93 魔導国家ハイエロストンへ その2
アマが馬を歩ませ、一歩俺たちよりも前に出る。
にじり寄ってくるアマに対して少し後ろに下がる野盗たち。野盗の一人はもう杖を持っている手が震えていた。
しかし、アマはびびることなくゆっくりと距離を縮めて行く。
「おい、お前ら。ここで引くなら今までの事はなかったことにしてやる」
「……」
アマの言葉に数人の野盗の目線が下へと向く。
流石の野盗たちも自身の危機を感じているのだろう。そう思ったとき、後ろで一人の野盗が隠れて不意打ちするための呪文を準備していることにアマが気が付く。
「遅い……」
≪発動:【電の弾丸】≫
アマは即座に銃の形に見せた手を前に出すと、指の先端から電撃の弾が出る。その弾は前にいる野盗を横切り、そのまま詠唱を行っていた野盗の胸を貫いた。
「ぎゃああああああ!!!!!!」
男は衝撃で吹き飛ばされると泡を吹かせて気絶する。電流が体中に流れているのかピクピクと痙攣している。
それが突然起こった野盗たちの顔には滝汗が流れ始めていた。
「俺の方が早打ちは強い。ちなみに楯突いた奴、ああなるんでよろ」
「ひ……ひぃいいいい!! さ、さー―せんでした!!!!!」
「うわぁあああああ!!!!」
「許してくれぇええええ!!」
そう言って野盗たちは顔を涙や鼻水やらでぐしょぐしょになりながらこの場を後にしていった。ただこの倒れている奴だけ残して。
「俺の勝ち」
アマがどや顔でこちらを見る。
「さすがだね」
「あれに負けてたら逆に心配」
「ははは、そうだね」
「うん、敵の気配がなくなったで! ここまま進もうや!」
とりあえず、倒れている野盗の横を通って道を進む。あの野盗は放置で。
そして再び道を走らせ始めた。だんだんと風景が変わってくる。風車や貯蓄タンクのようなものやパイプがつながれた大型の機械のようなものが多くみられ始めた。出発し始めてかれこれ
7時間ほど、結構な移動もそろそろ目的地が近づいているのを感じた。風車の道を抜けると、目の前にはとうとう大きな門が見え始める。
街をぐるっと囲んだ直径30メートルほどの城壁に囲まれ、入り口は正面の大きな扉一つだけ。
そう、俺たちはとうとうは魔導国家ハイエロストンにやってきたのだ。
「着いた、あれがハイエロストンだ!!」
「本当にセカン地方の隅にあるんだな」
「あーー長かったで……」
長旅でいつも通りのセリフを吐きながら、馬を歩かせ大きな門へと近づいていく。ある程度近づいたところで門の近くに人影のようなものが見えた。
「あの、すいませ……」
俺がそう声をかけようとしたとき、その人影は人ではないことに気が付いた。
身体は180センチほどの巨体なのだが、人間のように皮膚などはなく、金属の骨が人間の形に作られているだけの機械だった。その姿は関所で見た物と同じ形状をしているがどこかボロボロで古い感じがする。これも【魔導器】なのだろうか?
驚いてしまっている俺の方に一つだけ目が光った顔をこちらに向ける。
「オマエタチハ、ハイエロストンニハイリタイノカ?」
「は、はい……」
「リユウ、ノベヨ」
「ワンス地方のリベアムール様の依頼でここの神様と少しお仕事の事でお話があるの」
「承知しました。ただいま【真偽判定中】」
え? 何? うそ発見器みたいな感じ? これで嘘だったら入れないの?
その時、ピンポーンっという音がその魔導人から鳴ると門がゆっくりと開き始める。
「カクニンシマシタ。ヨウコソ、ハイエロストンヘ」
魔導人は道の横にそれると俺たちに入るよう促してくる。
俺たちはゆっくりと開かれていく扉に続いて、ゆっくりと入って行く。
まず入ると、そこに広がるのはパイプ、パイプ、パイプ。城下町はパイプラインが張り巡らされており、何かを絶え間なく供給している様子が見られた。
街の風景も建物は木でもなければレンガでもない。灰色の鉄でできた建物がたくさん建てられており、まさにコンクリートジャングルならぬ、アイアンジャングルだった。
ここは工業施設も多いのかいたるところから排気ガスが出ている。そのせいで、ここの空は昼なのに少し黒ずんで暗い。
入ってぱっと見るたこの国家の印象は少し暗いようだった。
城下町を歩く者たちはほぼ魔導人。機械だけがうろうろしていて、魔導人たちは仕事のために移動をしている様子だった。
「人が少ない……」
「いや、いないやろこれは。もしかしたらここは魔導人とかいうロボットたちで成り立ってる国ちゃうん?」
ここまで人がいないとは思わなかった。
ここまで来て、だれとも話してないのだが本当に真人間などいない気がしてきた。このままだと神も機械なんじゃないのか?
流石に無機質な合成音声を会話するのが正直しんどいと感じ始めたので、そろそろ真人間に会いたいところだ。
「とりあえず、休憩しない? 俺腹減った」
アマが腹を抑えていたのでとりあえず人間の食事を提供してくれそうな場所を探す。ここはシステムのマップの出番だ。
おい、システム。ここで人間の食事を提供しているところはどこ?
≪解析中です≫
≪解析を確認≫
≪この先、50メートル【喫茶メカニカ】を確認≫
喫茶メカニカ 評価 ☆☆☆(☆×5中)
あ、ちゃんとあるんだ。少し安心した。じゃあここに決めた!!
「少し先に喫茶店があるから食事と休憩しようか」
「わーーい」
「せやな」
そう言って歩くと、大きな看板が見えてくる。
【喫茶 メカニカ】そう大きく書かれている店にはドア以外の入り口や窓はない。外から見て、店の内装が全く分からない。
ここ本当に大丈夫か?
そんな不安もありつつ恐る恐る開けると横から制服をきた魔導人が出てくる。
「イラッシャイマセ、ナンメイサマ?」
「3名です」
「デハ、テマエノテーブルセキニドウゾ」
俺たちは言われた通り席へと着く。この店の内装は思っていたよりも普通で、目の前にこの店のマスター? である魔導人が見えるカウンター席と壁際には3グループ程のテーブル席で構成されていた。
店内を見たとき、俺たちだけだと思っていたのだがカウンター席の奥で一人、飲み物を飲んでいる女性がいた。服装は肌の露出面積が広いようなとてもきわどく、胸元が開いた魔法使いの服を着ており、壁には大きな杖と大きな魔法使いの帽子が立てかけられている
長い、透き通った青白い髪と高身長でモデル体型なその容姿はこの場所ではかなり浮いている存在だった。
「なぁ、あそこにいる人……めっちゃ美人やで!」
弾が耳元でそう言ってくる。
「人もいたんだ。少しだけ話でも聞いてこようかな」
「え!? ケルトちゃん話しかけに行くのかいな!?」
「うん、今のこの容姿なら女の子にも話しかけられる!」
「頼むでーー!! スリーサイズ聞いてきーー!!」
聞くかアホ。
「すいませーん、このサンドイッチセットを3つ」
「カシコマリマシタ」
俺が店員に注文を済ませてから席を立つとゆっくりとその女性の前に近づく。
「あの、ゆっくりしてるときにごめんなさい」
「ん?」
そう言って顔を向けてくる女性は近くで見るととても美形で、その鋭い赤い目に吸い込まれそうになる。
この女性の顔を見て、謎の運命を直感的に感じた。





