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女体化転生から始まる異世界新(神)生活〜TSした元男子大学生、第二の人生はチート能力【創造者】を手にして神の元で働く傍らでいつの間にか『神』扱いされる〜  作者: 霞杏檎
5章 同盟交渉編

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105 アルト

 その偽ケルトの一言で俺は疲労感から来た肉体的な発汗ではなく、何か戸惑いと焦りから汗が湧いて出てくる。

 自分に個性がなく、自分に自信が無い。それは転生前の世界から抱えている俺の中の深刻な悩みの一つでもあった。

 それをまさか、自分と同じ姿をしたやつに言われるとなるとまるで自分に言われているかのように見えてしまう。


「お前の周りには個性がある奴らで溢れている。その中でお前は自分に個性など無い平凡な人間で仲間の事を相当羨ましがってたみたいだな」


「そ、それは……」


 そう言われるて心当たりしかない。自分の個性の無さに嫌気がさして、他人の個性を羨ましがっていた事。そしてそれを妬んだりもしていた事。前の世界では初中後そんな事をしていた。


「そして、ここの部分の記憶はぼやけてて分かんねえけど、何か自分が大きく変われる出来事が起こった。しかし、自分の心が前と大きく変わったかって言われるとそうではなく変わった感じがしない」


「や、やめて……」


 まるで俺の嫌な事を抉り出してくる言葉の一つ一つに俺は段々と吐き気を催してくる。そして、心臓の音が自分でも聞こえるほどに鼓動が昂り、ドキドキと振動が激しくなっていく。落ち着いて呼吸を整えようと深呼吸をしようにも上手く呼吸ができない。少しでも呼吸を落ち着かせようとする意識が無くなれば過呼吸を起こしてしまいそうなほどに動悸が激しくなっていく。


「そこで神として認められ、少し自分に自信が持ててきたかと思いきやまだもやもやがある。時折、仲間が生き生きとしてる事に少々躊躇いを感じているのも見える」


 そうだ、ガクトと2人っきりの時に少し話をしたのを思い出す。そしてガクトはこう言っていた。


「俺の中身は前と変わらない。だから、環境は変わったが俺と言うものは変わらない。だから前と同じさ」


 そんな言葉に俺は確かにもやもやした。何故なら……


「何故なら、お前自身が変わってる気がしなかったから……自分が変わっていない事に恐れて、他人が変わってしまったことを願ってたんだろ? 自分を擁護するためにな。相手が変わる事でこの世界でもその個性を活かせて生き生きして欲しく無かったんだろ?」


「……がう」


「自分には個性がない。だから、自分のこの能力だけに縋りよって仲間たちの個性が霞み、自分の個性が上に立ちたかったんだろ⁉︎」


「違う‼︎」


 俺は握っていた剣を偽ケルトに向かって振り下ろす。

 偽ケルトは即座に光の剣を生み出しそれを受け止めた。


「はぁはぁ……」


 別に攻撃するつもりなどなかった。しかし、身体は自然に反応して偽ケルトへと気がついたら攻撃を実行していた。

 それを武器の刃と刃がぶつかった衝突音で我に返って気づく。


「俺にはお前の中の8割が見える。お前は神に認められた。しかしそれは能力のおかげだ。それだけでは自分の個性ができるわけではない。それを忘れるためにいや、個性を出すせめてもの考えで神に従って、人々の為に能力を使うとか良い子ちゃんぶってるんだろう⁉︎」


「それは違う‼︎」


 俺は武器で偽ケルトの光の剣を弾くと咄嗟に左腕を前に出し、その場の空気を爆発させ、偽ケルトを吹っ飛ばす。

 飛ばされた偽ケルトは20m先まで飛ばされる。そして、ゆっくりと体を起こす。


「私は……くっ……そうだよ……私には個性がない、この世界に来る前からそうだった。みんな色々良い物を持ってたんだよ。それは性格でもそうだし、知識の多さもそう……できる事だってみんなの方が多かったし、面白いこと言えるのもあいつらの方が多かった」


 俺は別に心を開いた相手でもない、言いたくない事なのに口が1人で勝手に動いているかのように淡々と喋る。目頭が熱くなり、目の奥が焼けるような痛みが生まれ、今にも爆発してしまいそうだった。気がつくとその目からは堰き止めきれなくなったダムから水が出るように大量の涙が流れてくる。俺は初めてこの世界で泣いたのだ。


「ユシリズは……ひぐっ、いつも明るいし……ガクトは物知りでユーモアがある。えぐっ……はぁ……ダンは、話上手でアマは何でも器用にできる。ユウビスは色んな人に良い印象持たれて、メフユは可愛がられた。うっ……でも、私は……」


 俺は涙で晴れた目を擦り、その赤くなった緑色の目で睨み返す。


「でも……そんな私でも、個性のない事で他人を羨ましがってもこの能力を人のために使うと言うことは綺麗事じゃない‼︎ これは私の純粋な本心だ‼︎ それは私自身の嫉妬から生まれた物ではない‼︎ 私、ケルト=シグムンド自身の純粋な心から生まれた考えだ‼︎‼︎‼︎」


 そう、これは本心だ。確かに嫉妬だらけの私で個性など無いのかもしれない。けれど、俺には俺自身で生み出した考えというものがある。俺が生み出せるのは能力だけじゃ無いんだ。


 その言葉に偽ケルトは突然笑い始めた。


「くっくく……はぁーーはっはははははは‼︎ そうかそうか、お前は自分には個性が無くて、他人に嫉妬だらけだと認めるんだな?」


「ええ、そうよ」


 そう返すと偽ケルトはピタリと笑うのをやめる。そして、真剣な眼差しに変わる。


「……いつもならこの手口で相手の心をへし折って、そのまま殺していたんだが、お前は自分の弱みを突かれても折れる事が無かった……もう俺の手口は通用しないってわけか……」


 そう言うと光の剣を消して、腕を軽く挙げながら歩いてくる。


「降参だ。お前には負けた……ここまで言っても心が折れないなら俺はどうすることもできない」


「……でも、ありがとう」


「?」


「何だか……とてもスッキリした。誰にも言えなかったから……何かいっぱい喋ったら何とかなっちゃったかもなんてね」


 俺は目に残った涙を拭きながら、偽ケルトに笑顔を見せた。なんだか心が少し広くなった感じがして、無意識に笑顔になったのだ。


「……お前、面白いな」


「え?」


「どうして、笑えるのだ?」


「……だって、なんか元気出たから」


「……」


 偽ケルトは俺の目を見つめたまま黙り込む。そして、直ぐ近くに転送盤と同じ光が地面から生み出される。多分だが、偽ケルトが生み出したのだろう。転送の光はいつもの緑色なのを確認するとこれで次の階へと進む事ができるみたいだ。

 俺はゆっくりとそちらに進もうとする時、偽ケルトが声をかけてくる。


「おい、お前ケルトって言うんだよな」


「うん、そうだけど」


「ケルト、俺お前に付いていきたい」


「私と?」


 思いもよらない言葉に俺は少し戸惑うが偽ケルトの瞳は本気の眼差しをしていた。


「お前は今まで出会ってきた中で面白い人間だ。だから、お前と契約したい。そして、お前の分体としてお前のいる仕様空間へと出たいんだ。言うならば、お前が俺の主人になると言う事だ。それに、俺はお前の強力な力にもなり得る」


「い、良いけどどうやるの? その契約って」


「俺に名前をつけろ。それだけだ」


「それだけで良いの?」


「ああ、だが一度契約すると俺はお前の分体としてお前の姿のままになり続ける。契約してからはお前が呼び出したい時に俺を呼び出す事ができる。呼び出されていない間はお前の中に居る事にする。で、俺に名前をつけてくれるのか?」


「分かった。つける」


「よし、では名乗るのだ。我が名を」


 名前……そうだな、俺と似てるけど私よりも強気で堂々として男っぽさを全身に出した俺。元々男だからこう振る舞うのが普通なんだが、俺は今女の子として生きてるからしょうがない。俺の裏を表した者……俺の中に眠るもう一人の俺の姿……


「お前は……アルトだ。今日から私の分身としてよろしくねアルト」


「アルト……いい名前だ。では、行くぞ。新たなる力を味わうといい」


 そう言ってアルトは俺へと歩み寄ると額を合わせる。そして、その額から光が出ると目の前にはアルトの姿はない。


「聞こえるか、主さんよう」


 アルトの声が頭の中に響いてくる。


「うん聞こえるよ」


「俺を呼び出したい時は強く念じてくれ。いつでもお前の体から出ていってやるから。それと俺は基本黙ってるからよろしくな」


「分かったよ」


 そう話しているとシステムが反応する。


≪新たなるスキルを獲得しました≫

 スキル名:【分身体(アルト)

 種別:EXスキル

 詳細:特別な守護霊と契約を交わし、自身と同じ姿の分身体を生み出す事ができるスキル。スキル名の呼び方は契約者が名付けた分身体の名前が適用される。分身体は以下のことができる。

 ・契約者の持つ能力を全て使うことができる。

 ・契約者との意思疎通がどこでも行える。

 ・基本、分身体は契約者と最低100mは近くにいなくてはいけないのだが、契約者が許可を出せば契約者から独立させて分身を動かさせる事が可能。

 ・分身が取得したスキル等は契約者にも適応される。

 ・分身が死んでも契約者の中に転送される。



 うわぁ……ちょっと待て、これって実質俺がもう一人増えるって事だろ? これやばすぎ何ですけど……

 このアルトに関してもしっかりと考えて使わなきゃ。


「あ、そうだった。おい、主人さんよう」


「ケルトで良いよ。何?」


「ケルト、お前が思ってるより個性あると思うぞ俺は。少なくともその、頑固な考えを持てる所はな」


「……そっか、ありがとう。じゃあ行くよ。あ、それと私が呼び出した時は俺じゃ無くて私ね。良い?」


「あ、ああ承知した」


 アルトのちょっとした気遣いだったのだろう。今は少し吐き出せたからもう忘れよう。早く行かなくては……

 そうして俺は薄緑色の光へと入るとまた別のところへと転送される。そしてこの魔空間内は誰もいなくなり、永遠の静寂が生まれるとともに消滅していった。







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