ss 王都復興計画 その1 女騎士リンマ・シャロヴァ
ロシヤ王宮の広間にて。
王都復興計画の策定に、各種族の要人と職人の九十九神たちが出席していた。
オレの横には王妃であるハガネ。
人間たちからはソフィア、アレクセイ、リンマが出席。
獣人たちを代表してネコ族からリカルド、レナト。
九十九神からはまとめ役としてクリーム、建設担当としてカンナ、キヅチ。
そして二人のおやつ係としてククルが出席していた。
ルタとイゾルデにも声はかけたが、「人間たちの世界に干渉したくない」とのことで不参加。
ブリュンヒルデは……声をかけたがいつものように陰からオレをストーキングしていることだろう。
オレが聖剣を持って破壊した城壁よりも火竜が暴れまわって王都を無茶苦茶にしたことが響いている。
オレが『女神』からソフィアの身を守るため、王都を犠牲にした。
住民や建物に相当の被害が出た。
その選択に後悔はないけど、自分が招いたことだからできるだけことはしてやりたい。
ソフィアはその事でオレを責めたりはしないが、王都復興計画に関しては並々ならぬ情熱を持っているようで、先ほどから真剣な顔をして目の前に広げられた図面を見つめていた。
各種族の代表者たちが円卓を囲み、巨大な王都復興の計画図が広げられる。
司会をクリームが、王都復興計画の全容の説明についてはアレクセイが行う。
議論は紛糾。
各々自己主張を繰り広げてなかなかまとまらない。
クリームとアレクセイが作成してくれた王都復興計画は素晴らしいものであったが、人間であるリンマやレナト達獣人の利益調整は結局オレがするところとなった。
リンマは夕暮れでも活動できるように街灯の設置を希望していたが、夜目がきくレナト達獣人にとっては無用の長物であって、同様にレナト達が希望する雨天時対応の屋根付きグラウンド(獣人たちは走り回りたい)など人間にとっては特に必要としていないものだ。
というか、復興と言いながら各々好き勝手なモノを作ろうとしてやがる。
ただ、目を輝かせて希望を伝えてくる皆の願いもむげにはできないし……
「なあ、みんな好き勝手にわがまま言ってるな」
オレはアレクセイに愚痴をこぼした。
「王都の平民長屋の復興に、カンナ様とキヅチ様が力を見せつけてくれましたからね。
普通なら三月かかるところを3日でやってのけました。
九十九神の力があれば願いが叶えられるかもと、期待を膨らませているのでしょう」
王宮などは石造りであるが、王都の大半を占める平民の家は木造りであったため九十九神であるカンナとキヅチが得意とするところ。
木材を自由に操れるため、あっという間に住民が住める状況まで作り上げた。
内装などのちょっとしたところはもう少し時間はかかるけど、それは住民たちが自分の好きなように飾り付けていくだろう。
そんなことがあってからというもの、王都の住民からのカンナとキヅチの人気は凄いものがあり、街へ遊びに行くだけで民衆に取り囲まれてしまう。
まるで神様のように祭られて可愛がられて、今二人はふんぞり返って増長している。
まあ、もともと九十九神だから神様ではあるんだけどね。
ククルはそんなカンナの髪を梳かしてあげていた。
その様子を見て、リンマも自分もと申し出てキヅチの髪を梳かしている。
「リンマ、もっと優しくするのよ」
「はい、キヅチ様」
偉そうなキヅチであるが、桃色のかわいらしい着物を身にまとった背の低いその姿は8歳くらいの子どものようであり、金髪緑目のその顔は人形みたいなかわいらしさを持っている。
アレクセイの片腕リンマ・シャロヴァは青色の瞳を持つ凛々しい女騎士であるが、キヅチを優しく見つめ丁寧に髪を梳いていた。
聞くところによると、リンマの生家を火竜に焼かれ、あっという間に立て直してくれたカンナとキヅチを尊敬しているらしい。
レナトの質問にアレクセイが対応している間、オレはリンマの側に寄り話しかけた。
「キヅチ達と随分仲良くなったんだな」
「ユーリ様……このように近寄っていただいても私がユーリ様に襲い掛からないことに喜びを感じております。
そして、以前ユーリ様に襲い掛かったこと、重ねてお詫び申し上げます」
きちんと躾けられた女騎士であるリンマは、深々とオレに礼をした。
「はは、いいよ。
オレのことはもう殺したくなってないんだろ?」
「はい、しかし愛憎反転と聞きました。
私の思いが反転し、襲い掛かってしまいました。
主従を超えた思いを持ってしまったこと、深くお詫びいたします」
「あ、いや……ありがと」
リンマの思いを伝えられてしまったが……って、何と答えればいいんだ?
「リンマ、ユーリ様にはあまり近づかないでくれますか」
クリームがオレに近寄ってリンマを睨みつけた。
「は、すいません。
クリーム様、出過ぎた真似をしました」
リンマは敬礼をして少し距離を取った。
「ユーリ様、あの女騎士は貞淑に見せてすぐに色目を使います。
これだから、人間のメスは……ユーリ様、大丈夫ですか?
心を動かされてはいけません、人間はすぐにサカリのつく汚らわしい生き物です」
クリームはオレの肩を揺すってきた。
「あのなあ、クリーム。オレは人間なんだぞ。
それにお前、この前は子作りをしろと、リンマをオレにあてがおうとしてなかったか?」
オレはジトッとした目でクリームを見る。
「あの時とは状況が違います。
……私がいるじゃないですか」
「……私も……いるよ」
ククルがカンナの髪を梳き終えて近くに来た。
「ククルまで……まあ、いいけど。
クリーム、リンマをあまりいじめるなよ」
「すみません、つい嫉妬に狂ってしまいました。
受肉してから感情が豊かで、ごめんなさい。
リンマ、これからも仲良くしてくださいね」
「は、はい。
でも、ユーリ様をお慕いしている私は、あまり近づかない方がいいのです。
見つめられるだけで、幸せな気分になってしまいますから」
ここまで素直に思いを伝えられると、オレも意識してしまう。
「やはり策士ですね、すぐに懐にもぐりこもうとします」
「……私も……素直にならないとね」
クリームはジロッとリンマを睨んでいて、ククルは何だか自分に言い聞かせているようだ。




