102 啓蒙ノ塔 第3階層
転送盤で俺たちは次なる階層へと進むことができた。
次に転送された場所はどこいつもより物々しい感じがした。いつも通り、目の前には石碑があるのだが、地面には石碑の破片がバラバラに落ちており、石碑自体が破壊されていたのだ。石碑にはこれまで必ずと言って良い程次へ進むヒントが書かれているのだが、読むことができなくなっている。
「石碑が壊れてる。こんなことってあるか?」
「もしかしたらここからノーヒントで進めってことちゃうんか?」
「……いや、そんなこともないみたいよ」
そう考えるとノーヒントで進まなくてはならないと言う事だろうか? しかし、明らかに壊れ方がおかしい。試練のために壊されているのかと思ったが明らかに最近壊された様子だった。
と言うのも元からヒントなど与える気がないなら普通席費など設置などしない。うーーん、どこか怪しいぞ?
「ケルトちゃんは誰かが意図的に壊したって言いたいんか?」
「ええ、まだ確証はないけどね」
この部屋の様子はさっきまでの迷路とは一変変わって何も遮る物がない一本道のようである。奥深くまで道が続いているようで奥の方は薄暗くて道の様子がよく分からない。
「それでも、先に進んでみよう。進まないことには何をしていいか分からないからね」
そう、進んでみなくては話が進まない。恐れず、この道の歩みを進める。
歩みを進めていくと、やはり道の様子がおかしい。道が壊れていたり、崩れていたりして足場が悪い。それだけじゃない、何か黒い物がそこら中に落ちているのだ。
近づいていくと黒い物の正体が分かる。
「これは、魔物? どうしてこんなに魔物が死んでるのかしら?」
そう、魔物の死体が大量に転がっていたのだ。灰色の石のような肌に大きな蝙蝠のような羽をつけた鳥顔の魔物である。その魔物の爪はまるで何かに斬られたかのように折れ、翼も何かに斬り落とされたかのような痕があった。
「ダン、解析お願い」
「よっしゃ、任せや」
ダンによる解析が成功するといつも通り、データが目の前に送られてくる。
≪1件の新着メッセージを取得≫
魔物名:ガーゴイル
一般スキル:【魔法知識:並】【言語:汎用魔族語】
特殊スキル:【暗視】【擬態】
魔法:
【暗黒魔法:神経】:【盲目術】【幸福術】
【暗黒魔法:呪殺】:【闇球術】
耐性:【物理攻撃耐性】【火炎耐性】
「元々はこいつらが私たちに襲いかかって来る予定だったのかな?」
「仕掛けがネタバレ状態になって、挙句の果てに死体となって転がってるとするとここを通った奴が居る。それは本当に最近……いや、考えてみろ。他の奴がここをクリアしたとして、別の階層に行ったならここの状態はリセットされるんだろ? それはさっきの迷路のところで証明されてる」
「つまり、ここに私以外の誰かがいるってこと?」
「その線はあり得る」
もしかしたら、ここにライザが来ているのかもしれないという予想が出てくる。かなりの量のガーゴイルがいるので、もしかしたら一人で戦い、傷を負って動けなくなっているということもあり得る。
そう考えると早くこの先に進まなくては!!
「もしかしたら私たち以外がいるかもしれないから先に進んでみよう!!」
「あーーちょっと待つんや!!」
ダンの言葉を無視して俺は道の奥へと走り始める。奥に行くほどガーゴイルの死体は増えていく。
おかしい……ますます怪しさが増してる……これは一体?
走れば走るほど胸のざわつきが早まっていく。なんだか嫌な予感がする、この世界に来てから俺の嫌な予感はかなり的中しているため何か絶対ある。
「!?」
走っている時、目の前に生物の気配を感じて思わず立ち止まる。道の先に何かがうごめいているのだ。目を凝らしてよく見ると後ろ向きで座って何かを貪り食べている様子が見えた。
その座っている生物はとても巨大で座っていてもこの部屋の天井の半分までの高さまである。
俺は恐れ、思わず後ろに後ずさりしてしまう。そして、その音に気が付いた巨大なそれは食事をやめると立ち上がり、こちらを向いてくる。
「なっ!?」
振り向いたそいつの顔はライオンのような顔と身体に腰には羊の首から顔が出ていた。そして、立ち上がったそいつの股下から伸びるように蛇がこちらをにらみつけてくる。そんな化け物だった。
興奮しているのか鼻息を荒くして俺に向かって威嚇をしていた。その大きな口にガーゴイルの死体が咥えられており、それをスナック菓子のように食べていたに違いない。
「まさか、この辺のガーゴイルをこいつが?」
「おーーい! 大丈夫かーー?」
遅れてやってきた二人もその巨人の存在に気が付く。
「うわぁでか……」
「なんやこいつは!?」
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!
怪物は野太い声で雄叫びを上げると口に咥えていたガーゴイルを投げ捨てる。大きな手から長く鋭い爪を出現させる。
もしかして、あれでガーゴイルたちを切り落とした? ガーゴイル自体には物理攻撃耐性があるのにそれを超えるだけの威力があの巨人の体つきと大きな鉈で察することができる。
守護者や巨大蜘蛛など今まで見てきた魔物中でも圧倒的な大きさをもったその魔物に俺たち3人は度肝を抜かす。
そして怪物がその大きな爪を振りかぶり俺たちに向かって切りつけてきたとき、やっと我に返ることが出来た。
「危ない!!」
3人が広がるようにその攻撃を回避する。その爪が地面へとぶつかると大きな衝撃と共に地面に亀裂が走る。
あの鉈に攻撃されたら1発で身体は修正不可能なまでに追いこまれてしまうだろう。
俺たちは武器を抜いて、戦闘態勢へと入った。
その時、この部屋中に響き渡る甲高い笑い声が聞こえてきた。
「くーーひっひっひっひ!! 私以外にもこの空間にいる者が現れるとは珍しいですねぇーー」
「だ、誰よ!?」
その笑い声は牛巨人の奥から聞こえ、その声の主がその怪物の背中に現れる。
「お初にお目に掛かります。わたくし名はアンドルフ=オルフィレス、偉大なる神エスデス様の元で魔術研究を行っているしがない魔族でございますよくーーひっひっひっひ!!」
そのアンドルフと呼ばれる男は細長い指で自身の眼鏡の位置を直すと怪物の背中に腰をかける。
「おやおや? 子供がこの神聖な塔に登るなどまたまためずらしいですねぇ……」
「エスデスって、まさか、あんたもエスデスの手下なの?」
「……ああ、思い出しましたよその顔。貴女がわたくしどもの城で有名人である例の冒険者のリーダー様ではございませんか? バズールやファフネリオンと言う同士達がやられた敵というもの……ますます、運命を感じてくるくーーひっひっひっひ!!」
アンドルフが指を一回鳴らすと手元に分厚い本が現れ、それを開くとペンを取り出し、何かを書き始めた。
「いやぁ初めて本物を拝見することが出来ましたぞ! これは目に焼き付けるだけでなくメモにも残さなくておかなくては……」
そう言ってアンドルフは夢中になってペンを走らせていた。隣で今にも襲いかかろうと鼻を鳴らしている牛巨人を差し置いて。
「ちょっと何あんた1人で盛り上がってるのよ!! それにこの馬鹿でかい魔物はあんたの仕業なんでしょ!!」
そう問いかけると男はペンを止め、本を閉じる。
「くひひ……そうですよ、この魔物は私の魔術研究の成果と言って良いのです!! 異なる種族間の魔物を一つの個体として合体し、互いの弱点を補い、強みだけを残した霊長類最強を目指した研究。それにわたくしの知識を猛威にふるって魔法までも行使出来るようになった霊長類を超えた幻獣に近き生物、その名も……”遺伝子混合変異種”です!!」
ゴォオオオオオオオオオオ!!
顔のライオンと腰の羊と尻尾の蛇が一斉に天へと向かって奇声を上げる。雄叫びの勢いに思わず顔を背けてしまう。
「これは私にとっての芸術作品でも有り、エスデス様に献上する私たちの勝利の道へと歩むための荷馬車なのですよ」
「そんなおぞましいもの作ってどうするのよ?」
「くひっひっ! 知りたいか?」
アンドルフはニヒルに笑い、理由を話し始めた。





