94 ライザとの出会い
その透き通った目に少し見惚れそうになるがそこはグッと抑えて会話を続ける。
「私たちここに来たの初めてで、来てから人が一人もいないから少し不安になってたんだけど。あなたがいて少しほっとしたからつい声を掛けちゃいました」
「……そう」
女性は俺の言葉に冷たく一言だけ呟き、正面を向き直してコーヒーを一口飲む。
うーーん、思っていた通り、かなりクールビューティーだ。こういうタイプと話すのはかなり苦手なのだが、せっかく出会った人間をここで手放すわけにはいかない。
何とか会話を続けないと……
「あなた名前は? 私はケルト! こんななりでもここでお仕事をしに来たのよ」
「……ライザだ」
「ライザさんって言うんですね。ライザさんはどうしてここに?」
「……秘密。それと、ライザで良いから」
「分かりました。じゃあ、ライザは旅人か何かなの?」
「あなたに関係ないわ……」
ありゃーー……完全に関わんなオーラが出てる……きついよ……いつもなら、すいませんってなって撃沈するけど、もう少しお話しするしかない。
「だって、気になるもん! こんな人がいないような場所で何しに来たのかくらい。ねっね? ここで出会った何かの縁ってことでどう?」
「……それなら、なぜあなたたちもここへ来たのよ? その理屈なら、私もあなたたちがここに来た理由が分からない。仕事ってここに仕事なんてほとんど魔導器たちがやるんだから」
「その件に関してはこちらも内緒です」
「でしょ? お互い様なの……」
ぐぬぬ……なかなかしゃべろうとはしないな……結構ガードが堅い女性のようだ。よし、会話のベクトルを変えよう。まずは、軽い世間話から入るところからやろう。
「ライザって魔法使いなの?」
「どうして?」
「服装がそんな感じだから」
「……半分当たりで半分外れ」
「どういう事?」
「……貴方には分からないと思うわ」
「……分かると思うけどな、私なら」
「どうして?」
「……私たち、こう見えて色んな死線乗り越えてきてるから」
そう言って、後ろの2人をちらっと見る。
「案外うまいでここのサンドイッチ」
「うまうま」
夢中で飯を食らいつく呑気な2人に少し怒りマークがつきそうになるがここは抑えて、笑顔でライザの方を向き直す。
「……あんな雰囲気だけどね♪」
ニコッと笑顔を見せてやると、ライザの口が緩み、少しだけ笑みを見せる。
「中々、面白い奴がいたものだな」
「うん、面白いよ」
「ふ、そうか……」
その話が終わってから、少しの間が立つ。ライザと俺は無言になりながらお互い、コーヒーを一口飲んでからライザが口を開く。
「啓蒙ノ塔に行くんだ」
「啓蒙ノ塔?」
「この国から南東にある橋の先にある巨大な塔さ。そこには幾万もの知識がそこに眠ると言われている。私は私の目的を果たすためにその塔を目指すためフィフ地方から来たのよ」
「フィフ地方って……え!? ワンス地方のさらに南のところから来たの!?」
フィフ地方からセカン地方のここまで来るのにどれくらいの時間がかかるのだろうか? 俺たちよりも倍の時間はかかっているはずなのに……でも、
そこまでしてここに来る必要がライザにはあるに違いない。
その話を聞こうとはしたがまた答えてくれそうにはないのでここは聞くのを辞めることにした。
「さて、私は行くわ。ありがと、話しかけてくれて」
「はい、ライザもどこかで会ったらその時はお話ししてくださいね!」
「ええ」
ライザは立てかけていた杖を持ち、帽子をかぶると胸元から10Gほどを取り出してテーブルに乗せてからこの店を出て行った。
ライザが店から出ていったのを確認してから、自分の席へと戻る。戻ってくるとちょっとした緊張から解放されて、テーブルに突っ伏する。
「はぁーー疲れた……」
「お疲れーー! どうやった? スリーサイズは?」
「聞いてません!!名前はライザって言ってて、啓蒙ノ塔ってとこに用があるみたいだった。ただあの人、フィフ地方からはるばるここまで来てたみたい。そこまでしてここに来る必要がなぜあったのかだけが気がかりだったけど、どこか不思議な人だった」
「へーー(もぐもぐ)」
「あれ? アマ、私のサンドイッチは?」
俺の目の前にある自分の皿に乗っているはずのサンドイッチがなくなってるのに気づく。目をアマの方むけるともしゃもしゃとサンドイッチを食べていた。
「まさか……」
「食べといた」
「……ぴえん」
数分後、俺はコーヒー一杯しか口にできないまま店を出る。
とほほ……アマの覚えてろよ……
とりあえず、馬に乗ってシステムのマップを確認する。
神のいる城はいつも通り、真っすぐ正面の道の先にある大きな建物に違いない。その建物は今までの神の城よりもシンプルにただの円柱の縦に長く、壁からはいたるところにパイプがつなげられており、城と言うよりもその様子は工業地域のようだった。
俺たちはすぐにその建物へと向けて馬を歩かせる。数分歩いて、その建物の目の前へとやって来る。
木ではなく鉄で作られた城の扉は大きく開かれており、周りには兵士や見張り、門番などがいる様子はなかった。
「不用心やな……」
「これこのまま進んでいいのか?」
3人で辺りを見回すが罠のようなものもなくただ道が開いているだけであった。
「……入ろう」
俺たちは馬から降りて、自らの足でそこから進み始める。ゆっくりと警戒しながら入り口に近づいていくが何も起こらない。
そして、そのまま入り口を無事にくぐることに成功した。
城の中は外見通り丸い形状をしており、壁は大理石のような色をしたつるつるの石でできていた。
そして、道の先……この部屋の先には一つの扉があった。
「なんやこれ……? ケルトちゃん、アマ……上見てみ……」
ダンに促されて俺たちは上を見ると、上には天まで続いているのかと思うほど天井が見えないくらい続いていた。最上階までこの建物は空洞だったのだ。
そして、周りを見渡すが階段なんて物はない。もしかしたら、目の前の部屋から最上階に行く手段があると言うことなのだろうか。
「天井が見えない……外見から見る限り、かなりの高さがあったからそれはそうか。立てた奴はよく分からん感性を持ってるな」
アマの言う通り、なんとも不思議な構造の城だ。この先に神でもいるのだろうか?
「うーーん、あるのは目の前の扉だけだ……行ってみよう」
俺たちはその扉の先に進むために先に進もうとした時だった。
「ホォオオオオオオオオオォ!!!!」
部屋中に獣の鳴き声のように聞こえるが少しノイズが混ざっている何者かの鳴き声が鳴り響く。部屋の反響もあり、頭に響くような音に思わず俺たちは耳を塞ぐ。
「な……なに!?」
「……!? 上や!!」
ダンの言葉で顔を上げる。バサバサと羽を羽ばたかせる音が天井の闇から聞こえてくる。甲高い鳴き声は天井から羽の音とともに近づいてくる。
そして闇からその姿を現した。大きく広げられた羽は青く、鋭くとがったかぎ爪が黒く光る足、そして、顔の半分が鉄で作られ、目はガラスのレンズのように付けられている見た目が梟の巨大なその生き物が俺たちの目の前に現れ、その扉への道を遮る。
「クワッ……ギギギギッ」
その梟は動くたびに機械音が鳴り、梟が鳴き声を上げれば歯車が回っているような音が聞こえる。その生き物は普通の生き物ではない。しかし、ひらひらと抜け落ちる羽は自然の動物と変わらない様子から半機械生物のようだった。
その梟は俺たちの目の前で地面に降り立つとじっと俺たちの方を見ている。
こちらもそいつを見つめ、お互いが様子を見合っている。すると突然、梟が大きく羽を広げるとまた空へと舞う。空中で一回転宙返りをきめて、勢いをつけるとその鋭い鉤爪を立てて襲い掛かる。
それを交わして、態勢を立て直す。
「ちょっとまって! 私たちは……」
俺が言葉をつづけようとしても畳みかけて空中から攻撃してくる。俺たちは危機を感じて、各々武器を取る。
「話……聞く気ないなら相手になるしかないじゃない……」
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