112 最悪の日
今回は残酷描写少し強いです。
気をつけてお読みください。
それは十数年前の事に遡る。場所はフィフ地方の西方の生繁た森に魔法使いたちがひっそりと暮らしている村があった。そこには数十人の大人の魔法使いと数人の子供が住んでいたそうだった。その中にライザ=ラインハルト10歳とエルザ=ラインハルト6歳も一緒に暮らしていた。エルザとライザはほとんど瓜二つと言った外見でライザは長髪ストレート、エルザショートボブと髪型で認識されることが多い程似ていた。ライザとエルザたちはいつも二人でともに行動することが多く、特にエルザはライザの後ろをいつもついてくるほど姉の事が大好きだったみたいだ。彼女たちは優秀な魔女になるべくいつも森の中で魔法の特訓をするのが日課でライザが自習した魔法をエルザに見せてエルザに魔法を教えていた。
「いいかエルザ、今日は私と精霊魔法のお勉強をするぞ! まずは簡単な魔法からやって見せるから一緒にやってみよう!」
「うん!」
ライザはエルザに見せるように火炎、氷結、疾風、地震それぞれの初級魔法を詠唱する。ライザが生み出す魔法にエルザは目を奪われとても楽しそうにしていた。
「わぁーー!! 凄いねお姉ちゃん!!」
「フフン♪ さ、ライザも魔導書でお勉強した通り唱えてみて」
「分かった! 私やってみる!」
そう言って、エルザは火炎、氷結、疾風、地震の詠唱を始める。しかし、一つずつ詠唱していくのだが中々魔法が出ることはなく不発してしまう。そんなエルザを見て、ライザは思わず吹き出してしまった。
「えぇーー⁉ なんでできないのーー……」
「ははは、最初はそんなもんさ。精霊魔法はもっと火、氷、風、土をイメージしなくてはならないからな」
「むぅ! お姉ちゃんもう一回! もう一回やる!」
エルザは負けず嫌いな性格でできるまでやると言ったら自分が満足するまでずっと努力する女の子をライザは知っており、何度も挑戦しては失敗を繰り返し、もう一回もう一回とせがむ彼女のリトライを止めることはなかった。ライザはエルザの特訓を見守っていた。
そして、森も薄暗くなりそろそろ帰宅時間となったため、ライザ帰る支度をしているとエルザの輝いた声が聞こえてきた。
「やったぁできた! おねーーちゃーーん!!」
「本当か!」
そう言ってエルザに近づくと目の前で魔法が詠唱され、地面に赤い魔方陣が生まれるとポンっと小さな火が生まれた。初級魔法【火種術】であったが、エルザにとって魔法が使えるようになることは大きな進歩である。
「まだ火炎魔法しかできないけど……」
「よくやったぞエルザ、お前はやればできる子だ」
「えへへーー」
ライザはエルザの頭を優しく撫でてやると子犬のように嬉しそうな表情を見せる。ライザはいつもこの笑顔が見たくて時々こうやってエルザの頭を撫でてやるのが癖になっていた。
「さ、家に帰ろう。ママとパパが待ってるから」
「うん!」
そう言って二人は帰路を歩き、自身の家へと帰った。ライザたちの家は村とは少し離れた森の中で佇む中くらいの木造の家で、母、父、2人姉妹の4人家族で幸せに暮らしていたのだ。
夕食を食べ終わり、身体を綺麗にしてから自身の部屋の寝床に着こうベットで横になった時、部屋のドアがノックされる。しかし、ライザはこのノックが誰なのかすぐに理解することができた。部屋に入るように促すとドアがゆっくりと開けられる。入って来たのはお気に入りのウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて部屋に入ってくる。
「お、お姉ちゃん……今日も一緒に寝よ?」
エルザは夜になるといつもライザと寝るために部屋に来る。ライザはそれを咎めも拒否することもない。
「良いわよ、おいで」
そう言うとエルザの顔はすぐに明るくなり、ベットの中へと入り、ライザの隣にくっつく。
「お姉ちゃん……」
「ん?」
「大好き!」
「ふふふ、私も」
満面の笑みでそう言われたライザはエルザの頭を撫でてやる。気持ちよさそうに顔が緩み、そのまま目を閉じていくエルザの様子を見ながら消灯するのがいつもの日課だった。
そして、少し時間が経って、エルザの誕生日がやってきた。家でエルザの誕生日を大いに祝い、エルザの大好きな母のスポンジケーキを食べてとても幸せそうだった。
「エルザ、後ろ向いて目を閉じて?」
ライザの言葉通りにエルザは後ろを向いて、目を閉じる。
「はい、エルザ! 誕生日プレゼント!」
エルザが目を開くと胸元に赤い宝石が付いたペンダントがつけられていた。
「わぁ! 綺麗!! お姉ちゃんどうしたのこれ⁉」
「実は一人で出かけたときに綺麗な宝石が落ちててね、調べんたら火属性魔法の補助が付いた不思議な宝石だって書物に書かれてたから、お母さんにお願いしてこの宝石をペンダントにしてくれたの。ほら、ここのボタン押してみて?」
エルザがペンダントのサイドにあるボタンを押すと宝石の部分が開き、絵が入れられるようになっていた。
「凄い! お姉ちゃん! ありがとう!!」
そう言って、エルザはライザの胸へと抱きつく。ライザを含め、ラインハルト家全員がこの幸せが一生続くことを願っていた。
しかし、悲劇は突然と起こる。
「大変だ! 村に魔物の群れが!!」
父が血相を変えて家に帰ってきた。そう私たちに告げると父と母は杖を持ち、服装なども正式な魔法使いの恰好へと着替え始める。
「ママ、パパどこへ行くの?」
エルザがそう告げると母はライザとエルザの頭を撫でる。
「私たちはは村のために戦わなくちゃいけないの、だからあなたたちはここにいて隠れていなさい。ライザ、エルザの事お願いできるかしら?」
「う……うん」
「ありがとね。じゃあ、パパと一緒に行ってくるから」
そう言って二人は私たちを家へと置いて、村の方へと出て行ってしまった。
数分が経ち、2人は家の中で毛布をかぶりながら父と母の帰りを待っていた。外の遠くの方から大きな騒音が鳴り響いている。魔物と魔法使いたちが戦っているんだ……子供ながら不安なところはあったが隣でがくがくとおびえるエルザを見るたびにしっかりしなくてはと強く思えた。
その時、家の玄関扉が壊され、狼の顔をした人間の様な魔物が複数入ってきた。ライザはこれまでの座学でこの魔物が何なのかすぐにわかった。ライカンスロープである。
しかし、ライカンスロープはワンス地方はたまたシック地方にしか生息しない魔物のはずだったがそんな事を考えている暇などない。
「オイオイ、ウマソウナガキガイルゾ」
「ホントダホントダ!」
ライカンスロープ達はライザとエルザに長い舌を突き出しながらにじり寄ってくる。
「お……お姉ちゃん」
エルザは私にしがみつき今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。私は母から言われていた家の裏口のことを知っていた。なんとしてもそこまで逃げなくては。
「エルザ、火属性魔法使えるよね? その魔力を私に頂戴? あのライカンスロープから逃げるために力を合わせなきゃ」
「う……うん!」
「アアン?」
2人は息を合わせてライカンスロープの足元に赤い魔方陣が生み出されると大きな炎が生み出された。初級魔法の種火術ではあったが二人の魔力を合わせたことに用って大きな炎が生まれる。それによって炎の壁ができるとライカンスロープたちは驚きふためく。
「ガキガマホウヲ⁉ アチアア!」
「今のうちに行くよライザ!」
エルザはライザの手を引いて裏口から家を出るとそのまま家から離れるように走り出した。森の周りから魔法が行使される音、魔物たちの鳴き声、魔法使いたちの悲鳴が聞こえてくる。ライザはエルザの手を引きながら逃げることだけを考えた。
(神様は……神様は何をしているの!?)
走りながらこの国の神の事を思い出す。強い力を持った神が手を貸してくれたらすぐにもこの騒動が収まるはずなのに、国の人たちがこちらに来ている様子もないことからまだ神は動いていない様子なのだろう。
そして、走っていくと森から抜けた場所に二人は出た。そこは燃えた家々によって明るく照らされた魔法使いたちの村だった。ひどく荒らされ、燃える家、倒壊した家などライザたちの知っている街の風景ではなくなっていたのだ。その街の惨状を見たライザたちは父と母の事を考える。
「パパ! ママ!」
そう言って二人は村の中へと駆け出す。村の至る所に倒れた魔法使いたちがいる。不安と焦りが募り、疲労など考える余地もなく走る続ける。そして、見覚えのある服装の人間が倒れているのが見えた。
そう、母だった。
「ママ!」
「ラ……イザ、どうして……来たの……」
「家に魔物が入ってきて急いで逃げてきたの! ママ!! 早く逃げよ!!」
「……!! 二人とも早く逃げなさい!!」
母は明らかに後ろの何かに気が付いてそう言った。私が後ろを振り返るとそこには大柄の男が立っていた。高身長で銀と紫が混ざった短髪で顔はスラっとした中性な顔立ちをしているどこか酷く美しい男が立っていた。その男の赤い瞳にどこか恐怖を抱き、母と妹の手を引こうと体を動かそうとした瞬間、男は一瞬で私たちの近くへとやってくる。
「魔法使いのガキか、うまそうな血が飲めそうだな」
そう言って、エルザの首を掴み上げる。
「ふぐぅ!!」
ライザは一瞬の出来事で頭が回らず、混乱していた。目の前ではエルザの首が男の大きな手に掴まれており、それが分かった瞬間には恐怖で涙が出てきていた。
「エ……エルザを離して!」
ライザはおびえて、咄嗟に魔法を詠唱し、その男の肩を種火術で燃やす。しかし、男は動揺せずにエルザの方を見つめていた目をライザの方に向ける。
「ふむ、貴様はガキのくせにこのアルカードに攻撃をしかけてくるか……面白い」
「おねえ……ちゃ……ん……助けて……」
アルカードと名乗るその男がライザに向けてその大きな手を伸ばした時、男に向けて母が男の体を掴んで男の行く手を阻むように重りとなる。
「ライザ……貴方だけでも逃げなさい……エルザは私が……」
「で……でも!」
「早く逃げなさい!!」
私はそれでもすぐには動くことができなかった。しかし、母と妹が苦しんでいる姿に耐えられなくなったのか私は離れようにこの場を去る。
「おねぇ……ちゃん」
「……ふむ、我が身を捨てて子を守る。母親としては偉大だ。褒めてやろう。褒美として、我が手の中で楽にしてやろう……」
それから、数時間が経った。私は隣のフォース地方の関所の人に保護され、何とか生き残ることができた。そして、関所の人から騒動が収まったという神からの伝達が届いたという話から私は急いで村へと走った。村は前よりも荒らされ、もう廃村と言われてもおかしくはない状態だった。フィフ地方の神の使いであろう黒い鎧を身にまとった得体のしれない人たちが少ない生き残りを保護したり、現場を調査したりしていた。そんなことよりも私は最後に母と妹を見た場所へと向かった。
「エ……ル……ザ?」
その場所に着くとエルザが倒れているのが見えた。首から大量に血を流して今にも体から取れかけているほどに無残な姿で死んでいたのだ。
近くには母親も倒れており、同じく首から血を流してい倒れていた。ライザはふらふらと駆け寄りながらエルザの近くへと向かう。震える手でエルザを優しく抱えるとライザは大きく泣き出した。
「う……うぅ……あああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
酷く荒れた村に一人の少女の泣き叫ぶ声がこだまする。その時、エルザの首から涙のようにぽとっと赤いペンダントが地面に落ちた。
その泣き叫ぶ声がライザの心に響き、何かが弾けるような感覚がした。
≪スペシャルスペック【魔術者】が解放されました≫
天からそう聞こえたような気がしたがライザは目の前の悲しみで気が付くことがない。
そして、ライザは少し時間が経ってから自分の力に気が付くことになる。
最後までお読み頂きありがとうございます!
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