SS 騎士崩れ殲滅戦(1)
ブリュンヒルデは村の外に向かって歩き出した。
「オレはジーナの家を聞いたんだぞ」
オレの言葉にもブリュンヒルデは歩みを止めない。
「ユーリ様が本当に知りたいのはジーナが今どこにいるかだと思いますわ。
家は奥ですが、誰もいらっしゃいません」
話が早いな。
「案内してくれ、斥候ブリュンヒルデ」
「お任せあれ、ですわ。
私に見つけられないモノなどないのですから」
仕事モードのブリュンヒルデであるが、やはり女神の身体を取り戻した影響なのか、自分の仕事が出来て嬉しいらしい。
若干ではあるが、口角が上がっているようだ。
「おかしいと思ったんだ。
王都にいる軍は壊滅させたが、地方にはまだ騎士団が残っているからオレは騎士団を殲滅するようクリームとアレクセイに指示をした」
ブリュンヒルデは頷いた。
「アレクセイがぜひとも自分がやると譲らなかったとクリームお姉さまから聞きました」
ブリュンヒルデに導かれ、ジーナの居場所目指して歩く。
アレクセイの様子がおかしいとの報告を受け、ブリュンヒルデに探らせていたわけだが……。
「オレは勇者パーティーとして魔王と戦える力をつけるため、諸国をめぐっていたことがある」
「ハガネから聞きましたわ。
ユーリ様のご活躍、ますます我が主にふさわしいと心酔しましたからよく覚えていますわ」
ブリュンヒルデはうっとりとしていた。
「小国が魔物に襲われ王都が壊滅したことがあった」
「ああ、ユーゴノフォビアのアンデッド殲滅作戦ですわね。
ワイトキングに囚われたソフィアをユーリ様が単身乗り込んで救い出したという……」
ブリュンヒルデは目を輝かせているが、オレが話したいのはアンデッドによって王家が殺された後の話だ。
「アンデッドはなんとかソフィア達と生き残りの近衛兵たちと協力して倒したんだが、大変だったのはそのあとだ。
王家が壊滅すると、食い扶持がなくなった騎士団は盗賊のまねごとをはじめた。
真似事とオレは言ったが、正規の訓練をこなしてきた騎士団が盗賊になったんだ。
村の自警団なぞ相手になるはずもない」
思い出しても虫唾が走る。
「アンデッドにより壊滅した村よりもはるかに騎士団くずれによって略奪され壊滅した村の方が多かったって話だ。
それをアレクセイが知らないはずがない。
それなのに、この村の周りだけ騎士団崩れが残っているとの話だったな。
愛妻家アレクセイのことだ。
ナターリヤの暮らす村のことを思えば、騎士団残党なぞいち早く殲滅するだろうに」
ブリュンヒルデが頷いた。
「ええ、オオカミどもがこのあたりを根城として巣くっておりました」
「オレはあまり人を信じられない。
アレクセイがオレに秘密を持っているのかとブリュンヒルデ、おまえにアレクセイを探らせていた」
ブリュンヒルデは下を向いた。
「私、友達なんていませんでしたから人をだますことなんてなんととも思っていませんでしたが……ナターリヤから聞き出すことだけは心苦しかったのです。
私は、いろんな人を殺してきましたから、瞳を見れば信じるに足る人物かどうかわかるのです。
あまりにまっすぐなナターリヤから情報を聞き出すのは……少し胸が痛みました」
「すまなかった」
オレは頭を下げてブリュンヒルデに謝った。
友達をだましてるみたいで心苦しかっただろうな。
「ユーリ様、気に病まないでくださいませ。
ユーリ様がアレクセイを信じればこそ、私に探らせたのでしょう?」
ブリュンヒルデが頭を下げたオレの顔を覗き込んでいた。
「お前の言う通り、ジーナが頭目で間違いないんだな」
ブリュンヒルデは頷いた。
「私の目には利用されているように思いましたが……ユーリ様のその目で見定めください。
ユーリ様が真実をつかみ取れるよう、私が目となり、足となってその導き手を務めてさしあげますから」
ブリュンヒルデは胸を張った。
「頼りにしてるぞ」
「お任せくださいませ。
これからも潜入捜査の相棒は私をお誘いくださいね。
さて、奴らの根城はもうすぐです。
手を取ってくださいますか?」
ブリュンヒルデからさしのべられた手を取った。
【闇霧】
オレたちは黒い霧に包まれた。
「これで我々は夜の一部。
だれにも認知されません。
さて、オオカミどものねぐらへ案内いたしましょう」
☆★
アレクセイの村からほど近くの岩山に土魔法で隠蔽された洞窟があった。
ブリュンヒルデの力で解呪するまでもなく潜り抜け、奥へと進む。
「人の気配がするな
「103名ですね」
ブリュンヒルデの偵察にはおよそという言葉は存在しない。
「あ、ユーリ様少しここでお待ちください」
ブリュンヒルデはそう言うと地面へ吸い込まれていった。
「……あいつ、オレにも教えてない魔法をたくさん持ってるな」
少しの間待っているとすました顔で地面からブリュンヒルデが帰ってきた。
「お帰り」
「ただいまですわ」
「どうやって移動したんだ?」
オレの質問にブリュンヒルデは答えてくれた。
「みなには内緒ですよ、私【闇潜り】という能力で亜空間を移動できるのです。
日陰や闇であれば、どこでも移動できるのです。
もっとも移動したことあるところだけですけど」
「すでにこの洞窟には潜入済みってわけか」
「はい」
ブリュンヒルデはにこりと笑った。
「警備の魔術師はすでに冥界へおくりましたわ。
私たちがゆっくり潜入デートに専念できますように」
ほほう、これは潜入デートだったのか。
「とりあえず、ジーナのとこまで行こうか」
「はい。後数分ですわ。
……デートもあと数分です。
名残り惜しいものですね」
身体を震わせているブリュンヒルデと一緒に奥へと進んでいくと人の声がした。
「そこの岩陰にお隠れください。
集音魔法を使います」
ブリュンヒルデはブツブツ詠唱していた。
「ジーナともう一人の男がリーダー格のようだな」
オレは岩陰からジーナを覗き見た。
ジーナの隣には派手な黄金の鎧をまとった銀髪の優男。
片目には眼帯をつけていた。
洞窟のなかでもひらけた場所で騎士達が100名ほど集まっていた。
「ユーリ様、スピーカーにちょうどいい人骨がありました。
ここからジーナたちの声が聞こえますわ」
標本のような人骨が歯をカタカタ鳴らしているが、そこからジーナたちの話し声が聞こえた。
「ブリュンヒルデ。
お前の魔法、悪趣味すぎるな」
「シー、何か話しているようですわ」
仕方ない人骨がカタカタなっているのは気にせず、ジーナたちの話を聞こう。
☆★
「ニコライ、どうしてイヌ族を殺したの?」
ジーナの声が震えていた。
「ボクだって殺したくはなかった。
誠心誠意、『わずかばかりの麦と水を分けてくれ』そういったボクたちの必死な願いを奴らは無下にした。
おいで、イワン」
イワンと呼ばれた少年がニコライの元へ駆け寄った。
「イワン、背中を見せてくれるかい?」
ニコライは満面の笑顔で語り掛けると、頷き後ろを向いたイワンの服をめくってジーナに見せた。
「刀傷……」
ジーナはイワンを抱きしめた。
「痛かったねえ、イワン」
「え? あまり痛くなかったよ、優しく切ってくれたから」
眉をひそめたニコライは細剣を音もたてずに抜くとジーナに見えないよう、イワンの足に突き刺した。
「ギァアアアアアアアア」
イワンは痛さに膝をつき、地面を転がった。
「イ、イワンどうしたの?」
ジーナは痛がるイワンに動揺していた。
「ああ、今まで痛さに耐えていたんだねえ、イワン。
ふくらはぎを刺されているじゃないか」
ニコライはイワンの頭を撫でた。
「……ニコライ様、ボク頑張ったからお菓子くれるよね?」
「黙れ」
ニコライはイワンの口を塞いだ。
「ああ、イワン。お前は叫ぶほど痛みがあるんだ。
もうしゃべらなくていい。わかったな。一言もしゃべるな」
ニコライが睨みつけるとイワンはこくりと怯えたように頷いた。
「誰か、空いた部屋に寝かしてやれ。
イワンの好きな砂糖菓子もくれてやれ」
重武装の騎士たちがイワンを二人がかりで運んで行った。
「ニコライ、ごめんなさい」
ジーナはニコライに頭を下げた。
「あなたは仲間を守ってくれたのね。
それも知らず、ごめんなさい。
そうよ、仲間を守らない奴なんて最低だわ」
ジーナの声色に怒りが込もっていた。
ニコライは満足したように笑う。
「そうだ、ジーナ。
仲間を裏切る奴なんて最低だ。
キリルを売ったアレクセイ、あいつほど根性の腐ったやつはいない。
ジーナ、お前はアレクセイに騙されていたんだ。
キリルを領主に売ったのはアレクセイだ。
元アイツの部下だったボクが保障する」
ニコライは右手で心臓を叩いた。
「ボクを信じられないならば、いますぐこの細剣で心臓をついてくれ」
ニコライは細剣をジーナの足元へ投げた。
「アレクセイがキリルを売ったことに気づいたボクをアイツが斬りつけたんだ」
ニコライは眼帯を外した。
刀傷によってつぶされた右目が痛々しい。
「この右目にかけて、ボクは仲間を守り、ジーナを裏切らないと誓うよ」
ジーナはニコライに眼帯をつけてあげた。
「ユーリはとても強いって聞く。
敵わなくても、一緒に戦おうね、ニコライ」
ジーナはニコライの手を優しく握っていた。




