方がマスターと同じ暖かさ、力を持っていること。そうですか……私のマスターはもう居ないのですか……」


 表情を変えず、そのまま下を向く彼女。彼女はあくまで魔導器であり、魔導人。人間の様に感情の表現は無いものの憂いの気持ちが伝わってきた。


「マスターと間違えて申し訳ございません。遣える主人が居ないのなら私はただのガラクタその物……」


「マキナさん、使われない魔導器ってどうなるの?」


「使われなくなった魔導器は解体(スクラップ)し、新たな魔導器を生み出す素材になる」


「そうなんですね……」


 よし、決めた。


「なら、今日から私のマスターにならない? 嫌かな? 良く君が支えていたマスターに似てるって言われてるんだけど?」


「え? で、ですが私が出来ることなど……」


「何かは絶対ある。それにもしかしたら前のマスターの事とかも覚えてたらそれも聞きたいし……だめ?」


「……」


 彼女は少し俯いて、何かを考えてから顔を上げた。


「私が出来ること、それは主の側に遣え、お守りすることしか出来ません。それでも宜しいというのですか?」


「十分だよ」


 俺の言葉を聞いた彼女はそのまま口を閉ざしてしまった。彼女はきっと過去の事で何かと葛藤しているのだろう。しかし、コンマ何秒の一瞬ではあったがあの無表情な彼女の口元が数ミリだけ緩んだ気がした。そして、彼女は何かを決心したかのように瞳を俺の顔へとまっすぐ向けた。


「……ありがとうございます。貴方から微かにマスターと同じオーラを感じます。マスターがいないのなら、貴方を新しいマスターとして認め、お側にいる事を約束しましょう。誠心誠意、お勤めしたいと思います」


 そう言って、彼女は俺に頭を下げた。俺はオールバックにかきあげられた彼女の髪を優しく撫でてやった。


「早速ですがマスター、私に名前を授けてください。それが私がマスターの従者となる条件です」


「名前? 別に構わないけど。そうだなぁ……うーーん、前はなんて呼ばれてたの?」


「それが……思い出せないのです。原因は不明ですが記憶の一部が破損していると現状解析結果からお伝えできます」


「そうか……」


 うーーん、名前ねぇ……機械とは思えない程凜々しく、美しいその出で立ち。長く放置されていたとは思えないどこかの国の姫のような美しさ。誰も来ない場所で眠り、長い眠りから目覚めを果たした埃被った美少女はまるでどこかのお姫様のようだ……よし、決めた。


「君の名前は今日からサンドリヨン!! 名を聞かれたら、その名を誇りを持って名乗るんだ!!」


「サンドリヨンって……シンデレラの別名やな。べたやな~~」


「サンドリヨン……素晴らしい……」


 ダンに煽られてしまったが、名を貰ったサンドリヨンは静かに賞賛した。そして名を貰った瞬間、サンドリヨンの身体が大きく光る。さっきまで埃かぶっていた白髪の髪は透き通った水色へと変わり、ボロボロの身体も修復されて行く。身体の修復が完了すると、彼女の胸部や陰部を隠していた服とも言えない布きれがまるで動画の逆再生を見ているかのように治っていく。気がついた頃にはサンドリヨンはきりっとした男性の人間が着る漆黒のスーツを身に纏っていた。サンドリヨンのそのすらっとした身体にスーツがとても似合っていた。シャツの下からはち切れそうに膨らんでいる胸に少々目が行きそうになるが……気にしないでおこう。前髪も掛かり、綺麗な額が隠されていた。

 名を与え、改めて綺麗になったサンドリヨンは俺の前へと跪いた。


「改めてマスター……我が個体名はサンドリヨン。我がマスターの盾となり、お守りいたします」


「う、うん! よろしくねサンドリヨン!」


 こうして、俺の元に”魔導人”サンドリヨンと言う新たな仲間が加わった。長い長い眠りから覚めた()()()()は今、新たな魔法にかけられ、覚醒を果たしたのである。



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