95 ”魔導梟” グラウクス
相手は空中にいるので遠距離攻撃で攻めるのが吉であると判断する。
「アマ! 奴を打ち落とせる?」
「やってみる」
≪発動:【電磁砲】≫
アマは梟に向けて眩い光と共に雷の大砲を解き放つ。
しかし、梟はその大きい体とは裏腹に器用にその攻撃を滑らかに避ける。
「こんなの、序の口!」
≪発動:【雷の弾丸】≫
今度は素早く打ち出せるスキルで雷の弾丸を撃つ。さっきのスキルよりも早い発動速度で発射速度もこちらの方が早い。
その弾道はしっかり梟を捉えて、見事二発分、梟のおなかに命中した。しかもこのスキルには関電効果があるのですぐにでも体に電流が流れるはずだった。
しかし、梟は【雷の弾丸】が当たったにもかかわらず、少しよろめいただけで感電している様子が見られなかった。
「は? なんで?」
この様子に流石のアマも驚く。
そして、そのタイミングでダンの解析が完了し、情報がこちらに届く。
≪メッセージを受信≫
≪メッセージは以下の通りです≫
≪魔物情報≫
name:”魔導梟”グラウクス
種族:魔導器:鳥
≪スキル一覧≫
一般スキル:【鉤爪】【飛行:極】【回避:極】【言語:ローハンド語】【魔導機械汎用言語】
特殊スキル:【避雷針】…すべての電撃系攻撃が無効化される。【思念伝達】
耐性:【物理攻撃耐性】【魔法攻撃反射】【基本属性耐性】
魔法:
・【物理魔法:電撃】…全習得
・【神聖魔法:天啓】…【行動術】【透明術】
・【特殊魔法:汎用】…【空間転移術】
「なるほど、あいつの【避雷針】って奴がじゃまをしてる訳か……そうなるとお手上げかも」
アマはそう言いながら自身に帯電している電流を消す。
敵の能力を見ると完全に電撃は効かない様子ではある。だとすれば、電撃以外の攻撃をするしかない。
となると、俺しかいない!
≪発動:【飛来風刃】≫
【風支配】の能力により、空間内の空気を風の刃に変えるとその刃が俺の身体の近くに漂う。
「当たれぇ!!!!」
風の刃がグラウクスに向けて放たれる。手裏剣のように飛んでいく刃の数は十数個、アマの【電の弾丸】より速度は低下するが、数打ちゃ当たる戦法だ。
迫り来る風の刃にグラウクスは機械音の混ざった一鳴きをするとグラウクスの身体に緑色の魔方陣が浮かぶ。
≪詠唱:【行動術】≫
グラウクスが生み出した緑色の魔方陣が消えると、グラウクスの移動速度が変わり、風の刃を危なげなく回避して行く。
避けられた風の刃が壁にぶつかり、空しく消える。
「速度が変わった!?」
「呪文や!! 自身に呪文をかけてケルトちゃんの攻撃を回避したんや!」
グラウクスは少し高い場所にある電灯に捕まり、羽休めをしながら俺たちの方をジッと見ている。
「じゃあ、これよ!」
≪発動:【シャインイメージ】≫
≪作成:弓≫
俺は光の弓を作り出すと、自動的に矢がセットされ、狙いを定める。そして、光の矢を放つ。
【自動追尾】と【絶対必中】の効果で確実に当てることが出来るはずだ!
まっすぐと飛んでいく矢を勿論回避するが、まるで磁石に引き寄せられているかのように矢の向きが変化し、グラウクスの顔面へと飛んでいく。
さすがにこれは当たるだろう……
そう思った刹那、グラウクスの身体に今度は黄色の魔方陣が浮かび上がる。
≪詠唱:【物理魔法:電撃:落雷】
また、グラウクスが一鳴きをすると矢の頭上から大きな電流が落ち、光の矢が砕け散る。
「また魔法……こいつ、相当頭が良いのね」
とうとう、魔法を放ってきたので俺たちにも魔法を使われるのではないかと身を構えるがグラウクスまた同じ電灯に捕まり、羽休めをしながら俺たちの方をジッと見始めた。
このグラウクスの行動に少し疑問が生じた。普通の魔物なら自分の持っている魔法を全力で使ってでも相手を殺しに行くものではないのだろうか?
しかし、グラウクスは最初の威嚇以外、俺たちに攻撃を仕掛けてこない。
もしかしたら、敵対していないと言う予想が出来るかも知れない。
でも、だとしたら何かいい手がないのだろうか?
そう考えていたとき、ふと、自分のポケットの中に手を入れる。中には青い羽根のついた首飾りが入っていた。
「これは、リベアムールからもらった首飾り……」
この首飾りについている羽をよく見ると、グラウクスの羽の色と似ている気がする。
もしかして……
「ケルトちゃん? どないした?」
「もしかして、私たち勘違いしてたのかも」
俺はゆっくりとグラウクスの方に歩き、ポケットから青い羽根の首飾りを高らかに挙げて、それを見せる。
グラウクスは俺ではなくその首飾りをジッと見つめると、天井に向かって高らかに鳴き始める。
「ホォオオオオオオオオ!!!!」
室内に反響する高い音が俺たちの耳を刺激する。慌ててまた耳を閉じると少しだけ空間が歪み始めているのに気がついた。そして、身体を動かそうとする前にその歪みは消える。そして、目の前の視界も変化していた。
目の前の扉が一回りも大きくなっており、明らかに最初に見た扉ではない。
それと、どことなく雰囲気も違った。最初よりも少し部屋が薄暗い……そう思い、後ろを見ると来た道がなくなっているのに気がつく。
「ここはどこだ?」
周りを見ていると下の方から風が吹いているのを感じる。周りには暗いあながぽっかりと開いており、道は正面に一つしか無い。
俺は恐る恐るその穴の下を見る。そこには下が見えないほど底が続く穴だった。これを見たことでさっきまでは地上にいたはずなのだが今度は地上が見えない程高い場所にいることを分からされた。
「上の階に来たってことか?」
「多分……もしかした、グラウクスのせいかも知れない」
アマと話していると扉の奥から高らかな鳴き声が聞こえてくる。恐らくグラウクスであるのは間違いないがまるで私たちに部屋に入るのを促しているような感じだった。
俺たちはその扉に歩み寄り、ゆっくりと扉を開けた。
しかし、目の前にはグラウクスの姿ではなく、椅子に目を閉じて座り、様々な管でつながれた少女がそこには居た。





