77 VSロラン・クドリン(1)
「ロラン、お前の口から正々堂々なんて言葉が出るなんてなあ、悪いもんでも食ったか?
いつだってオレの意表を突こうとしていたくせに」
オレはロランを挑発する。
昔のままであればすぐに頭に血が上っているはずだ。
「仕方ないだろ、ユーリは強いんだ。
地力では到底敵わない弱者の兵法を否定しないでくれ。
そもそも魔法使いが真正面から1対1で戦士に勝てるんだったら、世の中魔法使いだらけになってしまうよ」
ロランは自分を嘲って笑っているが、けして挑戦的な目をやめようとはしない。
「ユーリ、一つだけ約束してくれ。
いや、お前が聞く道理はないからお願いに過ぎないんだけどな。
前にお前と戦った時、お前はソフィアとは真剣に戦った。
オレとオリガは眼中にもないという風に、衣服で縛った」
ロランは唇を噛み締めた。
「オレは魔法使いだ。
杖とローブに魔法術式を組み込んで威力を増幅している。
そいつらに裏切られちゃ、オレはスッポンポンに徒手空拳でお前に挑まなきゃならない。
オレも武器装備の戦士にスッポンポンで勝てるなんて思ってない。
後生だ、服と杖だけは手を出さないでくれ、ユーリ」
ロランは、オレに向かって深く頭を下げた。
「礼で足りなきゃ、地面にだって頭をこすりつけてやる。
なあ、頼むよ……オレは、お前と全力で戦いたいんだ」
プライドの高いロランがオレに頭を下げている。
「ロラン。ブリュンヒルデたちを解放してくれ。
お前に手は出させない。
オレが引導を渡してやるんだからな」
「わかった。
解放したブリュンヒルデはお前が手綱を引いてくれるんだろうな」
ロランが魔法陣の解除に向かった。
「任せろ」
オレはロランに誓った。
ロランが杖を地面に下ろし、軽く詠唱すると、魔法陣が光り出した。
その魔法陣を杖でいじり修正しているようだ。発光が終わったが、ブリュンヒルデを縛る磁力が消えたのだろうか。
ブリュンヒルデは起き上がるや否や仕込み傘をロランへ向けようとしている。
躊躇なくロランを撃とうとするのを先手を取って止めた。
「ブリュンヒルデ、オレに恥をかかせるつもりか」
ブリュンヒルデはあわててオレに頭を下げた。
「す、すみません、体が勝手に……
私ったら敵の手に落ちて、主人であるユーリ様に決闘の際の条件を飲ませてしまうなんて……
穴があったら入りたい……私は貝になりたいですわ」
「おいで、怒ったりしないから」
オレはブリュンヒルデに声をかけた。
ブリュンヒルデとアリシアはオレに向かって走ってくる。
「すみません、すみません……ユーリ様……あの程度の罠に……」
いつも飄々としているブリュンヒルデが泣きそうにしている。
「大丈夫だよ、ブリュンヒルデ。
お前はいつも頑張ってる。
オレお前に凄い助けられてるからな」
「ユーリ様……」
ブリュンヒルデはオレに抱きついてきた。
「ユーリ様は私が魔剣だからって、遠ざけていらっしゃいます。
……ハガネやお姉さまには、夜伽の間であんなことやこんなことをしていらっしゃるのに……最近は私を握ってもくれませんわ」
「お前、覗いているだろ」
ブリュンヒルデはオレの胸に身体を預けながらオレの質問に答えた。
「……警備をしているだけですわ。
私も、夜伽の間に呼ばれてみたいのに……」
駆け寄ってきたアリシアがブリュンヒルデの手を握った。
「ブリュンヒルデさま、お可哀そうに……で、でも最近、ユーリ様は、わ、私にもあまり、か、構ってくれません」
ブリュンヒルデとアリシアは二人で抱き合ってメソメソしている。
「おい、戦闘中だぞ」
「戦闘が何だって言うんですか」
ブリュンヒルデはオレの言葉に怒って言い返してきた。
「ロランみたいな小物、さっさと倒して私と遊んでくださいね」
「わ、私ともですよ」
ブリュンヒルデとアリシアはいつの間にかとても仲良くなったようだ。
ピッタリと寄り添っている
あ、魔導球抜いてあげないとな。
オレはブリュンヒルデとアリシアから魔導球を取り出した。
「ユーリ様」
クリーム率いる本体がどうやらオレの元に合流したらしい。
「クリーム、王の間へは予定通り進軍できているか?」
クリームはオレのすぐそばまで来てかしづいた。
「はい、王の間へはアレクセイとリンマ、レナトとリカルド、ダリオ。
人と獣人が手を取って王に立ち向かい、新しい国を手に入れる……筋書き通りに進んでおります」
「そうか、ご苦労」
オレはクリームに笑顔を返した。
これで革命後の統治はほぼ問題なくうまく行くだろう。
「ロラン、一騎打ちは受けてやるがたとえオレを倒したところで勝ち目はないぞ。
お前たちと別れた時とは違う、オレの仲間はこんなにいるんだ」
オレの後ろには、シザーやククルなどの九十九神、農奴や獣人も後ろには控えている。
ロランは、オレの後ろの大軍勢を見てふっと思い出したように笑い、オレに話しかけてきた。
「ユーリは、もともと人気者だったよ。
オレ達が育ったナチャロの村でも、お前はみんなの中心にいた」
ロランは杖を握った。
「ユーリ、ソフィアから距離を取りたい。
こちらへ来れるか?」
ロランはソフィアを寝かせた布から随分と離れオレと向かい合った。
杖を握り込む力がこもっているのが見て取れた。
「行くぞ、ユーリ」
「ハガネ、行けるか」
オレの手元に握り込まれた剣型のハガネに問いかけた。
――うん、大丈夫。
オレがハガネを握り込むと、オレの背中から黒い翼がはためいた。
「黒い翼か。
ユーリ、だんだん人間離れしていくな」
ロランがオレの翼を見て呟いた。
「まあ、その羽をもいでオレが人間に戻してやればいい。
行くぞ、ユーリ。
試合開始の合図は、そうだな」
ロランが空中に氷剣を作り出した
「オレの氷剣が……お前の脳天を突いたときっていうのはどうだ?」
ロランは氷剣に風魔法を付与し、飛ばしてきた。
「いちいち、不意を突かないと気が済まないのか、ロラン」
……ハガネあの氷剣制御できるか」
――ダメだね。ロランは私たちをずっと監視していただけあって対策をしているみたいだね。氷剣に魔力を通しているよ。
「じゃあ、破壊するか」
――うん。
オレは、目の前に来た氷剣をハガネの一振りで砕く。
破砕された氷剣は、小さな針のような大きさになりながらもその場にとどまった。
「へえ、その小ささでも魔力を保てるのか」
――ユーリ。
「わかってるよ、ありがとうハガネ」
氷剣、いや破砕された無数の氷針が動き出す直前で十字にハガネを振りかき消した。
すみません、長くなってしまって分割しました。
読んでいただいている皆様、ありがとうございます。
先週は風邪で更新頻度少なくてすいません。
3章クライマックスへ向けてしっかり書いていきます、よろしくお願いします。




