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ss 王都復興計画 その2 カンナとキヅチと大きなケーキ

「いいなあ、みんな」


 円卓に座ったままのハガネはぼそっとつぶやいた。

 近くに行って話しかけようとしたが、表情がさえないようだ。


「どうしたハガネ、顔色が悪いようだけど……」

「ううん、少しね。

 みんながうらやましくなってただけだよ」


 オレとハガネはいつも隣にいるから小さな表情の変化に気づくことができる。

 オレの席であるハガネの隣に座った。


「どうした?」

「……贅沢な悩みなんだ、本当に。

 今度、ユーリには伝える。

 待っててくれる?」


 明るく笑っているハガネの努力に付き合ってあげよう。


「うん、待ってる。

 ハガネは、どんな王都にしたい?」


 ハガネは真剣に考え始めた。


「闘技場かな、ユーリと一緒に思いっきり暴れても壊れない奴」

「……それ、いいな」


 オレたちが話している間にカンナとキヅチはこちらに向かってきてククルにお菓子をねだっていた。


「ククル、お菓子」

「美味しい奴」

「うん……二人とも頑張ったからね……お菓子の家だよ」


 ククルがぱちんと両手を合わせると、カンナ達の背丈ほどある『家』がふわふわとやってきた。


「「おおー」」

「これをククルさまがお造りになられたのですか」

 

 リンマが『家』の大きさに驚いている。

カンナとキヅチがお菓子の『家』に喜びながらも仕事をした。


「お皿おいでー」

「そうそう、大きいそこの君おいでー」


 カンナがお皿を呼び寄せ、キヅチが大皿をそーっと円卓の上に置こうとする。

 こら、図面の上に置くな。


「ちょっと、待てキヅチ。

アレクセイ、休憩にするぞ。

 地図を汚すわけにいかないから丸めてどけてくれるか」

「はい、わかりました」


 アレクセイとレナトによって地図は丸められ、円卓の上には大きな木製のお皿とその上には大きなお菓子の『家』。

 包丁の九十九神ククルにとっては造作もないことだが、これだけの大きさのお菓子を、しかも家に見立てた精巧な『けーき』はちょっと食べるのが惜しくなるほど。

 屋根の茶色の部分はココアパウダーかな。

 みんな感心して、お菓子の『家』に見惚れていた。


「これ、『けーき』じゃないか。ミルクとか他の材料とか手に入ったの?」


 ククルは頷いた。


「はい……たっぷりと……ありました」

「私たち人気あるからね」

「貢物だよ」


 カンナとキヅチはオレの近くに来て胸を張っている。


「カンナとキヅチの人気ってすごいからね。

 街を歩くと、みんなお菓子やモノをくれるんだ。

 カンナ達は食べられるものはすぐ食べちゃうんだけどね」


 ククルがハガネの言葉にうなずきながら笑っている。


「街のみんなが……カンナとキヅチに感謝していたんだよ。

 もちろん……九十九神を率いるユーリ様にも……ね」


 街のみんながミルクをはじめとする『けーき』の材料を提供してくれたらしい。

 

「そうか、街の住人が……」


 オレたちは王都の住民からしたら、侵略者であることに変わりはない。

 カンナとキヅチのかわいらしさはもちろんあるだろうけど、復興に対する姿勢と頑張りを認めてくれたってことだろうな。


「ありがたく、いただこうか」


 その場にいるみなが頷いた。


「だれか、切り分けてくれるか」


 おっと、戦闘系九十九神はいつも何か切り刻みたくてうずうずしているような連中だから、だれか指示した方が良かったかな。

 クリームの目が血走っているし、ハガネもうずうずしていた。


「遅いですわ」


 天井から現れたブリュンヒルデがドレスから暗器を飛び出させ、無数に散らばる暗器で『ケーキ』を切り刻もうとした。


「……暗器で『けーき』を斬るなあ!」


 オレの叫びを聞き、ブリュンヒルデは黒傘をくるくると回しながら優雅に床に降り立つ。

 部屋の中で傘をさすなっての。


「あら、私の暗器は包丁よりもきれいにしてますわよ。

 毒を盛るときに変な汚れがありましたら、変な化学反応を起こしてしまいますから」

「だから、変な毒を盛るのに使った暗器でケーキを切るなってば」

「……暗器だって、私の可愛い娘ですのに……仕方ないですわ、ではナイフで」


 ブリュンヒルデが小指を立てるとドレスからナイフがひとりでに飛び出し、ケーキを周回するとあっという間に人数分に等分にした。


「「おおー」」


 アレクセイ、リンマやネコ族たちは驚嘆の声をあげた。

 九十九神たちはいつものことなので、特に驚かない。


「クリームお姉さまやハガネは大剣で、線の細い武器の扱いは不慣れでしょうから。

 ユーリ様、繊細な刃仕事は私の領分です、大雑把な人たちより私をぜひ握ってくださいませ」


 ブリュンヒルデはくすりと笑ってオレの手を握った。

クリームとハガネは立ち上がった。


「ブリュンヒルデ様、私だって『けーき』くらい斬れます」


 ハガネも立ち上がって抗議した。

 わりと穏やかなハガネだが、武器であることには誇りを持っていてこういう時は怒る。

 クリームはなおのこと。


「どちらが武器として上か、いますぐ力比べをしますか。

ブリュンヒルデ」


 火花が飛び散っているのが目に見えるようだ。


「お前達、座れ。

ケーキを食え」

「「ううう」」


 3人の九十九神を有無を言わせず、オレの命令に従わせた。

 せっかく作ったケーキを前に暴れられそうでククルがはらはらしていたからだ。


「ククルがせっかく作ってくれたケーキだ、楽しく食べよう」

「「はい……」」


 3人はおとなしくなった。


「では……召し上がれ」


 ククルの音頭でみなが手を合わせた。


「「いただきます」」


お読みいただきありがとうございます。


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