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79 蛇と赤竜

 さて、ロランも封じ込めたし宝物庫を探すか。

 手と口を封じたので魔法使いであるロランは何もできないはずだ。


 オレは宝物庫へ近づき扉に触れた。

 微弱な発光があったが、開かない。

 近づいてみると金属製であったのでハガネに開扉を頼んでみるか。

 ハガネは金属製の道具であれば眷属として使役できるからだ。


「ハガネ、扉開くか?」


――うん。やってみるね。


 背丈ほどもある大きな両手剣だったハガネは瞬時にヒト型へと戻ると、扉の近くで右手をかざし、瞳を大きく開いた。


「我は九十九神、眷属である扉よ。

 我に従い、閉ざしたそなた自身を解放せよ!」


 普段の優しい声とは違う低く響く声を発し、眷属である扉に命令を下した。

 

 ギイィ


 重そうな扉が自ら開くと、小部屋の中には相当量の金銀財宝の類い。

 ただ、今回オレ達が求めているのは金目のものではない。


 あらゆる『スキル』、『能力』を封印できるという【封印の剣】を探しに宝物庫まで来たのだ。


 クリームの指揮の元、宝物庫の財宝を外に運び出ししらみつぶしに封印の剣を探す。


「ここではないのか?」


 運び出された財宝を見てクリームがつぶやいた。


「半物質が、動いている」


 ルタはふわりと空中に浮き、あたりを見回した。


「私以外に【直接魔法】を使えるものがいるの?」


 ルタは空中で目を動かしていた。


「風が、動いている」


 クリームが何か異変を感じ取っている様だ。


「何が見えるんだ?」

「私にも、風が変だとしか……」

「半物質が集まってきている、だれが、何をしようというの?」


 ルタは、空中を目で追っているが、急に大声で叫んだ。


「ユーリ、座標を固定しないで」

「え?」

「逃げて!」


 オレは何が起きているのかわからず呆然と立ち尽くしていた。


「ユーリ様!」


 クリームが、オレを突き飛ばした。

 それと同時に、クリームの胸に丸い穴が開いた。


「ぐううううう」


 クリームはその場に崩れ落ちた。


「クリーム!」


 オレは倒れたクリームに駆け寄り抱きかかえた。

 いったい何があったって言うんだ?

 オレにわかることは、クリームがオレをかばってくれたってことだけ。


「ロラン、あなたそこまでの領域に達していたのね」


 そうつぶやいたロランの目線には、手も足も縛られていながら宙に浮いているロランがいた。

 魔法か何かの類か?


 ルタは、ロランとオレ達の間に割って入った。


「詠唱も魔法陣も出来ない状態でクリームに風穴を開けた……直接魔法を使えるなんてね……ロラン、あなたどれほどの禁術に手を出して直接魔法までたどり着いたの?」


 ルタは空中を目で追い、手を振った。


「でも、ルタには効かない。

 半物質が見えるからね。

 直接魔法使いとしての年季が違うよ。

 みんなにも【半物質】が見えるようにするからね」


 ルタが両手を左右に広げるとあたりには、透明な羽のようなものが、空中に浮かんでいた。

 ロランから発する羽のような【半物質】をルタが押し返して消しているようだ。

 オレ達に見えなかった【半物質】によってクリームの身体に穴が開いたのだろうか。


 オレが、ロランを一撃で仕留めなかったから……クリームの胸に穴が開いてしまった。

 オレは胸元から硬貨を取り出し、握りしめた。

 その手をクリームが握り、オレに話しかけた。


「硬貨を投げないでください……私に考えがあります」

「無理するな」

「まだ、倒れられませんから。

 ロランを殺すには手順が必要です」


 クリームが身体を震わせ、九十九神達と【共鳴】した。

 意思を伝達したのだろう。


「よくやったぞ、クリーム」

「私はもう動けません。ブリュンヒルデ、あとは頼みましたよ」


――わかりました。お姉さま。私が、ロランを封じ込めます。ルタその後……確保をお願いしますね。みなは少し離れた所でどうにでも動けるよう待機しておいていただけますか? アリシア、行きますわよ!


「はい!」


 ブリュンヒルデの掛け声でアリシアがロランにとびかかると、剣型となったブリュンヒルデからシュルシュルと黒い紐が伸びてロランに近づいていく。

 紐の先がロランの体に触れると、幾重にもロランを縛り始めた。

 ロランは、空中で身体を動かし抵抗するが黒い紐に侵食されていく……

 

【影縛り(シャドーバインド)】という魔法により、亜空間へロランが飲み込まれる直前、ロランの身体から桃色をした半透明の細長いものが抜け出た。


「今よ!」


 ルタは羽のような半物質を操作し、その桃色に絡みつかせた。


「受肉しなさい、『女神』。

 そしたら、殺してあげるから」


 ルタの命で半物質が絡みつくが、桃色はほのかに発光した後、半物質を遠くへ押しやりふうっと空へ逃げた。


 ルタが叫んだ。


「いけない、ソフィアを殺して!

 とりつく気だよ!」


 アリシアがブリュンヒルデを突き出すと、無数の暗器が飛び出しソフィアへ向かっていく。

 

「ソフィア!」


 オレはクリームを寝かせ、ハガネを握りこむとソフィアの元へ駆けつけ暗器を打ち払った。


「ユーリ様、その桃色を斬って!」


 クリームの叫びを聞き、オレはハガネを振り下ろした。

 桃色は、ハガネの切っ先が届く前にソフィアの胸に入り込んだ。


 再度、アリシアがソフィア目掛けて暗器を飛ばした。

 オレは、ハガネを手放しソフィアを両手で抱きかかえ暗器の前に身をさらした。


「……ソフィア」

「ユーリ様!」


 ブリュンヒルデが慌てて人型となり、暗器を使役した。

 オレの体を薄皮一枚傷つけて、暗器は止まった。


「ソフィアが何をしたっていうんだ……

 どうして死ななければならないんだ」


 ソフィアはいつだって弱い者の味方で、責任感があって曲がったことが大嫌いだった。

 

――そうねえ。ユーリ、想定よりも早くあなたが強くなったからかしら。


 ソフィアはオレに微笑んで、立ち上がった。


 何だ、今の声……ソフィアが口を動かしていたけど、直接脳内に響いてくるような……


――成長著しいロランに任せてはいたけれど、ユーリあなたには敵わなかったみたいね。でも、ロランは十分な働きをしてくれたわ。あわよくばユーリ、あなたの始末をしてほしかったところだけど……クリームを倒してくれてとても助かったわ。【竜殺し(ドラゴンスレイヤー)】をつぶしてくれて。


 口を動かし続けているソフィアの額には赤い蛇のかたちをしたあざのようなものが浮かんでいた。


――ねえ、ユーリ。一騎打ちをしてくれるかしら。


 ソフィアはオレを見て微笑んだ。


「だれだ、お前」


 オレは、ソフィアを睨みつけた。


――あは。さすがに気づかれるわね。でも、あなたが一騎打ちの承諾をしなくてもどのみち、私に一人で挑むことになると思うわ。みな忙しくなるから。


 昔聞いたことのある咆哮とともに、巨体が空を滑空していた。


――どこから現れたというのです!


 アリシアに握られているブリュンヒルデが驚いて声を上げた。

 

――あなたに気づかれない方法など、いくらでもあるわ。ブリュンヒルデ、あなたは自分を過大評価しすぎるのよ。


 我々のいる宝物庫前の広場を上空からの影が埋め尽くした。

 その広げた翼を見て、オレは久しぶりに恐怖を感じていた。


 ソレは我々の上を滑空して通り過ぎ、宝物庫の上にある塔へ着地した。

 

「赤竜か……」


 昔ソフィアと二人で戦った赤竜だろうか。

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