113 神嫌い
「……と、言うことだ」
その話をライザが淡々と話したころには俺もすっかり感情移入してしまっていた。聞いていて、腹が立つというよりも終わり方がなんとも気持ち悪くて悲しかったから話が途切れた時、最初に何と言ったら良いのか分からなかった。しかし、ライザは俺がやはりそんなリアクションをすると言うのは分かっていたようである顔をしている。
「やはり、そういう顔になるよね」
「す、すいません。想像していたよりも恐ろしいほどに酷くて……悲しくて……」
「良いんだ。私もこれを人に話したのは貴方が初めて。もし、他の人にも話をしたらみんなそんな反応を示すに違いないわ」
「そ、それでその魔物騒動の原因は何だったんですか?」
ライザはまた目線を遠くの方へと向ける。ライザは時々話をしていると目線を遠くの方へと向けている。よっぽど悲しいことを話しているのだと察することができ、俺は申し訳ない気持ちになるが聞いておかなければいけないことだと思ってしまっている自分がいた。
「エスデス軍の幹部が単独でフィフ地方に侵入したのち、魔物召喚の呪文を使って無作為に魔物を召喚して村を襲ったという事だけは聞いた。襲った動機はいまだ不明だけどおかげでフィフ地方の魔物の生態系が崩れて、今ではフィフ地方に存在しないはずの魔物が住み着いてしまっている。ライカンスロープや中型のサイクロプスなどが住み着き、グレムリンやマタンゴのような元から住んでいる下級の魔物たちがどんどん殺されてしまっているのだ。それなのに……」
ライザは下唇を噛みしめて、その手を強く握りしめる。
「あの国の神は私たちに手を差し伸べなかった。騒動が起きて、心身共に傷ついた民になんの支援もせず、壊された村はそのままで放置され、挙句の果てには魔物駆除も見直しが進められてばかり……元はといえばあの騒動の時にすぐに応援が駆けつけてさえいれば、それだけでも何かは変わってたと言うのに……」
そう言って、底知れぬ怒りをあらわにしていた。そして、一言俺にこう告げた。
「私は神など嫌いだ」
その言葉が彼女にとってどれほど深い意味を持っていることか。良神として称賛され民から尊敬と希望の象徴であり、地方を守る責任がある大きな存在に対して否定的な言葉を言った人間はライザが初めてだ。
「何が良神だ……何が良い神だ。誰が決めた? 基準は⁉ ……いい加減なんだこの世界は。良神も邪神も所詮同じ存在、勝手に神たちが区別しているだけ……ねぇ、あなたはどう思う? この世界の理について……」
ライザの話に俺はまたしても言葉が詰まってしまった。今、俺はワンス地方の神リベアムールの使いとして日々働いている。俺の地方の神であるリベアムールは人のために精を尽くしている。文字通り良神の肩書に等しい働きをしているとは思っている。それでも、ライザの言うように民のために動かぬが良神と呼ばれている神もいるのも何か理由があってのことだ。しかし、これほどまで働きが違うと何が良神であるかなどの判断が分からなくなってしまうのも当たり前の話だ。ライザもフィフ地方の民の一人だ。本当に良い神と言うのは民から愛され、親しまれ、絶大なる尊敬があるからこそ成り立つと俺はおもっえいる。サーティ地方のケテルネスにも言えることだ。ケテルネスも今では少しだけ恐れられてしまっているが良神である。決して悪い神なのではないのだがリベアムールと比べると良神さはあまりない。
俺は少し頭を捻らせ、考えを導こうとはするがうまくまとめることができない。だから、俺は率直に素直な意見を伝えることにした。
「私はこの世界の理なんて分からない。どう言う基準で邪神なのか良神なのか決められてるかも分からない。けれど、私の仕事先の人はとても民を思いで、民のために働いてる立派な人だよ。でも、今のライザさんの気持ちも分かる。大切な人を失って、その怒りを様々な方向に向けたい気持ちも……その神様が良神の動きをしてくれないって言うのであれば私が何とかする。そして、私が出来ることは目の前で困ってる人に手を差し伸べてあげることよ」
そう話すとライザは乾いた笑いをしてみせた。
「助ける? 貴方が私に何が出来ると言うの?」
その言葉から俺はムキになったわけでは無いのだが、心の中で少し揺らいでいる思いが口から出てきてしまう。
「ねぇ……ライザさん、もし私が神様になってみんなが楽しく暮らせる土地を作れるとしたらライザさんは来てくれるかな?」
俺の言葉にライザは少し驚いた様子だった。
「貴方、神に憧れてるの?」
「ただの例え話! ライザさん、神様の事が嫌いなら私はライザさんでも好きになれる様な神様になれる自信があるんだけどなぁーーとか思ったりして?」
俺は少し茶化す様に言ってみせたがライザは笑うことなく、下を向いて俯いてしまった。
そして、鼻で1度笑うと考えておこうとそれだけを告げた。嫌だって言われるのかと思ってたけどホッとした。その言葉の真偽など今は考えることでは無い。それと俺にはもう一つライザ聞いておきたかった事があった。
「ここへ来た理由はもしかして、その妹さんを生き返らせるために?」
そう尋ねるとライザはゆっくりとうなずく。
「そう、私はさっき死んだ魔族の奴と目的はほぼ一緒よ。私も禁術が記された魔導書を探すためにこの地へ来た。蘇生魔法を習得して私の家族を蘇らせ、また一から幸せをやり直したいって思った」
しかし、俺はライザの意見に対して心配することがあった。禁術を持っていることがもし国に知られたらお尋ね者とされるリスクを背負ってしまうこと。そのリスクが俺の頭によぎってしまう。
「もし国にバレてしまったらライザさんお尋ね者になっちゃうかもしれないんですよ?」
「良い……私がそう決めたんだ」
「でも……」
俺は少しでもライザさんを止めたい気持ちがある。それでもその先に『やめた方が良い』と言う言葉だけがどうしても口から出すことができない。なぜなら、ライザさんのその禁術への思いが”本気”だったから。フィフ地方からわざわざここまで駆けつけて見ず知らずの人間にその目的を非難されても腹立たしくなるだけだ。俺ができることはライザさんの決めた道を静かに見守ることだけ……ライザさんの幸せを願う事だけだ。
「それにもう一つ、私には旅の理由がある。それは私たちの村を滅ぼし、家族を殺したアルカードと言う男に復讐するためだ。家族を生き返らせる前にそいつの情報を掴み、殺す」
アルカード……その男がどういう存在なのかは分からないが少なくとも魔族であるのならいつか俺たちとも相まみえる時が来るかもしれない。アルカードと言う存在を俺も覚えておこう。この人にも大きな目的があるが、その目的を果たすためのリスクがあまりにも多い。何とかして助けにはなりたいと思った。
しかし、それでも今は俺にも仕事全うしなくてはならないので無限ノ歯車を探しに行かなくては。まず、ライザの事を考えるよりも先に目的の物を確保しよう。
「ライザさんの事、大体わかりました。そろそろ、お互いの目的の物探しに行きませんか?」
「そうだな、そろそろ行こう。貴方も探し物があるんでしょ?」
「はい、では行きましょうか」
俺たちは席を立ち、それぞれの目的の品を求めてこの広い書庫をまた歩き始めた。
最後までお読み頂きありがとうございます!
宜しければブクマ、評価ボタンをポチッと押してくださると嬉しいです!
次回も頑張りますので応援よろしくお願いします!
……ランキング乗りたい!





