ss カラダを取り戻した九十九神(1)
王都攻略して数日、連日の疲れがたたったのか。
いつも冷静沈着な参謀役のクリームが最近ぼうっとしているとのウワサ。
「これじゃ、会議になりません」とのアレクセイからの泣き言を受け、クリームの様子を見に来たわけだが……
途中、廊下でブリュンヒルデと会った。
「最近クリームの様子が変なんだが、ブリュンヒルデ何か知っているか?」
姿勢よくその場にたつブリュンヒルデは顔を真っ赤にしながら、そっぽを向いてオレと目線を合わせようとしない。
「私だって、私だって……ユーリ様はいつもハガネや、お姉さまばっかり可愛がって……私は姿を消しますからね」
ブリュンヒルデはひょいっと黒傘を体の前に出し傘を回転させると、傘ごと亜空間へと消えてしまった。
ブリュンヒルデはなんだかカリカリしていたな。
廊下の向こうからイゾルデとルタが来た。
「おや、ユーリ様。
ご機嫌いかが?」
イゾルデはオレに深く礼をした。
良かった、イゾルデはいつもと同じだ。
「なんだか、『女神』を封神してからクリームが変なんだが知っているか?
ブリュンヒルデもいつもより少し変だし」
「そうかあ、ボクだってそうだけど、肉体を取り戻した変化に動揺しているんだろうね。
特にクリームは恋なんてもともとしたことなかったからさ。
ボクでさえ、感情の変化にとまどっているのに」
イゾルデの頬もほんのりと赤くなっている。
「ボク達、九十九神だって女の子なんだ。
武器の体から急に女神の肉体を取り戻したら動揺しちゃうよ」
「ん?」
はて?
「イゾルデ以外は女の子ってこと?」
オレの言葉を聞いたイゾルデはぷくうっと頬を膨らませた。
「ユーリ様、ボクだけお風呂に誘ったりするからボクに夢中なのかと思ってたけど……男の子と思ってたんだね……ひどいや」
「ユーリはイゾルデにまで手を出すのね。
ハガネやクリームみたいな女っぽい体のひとが好きだと思ってた」
イゾルデは泣いているし、ルタにはオレが見境ない男だと思われている。
「いや、イゾルデは自分のことをボクって言ってるから男のことだと思ってたよ」
「いつもいつもお風呂に誘ってくるユーリ様を断り続けているのも悪いから、今度誘われたら……覚悟を決めようと思ってたのに、ひどいよ」
イゾルデは、走って逃げだした。
あ、イゾルデの走るところをはじめてみたけど、確かに腕を左右に振って女の子の走り方をしている。
「イゾルデの覚悟を踏みにじったユーリ。
自分から誘う勇気を出せずに逃げ出したイゾルデが悪いから、ユーリのことは許してあげる」
なんだかルタに許された。
「でも、イゾルデからお風呂に誘ってきたら一緒に入るんだよ?
ルタは、愛と勇気の味方だから」
ルタはそういうと自分の部屋に戻っていった。
イゾルデは女の子だったのか。
つい、一緒に風呂に入ろうと誘っていたけど。
風呂に誘うときのイゾルデの顔はなんだか赤いなあと思っていたけど……
確かにイゾルデはきれいな顔をしているんだが、体のラインも細くてメリハリがあまりないからわからなかったんだよなあ。
考え事をしている間に『作戦指令室』。
クリームやアレクセイ、リンマなどが主に軍事を話し合うところ。
この時間は作戦指令室にいるって言ってたからクリームの様子を見てみようか。
会議を行っている広間へこっそり忍び込んだ。
アレクセイがオレに気づいてうなずく。
クリームも戦闘を生業としている聖剣の九十九神なのだからいつもであればこれくらい気づきそうなものだが……
クリームは左手の人差し指を唇にあて、ぼうっと上の方を見つめている。
アレクセイの話が全く耳に入っていないようだ。
クリームは長く伸ばしたツヤのいい黒髪をサイドにお団子を作りまとめていた。瞳は切れ長でクールな印象を与えるのだが、ぷっくりとした唇がかわいらしさと妖艶さを主張してくる。
黒のジャケットとスカートから伸びる長い脚には白いタイツとガーターベルト。
結構スカートが短いのでつい目を奪われたりもする。
全体的に知的で色っぽい印象を与えるクリームであるが、今のクリームはちょっと目がトロンとしていて、何も考えていないように思える。
「体が、熱い……ユーリ様……」
「あの、呼んだか?」
オレがクリームに話かけるとようやく我に返ったよう。
「へ、あ。ユーリ様。
……いつの間に服を着たんですか?」
「オレはさっきから服を着ている。
寝ぼけているんじゃないのか?」
クリームはあたりを見回す。
「温泉地で……ユーリ様と一緒にお風呂に入って……お前を愛していると言ってくれて……二人で朝まで抱き合った……あれは、夢だったんですか?」
まぶたをこすりながらクリームは夢の話をしているようだ。
なんて夢見てやがる。
「夢だ。
ここはロシヤ王都で、アレクセイと会議中だ。
しかし、最近クリームが白昼夢を見ているようだと言ったが、どうやらそうみたいだな。
ぼーっとしてるようだ」
「それは……すいません。
恥ずかしながら、執務が行えるような状況ではないみたいです。
先ほどの夢ではっきりとわかりました」
クリームは肩を落とした。
「仕方ないですね、少し休みましょう」
アレクセイが落ち着いた声で話しかけてきた。
「今日一日、休みにしても問題ないようにスケジュールを組んでおきます。
ユーリ様、クリーム様はお疲れのようです。
夜伽の間でゆっくりと休ませてあげてはいかがですか?
あそこが一番防音がしっかりしていますからね」
ありがたく、アレクセイの好意に甘えよう。
「クリーム、少し休もう」
「で、でも仕事が……」
割とクリームは仕事中毒で、放っておくといつまでも仕事をしてそうだ。
「言い方が悪かった。
命令だ、休め。
オレと夜伽の間へ行くぞ」
「は、はい!」
オレはクリームを抱っこしてあげる。
「あ、歩けますよ」
クリームは少しびっくりしたようだ。
「まあまあ。
オレがお姫様抱っこしてあげたいんだ、嫌か?」
「……嫌なわけないじゃないですか。
すねたような顔するのずるいですよ」
クリームは口では怒っているようだが表情はにこやかだ。
「嫌じゃないなら、ベッドまで連れて行くよ」
「……お願いします」
満足そうなクリームは、腕を首に回してきた。
「楽ちんですね」
二人で廊下を歩くと、すぐについた。
夜伽の間の扉を開け、クリームをポイっとベッドに投げる。
「最後が雑ですよ」
「ぎゅーってしめつけるからだ」
オレはクリームにそう言うと、お茶の準備に取り掛かる。
夜伽の間は、給湯、調理、風呂まで備えたその気になれば一週間お籠りできる部屋だ。
なるべく、邪魔はされない作りになっている。
「私が、作ります」
「いいよ、おれが作る」
「……では、一緒に作りませんか?
私、手伝いますから」
クリームは嬉しそうにお茶のためのコップや皿、銀食器などを準備していた。
ポッドを取ろうとしていたオレの手が、皿を準備していたクリームに触れた。
「あ、すいません」
「いや、こっちこそごめん」
あれ?
おかしいな。
オレが振り返るとクリームは、はにかんだように笑っていた。
「クリーム、体がいつもより暖かくないか?」
「気づかれましたか。
武器としての体から、女神としての体と力を取り戻しました。
その一つとして、体温が戻ってきたのです」
クリームは近づいてオレの手を握った。
「抱きしめると、きっと暖かいですよ」
クリームは上目づかいでオレを見上げた。
読んでいただきありがとうございます。
3章完結に伴い、いろんなヒロインを掘り下げるssをしばらく書いていきます。




