78 VSロラン・クドリン(2)
無数の氷針をオレに向かってくる直前で全て破砕した。
キラキラと光を反射して輝いている。
「けっこういい技じゃないか、ロラン。
対処に時間がかかってしまった」
「ご丁寧にどうも、ユーリにお褒め頂き光栄だよ」
ロランはそう言いながら、地面に魔法陣を展開、【石弾】と【氷弾】を連続で打ち込んでくる。
氷針の対処で時間を食ってしまったため、ロランの足元には無数の魔法陣が敷かれており、次々と魔法弾が射出されている。
「数が多いから、全部斬り倒していると手数が足りずに食らってしまうな」
あ。
あれがあったか。
「そらよ」
オレは【石弾】にアリシアが飲まされた魔導球をぶつけた。
黄色に染まっていた魔導球から、土魔法【岩石積】が飛び出し、あたりに石壁を作り上げた。
【石弾】はすべて石壁に受け止められた。
「ブリュンヒルデに飲ませたのは火魔法か。
ちゃんと考えてあるんだな」
【氷弾】にはブリュンヒルデが飲まされた赤い魔導球をぶつけた。
氷弾とぶつかると光を放ち、爆発を起こした。
爆発の範囲は狭いが、生じた熱は尋常ではない。
あっという間に氷弾は蒸発して消えた。
「この威力では金属武器の私は溶けて死にますわ。
あまり見かけない魔法ですわね、お姉さまご存知ですか?」
ブリュンヒルデがクリームに問う。
「私も初めて見ましたが伝え聞くところによると【白色爆光】でしょうか……
禁術には違いありませんが、あまりにもマイナーな魔法をチョイスしていますね。
火魔法の系統は、威力系と広範囲系に分かれるのですが……」
クリームは博識で、魔法の系統などにも詳しい。
「人間が、火魔法の威力を高める魔法を覚える必要はあまりないのです。
魔獣も人間相手も【火球】で十分ですからねえ。
火球の次には、広範囲魔法を覚えるのが常です。
狼の群れなどに重宝しますからね。
【白色爆光】は強い魔法ではあるんですが、習得を後回しにしますよね。
金属生命体相手に魔法使いのみで戦うようなことはほぼありませんから」
クリームは不思議そうにしている。
「ロランは【魔法使いの加護】のお陰なのか、魔法の習得が速いんだよな。
あっという間に覚えてしまうんだ」
「もしかしたらエルフの領域や、魔女の領域にも近づいてしまうのかもしれませんね。
あと10年も時間があれば」
寿命のせいで、どうしても人間はエルフや魔女には魔法習得の点で不利である。
覚えのいいロランであれば、時間さえあればエルフや魔女の魔法すら行使できるかもしれない。
「ふん、オレの魔導球を効果的に使いこなしてやがるな」
ロランが小さな火球を連打しながら、間合いをキープしようとする。
オレは火球をハガネで斬り払って間合いを詰めていく。
「オレだってなあ、近づかれた時の対策くらいしてあるんだよ」
ロランは左手でムチを取り出す。
オレは構わずロランとの間合いを強引につめるべく、走り寄った。
「強気だなあ、ユーリ」
ロランは、鞭を繰り出す。
バチィッ
オレはハガネで受け、鞭を巻き付かせながら近づいた。
――ムチに魔導球がつけてある。
「くそ、魔導球ならオレが抑えられるはず……」
「九十九神よ、眷属たる魔導球の破裂を防げ」
――止まらない、魔導球の周りに魔力を流してあるよ。
道具を司る九十九神の当代であるオレは道具はすべて行使できるが、魔力には干渉できない。
「それくらい、対策するよ。
お前はオレより格上だ、オレだってそれは認めてるんだから」
ロランはムチに魔力を込め続けているようだ。
「ハガネ、頼んだぞ!」
――まかせて!
「【流体防御障壁】」
ハガネの刀身から銀色に光り輝く防御障壁が作り上げられるのに合わせて、オレが力任せに鞭を奪い取る。
「その距離じゃ防ぎきれねえだろ、食らえ!
【白色爆光】!」
爆発が起きる前にハガネの防御障壁が、魔導球を完全に取り込んだ。
「何だと!
だが、防ぎきれるわけがねえ。
禁術3発分ぶち込んであるんだからなあ」
魔導球が爆発し、光と熱をあたりにまき散らした。
――うわあ、私が防御障壁を展開していくスピードより速く溶けるよ。でもね、力で全部勝たなくたっていいんだ。ユーリが、一つ目巨人退治のときに、私に教えてくれたよ。
「熱が伝わってくる……ハガネ、防御障壁の天井が溶けるぞ!」
光と熱をまき散らして、【白色爆光】は弱まることなく防御障壁を溶かし続けた。
「防御障壁が溶けた時がお前の最後だぞ、ユーリ」
「ハガネ、もう天井部分が持たないぞ!」
ハガネは、剣型からヒト型から戻った。
「ユーリ、伏せて」
ハガネは立ったままオレのに笑いかけた。
「馬鹿、お前も伏せろ」
「私はやることが残っているから」
ハガネはすました顔で答えた。
伏せたままのオレの手を握る。
「私も、強くなったんだよユーリ」
「知ってるよ」
ハガネはいつも努力していた。
少しづつだけど、いろんなことが出来るようになっている。
防御障壁が溶け、炎が外へ噴出した。
「伏せろ、ハガネ!」
【上昇気流】
炎が噴き出すと同時に、防御障壁に刻まれた魔法陣が光った。
噴き出した炎は熱と共に、あっという間に防御障壁から噴き出す風によって上方へ運ばれて行った。
あれだけの熱が噴き出したにも関わらず、オレもハガネもヤケドひとつ負ってはいない。
ハガネが風魔法を行使したからだろう。
「ユーリ、私も魔法が二つ使えるくらいには強くなったんだよ」
満面の笑みを浮かべるハガネに抱きついた。
「ハガネ、ハガネ……」
こんな策があるなら教えて欲しかった。
オレがお前をどれだけ心配したと思ってるんだ。
「心配させてごめんね」
ハガネは抱きしめられたままオレの背に手を回した。
「ち、ちくしょう、まだまだオレは負けてないぞ」
ロランは、魔法陣を構築し始めた。
「ユーリはロランが強くなったのを確認したかったんだね。
もう、いいと思うよ、全力を出しても」
「じゃあ、そうするよ」
オレの胸の中でヒト型となったハガネを握り、オレは、ロランに向けて硬貨を投げた。
「効かねえよ」
ロランは右手で硬貨を受ける。
オレはすぐさま左側にもなげ、左手で受けさせる。
「効かねえってんだろ」
手を前方に突き出したロランの懐はがら空きだ。
「ボディが開いてるぞ」
オレは下から飛び込み、ボディに一発叩き込んだ。
「ぐぅううううう」
ロランは、痛みに足から崩れ落ちた。
「ロラン、オレもお前を舐めちゃいないよ。
勝負が決まったから完全拘束させてもらうぞ」
衣服を司る九十九神、シザーがオレに近づいてこう言った。
「健闘を称えて、衣服ではなく飾り付けてあげるよ。
ユーリ様は少し乱暴だからね……私が痛みもなく拘束してあげよう」
シザーは空中で一回転して、ロランに告げた。
「我は九十九神。
レインボーテープよ。稀代の魔法使いロランを丁重に包装してやりな!」
シザーが放り投げたレインボーテープがロランを独りでに縛り上げた。
「ち、ちくしょう……」
シザーはロランに近づく。
「キミは魔法使いだったね。
詠唱させるわけにはいかない。
悪いけど、口も塞がせてもらうよ」
シザーが鮮やかな手口でロランの口をグルグル巻きにした後、飾り付けを行った。
「大きめの蝶々をプレゼント。
気に入ってくれると嬉しいな」
「ううう……」
ロランは悔しそうに足を地面に叩きつけた。




