ss 王都復興計画(3)人手と予算
『けーき』を皆で堪能した後は、仕事の続きだ。
議論は続けられていて、要望をすべて書き出して並べているけどみんなの要望をすべて叶えるとなると予算と人手が足りない。
それに木造建築であれば、カンナとキヅチがいるけど……石は扱えないからな。
「建設関係の負担が凄いな。
石工担当の九十九神を呼んでこないとな」
「……ユーリ様がそうおっしゃるのであれば、助かります」
クリームが頷いてくれた。
「九十九神を作れるのはユーリ様お一人ですから、むやみに増やすわけにはいきませんからね」
九十九神の作成・生命維持にはオレの体液が必要で、その維持のためオレはたびたび血液を抜かれている。
むやみやたらに作るとオレがフラフラになってしまう。
「あ、新しい子を作るの?」
ハガネがとても嬉しそうにこちらを見ている。
ハガネにとっては、作られた九十九神カンナやキヅチ、ククル達はみな家族みたいなものだからだ。
「ハガネ、面倒はあなたが見てくれますか」
「はい! 楽しみだね、ユーリ」
クリームの問いかけにハガネは嬉しそうに答えた。
「そうだな、石工を担当できる職人道具の手配は済んでるか?」
「ええ、王都は石造りですから長年使いこまれた職人道具があります。
職人との交渉中ですが、良い結果をお持ちしますことを約束します」
クリームが答えた。
「それと……大変申し上げにくいのですが、できれば刀鍛冶の九十九神を作っていただきたいのです」
「ユーリ、私からもお願い。
私やクリーム様は大剣だから、少し刃こぼれしても戦えるけどブリュンヒルデ様がだいぶ傷ついているみたいなんだ」
「ブリュンヒルデが?」
相変わらず、元気そうだけどな。
「ハガネは良く周りを見ていますね。
あの子も弱みを見せたくないタイプですから、私しか気付いていないと思ってました」
「火竜との戦いの後、辛そうでしたから」
そうか、オレは気付けなかったなあ。
「私たちも自分でメンテナンスしていますが、やはり専門家に見てもらいたいものですし。
まあ、ハガネはユーリ様にいつも磨いてもらっていますからいいかもしれませんが……」
そうか、オレも手入れはハガネしかしていないな。
「王妃は譲ってもいいですけど、ユーリの愛刀の座は譲れませんよ。
ユーリはいつも丁寧に磨いてくれるんです」
ハガネはちょっと自慢気にしていた。
「そうか、クリームやブリュンヒルデも手入れが必要だよな」
「私も胸に穴をあけられましたからね」
クリームは頷いている。
「わかった。
刀鍛冶の九十九神も作ろう」
「ユーリ、ありがとう。
あ、でもできれば私の手入れは引き続きユーリにしてほしいんだけどいいかな?
最近ユーリ忙しそうだから悪いなあって思ってはいるんだけど」
「戦士の習慣だからなあ、政治なんかよりハガネを磨いていた方が楽しいしさ」
「……うん」
ハガネが嬉しそうだから手入れは続けて行こう。
「ユーリ様、定刻となりました」
アレクセイが時計をみながらオレに伝えてくれた。
「……わかった」
それにしても……みな好き勝手に意見してくれたものだな。
書き出された要望は50を越えた。
〇街灯の設置
〇屋根付きグラウンド
〇闘技場
〇孤児院の拡張
〇平坦化
その他もろもろあるが、目玉はこの辺かな。
「孤児院の拡張と平坦化って人間からの要望?
それとも獣人たちからか?
たしか、元の案にはなかったよな」
「それは、ソフィア様からですね」
アレクセイが頷く。
「火竜に親を殺された子ども多く、孤児院の拡張を希望されています。
ソフィア様は街に良く出かけられ、何かと孤児たちの力になっているようですから」
ソフィアらしいけど、あまり一人で外に出したくないんだけどな。
厄介ごとをしょい込むから。
「ソフィア一人で行ってるのか? 誰かついていかなくていいのか」
クリームとハガネは顔を見合わせた。
「ユーリは過保護だよ」
「ええ、ソフィアに対しては過保護が過ぎますね。
そもそもこの街を守ってきたのはソフィアなのですから」
「いやあいつ良く商人にだまされたり、盗賊に丸め込まれたりしてたから……」
「……昔の話でしょう。
ユーリがいない間も私はしっかり勇者をしてたのよ」
ソフィアが話を聞きつけたのか金髪をなびかせながらこちらに来た。
「それに厄介ごとって言ったって誰かがやらなければならないなら私がやったっていいでしょう」
「冒険者ギルドに頼めば済むこともなにかと勇者様って頼ってくるじゃないか」
当然と言った顔でソフィアが言い返してきた。
「困ってるんだからいいでしょう、別に私がやったって」
やっぱりあまり昔と変わらないじゃないか。
「まあ、どうせオレの言うこと聞かないからもういいけど……平坦化って何?」
「王都って高低差が多くて、小さい子や老人が歩きづらそうにしてたから。
建て直すならやっておいた方がいいかなって。
印付けてるところならそんなに大工事にはならないから」
ソフィアが指し示した地図を見れば印がいっぱい。
これは普段から街のあちこちを歩き回っている人間でなければできない仕事だ。
裏通りにまで印がある。
「裏通りまである……ソフィア裏通りは一人で歩くなよ」
「裏通りが一番トラブルが多いからそうもいかないわ」
「……はあ。どうせ行っても聞かないんだろうけど、心配なんだけどな」
「ユーリ様、そろそろ会議をお開きにしましょう。
定刻を過ぎております」
アレクセイが声をかけた。
「わかった。
じゃあ、みな着席してくれ」
「「はい!」」
円卓を取り囲む。
「えっと、調整が面倒だから要望はすべて叶えることにした」
みな一通り喜んだ後に動揺が走った。
「これを全てですか!」
リンマが驚いている。
「石造りが課題だから、その九十九神を作る。
これで建設についてはメドがつくだろう。
予算だが……火竜からの獲得物で多少潤うがすべてをまかなえるわけではないが……」
オレはアレクセイとクリームを見やる。
二人は頷いている。
「この国は他国と比べても王権が強い。
大半の富は王都に集結しているが、諸侯の権力も残っている」
人間たちは頷いた。
「要は諸侯の元に残っている権力や富をすべて奪う。
簡単なことだ」
九十九神たちは頷いているが、獣人や人間たちは動揺しているようだ。
「それじゃ、戦争になるじゃない」
ソフィアが立ち上がった。
「オレたちが何もしなくても、住民の蜂起は起こるだろう。
ネコ族の村の反乱勢力と平民が力を合わせて王都を陥落したのだから」
「ええ。
領主ガガーリン家制圧や王都制圧などは、聖剣である私とユーリ様だけで可能なことです。
それをわざわざ獣人たちと平民たちを巻き込んだのはすべてこのためですね、アレクセイ」
クリームの言葉にアレクセイが続く。
「はい。
ロシヤ全土で反乱を起こすため、獣人たちと平民の結託を図りました。
ガガーリン家を制圧するまでは、他の領地の者たちは半信半疑だったでしょう。
ネコ族と我々の反乱などどうせすぐに王都から軍が派遣され、鎮圧されてしまうだろうと。
それが、大方の予想を覆し、王家すら制圧してしまいました。
では、他の領地の住民はどう思うでしょうか。
他の領主たちはどう思うでしょうか。
答えはこうです、『次はオレたちの番だ』……と」
「じゃあ、これから次々に反乱がおきるっていうわけ?
ロシヤ全土が戦争になるってこと?」
今までロシヤの民を守ってきたソフィアのためにも、血なまぐさい展開はなるべく抑えたいからな。
「そうはならないように、領主たちに手紙を送ろうと思う。
命が惜しければ、財産を全て残して投降するように」
「……そううまくいくかしら」
ソフィアは顎に手をあて、眉をひそめた。
「うまくいくさ。
じゃあ、予算のメドがたったところでお開きだ、解散」
皆は広間を後にした。
☆★
「っていうのが表向きのストーリーだ」
作戦指令室にはクリーム、アレクセイ、ブリュンヒルデ、とハガネ。後、レナト。
「領主たちが投降したことにして国内制圧を完了させるってことだね」
ハガネが言った。
「ユーリ様に言われた通り、他領地の獣人たちへ一斉蜂起を呼び掛けておきました」
レナトは仕事をしてくれたようだ。
「助かる。
結局のところ、領主とか貴族と言った輩はたとえ対岸が燃えていてもぎりぎりまで自分たちの富や権力を離そうとはしない。
鼻先まで剣を突き付ける必要がある。
獣人たちを城門前に集結させて、再度オレから最終通告を行う。
降伏しなければ、お前の出番だブリュンヒルデ」
「もちろん、そういった暗殺仕事は私の得意とするところです」
ブリュンヒルデはやる気を見せている。
身体を傷めているということだが……
オレの目には、いつもと変わらないように見える。
ハガネと目が合った。
ハガネは頷いている。
「頼むぞ。
では、解散だ」
「「はい」」
皆が出て行こうとしていた。
「ブリュンヒルデ、アレクセイ」
二人が足を止めた。
「何でしょうか、ユーリ様」
「作戦決行まで少しだけ日にちの余裕がある。
たまには王都を離れて、紅茶でもどうだろうか。
そうだな、雪のように冷たいアイスティーでも飲みに行こう」
「ユーリ様、それではようやくティーパーティーに行けるのですね!」
ブリュンヒルデはくるくると黒傘と共に回転していた。
「アレクセイ、たまには奥方と会っておかないと捨てられるぞ」
「そうですねえ……この世の中には人妻に面と向かって『あなたは美人だと思う』と言ってのける不埒な英雄様もいらっしゃるそうですから」
「えっと、その不埒な英雄ってのはオレのことか」
「ほかに誰かいらっしゃいますか?」
アレクセイはほんの少しだけ目を開けていた。




