92 魔導国家ハイエロストンへ その1
翌日の朝、俺は荷物の最終確認を終わらせて朝食を食べる為に酒場のテーブルへと向かった。
仕事に出向く俺達は今までよりも早めに起きて、宿屋の仕事が始まる前にここを出るつもりだった。
だから、みんなはまだ寝ている時間なので静かに廊下を移動する。
朝食へと向かう途中にアマとばったり遭遇した。アマも今回俺と同行するグループメンバーの1人なので早起きなのである。
「おはよ」
「おはよう、ちゃんと起きれたんだね」
「ユシリズじゃないから」
「ははは、そうだね」
たわいもない会話を交わしつつ向かうとダンがもう席へと着いていた。
「お! お二人さんおはよう」
「おはようダン。荷物の準備とか大丈夫?」
「ちゃんと前日に準備してたからバッチリやで!」
「みんな起きて偉いわね〜〜はい朝ご飯ですよ〜〜♪」
エルマがにこにこ笑顔で朝ご飯のパンとスクランブルエッグ、そしてベーコンのようなお肉が3人分を運んできてくれた。
1番早起きはエルマさんなのに疲れた顔一つしていない。
エルマさん、本当に何者なんだ……
俺たち三人はその朝食に食らいつく。そして数分が経ち、朝食を完食した。お腹が膨れた束の間にラミーさんが酒場に入ってくる。その寝ぼけ眼で大きなあくびをしている様子から眠そうなのがわかった。
「ふわぁーー……おはよぉ……」
「ラミーさんおはようございます! 眠そうですね?」
「みんな分の装備の点検とかしてたら夢中になっちゃってね……武器は玄関に置いてあるからちゃんと持っていくんだよ」
ラミーさんには前もって武器の点検と手入れを頼んでたのだが眠そうなのは夜更かしのせいだったのか。
申し訳ない……
俺達はエルマにご馳走様の挨拶をしてから各々、部屋から荷物を取り、玄関前に集合する。
玄関前にはラミーが手入れをしてくれた俺たちの武器が立てかけられており、以前よりもどこかきれいになった感じがする。
毎度感じるが流石ラミーさんだ。ティターニアがいつもピカピカで新品のような外見なのはラミーさんのおかげでもあるので本当に助かる。
しかし、今回のティターニアにはどこか変わったところがあった。
刃の部分がうっすらと虹のような輝きがあるのに気が付く。前まではこんなのんかったのに……
「色々見てたら実は神器にも付与ができることが分かったから実験でつけてみたんだ」
武器を眺めていると隣からラミーが現れる。
「今回は実験で【魔法反射】の効果を付与させておいたわよ! セカン地方は魔法を使う魔物とかがいるから役立つかもと思って♪」
「じゃあ、もし敵が魔法を使ってきてもティターニアで打ち返せたりできるの?」
「そういうこと。だけど、まだ実験段階だから強力な魔法とかには通用する保証はないとだけ言っておくね。だから、【魔法反射】に過信しすぎないように注意だけはしてね」
「分かりました」
新たに強化された神器を持ち、バックパックを馬に着ける。そして、俺たち三人は馬へと乗ってエルマとラミーの方を見る。
「じゃあ行ってきます!」
「行ってきます」
「行ってくるで!」
「3人とも気を付けてねーー♪」
「良い素材があったらお土産はそれでいいぞーー! 行ってらっしゃーーい!」
俺たちは馬を一斉に走らせると外でバザーの準備をしている竜人たちが手を振って見送っている様子が見えた。
俺はそれに手を振ってこたえながら、宿屋を後にする。
それからはセカン地方の入り口まで馬を全力疾走で走らせた。今日も良い天気で颯爽と走る馬で駆け抜ける平原はいつも気持ちいい。まだ少しだけ残っている眠気も顔に当たる涼しげな風が目を覚ましてくれた。
道を走るとモリカへと向かう積み荷を運ぶ荷馬車とすれ違ったり、動物が池で水を飲んでいる様子を見たりと長い移動ではあるもののこの世界での長旅の楽しみ方が分かってくると長旅が苦ではなくなってくる。
今日は少人数なので簡単にダンとアマとも会話をしながらもなかなか楽しいかった。
そして、2時間ほどが経って最初にセカン地方とワンス地方の境界である関所へとたどり着く。前回はここで黒龍とかでてきたから今回はいたって普通に通ることができるかも。
そう思いながら受付へと向かうとそこにいたのは人ではなかった。
「セカンチホウノタイザイモクテキハ?」
片言の明らかに人間の声ではない声、外見は鉄がつながれ人間に似せた体、そして、プシュープシューとかガシャンガシャンと言う効果音……そう、そこにいたのは転生前の世界でよく見るようなロボットかそれともからくり人形のようなそれが関所の管理をしていた。
「え? ロボット?」
「ワタシハ、【魔導石】ノチカラデカドウスル、【魔導器】ノヒトツ【魔導人】。セカンチホウノタイザイモクテキハ?」
「……仕事です。ハイエロストンに」
「ハイエロストン……カクニンカクニン……ヨウコソワンスチホウヘ」
これで通っても大丈夫だと言うことだろうか? 明らかに機会であるその魔導人に一応挨拶をしてセカン地方へと入って行く。
「なあ、あれ明らかにロボットやな?」
「うん、もしかしたらこのセカン地方っていうのはああいう機械的な奴らが生活しているところなのかも」
「せやかも。なら、ユシリズが喜びそうやな! あいつ、ロボット好きやし」
「一体持って帰ってもバレない」
「いや、アマ……それはバレるよ」
さて、ハイエロストンはここから北の方向にあるのでそちらへと向かって行こう。
歩かせていた馬をまた走らせる。周りを景色を見て思うのはセカン地方は自然がないと言うことだ。
少しくらい草木があると思っていたのだが、葉がついた木がなければ地には草木が生い茂る場所もない。もちろん池などもなく道はずっと土か砂利道だった。
空には鳥もいない、周りには生命もいないのでどこか寂しい様子が続いている。
その代わり空いている土地には風車や何かが著上されている大きなタンクが設置されていたり、蒸気が立って何かを製造するために稼働しているのかよくわからない機械とかが点々とみられた。
そこには人がいる気配はなく、明らかに『無人』と言った感じだ。
こんなところに魔物なんているのか? こんなに生き物がいなければ何も出てこないんじゃないか?
そう思っていた矢先、ダンが声を上げた。
「ケルトちゃん! アマ!! 伏せるんや!!!!」
その言葉に反応して俺は咄嗟に態勢を低くすると、何か鋭い槍のようなものが俺の頭すれすれに掠る。
その槍は地面に刺さると溶けてなくなった。
当たった感触は冷たく、おそらくこれは氷の氷柱?
すると前から突然、現れたのは複数人のローブをまとった人間がそこで待ち構えていた。
馬を急停止させて、ローブを着た人間たちと距離を空ける。
「珍しく冒険者がここを通ってくるとは俺たちもついてるぜ」
一人一人がニタニタと笑いながら俺たちの方を見ているとその集団の一人が話しかけてくる。
「お前ら!! 悪いことは言わねぇ、ここを通りたきゃ今すぐ金と食料を全部出しな!! そうでなきゃ命の保証はないぞ!!」
あーーなるほど、魔物はいないけどならず者とかはいるのか。ここの治安とかは多分危なそう……
敵は5人……見るからに魔法使いって感じ。なるほど、さっきの攻撃はあいつらのせいか。
「ケルトちゃん、どないする? そんな強くなさそうやで」
「うーーん、人間はだと手が出しずらいよ……」
そう俺とダンがひそひそ話をしているのにしびれを切らした一人が魔法を放ってきた。
≪詠唱:精霊魔法:氷結【氷針弾】≫
さっき見た氷の氷柱が生み出され、俺に向かって飛んでくる。
俺は腰からティターニアを抜くとその氷を切る。すると氷柱の向きが俺から術者の方向に向けられその氷が術者に命中する。
これが【魔法反射】の力……めちゃ強だ!!
「ぐはぁあああ!!」
突然のことに野盗たちは戸惑いを隠せない。
「話してる最中なのに攻撃してくるなんてルール違反よ」
「ぬう、お、おのれぇええええ!!! やっちまうぞ!!!!」
そう言って、野盗たちは魔法の準備をし始める。
ええ……やる気なのかよ……そこは引いてくれよ……
「俺がやる」
そう言って馬を一歩前に出したのはアマだった。
「大丈夫?」
「大丈夫」
アマって、この前の酒場でもごろつきぶっ飛ばしてたよな?
あだ名は野盗スレイヤーにするか?
最後までお読み頂きありがとうございます(。-_-。)ペコッ
宜しければ、ブクマ、評価、レビュー、感想などしていただけると著者が泣いて喜び、モチベーションが上がります。
それでは次回もよろしくお願いします!





