103 遺伝子混合変異体
「わたくしが研究している内容、それは魔物の遺伝子を合成し、複数個体から一つの新たなる究極生命体を生み出すこと!! 魔物のそれぞれの特徴を合体し、弱点を補うことによって他の魔物を遙かに超える兵器となるのだ。くひっ! まだ研究段階であるが故に見た目は少々不格好ではありますがプロトタイプとしては上出来の結果。見てみなさいこの有様を!! ガーゴイルがまるで木の枝のようにポキポキと折れているではありませんか!! これが私の完璧なる頭脳による芸術で有り、研究成果くーーひっひっひ!!!!」
口に手を当てて高笑いするアンドルフ。その下で喉を鳴らしながら威嚇を続けるキマイラ。
こんなにも仰々しい見た目の怪物を生み出すことが出来るアンドルフに対して俺は少しでも恐怖を感じてしまった。
まさか、魔物を混ぜ合わせるなど倫理的に違反行為のことをしているのだから最もキマイラなんかよりもこのアンドルフに対しての恐怖感が生まれてしまっている。
「そんなもん作ったところでどないするんや!! ペットにでもして自慢するんかいな!!」
ダンの言葉にアンドルフはニタニタと不気味な笑みを浮かべる。
「ペット……その通り!! わたくしたちペットとして兵士1人1人に1匹ずつプレゼントするのでーーす!!」
「それってつまり……」
俺がそれを察するとアンドルフは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「遺伝子混合変異体を大量に製造すれば我が軍はどの国にも負けぬ進行力を手にい入れることが出来るのですよ!!」
やはりそうだった。このキマイラが世に出てしまうと大変な事になる。現にここで魔物が大量に殺されているのを見るからに強力な怪物であるのだからそれが大量に作られるとなると普通の人間では手出しが出来なくなるに違いない。そうなるとこの世界に多大なる犠牲者が生まれてしまう。
このキマイラを作らせるわけにはいかない!
「残念だけどその研究は今日で打ち切りにさせてもらうわ」
「おや?」
俺は腰のティターニアを抜くとその刃先をアンドルフとキマイラの前に向ける。
「ほう、あなたたちにキマイラとこの私を倒せるとでも?」
「思ってるわよ」
俺は歯を見せて余裕の表情を見せてやるとアンドルフは少しむっとした顔に変わる。
実を言うところ俺自身は何も考えておらず、とりあえず口喧嘩では負けたくないので強がりをべらべらと述べて相手の強気な気持ちをへし折って弱点を見抜く作戦である。正直この作戦がうまくいくとは思わないが今はやってみるしかない。
「あんたたちの作る物なんて正直完全的なものではない。それどころか、失敗が多いじゃない。もしかしたら、あなたのその芸術作品にも欠陥の一つや二つあるかもよ。プロトタイプなんだし」
「むきぃいいいいいい‼ べらべらと言いたいことを言いたい放題言ってくれるではありませんか‼ そこまで言うなら身をもってこのキマイラの恐ろしさを味わえ‼」
どうやら相当怒らせてしまったらしく、アンドルフの薄い白い皮膚から血管が浮き出ていた。そして、アンドルフが指を一つ鳴らすとアンドルフ自身の体は浮き上がり、後ろへと下がる。
その代わりにキマイラが有無も言わずに襲い掛かってきた。
しょうがない、やるしかない。
「ケルトちゃん気を付けや‼」
「平気平気‼」
そう言って、俺は剣を抜くとキマイラに向かって走り出す。そして、キマイラのライオンのような顔を踏み台にしてキマイラの頭上へ飛び上がると兜割りのように剣の刃を真下に向けて刺突を試みようとする。
「たぁあああーー‼」
俺の攻撃が当たる寸前、胴体のヤギの頭が一鳴きする。すると、剣の刃とキマイラの間に何か硬い壁が出来たかのように剣の刃が弾かれる。
その衝撃で俺の体も飛ばされるも受け身を取って体勢を立て直す。
「まぁ……攻撃弾くなんてそこら辺の魔物で見てきたわよじゃあ次は……これ‼」
≪発動:【飛来風刃】≫
俺の体に風の刃が複数纏われ、その刃をキマイラの顔に向けて飛ばす。
その刃は吸い込まれるように全弾顔に命中し、その攻撃によって流血している様子から攻撃がしっかり効いていることが分かる。
なんだ、全然余裕じゃん。そう思った刹那、その考えは一瞬にして消された。
なぜなら、その傷口が一瞬にして塞がったからである。
「くひっひ……これがキマイラの力……胴体のバフォメットの頭は魔法行使を行い、尻尾のサーペントは息攻撃による範囲攻撃、そして、頭部のマンティコアは破壊力のある爪での攻撃と高速自己治癒が可能であるのだ‼」
なるほど、本当に欲しいところだけを集めて作った理想の魔物ってわけだ。まさに子供が考える『僕が作った最強のモンスター』ってところか。
今回も失敗作であろうと思って甘く見てたけどこれはまずいのでは?
「俺の事も忘れるなよ」
そう言って、アマがキマイラに向けて一直線に電撃を打ち出す。アマの電撃の威力ならさすがのキマイラも跡形もないだろう。そう考えていた俺たちが甘かった。
もちろんその攻撃はキマイラへと命中。アマの電撃はそのキマイラの体を貫通して、全ての頭が吹っ飛ぶと四肢だけが残ったのだが、その肉片が動き出し、その残った四肢とくっつくとそのまま元の体に戻る。
「は?」
「え⁉」
「嘘やろ⁉」
その様子を目の当りにした三人は驚きを隠すことはできなかった。そんな俺たちの様子を見て楽しんでいるアンドルフは不気味な笑みを浮かべていた。
「これこそが不死身なのです。1体でこんなに手こずるようでしたら私は必要ありませんね」
アンドルフはそのまま宙を浮きながら後ろの転送盤へと向かう。
「待ちなさいよ!」
「わたくしは先に上の方へと向かっています。あなたたちはキマイラと遊んでいてください。先にわたくしが欲しいものを貰っていくのでね。くーーひっひっひっ‼ それでは検討を祈るよ‼ あーーひゃっひゃーー‼」
そう高笑いを俺たちに見せてから悠々と転送盤へと足を踏み入れ、そのまま飛ばされてしまった。
「くっ……早くしないと私たちの無限ノ歯車が……」
アンドルフが先へと向かってしまってもし、奴の狙いが俺たちと同じ無限ノ歯車であるなら一刻を争う事態だ。
しかし、目の前には俺たちの行手を阻むようにキマイラがその鋭い歯を鳴らしながら威嚇し続け、それぞれの魔物たちが鳴き喚いている。頭の中が焦りでグルグルと半パニック状態の俺に一筋の雷光で正気を取り戻した。
俺が焦っている最中でも、アマはそのキマイラへと攻撃を続けていた。攻撃が時々外れても命中するまで攻撃する。
アマの攻撃によって受けたダメージもキマイラの皮膚は容易く回復されてしまう。
キマイラも攻撃されてからはアマの方にヘイトが向かれており、俺の方を一切見ることはない。
無駄な事だと思っていたが、アマの行動に俺はどこか疑問があった。アマはがむしゃらに攻撃する性格では無い。しかし、今回は無理にでも攻撃を仕掛けている。
何か考えがあるのだろうか?
すると、アマが俺に声を掛ける。
「道作ったからケルト、お前は先に行け」
そう言われて俺は気づく。アマは無駄に攻撃していたのではなくキマイラで塞がれた道を攻撃でずらし、さらに自分にヘイトが向くように動いていたのだと。
「でも、こんなの2人だけに任せるなんて……」
その言葉に割り込んでダンが叫ぶ。
「ここで3人で立ち往生してたらあの気持ち悪い奴に先越されてまう! そしたらリベアムール様に顔見せできひんやん‼︎ ケルトちゃんなら1人で何とかなるから奴より先に目当ての物を掻っ攫って来てくれ‼ 何のためのパーティ何や! 適材適所で行くで‼︎︎」
またか……ガクトの時もそうだったけど、お前らはここは俺たちに任せて早く行け的な事が本当に好きだな。
こう言わせてしまう事は俺にとって本当に情けないと感じてしまう。しかし、ここで仲間を信じ無ければみんなの言葉が無駄になってしまう。
「みんな……ごめん!」
そう言って、俺はアマとキマイラの間を走り抜けて薄緑色に光る転送盤へと向かう。
流石にそれに気がついたキマイラが俺に襲い掛かろうとした時、アマの電撃が俺に対してのキマイラの攻撃を防ぐ。
「ダメだって、良い子にしてろ」
俺はこんな短い距離がとても長く感じた。その転送盤に向かって必死に走る。汗が額に垂れてくる。
そしてその転送盤へと飛び込んでいく。転送盤へと入った時、その転送盤が緑から紫色に変わる。俺は焦っていたのでそんな事に気がつく事なくその紫色の光りに包まれ、転送された。
残ったアマとダンには俺が消えた薄緑色の光を放つ転送盤を確認してから少し、安心の溜息を漏らした。
アマとダンとキマイラ、2人と1体はお互い対面に向かい合う。
「さぁーーてどないする?」
「分からん」
「なんや、ノープランでケルトちゃん向かわせたんかいな?」
「にゃ、そうでもないよ」
アマは徐に右手を出して、電気をそこに溜める。
「こいつ、良いサンドバッグになりそうじゃない? 死なないんだろ?」
「……そうやな」
「じゃあ、援護よろしく」
「できるか分からんけど、解析は続けてみるで」
「それと、転送盤って紫色だったけ?」
「いやそんな事は無いはずやけど」
「……まいっか」
アマはその場で軽く、屈伸を始め、首や肩を回しながら少し前に出て杖を構えた。
「さ、ゲームスタートだ」





