09 聖剣バルムンク
スカートをたくし上げる仕草はスカートを履いてから行うんじゃないの?
あの、正視できないよ?
色気たっぷりの女性がオレに近寄ってきた。
「えっと、クリームヒルト・グラムだっけ? 聖剣って……」
「あなたが欲した聖剣でございます。
先日あなたのものにされましたのにお忘れですか?」
少女は落ち着いた声と雰囲気を持っている。
「ソフィアが持っていた聖剣かな。
そうか、キミもハガネと同じようにオレのスキル【九十九神】でヒト型になれたのかな?」
「違うよ、ユーリ。
私とバルムンク様は違うよ」
ハガネが違うと主張していた。
え?何が違うの?
「私から説明いたしましょう」
あのね、何も着てない人がズズイって音が聞こえる程近くに来ないで欲しいんだけど。
あと、オレがハガネに覆いかぶさってるの気にならないの?
腕がプルプルしてるんだけど。
「ハガネ、戻りなさい」
彼女は、ハガネに息を吹きかけた。
「は、はい」
ハガネはたちまち剣に戻りオレの周りをフワフワ漂っている。
「魔力を通しやすい武器や防具、宝玉の類い。
そういった道具が長い年月を経て魔力を帯びるうち神格を得ることがあります。
それが、我々【九十九神】です」
彼女も自分の頭をトントンと叩くと剣に戻った。
ソフィアが持っていた聖剣だった。
――我々聖剣や魔剣、伝説級の武具たちは大抵神格化しています。もちろん、最近作られたものは別ですが。
テレパシーのような形での会話だが慣れると気にならない。
――もちろん、神格化といってもいろんな段階があります。知識だけ、意識だけを持つ場合、意識と知識と精神を持つ場合、そして――人に変化できる場合。
また、ヒト型に戻る。何も着てない。
「私はもちろん後者です。人に近いほど、神格が高いのですよ」
顔に褒めて褒めてと書いてあるので、頭を撫でてみる。
ハガネも勝手に少女に戻っている。
頭を差し出してくる。
「あのな。褒めてあげるから服を着ろよ」
「はーい」
ハガネはいそいそとオレがあげたローブを着る。
「服ですか、鞘以外のものに押し込められると恥辱をかんじるのですが」
あのな、お前がその格好で出歩くとオレが恥辱を感じるんだけど?
なんとかかんとか言っているので、オレがオリガからひん剥いたローブを渡してあげる。
「早く着ろよ」
「服って、何であるんでしょうね。
私たちは熱くも寒くもないのに」
どうやら着る気がないようだ。
「つべこべ言うなら剣に戻ってもらうぞ」
オレは強制的に剣にしたりヒト型にしたりできる。
「人に近いほうが神格が高いんだろ。
ハガネは伝説の武器でもないのに偉いな」
ハガネの頭を撫でてあげると、腕にしがみついてきた。
「ああ、おかしいなあハガネ。
あいつは神格の高い聖剣のくせに服も着れないみたいだなあ」
顔を真っ赤にして怒っていた。
「何よ! 着ればいいんでしょ、着れば」
プンプンしながら服を着た。
態度は偉そうにしてるけど案外子供っぽいところがあるなあ。
「ふう。心を落ち着かせて、と」
ローブをぴしぃと伸ばした。
ハガネは割とだらんと着てるんだよな。
「【九十九神】というのは、それはもう長い時間をかけて神格を得るのでございます。
私も話せるようになるのにどれだけの時間がかかったか」
私頑張りました! と顔に書いてある。
服を着たがらないという欠点に目をつぶれば案外扱いやすいのかもしれない。
「そして、その我々の努力をあざ笑うような能力がユーリ様に備わっている【九十九神】というスキルでございます。
例えば、ただの布。これにさえ一時的に神格を与えることができます」
オリガとロランを縛り上げた時に使った能力のことだな。
「また、一時的でなく完全に神の一柱を作り出せる能力。
これがユーリ様がハガネを作り出した能力です」
ハガネがオレの腕に寄り添う。
「お礼を言ってなかったね。ありがとう、ユーリ」
オレにくっついて上目遣いに見上げるハガネの顔を、今日はちょっとまっすぐ見れない。
「うん」
下を向いてあいまいな返事を返す。
「元気ない?」
っと、あんまりしょげているとハガネが気にしてしまうな。
ハガネに悪いとこなんてないんだからオレもそろそろ元気になろう。
「ハガネはまだ生まれたばかりで力の使い方もわかっておりませんし、無銘の一刀ですがあなたの側仕えに恥じない底力を持っておりますよ。
私がしっかり育て上げて見せます」
彼女がハガネの頭を撫でた。
「ありがとうございます、バルムンク様」
「あの、それでさ」
「何でございますか?」
少女は笑顔で答えた。
「何て呼べばいいの?キミのこと」
「あら、何度も自己紹介させていただいてますけど。私クリームヒルト・グラムと申します」
ローブをひらりと持ち上げる。
そうそう、そのポーズは服を着てやりなさいね。
「ハガネはバルムンクって呼んでるけど」
「ふふふ。女にはいろんな顔があるのでございますよ」
「偉そうな顔と怒った顔の二つしか知らないけど」
「夜の顔もございますが、試してみますか」
クリームヒルトはくすくす笑っている。
「私はクリームヒルト・グラム。またの名を聖剣バルムンクでございます。
他に魔剣、ドラゴンスレイヤーなどと呼ばれることもありますが、クリームとお呼びください。
あなたの前では、私も女でございますから」
「はいはい、わかったよ。
クリーム。これからよろしくな」
「はい、これから始まる長い長いユーリ様の伝説を一緒に作っていきましょうね」
クリームはオレに手を差し出した。
なんだかんだ言って、クリームはオレがずっと欲しがっていた聖剣だし、案外悪い奴ではなさそうだ。 ハガネの教育もしてくれるって言うし。
というか、いつもほんわかしているハガネがクリームの前ではピシッとしているのが気になる。
「では、まず手始めにどうやって女神を殺すか、それを考えていきましょう」
え?