110 仲間の為に
胸の中で熱くなっていく仲間への思いがダンの中で弾ける感じがした。そして、それに合わせてシステムが反応を見せる。ダンは手慣れた手つきでシステムのメッセージを確認した。
「……いける。これならいけるで!」
ダンはそのメッセージを見た後、決心してキュマイラの前へ姿を表した。やっと姿を表したかと言わんばかりの面持ちを3つの顔がダンへと向ける。ダンはその3つの顔に対して鋭く睨みつけた。
「ダ……ン……」
アマが毒で衰弱仕切っており、今にも息が尽きてしまいそうな様子であった。しかし、ダンは動じずに静かに笑い始める。
「ははは……おいキュマイラはん、俺の仲間に色々してくれたやん。俺が攻撃出来ひんからって調子に乗ってくれたな」
ダンは静かに眼鏡を外し、ポケットへと入れる。
「そうや、俺は攻撃なんて出来ひん。攻撃できる仲間が居らんと何も力発揮出来へんのや。俺は仲間をサポートする立場や、せやから……」
ダンは片手そっと左眼を隠し、そして深呼吸の後ダンの右眼が青く輝く。
「アマァアアアア‼︎ 待たせたで‼︎ 今楽にしたるからな‼︎」
ダンの目線にアマを捉える。そのアマの身体がダンの目と同じ色の光で包まれるとアマの顔色がみるみると良くなっていく。さっきまでの虚な目には光を取り戻され、毒を喰らう前の元気な状態へと戻った。
「あれ……気持ち悪くない? 力も入るぞ?」
「よっしゃ‼︎ 成功や‼︎」
目の前で起こった突然の出来事にキュマイラは何が起こっているのか分からない様子だったがアマが元気になってしまった事は理解できているようで急いでアマへの攻撃を仕掛けようとする。が、しかしそう思った時には既に手遅れだった。
「よくもやってくれたな、この糞畜生が」
≪発動:電磁砲≫
サーペントの尻尾の内部から電流の光線が放たれ、サーペントの胴体から貫通して、バフォメット、マンティコア全ての部位の肉を消し飛ばす。そして、アマは自力でキュマイラからの拘束から脱出し、ダンの元へと走り寄る。
「ダン、悪いなありがとう」
「いやええんや、俺も怖くて見捨てるような事しそうになってもうたから」
「でも、あの能力は何だったんだ?」
「これやで」
ダンはアマへシステムのメッセージを送ってやる。
≪新規メッセージ:1件≫
≪傍観者のレベルが上がりました2→3≫
≪よって以下のスキルを解放しました≫
name:【アスクレピオスの眼】
種別:特殊スキル
効果:視線を向けた対象に対して以下の効果を一時的に適用する。対象は使用者が自由に決めて良い。
・【全状態異常回復】
・【持続回復付与】
・【状態異常耐性】
「……すげえ便利」
「せやろ? 戦えん分は支援で補うっちゅうわけや!」
「持続回復まで付いてるのか。通りで力が出てくるわけだ」
アマの体から少し電流が漏れ出てるのを見ると大分元気になってきているみたいだ。しかし、2人が話している間にもキュマイラの再生は進行しており、どんどん身体が元通りになっていく。
「ああ、でも肝心なあいつが全然倒せん‼︎ どうすればええんや‼︎」
ダンが頭を抱えてこの世の終わりみたいな感じで騒ぎ立てているがアマは鼻で笑ってみせた。
「ダン、大丈夫だ」
「は?」
元気になった体でまたキュマイラの目の前へと立つ。
目線の先には再生途中のキュマイラがいる。
「分かったんだよ奴の弱点……それはこの時だ!」
アマは精神を集中させると体内に流れている電流がアマの中心へと溜まっていく。そして、アマの身体が電光によって黄色く輝きを見せた。そして、アマの周りには誰も触れられぬほど激しく電流が漏れ出て弾けていた。
「こいつの弱点は『再生時は何も出来ない事』、俺もあいつの事を何度も攻撃していたがただ攻撃してたわけじゃなくて色々変化を観察してた。そしたら……見つけた。ダン、お前が仲間の為に動いてくれるんなら、俺もそれに応えてやるよ。仲間の……為にな」
その時、アマの中でも何かが弾けたような感覚を覚えると共にアマにもシステムが反応を見せた。
≪雷術者のレベルが上がりました2→3≫
≪よって以下のスキルが解放されました≫
name:フルボルテージ
種別:特殊スキル
効果:体内の電流を増幅させ、威力の高い電流を維持させることができるスキル。以下の効果が得られる。
【雷属性強化】【雷属性スキル強化】【電流維持】
「このスキルであいつを倒すんだ」
「見せてやるで、俺たちの力‼」
ダンとアマに変化が見えたのに気が付いたキュマイラは動揺を見せていたが激しく怒り狂う。まるで、そんなことをしても俺には勝てんとでも言っているかのように3匹がわめき始めると、サーペントが今度は黄色い麻痺息吹を吐いた。その麻痺息吹が俺たちを包む。しかし、さっきまでの俺たちではない。ダンのアスクレピオスの瞳の効果によって二人には状態異常耐性がかけられていたのだから。もちろん、2人は麻痺などにかからずぴんぴんしていた。サーペントは驚いていたがそれを見たマンティコアは大激怒し、そのままアマの方に突っ込んでくる。そして、その大きな前足をアマに向かって振り下ろす。キュマイラはアマがこれで避けると思ったのだろう、アマの両サイドには仕掛けられたようにバフォメットの魔法がスタンバイされていた。しかし、アマは避ける素振りなど見せない。
「これで終わらせる」
アマは両手をキュマイラの前へ勢いよく突き出す。
≪発動:電磁zf-g@;l≫
≪修復中≫
≪発動:超電磁大砲≫
「消せ……肉の全てを」
アマの両手から黄緑色の光の巨大な光線が打ち出される。前足を大きく振り上げたキュマイラはそれを避けられるはずもなくそれを至近距離で食らってしまった。巨大な光線はキュマイラの体全体を包み込み、キュマイラが吹き飛ぶ前に、泣きわめく前に、その体全てを消した。石で出来た地面はまるで削り取られたようにえぐられている。キュマイラが倒されたのは本当に一瞬であっけなく、部屋には一時の静寂が生まれた。そして、アマがふっと一息ついてダンの方を振り返る。
「有言実行だな」
「せやな‼」
お互いがそう笑いあった時、アマのシステムがまた反応を見せた。
≪条件を満たしたので以下のスキルを獲得≫
name:巨獣殺し
種別:EXスキル
条件:自身よりも強大な敵に恐れずに立ち向かった。
効果:対象が自身よりも大きければ大きいほどスキルの威力が上昇する。
アマはその表示を見てうなずく。
「ふーーん……ま、先進むか~~」
「待ってタイムーー!! もうへとへとや……」
ダンはその場に座り込み、武器の弓を下ろした。
「……ま、休んでから行くか。ケルト悪いなっと」
それに続いてアマも腰を下ろす。担いでいたマジックスタッフを下ろし、その場に置いた。
そして、二人合わせてはぁっとため息を漏らす。
「……なあ、ダン」
「ん?」
「なんかさ、前の世界よりさ生きてる感じがするんだよね。なんか死にそうって感情も経験してるし……最初はアニメも声優のライブイベントなんてないから退屈しそうだとかおもっちゃったけどさこの世界も悪くないなって」
「……せやな。まぁ、贅沢なことを言うとこのままみんなで生きられたらいいなって思ってるんよ」
生きられたらいいな……ダンの言葉がこの世界でどれだけ重いのかこの経験をしているからこそアマは理解できたのだろう。アマは考えて考えて出た言葉が
「そうだね」
だった。それでも、今日は生きることができたそれが一番大切なことでそれを今は喜べばいい。ダンとアマはケルトの心配をしながらも今は自身たちの疲れた体を気休めでも癒すことにしたのである。
≪女神の天秤に変化が起こりました≫
ダン 中立→中立秩序
アマ 中立→中立秩序
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