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SS 騎士崩れ殲滅戦(3)

「さてと、武器を置いてくれるかな、騎士諸君」


 オレはフロックコートについた土を払い、シルクハットをかぶりなおしながら言った。


「まあ、だれもいなくなるまで戦ってもかまわないんだけどさ。

 やるかい、騎士諸君。力の差はわかってくれたと思うけど」


 すでに数人となった騎士は力なく武器を落とした。


「ニコライ、君はどうする?

 得物の細剣を見るに、元々貴族だったんじゃないかと推測するけど。

 無様に散るより、再起を図って逃げだしたらどうだ?

 キリルを見捨てて逃げだしたように」


 オレはニコライを睨みつけた。


「一対一で、勝負がしたい。

 どうだ、ユーリ。

 王国一の戦士、ユーリ・ストロノガノフ。

 まさか、ボクと戦うのが怖いとは言うまい?」


 へえ、挑発的な目だ。

 こいつオレの見立てじゃ一騎討ちなんてしないタイプだと思っていたけど……


「分かった」

「ただボクも王国一の戦士相手に平等な条件で勝てるとは思っていない。

 そうだな、ハンデをくれないか。

 ボクは細剣を使う。

 キミはステッキを使うなんてどうかな」


 膂力に勝る相手と勝負するには細剣はいい道具だ。

 細剣使いは突くことに特化して鍛えるから心臓にでも一撃入れれば勝ちをつかみ取れる。

 オレは軽装だし、防具で跳ね返すこともできないからな。

 相討ちになったとしてもステッキで絶命させるのは難しい。


「素手でいいぞ」


 オレはブリュンヒルデを放り投げ、ステッキを床に置いた。


 ブリュンヒルデはヒト型となった瞬間、オレに文句をぶつけてきた。


「私を放り投げ、ステッキを優しく置くなんて……普通、逆ではありませんか?」

「お前は空飛べるだろ」

「そういうことではありません!

 紳士は貴婦人に優しくするものですッ!」


 怒って亜空間に消えたブリュンヒルデは放っておいて、素手で戦う構えを取った。


「戦闘開始は、ボクが投げたコインが下に落ちた時でいいかな?」

「かまわない」

「王宮一の戦士が相手でも、さすがに丸腰だとボクにも勝ち目があるかもね」


 ニコライはうっすら笑みを浮かべてコインを投げた。

 コインが風を切る音に交じってわずかに金属が触れ合う音がした。


「一対一だ、お前達わかるな、行け!」


 コインが地面に落ちる直前、ニコライは叫んだ。

 重騎士たちが構えた槍をオレに向かって一斉に投げた。

 一斉に投擲する重騎士達の練度、一騎討ち中にだまし討ちしたこと1度や2度ではないな。

 ……外道どもが。


「止まれ」


 オレは低く静かに言い放つ。


「ヒヤーッハッハッハ!

 槍が止まれと言って止まるものか」


 ニコライの笑い声がこだまする。


「……止まっているが?」


 オレの言う通りに、投げられた槍は空中でピタッと止まっている。


「え……はあ? 何でだよ、何で空中で槍が止まってるんだ!」


 ニコライと重騎士たちが戸惑っていた。


「ユーリ、お前おかしな術を使ったな!

 オレをだましたのか!」


 ヒトを疑うものは、よく自分がしていることを疑うものだ。


「お前達、一騎討ち中にいつもだまし討ちをしていたな?」

「ハッ、だまされる奴が悪いんだよ。

 だまされた奴から死ぬんだ、馬鹿な奴から死ぬんだよ!

 キリルとかなあ!」


 ニコライは下卑た笑いを浮かべているし、騎士たちも大声で笑っていた。


「せっかくキリルをリーダーに祭り上げてやったのに、故郷の村から金すら集められずによお。

 ボクが村から略奪するって言ったら反対しやがった。

 王宮に反旗を翻すには金が要る。

 村はすべてボクたちに財産や食料を渡すべきなんだ、それを断るなんて……

 だから、ボクがキリルを売った。

 頭にならずにおこうと思ったが、キリルの奴、理想ばかりで思いのほか使えなかったからな」


 心底、クズだな。


「どうして、アレクセイを憎む」

「ハッ、あいつは貴族であるボクを飛び越えて出世しやがった。

 貴族のボクが暗部で働かされることすら屈辱だったのに、平民上がりの下につくだと……

 そこまではハラワタ煮えくりながらも耐えていたんだ。

 むしゃくしゃするからその辺の農奴をさらって楽しんでいたら、軍規違反だといってためらいなくボクの右目を斬りつけやがった」


 ニコライは眼帯を取ってオレに見せつけた。


「だから、あいつに復讐することにしたんだ」

「そうか、べらべらしゃべってくれてありがとう。

 お前が口が軽くて助かったよ。

 聞こえたんだろう、ジーナ」


 ブリュンヒルデに連れられてジーナは岩陰から姿を現した。


「ジ、ジーナ!」


 ニコライはジーナがいたことに驚いていた。


「お前、イワンについていたはずじゃあ……ジーナを見張っていた奴らは仕事をしなかったのか!」

「ああ、イワンの部屋の前に居た騎士たちのことですか? 死体に仕事をせよというのも酷な話ですわ」


 ブリュンヒルデのことだ、邪魔だから有無を言わさず殺したのだろう。


「人骨スピーカーでニコライ、あなたの言葉はクリアな音質で聞き取れましたわ。

 ねえ、ジーナ」

「……趣味は悪いと思うけどね」


 同感だ。骨がカチカチ言うし、何しろ気味が悪い。


「今の言葉、ニコライ、本当なの」


 ジーナが歩み寄ってくる。


「ニコライ、答えて」


 後ずさるニコライにジーナが歩み寄っていく。


「ち、違うんだ、ジーナ」

「じゃあ目を合わせなさいよ」


 ジーナは重騎士が落とした剣を拾い、ニコライに突き付けた。


「お兄ちゃんを売ったのは、ニコライあんただったのね!」

「……うるせえんだよ、平民娘がギャアギャアと……」


 ニコライは細剣でジーナを突いた。

 ジーナはやっとのことで避けたが、態勢を崩して転んだ。


「きゃあ」


 ジーナの手を踏みつけて剣を手放させたニコライは、ジーナに細剣を突き付けた。


「くっ……」


 ニコライはジーナの手を後ろに回し、抱き寄せ首筋に細剣を這わせた。


「はははは、形勢逆転だな、ユーリ。

 お前ら!」


 立ち上がった重騎士は先ほど投擲した槍を持たないため、サブウェポンの剣や小剣を取り出してオレとブリュンヒルデを取り囲んだ。


「ああ、怖いですわ。ユーリ様」


 ブリュンヒルデはオレに抱き着いているが、オレはブリュンヒルデの大根演技の方が怖いぞ。


「人質も取ってお前らを取り囲んだ。

 王宮一の戦士と言えど丸腰で勝ち目はないぞ」


 ニコライは歪んだ顔で笑っている。


「なあ、ジーナ。

 ニコライがキリルを売ったんだ。

 村が襲われた時、アレクセイはナターリヤと家で震えていただけだった。

 友達なんだろ、信じてやってくれないか」


 オレはジーナに話しかけた。


「……私、アレクセイにひどい言葉を言った。

 ナターリヤにも……」

「ハ、ジーナ。お前もアレクセイもすぐにキリルの後を追わせてやる。

 寂しくはないぞ」

「ニコライ……アンタって人は!」


 ニコライが細剣でジーナの首筋の皮を斬りつけた。


「きゃあきゃあわめくな」


 ニコライはドスを聞かせた声でジーナを恫喝した。


「ユーリ、ジーナを殺されたくなけりゃそこを動くなよ。

 お前ら、ユーリをめった刺しにしろおおおおお!」


 ニコライの号令で、重騎士は動き出す。


「ああ、槍たち。

 いままでじっとさせていて悪かった。

 元の主人のもとに戻りなさい。

 九十九神当代の命令だ、しっかりと心臓に突き刺さり、立派な墓標となるようにね」


 空中で止まっていた槍たちは翻り、重騎士たちの心臓へと帰っていった。


「「グギャアアアアアアア」」


 戦士や騎士が命のやり取りをするのを責めたりはしない。

 ただ、一騎討ちを汚したものをオレが生かしておくわけないだろう?

 オレが殺したネコ族の戦士たちに申し訳が立たない。


「な、何をした?」


 ニコライは重騎士たちがあっという間に死体に変わったことに怯えていた。


「オレの眷属たちに自分の立場をわからせてやっただけだが?

 お前も貴族なら平民の娘くらい、剣じゃなく言葉で言い聞かせてやったらどうだ?」


 オレはニコライに歩み寄る。


「く、来るな」

「一言、言っておくぞ。

 自分の命が可愛ければ、ジーナを殺そうなんて思わないことだ。

 思えば、お前の胸にその細剣がひとりでに刺さるだろう」

「何を訳の分からないことを!

 お前は予言者か」


 オレはニコライへ近づく。

 歩みを止める気もない。


「く、来るな、来るな。

 クソ、ジーナ死ねえええ!」


 ニコライがジーナに斬りかかろうとしたが、細剣は言うことを聞かずニコライの心臓目掛けて進んでいく。


「な、剣が勝手に……やめろ、やめろおおおおおお!」


 ニコライは細剣に心臓をえぐられ断末魔の叫びをあげた。


 ニコライが倒れ、抱き寄せられていたジーナも倒れそうになったのをオレが支えた。


「ありがとうございます……」

「帰ろう、ジーナ。

 お兄さんの思いはオレとアレクセイが受け取ったよ。

 オレ達、がんばるからさ。

 いい国にして見せるから、ナターリヤとまた友達になってあげてよ」

「……お兄ちゃん、アレクセイ、ナターリヤ……ごめんね……」


 オレの胸の中で泣き続けるジーナにブリュンヒルデがそっとハンカチを渡した。

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