08 レプリカ
「遊ぼう」っていうと「殺すぞ」っていう。
「馬鹿」っていうと「殺すぞ」っていう。
「もう遊ばない」っていうと「殺すぞ」っていう。
そして後で寂しくなって、
「ごめんね」っていうと、「殺すぞ」っていう。
オレが嫌われているんですかね。
――はい、その通りです。
何とかなりませんかね。
――何ともなりませんね。
「うわああああああああああ!」
オレはうなされて目を覚ました。
城から逃げ出して以降、特に夢見がひどい。
ハガネたちが森の中で見つけてくれた廃小屋にとりあえず避難した。
食べ物はないが、幸い布団などはそのまま置いてあった。
疲れていたオレはここ数日寝てはうなされて起きてを繰り返している。
起きた時には大量の涙。
いつもハガネが新しいタオルを渡してくれる。
「ありがと」
「いいよ、ユーリ。もう怖いことないよ。
私が守ってあげるからね。大丈夫だよ」
「……うん」
ひとしきり泣いた後、疲れ果てて寝る。
ここ数日眠れなくてうなされてばかり。
それで毎回毎回、ハガネをびちゃびちゃにしている。
ごめんね、ハガネ。
ハガネが自分で前を拭き終わると、いつものように肩越しにタオルを渡してきた。
背中までオレの涙で濡らしてしまっている。
ハガネの背中を拭き終わると、小さな傷一つないハガネの背中に見入った。
「何してるの。
背中に何かついてるかな」
「いや、何でもないよ」
後ろからハガネを抱き締めた。
「ふふ、どうしたの? 甘え足りない?」
ハガネがオレに問いかけてくる。
「うん」
ハガネの肩に顔を預けた。
「ハガネは寝るとき、服着ないの?」
「びちゃびちゃになっちゃうんだもん」
オレのせいか、反省。
「ごめん」
「ううん、いいんだけど」
ぴったりとくっついているとハガネの背中が温かくなってきた。
「ユーリは温かいね。
くっついていると私も温かくなるよ」
ハガネにくっついたまま、ハガネの背中を見ていた。
ヤケドどころか、傷一つない背中をみつめているとポロポロと涙が出て来た。
「泣いてるの、ユーリ」
涙がハガネの背中をつたっていくのを眺めていると、不意に胸が締め付けられるように感じてハガネにしがみついた。
ハガネはオレを抱きしめてくれたが一向に胸の痛みは治まらなかった。
オレはハガネを強引にこちらへ向かせ、力強く抱きしめた。
ハガネはぎゅっと抱きしめてくれたが、ハガネの体の冷たさに今はいら立ちを覚えてしまった。
「ユーリ、辛いの? ねえ、どうしたらいい?」
ハガネはオレを抱き締めながら心配そうに声をかける。
オレは強引にハガネを押し倒した。
胸が痛くて、苦しくて。
涙を溜めたままハガネに覆いかぶさった。
ハガネはオレの顔に両手で触れた。
「大丈夫?」
ハガネはオレを心配してくれていた。
それすら、ささくれだった心はいら立ちを覚えてしまう。
いら立ちをぶつけるように、ハガネの唇を奪おうとしたその時、後ろから声がした。
「ユーリ様。ハガネはわずか7年で神格を得ました。
そのこと自体がユーリ様からのハガネへの愛の深さを証明するものと私は心得ております」
後ろには裸の女性が座っていた。
「ただ、ハガネはまだ生まれたばかり。
抱くなとは申しません。
あなたの寂しさに沿うものとして、ハガネは神格を得たのですから」
女性は話しながらズズイっと近づいてきた。
「ただ、ユーリ様。ハガネを見てあげてはくれませんか。
あなたをお慕いしているハガネをちゃんと愛してあげてください。
あなたの心の奥深くに住まわれているお方を追い出せとも申しません。
ただ、他の人の代わりで抱くのであれば、私が相手をいたします」
女性は20(はたち)くらいだろうか。
裸で土下座しているので、背中のラインが丸見えだ。
均整の取れた美しい体のラインをしている。
「あの、キミだれ?」
彼女はスカートをたくし上げる仕草をした。何も着てないけど。
「申し遅れました、私はクリームヒルト・グラム。あなたが欲した聖剣でございます」