100 啓蒙ノ塔 第2階層
光の中に入った俺たちは次なる階層へとやってきた。別の転移盤に転移された場所で目に入って来たのは左右に建てられた大きな壁。前にも後ろにも道が通じており、目の前には新たな石碑が置いてある。
俺たちがその石碑に目を向けるとまた文字が書いてあった。
”臆病者、汝の悪知恵を行使し迷路を抜けよ。真実へと続く道は太陽の導きに従え。我、この空を統べる太陽である”
「……と言うことはここは巨大な迷路と言うことなのかな」
「うーーん、壁が高すぎて上ることもできなさそう」
道を拒むかのように建てられた大きな壁に俺は手を触れてみるとくぼみやへこみなど無くツルツルとした手触りをしているため、登って超えることは不可能みたいだ。
それに、この部屋自体が薄暗く、足元も安定していないため少しばかりか恐怖が立ち込めてくる。
「それになんやねんこの文章! 人を馬鹿にしてるとしか思えないで!! 何が臆病者や、臆病者やなかったらここまで来んわ!!」
「まぁまぁ……ただの煽りかもしれないんだから間に受けないでおこうよ。さっ! 探索していこう!!」
俺たちはとりあえず真っすぐに道を進んでいくと突き当りが左右に分かれた道に遭遇する。人間、困ったら左へ進むって言うよね! よし! 左へ行こう!!
左へと進んでいくとさらに左右に分かれる道が……ここも左へ行くことにした。
さらに左右へ進む道が……さらに左へ……って行き止まり!?
「割とちゃんとした迷路やな……方向感覚狂うで」
「仕方ないわね、前の道に戻るよ」
そうして、行き止まりに背を向けたとき、アマが急に後ろを振り向く。
「アマどうしたの?」
「……さっき、何かが横切った気がして」
「え?」
俺も後ろを見てみるが、足跡や痕跡などは特になくさっきと様子は変わっていない。
「よくわからないけど、何がいるのか分からないから警戒だけはしておいてね、ダンもだよ」
「りょ」
「わ、分かったで」
アマが何かに反応したことには警戒心を持つことにして、別のルートを進んでみることにした。進んでない道を選びながら進んでいくも、行き止まりに出くわしたり、進んできた道に出たりするなど方向感覚がおかしくなってくる。それに俺たちの苛立ちがこみあげてきており、とりあえず新しい風景が見たいという一心で先へと進んだ。
あれからどれくらい歩いたのか分からなくなったが少し、開けた場所にたどり着いた。迷路にしては珍しいほど、ぽっかりと穴が開いているかのような空間だった。
「なんだか怪しい感じ……」
「俺が先に進んでみるで!」
「あっ! ちょっとダン!!」
ダンが急に走り出し、その道を駆け抜けて向こうの道へと向かおうとする。警戒もせずに直ぐに飛び出るなんて無謀にも程があった。流石ダン、FPSが苦手なだけのところはある。
しかし、走り出してから、道の途中まで行き、そして軽々とこの広場を抜けてしまったのである。
「あれ? なんや、何もないやん。おーーい!!」
ダンが俺たちの方を振り返り笑顔で手を振ってくるのを見て、安心した。……と思ったその時だった。広場の向こうにいるダンの頭上から黒い影が落ちてくるのが見えた。
「ダン! 上!!」
「あ?」
そうして、ダンが上を見上げた時、目の前には体液を垂れ流した大きな虫の顔が紙一重で近づいていた。
天井にはピアノ線のような糸が張り巡らされている。
「こいつは! 蜘蛛!?」
俺たちの目の前には真っ黒な体に長く細い足、体中に細かい毛を生やした巨大な蜘蛛が出現したのである。
それはダンの頭上にいる一匹だけではない。俺たちの存在に気が付いたのか天井のいたるところから糸を使って垂れ落ちてくる。
さらに、地上には小さい蜘蛛の子供も壁の穴からたくさん出てきて、俺たちを囲む。一気にこの空間内で四面楚歌に陥ってしまった。
「アマ、まさかさっきの気配って」
「うん、多分こいつらが彷徨ってたんだ。子供は細かくて素早いから俺たちの目では確認できなかったんだよ」
「なるほどね」
「ぎゃぁあああああ!! 助けてくれぇ!!」
ダンの方を見ると、巨大蜘蛛の糸に巻き着かれ、囚われてしまっている。ダンの体の半分が糸でぐるぐる巻かれて、宙づりになっている。
どんどん体に糸が巻かれ始めており、ダンの体が糸で埋め尽くされてしまうのも時間の問題であった。
「あーーあ、いつものお約束パターンだね」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ、早く助けなきゃ!」
≪発動:【風刃竜巻】≫
≪発動:【電の弾丸】≫
俺は目の前に大気を集めて作った竜巻を生み出し、地面にいる小さい子蜘蛛を絡め取り、宙吊りになっている親蜘蛛を切り刻む。
アマは、自らの指から細かい電撃が飛び出し、子蜘蛛を見事な早打ちで打ち抜いていく。
ある程度、攻撃を仕掛ける。攻撃した分、この場にいる蜘蛛たちの数が減ったと思っていた。しかし……
「ねぇ……アマ、蜘蛛の数減ってる?」
「いや、増えてる」
「だよね」
そう、攻撃を行ってもその数は少なくなることがなかった。逆に減った分、敵の数が増えているのだ。
攻撃が効いていないとかそう言った類のものではないのは幸いなのだが、数で押してくるタイプの敵はこれもまた厄介である。倒しても倒しても、隙間から、天井から、至る穴と言う穴から這い出てくる。まるでゴキブリだ。
「だめだ、倒しても切がないわよ」
ダンの様子を確認すると顔の近くまで体に糸が侵食されていた。
「あかーーん!! 死んでまうよぉ!!!!」
このままではダンが……どうすればいい……
その時、あの石碑の言葉を思い出す。
”臆病者、汝の悪知恵を行使し迷路を抜けよ。真実へと続く道は太陽の導きに従え。我はこの空を統べる太陽である”
真実へと続く道は太陽の導きに従え。我はこの空を統べる太陽である……太陽……火だ!!
そう思いついた時、俺は地面に手を着き、この空間のいたるところに赤い魔方陣を作る。
「アマ、頭下げて!!」
俺の声を聴いてアマは咄嗟に態勢を低くする。そして、俺は魔法を解き放つ。
≪詠唱:【精霊魔法:火炎】火炎流星術≫
赤い魔方陣から大玉の火球が飛び出し、蜘蛛たちに降り注いでいく。
地面にいた子蜘蛛はその小さいからだが吹き飛ばされ、親蜘蛛もその火球に焼かれ火だるまとなる。
その流れ弾にダンの体に当たり、その蜘蛛の糸が燃える。そして、宙吊りにされたダンが地面に落ちてきた。
「あつあつあつあつううううううう!!!!」
ダンが地面にゴロゴロと転がり、身体の火を鎮火する。
魔法の行使が終わり、気が付くと辺りから蜘蛛の軍勢がいなくなっていることに気が付く。まだ残党も隅にいるが残った火種に恐れて、これ以上近づいてくることはなかった。
「どうやら、今蜘蛛たちは火が苦手みたいね」
「とりあえず俺に応急手当してくれぇ!!」
≪詠唱:【完全回復】≫
水色の魔方陣がダンを包み、身体のやけどが治る。
「ふぃ~~助かったで……それにして、あんな強力な魔法をよう出来たな。もう慣れたんかいな?」
「まだ全然だよ」
少し照れるそぶりを見せるとアマが後ろでジト目で見てくる。
「いいなぁ……」
「さ! 次行こ次!」
アマの熱い視線に耐えながらこの場所を後にして、次の階層へと進むためにこの迷路をまた歩き始めた。





