97 契約条件
お久しぶりです!
私生活が一通り落ち着いたので投稿再開です!
「どんな方法でしょうか?」
「……この国から南東にある小島に啓蒙ノ塔と呼ばれる場所があるの。そこの最上階に幾つもの知識が保管されています。その場所に魔力を半永久的に生み出すことができる魔導器【無限ノ歯車】があるとされているの。それを貴方達に持ってきて欲しい」
「ただのお使いなら、どうして直ぐに言ってくれなかったの?」
アマがそう言葉にするもマキナは直ぐには応えない。マキナ自身、すぐに話したかったはずだ。でも、これをただお使いに行かせるだけであるなら話を出す事など簡単である。
「……そこにたどり着くまでが問題……啓蒙ノ塔は上へと進む者を拒む。欲ある者は欲に溺れ我を失い……親友である仲間同士すらも狂乱し、殺し合った……神でさえも登る事が困難とされたその塔に君達は契約の為に登ろうと言うのか?」
啓蒙ノ塔……店で出会ったライザと言う女性も確かそこへと向かったと言っていたな。マキナの話からそんな伝説の様な恐ろしい事を彼女は知ってるのだろうか?
欲ある者も、団結ある者達も散っていく程の場所にどうしていく必要があるのか?
それは俺達にも問いかけられた質問は俺たちが彼女に思う疑問なのだ。しかし、俺たちには為さなければならない事がある。例えそれが命をはらなくてはならないことでも。
きっとライザ自身もそれ程の覚悟を持って啓蒙ノ塔へ行ったに違いない。
俺たちも行かなくては。
それを伝えるために俺は口を開く。
「貴方を必要としている貴方と同じ神様がいるのです。私たちは貴方を振り向かせるためにやってきたんだから例え命がけのことであれなんであれ、やらなきゃいけない責務があるから……私達は登る!」
「……そこまでして私が必要?」
「えぇ……とっても」
「……」
マキナは口を閉ざし、目線をキラキラと輝くステンドグラスの様な窓に目をやっていた。グラウクスがマキナの近くに寄り添うとマキナはグラウクスを優しく撫で回す。
優しいタッチで触られたグラウクスはとても心地よさそうにマキナの方を見ている。
「……そう」
マキナはこちらを見ずに一言そう呟くだけであった。
ただ、さっきまでの憂いあるオーラがほんの少しだけ薄れた様な気がした。
「今すぐにでも出発する準備はできてます。必ず、持ってきます! そして、私達のことも認めて貰いますから」
「……約束します」
これでマキナと同盟を組む契約の約束ができた。
これで依頼成功にまた一歩踏み出せた。
危なかった……
「じゃあ……入口へ戻します。ご武運を……グラウクス!」
マキナがそう言うとグラウクスは一鳴きをすると翼を大きく羽ばたき、俺たちの後ろのドアへと飛んでゆく。グラウクスに合わせて扉が開くとグラウクスがこちらに来るように羽で促してくる。
俺たちがマキナの部屋を出てからグラウクスのいる方へと向かうとグラウクスがまた鳴き始める。すると、周りの空間が歪み始め、また視界が回る。
グラウクスに首飾りを見せた時と同じ光景だ。
そして、落ち着いた頃には城に入ってきた時と同じ地上へと戻ってきていた。周りにグラウクスの姿は無いが上から俺たちを激励でもしているかの様に甲高い鳴き声が聞こえてくる。
「さて、行きますか?」
「せやな」
「うん」
それから俺たちは城の前に待機させていた馬に乗り込み、馬を走らせ、ハイエロストンを出るとシステムを開き、南東の方角のマップを確認する。
「うーーん、多分この小さな小島かな?」
俺たちのいる地から少し離れた海の上に小島が浮かんでいるように見える。
「多分、少し離れてるってことは橋とかがかかってたりするのかも。あ、この世界で海とか見るの初めてじゃないか?」
「確かに……」
俺たちが生活しているワンス地方はローハンド大陸の中で最も内陸の地方であった為、海というものが無く、良くて川や溜池があるだけだった。そう考えると初めてこの世界の海を見る事ができるかもしれない。
「それも楽しみやな〜〜来て良かったわ」
「そう思うっていられるのも今のうちかもよ?」
すっかり旅行気分のダンに少し俺が水をさしてやる。
「おーー怖々、冗談はそこまでや。今を楽しもうではないのかい? こんなところ、もう来れる機会ないんやから」
「ダン……浮き足立つなよ」
「何やーーアマまで。まぁええわ、ほな行こか」
ハイエロストンから離れて、システムにピンを刺したところに向かって走り始めた。
この地方の土地の風景と言えば今まで見てきた地方よりも殺風景で何もない足場の悪い土地という感じだ木々が生えていたとしても枯れかけていたりする。水溜まりのような池も存在しないので自然から乖離されているように見える。
その代わり、使われず廃墟と化した石造りの建物などが道の途中で点々と建てられていたりするも、崩れて家としては使い物にならない様子である。
「なんかさぁ……寂しくなってきたんやけど。建物ボロボロだし、全然人っ子1人もおらへんやん。まるで文明が崩れかけてると言うか……」
ハイエロストンを出てから廃墟しか見ていない。それには確かに疑問である。もしかしたら何かの理由でこうなってしまったのかも知れない。
「この地も悪くないと思うんやけどなぁ……もったいない……」
「治してあげられるのなら直してあげたいけどね……」
俺はそう言ったがこの地の神であるマキナがそれを望んでいるのかは分からない。まぁ、だからといって俺たちが何かできるわけではないんだけど。
そして、舗装されていない砂利道を通りながら時間が経ったところで道の風景が少し変わりだした。枯れかけた木々に緑色が取り戻されており、生えている本数も増え出している。これは間違いなく海に近づいている証拠だった。
「風景が変わってきたよ! そろそろ着くのかも!」
この地方で生き生きとした自然を見て、少し嬉しくなりながら道を進むと大きな塔が見えてきた。
おそらくあれが啓蒙ノ塔である。レンガのような物で建てられた大きな塔は空を貫かんと言わんばかりに立派にそびえ立っていた。
そんな塔に見とれなが進んでいくと等々塔の目の前の橋にたどり着いた。
橋の下には綺麗な水が見え、塔の周りは広大な海が広がっていた。
「うわぁーー!! 海だ! 塔も凄いけど海だ!!」
俺は思わず目を光らせながら海と塔を交互に見る。
馬から降りて、海を見ようと近づくと海と陸の間はかなり高めの崖になっており、思わず玉が引っ込んでしまいそうだった。
俺、今玉ないんだけどね。
「危なぁ……これ、落ちたら……」
「死ぬよ」
アマ、大正解。
俺はゆっくりと崖から離れ、3人の馬紐を木に括り付けたら早速橋を渡り始める。そこそこ大きい石造りの橋の真ん中を堂々と歩きながら周りの景色を見る。橋から海までの高さはかなりあるのでここから落ちても死が待っているだろう。
「この世界で海は珍しいなぁ。どこまで広がってるんやろ?」
海の向こうは地球と同じように地平線まで続いている。
一体どうなってるんだろう。
海の方に気を取られていた時、アマが何かに気がついた。
「あれ何?」
アマが指差した方向は橋の先、そこには大きな石像らしきものが道を遮るかのように仁王立ちしていた。
「明らかに……守ってそうやな」
「うん……もう少し進んでみよう」
さらに進んでいくと、その石像が俺たちよりもかなり大きく、人間を模したように手や足がある様子がわかる。
ある程度進んだところで、その石像の体だの至る所が紫に光出す。
「ああっ! やっぱり動くんかい!!」
「分かりやすいわね!!」
石像はゆっくりと顔を上げると俺たちに気づいたのか喋り始めた。
「ワタシハチシキヲマモルガーディアン。ソシツアルモノノミガコノミチヲススムコトガデキル。デハ、ハジメヨウカ」
そう言うと石像の体に魔法陣が浮かび上がり、それが体内へと入っていくと体の至る箇所に紫色の光を発光させる。どうやら完全に活性化したみたいだ。
こうして、塔へ入る為のテストが始まった。





