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SS 貴婦人ブリュンヒルデとアイスティー・パーティー(1)

「今日の私は、押しも押されぬ貴婦人なのですッ!」


 馬車で移動するオレとブリュンヒルデ達。

 今日のお茶会、ナターリヤにお呼ばれしているブリュンヒルデはすごく興奮していた。


「フロックコート物凄く似合っていますよ、ユーリ様」

「うーん、貴族趣味過ぎる気がするんだけどなあ」


 ブリュンヒルデはキラキラと瞳を輝かせてオレを見つめているけど……。

 フロックコートという丈の長い黒の上着と同色のスラックス。

 その下のアイボリーのベスト、白いシャツまではまだいいけど……蝶のネクタイ、ロングタイプのシルクハット、ステッキ……

 はたして非公式のお茶会にここまでの装いが必要なんだろうか。


「派手じゃない?」


 オレは自分の装いを気にしていた。


「いえいえ、そんなことはございません。

 私の旦那様としてとてもふさわしい装いですわ」


 ブリュンヒルデはとてもキラキラとした目でオレを見つめていた。


「ユーリ様、お茶会は派手にいくものさ。

 良く似合っているよ、貴婦人の旦那様としてふさわしい装いにしてっていうオーダーなんだからね」


 シザーは自分の仕事に満足しているようだ。

 オレの装いはハサミの九十九神のオーダーメイドで、ところどころに絹を使用してある高級品だ。


「うーん、落ち着かない」


 普段鎧姿のオレはフォーマルな装いは違和感を覚えてしまう。


「ユーリ様、こういうおめかしはご婦人の意に添うようにすべきだよ。

 それが旦那様の甲斐性さ。

 ブリュンヒルデ貴婦人様のたってのお願いなんだから、旦那様は笑顔で付き合ってあげるがいいよ」


 今日は髪の毛を後ろでくくって黒の背広を着ているシザーであるが、背中には大きくレインボーのストライプが入っていた。

 派手な服が好きなんだよな、シザーは。

 ただ、他の人への服はしっかり時と場合に合わせた服を用意するプロフェッショナルだ。


「まあ、いいや。

 執事バトラーシザー、今日はよろしく頼むぞ」

「お安い御用さ、旦那ユーリ様。

 今日は戦いで活躍した奥様、ブリュンヒルデ様を労う日だからね、私も役割ロールを全うして見せるさ」

 

 本日の衣装プロデュース兼男装の麗人、シザーの役割は執事バトラー

 うちのメンツで最も執事が似合う男、アレクセイがティーパーティーの主人ホストを務めるため、背の高いシザーが執事バトラーに抜擢された。

 

 後ろで髪をくくったシザーは正直格好良くて出発前にお披露目して見せたとき、ハガネなどはキャーキャー言っていた。

 少し嫉妬したのはナイショだ。


「お菓子パーティー」

「楽しみね」


 お子様役のカンナ、キヅチはいつもの着物から爽やかな水色のワンピースに着替えていた。

 金色の髪が水色に良く映えていた。


「お嬢様たち……今日は……いい子にするのよ」


 メイド役はククル。

 いつもの割烹着と袴ではなく、桃色のワンピースドレスを着ていた。


「ユーリ様、お茶会、肉は出るか」


 ペット役はレナト。

 ブリュンヒルデは大きな犬を飼いたいと言っていた。

 

 レナトはネコ族なんだが……


「食事もナンやライスボールなどの軽食はあるって言ってたぞ」

「フフ、腸詰めに期待するぞ」


 レナトは茶菓子よりも肉って感じだな。


 以上が、ブリュンヒルデ貴婦人様ご一行だ。

 オレはブリュンヒルデと二人で行くつもりだったのだが、貴婦人ぶりたいブリュンヒルデの意見を聞いているうちにこんな大所帯になった。

 貴婦人のお出かけには、旦那様と、執事とメイドとお子様とペットがどうしても必要なものらしい。


 まあ、今日ぐらいに好きにさせてやるけどな。

 

 ブリュンヒルデは『女神』との戦いでロランに囚われたり、火竜の装甲に弾かれたりしてから、ブツブツブツブツネガティブオーラを出しまくっていたからな。


「よく見ると、ブリュンヒルデの服もいつもと違うんだな」

「き、気づいてくれたのですか!

 さすが、私にメロメロなあまり一緒にお茶会に行きたくなったユーリ様ですわ」


 ブリュンヒルデは気づいてくれて嬉しそうだ。

 いつもの服と同じ色の青のワンピースであるが、ストライプの入った爽やかなもの。

 青い髪に良く似合っている。

 頭にはいつもの鍔広帽子ではなく、黒バラのカチューシャを付けていた。


「ブリュンヒルデ、今日は表情が豊かだな」

「私も受肉しまして女神の体を取り戻しております。

 嬉しいときや悲しいときは気持ちにつられて表情が動いてしまいますわ」


 ブリュンヒルデは少し照れながらオレに話す。


「私、女神として生きていたときも後ろ暗いことばかり担当していたものですから友達が少なくて……ナターリヤに誘われたとき本当に嬉しくて。

 いついかなる時も仕事ができるように普段は鍔広帽子をかぶっていますが、今日はカチューシャにしてみました。

 ……どうでしょうか」


 暗殺者として表情を隠すため、ブリュンヒルデは帽子を被り人から視線が見えないようにしている。身にしみついた職業上の要請によってポーカーフェイスのブリュンヒルデだが今日は控え目ではあるが、笑顔を見せていた。

 

「良く似合うよ。

 普段はせっかくのきれいな顔なのに帽子で隠しているもんな」

「……ありがとうございます」


 ブリュンヒルデはしおらしく照れていた。


「さて、到着しましたよ、みなさま降車をお願いします」


 御者はリカルド。


 レディーファーストでブリュンヒルデの次に降りたオレはリカルドに声をかけた。

 

「リカルド、一人だけ外で済まないな」

「いえいえ、お安い御用です。

 それに今日はいい天気ですから馬車から見る景色は素晴らしいものでしたよ」


 リカルドにつられてオレも空を見た。

 雲一つない晴天、オレも久しぶりに王都を離れたのだ。

 ゆっくりさせてもらうとしよう。


 アレクセイと妻とナターリヤはオレたちの到着を家の外で待っていた。

 もちろん、二人の子どもガブリールも待ってたよ。


「ユーリ様! こんにちは!」


 ガブリールが駆け寄ってきた。

 ん? オレは子どもに懐かれることなんてないはずだが……

 

 近寄ってきたガブリールはとてもにこにこしていた。

 そうか、【人から殺したいほど嫌われるスキル】はもうなくなったんだ。

 ……心底、嬉しい。


「こちら、ハンカチですわ」


 ブリュンヒルデがオレにハンカチを渡してくれた。

 オレの瞳に涙が溜まっていたのに気づいたのだろうか。


「ああ、ありがとう」

「今日は、奥様ですからね。

 これくらい予想しておりました。

 ユーリ様、実は子どもが好きでいらっしゃいますからね」


 オレのお世話を焼くことにブリュンヒルデは幸せを感じているようだ。

 

「これね、僕が作ったんだよ!」


 ガブリールが作った不格好なかたちのクッキーだが、焼け具合はとてもいい塩梅だった。


「焼いたのは私ですけどね」


 くすくす笑うナターリヤ。

 薄手の服が体のラインを強調していて、とても色気がある。

 うーん、これが人妻の色気というものか。


「ガブリールが作ってナターリヤみたいな美人がやいてくれたクッキーか。

 うれしいぞ」


 オレはクッキーをおひとつもらった。

 うん、おいしい。


「まあ、ユーリ様ったらお上手ですこと。

 私、ときめいてしまいますわ」


 ナターリヤが冗談を返した。


「……ユーリ様、私の妻に色目を使わないでいただけますか」


 近づいてくるアレクセイ。

 オレはこれほど目の開いたアレクセイを見たことがなかった。


「あら、あなたったらヤキモチですか」


 ナターリヤがアレクセイをみつめて笑っていた。


「悪いか?」

「ふふ、心配ならもう少し村に帰ってきてくださいませ。

 私、悪い男に惑わされてしまうかもしれませんよ。

 『美人だ』なんて言われて嫌がる女はいませんからね」


 ナターリヤはアレクセイの手を取って瞳を見つめ語り掛けた。


「今は大切なときなんだ。

 そうそう、村に戻れない」

「ふふ、分かっています。

 それでも、寂しいと伝えたいだけですよ」

「お母さん、紅茶まだー」


 ガブリールの言葉で二人の世界に入っていたナターリヤは我に返ったようだ。


「あら、私ったら……すぐにお紅茶用意しますね」


 ナターリヤは家に戻っていった。


「ユーリ様、私の妻を美人だなんておだてるのはやめてください」

「ん? お世辞じゃないぞ、本当にそう思ったから美人だといっただけだ」


 アレクセイはため息をついた。


「それならばなおさら口に出すのはやめてください」


 アレクセイに怒られてしまった。

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