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72 武器と衣服が空を舞う

 オレは魔法陣の真ん中に立つ。

 5万の兵を一度に相手にするには、魔法陣の増強と魔力の補充が不可欠だ。

 ブリュンヒルデが構築した魔法陣の上で、氷竜の洞窟で採取した魔鉱石をかち割り、その場を魔力で満たす。


「九十九神よ、その眷属たる武器よ、鎧よ、服よ、下着たちよ!

 今こそ我に力を貸し、歩兵たる主人から離れ、我の元へ参集せよ!」


 オレは、戦場を占める大多数の歩兵を無力化するするべく、武器や鎧、ついでに服や下着を参集させた。


 スポーーーーン、と鎧と武器が空を舞う。

 服と下着も遅れてついてきた。


「うわああああああ、武器が、鎧が、服がああああああ」

「「いやあああああああああああ!」」


 戦場に光る武器や防具の鈍色にびいろはあっという間に肌色へと変わった。

 全裸の兵は呆然として、騒いでいた。


「ユーリ様にかかれば、5万の兵もかたなしですねえ」


 アレクセイが感嘆の声を漏らす。


「ふふ、51,348人ですわ、正確には」


 ブリュンヒルデが人数を正確に伝えてくれた。


「さて、素っ裸な歩兵でも虹色に染め上げようか、シザー」

「ハハ、ユーリ様、お安い御用さ」


 シザーは魔法陣の中心に立ち、右手をまっすぐ前にかざした。

 オレはシザーをぎゅっと抱きしめた。


「ハハハ、魔力増幅のためだとはいえ、私だってユーリ様に抱きしめられたら

少しは意識してしまうよ」


 シザーは身体を震わせ、大声で叫んだ。


「九十九神よ、私の眷属たる可愛いレインボーテープ。

 5万の歩兵を飾り付けるといいよッ!」


 シザーの掛け声でレインボーテープは虹色をまといながら、瞬時に空を移動した。

 空は一面虹色に染まり、5万の兵士の肌色はあっという間に虹色でグルグル巻きにされた。


「「あばばばっばばばばば」」


 5万の歩兵があっという間に可愛らしいテープにまかれて動けなくなった。


「よくやったぞ、シザー」


 シザーはオレにぺこりと礼をした。


「ははっ。お安い御用さユーリ様。

 また、機会があれば抱いてくれると嬉しいよ」


 人聞きが悪いな。


「カンナとキヅチも抱いて」


 カンナとキヅチが抱きしめてきた。


――ユーリ様、カンナとキヅチはまだ子どもですから、ダメですよ。


 あのね、クリーム。

 オレはそういう趣味はないぞ。


「二人とも、シザーの手伝いありがとね。

 ほら離れて、危ないから」


 ハガネがカンナとキヅチをなでてあげていた。


「……行こ。二人とも頑張ったから……砂糖菓子、あげるよ」


 ククルが二人を連れて行った。


 さて、王国軍の歩兵は沈黙した。

 あとは、獣人と騎兵たちだけど……


「グルルルルルア!」


 レナト達獣人は、敵に向かって突っ込んでいった。


「あまり、殺すなよ?」

「ウガルウウウアアアアアア!」


 頷いていたようだが、ホントに言うこと聞いてくれるかな?

 リカルドやダリオはまだしも、レナトは獣化していたし……


「さてと、大抵無力化したから、降伏宣言を聞いてくれるといいけどなあ」


 オレは空に飛び上がった。


――フフ、ユーリ様。私とユーリ様。息ピッタリですからね、足場を今作りましたよ。


 クリームは今からのオレの口上をお膳立てするため、足場を作ってくれていた。


「よし」


 オレは風魔法で作られた足場に降り立った。


「ロシヤ王国軍将校たちよ。

 大多数を占める歩兵は刈取ったぞ。

 数の優位はもはやお前たちにはない。

 それでも、負けを認めないなら……オレ達が思う存分相手をしてやる。

 降伏すれば、命だけは助けてやるぞ。

 それでも、オレ達に挑みたい奴は……

 かかって来いやあ!」


 オレは最大限の挑発をかます。


「「うおおおおおおおおお!」」


 半分くらいの騎兵と獣人はオレの挑発に乗って戦いを挑んできた。

 ははは。

 お前らがその気で嬉しいよ。


「アリシア、イザベラ……九十九神と共に舞い踊れ!」

「行きましょう、ブリュンヒルデ様」

「ふふふ、アリシア。

 ユーリ様から許可を得たのです。

 存分に戦場に血の花を咲かせましょう?」


 ブリュンヒルデは剣型となり、アリシアと共に戦場へと駆けて行った。

 あっという間にアリシアの背中が小さくなり、戦場にたどり着くと次々に騎兵が落馬し、鮮血が舞っていた。


「ハガネ様、一緒に戦ってくれますか」


 イザベラはひざまづいてハガネの手を取った。


「イザベラ、ケガしないように頑張ろうね。

 私たちがケガでもしたら、ユーリが悲しむからね」


 イザベラは大事なものを扱う様に、ハガネをエスコート。

 一応、ハガネは王妃なのだが貴族的な立ち振る舞いなどできないので、イザベラが色々教えてくれているらしい。


「私の身体を気遣ってくれてありがとうございます。

 でも……私は、あなたとユーリ様のお役に立って見せますからね」

「二人の特訓の成果を、ユーリに見てもらおうね」


 ハガネは剣型へと変わると、イザベラがぎゅっと背丈以上の両手剣を握った。


「ハガネは剣としては大きいけど、イザベラに扱えるのか?」


――イザベラは私の眷属だからね、私と一部同化出来るんだよ。


 イザベラの右手がジェル状の金属へと変形し、ハガネの柄を取り込んで成型した。

 体から両手剣が生えているような見た目。


「ハガネ様と溶け合うこの感覚が私は嫌いではありません」


 イザベラはハガネの刀身を左手でさすった。


――これだと、私も剣を振るうのを手伝えるから大丈夫だよ。ユーリはビックリしてるけど、イザベラの腕、ちゃんともとに戻れるから大丈夫だよ。


「では、行きましょうか。ハガネ様」


――一騎、騎兵が向かってきてるね。私の【共鳴圏域】に入って来た。行くよ、イザベラ!


 ハガネとイザベラは飛び立つと、オレ達の本陣目掛けて来る騎兵のその正面に立った。

 へえ、騎兵に正面からか。

 ハガネ、お前とイザベラのお手並み拝見しようか。


「騎兵の一番の脅威はランス突撃だが、あえて真正面から受けるのか」


――ユーリ様なら、どうなさるのですか?


 クリームが興味深そうに聞いてきた。


「一人だと横に避けて馬ごと真っ二つにしたいところだけど……

 パーティーで戦う場合はかわすと、後衛の魔法使いとかが襲われるからな。

 ジャベリンか弓矢でも使って馬を狙う。

 それでも勢いを殺せなければ……何とか受けるしかないだろうなあ」


――ハガネは戦士であるあなたの剣です。ですから、あえて受けるのでしょうね。仲間の盾となるために。


 ランスの突撃に真正面に構えたイザベラは、剣先を騎兵に突き付けるようにハガネを水平に構えた。


「真正面から受けるだと?

 小娘が、ランスの威力を身をもって知れ!」


 騎兵は勢いを強め、イザベラ目掛けて突撃をした。


「【防御障壁!】」


 イザベラが大声で叫ぶと、ハガネの刀身から前方に向けて銀色に光り輝く防御障壁が作り上げられた。


「な、なんだこれは!」


 騎兵は防御障壁にランスを持って突撃したが、ぐにゃりと粘性を持った防御障壁を突き破ること敵わず、そのまま防御障壁に身体を絡めとられていく。


「く、くそ、身体が絡めとられる!」


 防御障壁が意思を持ったかのように騎兵に襲い掛かり、騎兵は防御障壁に飲み込まれた。


「グ、ガボガボガボ」


 騎兵が気絶すると、ハガネはすぐに魔法を解いたようだ。


――防御障壁を固くするのではなく、さらに柔らかくして運用する……私には思いつかなかったですね。大したものです。


「防御障壁ってより、スライムみたいだな」


 でも、ハガネは確かに成長していた。

 オレがハガネ達を見ているのに気づき、オレに向かって手を振った。

 さて、ハガネも頑張っているし、オレもそろそろ仕事をしよう。


「さて、本陣はどこだろうか」


――真正面にあります。無駄な血を好まないユーリ様。最短で正面から本陣を斬り伏せますか? ブリュンヒルデの方が疾走するのは得意でしょうが、アレクセイの部下の女騎士のように風魔法をまとわせてスピードを上げることくらい私にもできますよ。


「そうだなあ……」


 アレクセイの副官リンマ・シャロヴァはオレの近くに置いとけないため、後方警備にあたってもらっている。


 アレクセイが突き止めてくれた総大将の居場所。

 

「ユーリ。

 ルタは、ユーリの役に立つよ」


 古代妖精エンシェントエルフのルタは桃色の髪をなびかせ、オレの近くに歩いてきた。

 もちろん、その守り神であるイゾルデも付き添っている。


「へえ、珍しいね。

 ルタが戦いたがるなんて……」

「この戦場には、秘めた思いが溢れそうになっているヒトがいるから」


 ルタはオレを見つめた。


「クリームが前はそうだった。

 でも……私の力、なくても自分で言えたね。

 エライよ、クリーム」


――な、何のことでしょうか。


 上ずった声のクリームを見て、ルタは瞬きをした。


「クリーム、ルタに隠し事はできないよ。

 クリームはいい子だよ、ユーリ。

 可愛がってあげて」

「……わかった」


 オレが頷くと、ルタは首を二回縦に振った。


「このままじゃ、敵をユーリが倒す。

 それで語られない言葉ができる。

 私には見えた」


 ルタは古代妖精エンシェントエルフで予言や、予知の能力を持つ。

 

「イゾルデ、力を貸して。

 イゾルデを引き絞れるルタになるから」


 イゾルデは、ルタの手を取り頷いた。


「ボクが嫌というとでも?

 でも、ルタちょっと待ってね。

 シザー、例のものはできてる?」


 イゾルデは、シザーを呼びに行った。


 ルタは、瞳をつぶり両手を組み祈った。


「何をしてるの?」


 オレはルタに聞こうとした。


――直接魔法でしょう。ユーリ様、今ルタに話しかけてはいけません。集中を乱します。


「あ、そうか」


 ルタに光が集まり集約していく。

 一点に集まった光はまばゆいばかりに輝いた後、再度拡散していった。


「な、何が起こった?」


 オレが驚いていると、そこには桃色の髪、桃色の瞳を持った長い耳の女性。

 生まれたままの姿で、オレに笑いかけた。


「だ、だれ?」

「ルタだよ、見て分からない?」


 イゾルデが、シザーを連れて戻って来た。


「ああああああ、間に合わなかった!」


 イゾルデが肩を落とした


「あらら、美人の裸はここだと困るよ。

 ねえ、ユーリ様」


 シザーが、ささっとルタに服を着せた。


「急な話だから、普通のワンピースしかできてないよ」


 大きくなったルタに合わせて作った水色のワンピース。


「でもかわいい」


 ルタはくるりと回転してオレに見せてきた。


「ユーリ、ルタ似合う?」

「ああ、似合うと思うぞ。

 魔法で大きくなれるんだな」

「この方がイゾルデを使いやすいんだ」


 イゾルデは弓となり、大人になったルタの手のひらに収まった。

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