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07 昔日

 竜の挨拶だったのだろうか。

 火のブレスを吐いてきた。


 ソフィアとオレはやっとの思いで飛びのいてかわした。


 しかし、考えうる限り最低のパターンだぞ。

 竜は竜でも赤竜だ。


 地竜であれば、飛んで逃げてしまえばいい。

 氷竜であれば、そもそもあまり追跡して来ない。

 温度変化に弱く自分好みのところでしか生活できないからだ。


 その点、赤竜は火のブレスは吐くし、空も飛べるし、どこまでも追いかけてくる残忍な性質をしている。

 獲物を逃さないことに関しては竜族最強のポテンシャルを秘めているのだ。


「最悪ね……」

「ああ」


 ウルフなどに興味はないオレでもドラゴンと聞くとうずうずしてしまうのでドラゴンの種類は把握している。


 先ほど足を攻撃したときに傷一つ入れられなかった。

 ただ、反撃もせずに逃げ回っていてもいずれ追いつかれてしまうだろう。


 森の中はまだマシだが、街道で追われた場合完全にアウトだ。

 隠れる場所がない。

 赤竜の飛翔速度を超えて逃げ切れるとも思えない。


 ブレスを吐かれないよう小刻みに場所を変えながらソフィアと相談する。


「ソフィア、逃げたいけどどうやって逃げる?」


 ソフィアはジグザグに走りながら顎に手をあて思案しているようだ。

 器用なことするなあ。


「翼を斬るしかないわ。

 あの巨体を翼の力で浮かせている以上、翼をガチガチに固めるのは無理がある。

 翼を動かすってことは筋肉や関節、軟骨等もいるはず。

 その部分は絶対にもろくなっているはずよ」


 ドラゴンの硬い表皮は斬れなくても、関節部分ならばなんとか……ってことか。


「ユーリ、ちょっと魔法当ててみるから赤竜の気を引ける?

 私も逃げながら詠唱するのは難しそうよ」


 走り回りながら会話をして、表情は平気そうなソフィアであるが、少し息が荒くなっているようだ。

 

「わかった。1分くらいでいいか?」

「何とかする」


 ソフィアが魔法陣を描き始めた。


「はあああああ!」


 オレは気を引くためにわざと大声を出して赤竜の横に回り、ツメとツメの間の肉部分を攻撃する。

 ピクッと目が動いた気がする。

 ソフィアの言う通り、落ち着いて考えれば攻撃が通る部分もあるみたいだ。

 少量の血が流れた。


「これでも食らえ!」


 ようやくできた傷口から剣をねじり込む。


「ギアアアアアアアアア!」


 よし、痛がっている。

 傷口にねじ込んだ剣を抜こうとしたが、食い込んでおりすぐに抜けなかった。


 剣を取り戻すことをあきらめ、すぐにその場を離れる。

 

 赤竜はオレのほうへ体の向きを変えた。その隙に木の陰に隠れてみた。

 探し回ったりしてくれないかな、と期待したんだけど。

 

 すぐに火のブレスを吐いた。

 あたりを燃やしてあぶり出すつもりらしい。

 直撃は免れたけど、煙にやられてしまいそうだ。

 口に当てる布でもあれば良かったんだけど。


 あたりの木々に炎が燃え移る。

 まだ燃えていないあたりに逃げようとするが、赤竜はそれを見越して木々を薙ぎ払った。


 幸いオレには当たらなかったけど、あたり一面の木が見事に薙ぎ払われて、オレは次の行き先を完全に失った。


【氷のアイスニードル

石弾ストーンバレット


 ソフィアが竜の翼を目掛けて複数の魔法陣を一斉に発動させた。

 魔法のつぶてが弓矢で一斉射撃したように赤竜めがけて飛んでいく。

 短期間であれだけの量の魔法陣を正確に描けるなんてな。


「ギイイイイイイ」


 嫌がっているような気はするが、どれくらい効果があるものだろうか。

 オレはソフィアのもとに駆け寄る。


「効いてるか?」

「わからない。でも、逃げるなら今しかないよ」


 ぐずぐずしている時間はない。

 脇目もふらず前だけ見て駆け続けた。


 赤竜の咆哮は遠くなっていく。見失ってくれてるといいんだけけど。

 俺と並走するソフィアの様子を確認すると、しゃべるなというジェスチャー。

 ソフィアはオレたちを取り囲んでいる気配をとらえたようだ。


「あの大木で迎え撃つよ、ユーリ」

「ああ」


 とっさにしてはいい判断だと思う。

 大木を利用して背後からの攻撃は封じられる。

 冷静さと分析力に関してオレはソフィアに敵わないな。


 大木の前でオレはソフィアと背中を合わせた。


 オレ達の周りを取り囲んでいるスカウトウルフが姿を現した。

 オレたちは既に息が上がってしまっていた。


「くそ……」

「こいつら!」


 スカウトウルフは飛び掛かるタイミングを図っているようだ。


「ユーリ、さっさと片付けるよ」

「剣を赤竜に刺したまんまなんだ」


 ソフィアが驚いている。


「やるじゃん、赤竜に剣を突き刺すなんて。使っていいよ」


 ソフィアが剣を渡してきた。


「いいのか?」

「ユーリが素手で戦うより、私が魔法で戦ったほうがいいでしょ。私はユーリと違って器用だからね」


 ソフィアは魔法も全系統使えるため、オールレンジで戦える。


「行くよ!」

「ああ!」


 ソフィアがスカウトウルフに【石弾ストーンバレット】で攻撃する。

 スカウトウルフ一体を一人で相手にするならば、回避されやすい石弾より風魔法等で攻撃するべきだが動きを制限し動いた先を叩き潰せるなら悪くない選択肢だ。


 ソフィアとオレでスカウトウルフを一匹ずつ仕留めていく。

 正直、この時点でくたくただった。


「最後の一匹だな」


 ソフィアがダメージを与えたスカウトウルフにとどめを刺したときには、オレには背後からの火竜の接近に気づく集中力など残っていなかった。


氷壁アイスウォール

 

 ソフィアが火竜のブレスに反応して防御魔法を唱えた。

 力を振り絞ったのか、ブレスを受けても氷壁はびくともしなかった。


 氷壁のしぶとさに諦めたのか、地面を揺らしながら赤竜は遠ざかっていった。


「た、助かったのか」


 深く息を吐く。


 「ソフィア、おい火竜が逃げていくみたいだぞ」


 反応がない。


 「どこだ、ソフィア!」


 近くにいたはずのソフィア。


「…う…」


 声の元へ駆け寄った。。

 ソフィアは炭となった木々の間に背中を向けて倒れていた。


「ソフィア…」


 着ているものはすべて焼けてしまい、背中は焼けただれていた。


 倒れていたソフィアを抱きかかえる。


「ユーリ」

「なんで、オレにだけ防御魔法を使ったんだ!」

「咄嗟だったから……でも、無事でよかった」


 ソフィアがオレに抱き着いてきた。

 

「助かって良かったね、ユーリ」

「何言ってんだよ、オレの代わりにお前が傷ついてどうするんだよ!」

「……生きていて欲しかったんだよ」


 オレは自分がふがいなくて泣いた。

 もっと強ければ、ソフィアが傷つくことなんてなかったのに。


「ねえ、ユーリ。

 覚えてる? 私の背中に大きなヤケドのあとが残ったとき、ユーリは言ってくれたよね。

 オレが責任を取るって」

「……ああ。言ったよ」


 オレはソフィアにそう伝えていた。


「オレはお前のものだって言ってくれたよね、ユーリ」

「そうだよ。

 お前が守ってくれたからオレは生きてるんだ。

 だから、あの時決めたんだ。

 強くなって、お前はオレが守ってやるって……」


 それから、座学もちゃんと聞いたし、稽古だって人一倍やった。

 戦闘だけじゃなくて、ないがしろにしてきた罠外しやダンジョンのマッピングだって必死になって覚えたんだ。


 ……ソフィアを守りたかったから。


「ユーリが私のものならさ、欲しいモノがあるんだ」

「ああ、なんだ」


 ソフィアは笑いながら近づいてきた。


「クビが欲しいんだ」


 ソフィアがオレの首を絞めた。


「や、やめろ……」


 どんどん首にかかる力が強くなっていく。

 クビに絡まるソフィアの手をやっとの思いで振りほどいた。


 絞められた喉のあざが全身に黒く広がっていくような感覚――


「く、何でだ、ソフィア」

「死んでよ、ユーリ。

 殺したくてたまらないんだ、ユーリ。

 ユーリが生きているだけで頭がどうにかなってしまいそうなんだ」


 いや、違う。これは夢だ。

 ソフィアがこんなことを言うなんて……


「逃げるなよ、これが私だよ。

 いつまで昔の思い出に逃げてるんだよ。

 これが現実で、さっきまでのが夢だろ?

 目を覚ませよ、ユーリ」


 何を言ってるんだ?ソフィア。

 ソフィアがそんなこと言うわけないだろ。

 

 オレの目から涙があふれた。


 ああ、夢だったんだな。

 オレを呼ぶ声がする。

 

 久しぶりに見た故郷の夢は甘美で気持ちの良いものだった。

 

 オレに何のスキルもなかったら。

 故郷の村で。

 畑を耕して。

 たまに冒険者ギルドでヤツマタキノコの採集依頼なんて受けて。

 そして、偶然出会ったスカウトウルフを必死になって倒したのを、オレは頑張ったぞって可愛い奥さんに自慢するんだ。

 奥さんの名前は、ソフィアって言うんだ。

 村で一番の美人なんだ。


 なあ、どうしてなんだよ。

 ソフィア。


「ユーリ」


 何か冷たいものがオレを包み込む。


「ソフィア……」

「ユーリ、大丈夫? 私はずっと隣にいるよ。大丈夫だよ」


 腰まで伸ばした銀の髪、赤い瞳のハガネ。


「ごめん、うなされてたね」

「今日は一段と泣いてたね。はい、タオル」


 泣きはらしたオレはタオルを顔においた。


 ☆★


 どうして私はユーリの首を欲しがっていたのか。

 

 私がユーリの胸に大穴を開けてロランが大魔法を3連発をお見舞いした時、確かにユーリは死んだのだろう。


 その瞬間抗いようのなかった殺意が私の体から抜けていった。

 少しだけ童顔なユーリの顔をまじまじと見た。


 どうして私はユーリを、殺したい程に憎んでしまっていたのだろうか。

 

 まだ暖かいユーリの顔に触れる。

 私はずっと触れたかったんだ。

 ユーリと近づくほどに殺意が増していく。

 私はそれでも触れたかった。

 

 手に入らないと知っていたから、殺意と欲望が混ざり合って狂気に触れ、私はユーリの首を欲しがった。

 その唇に触れたかったんだ。


 ……今私は欲しかったものを手に入れるのだ。

 ユーリと唇を合わせた。


 その唇が冷たくて、私はユーリに涙を落した。


 ユーリは昔、私のものだと言ってくれた。


 でも、私がユーリを助けたのは、生きていてほしかったからだ。

 私が死んでしまって私のものにならなくても生きていてほしかった。


 これはこれで私のエゴなんだけど。


「ユーリ、きっと一緒にはいられないだろうけど。

 私があなたのことを嫌いでもずっと元気でいてね」


 私は、【勇者の加護】に祈ることにする。

 

「一生に一回だけ確率を100%にする」


 勇者の加護なのに割と地味で使い勝手が悪いなって思ってた。

 私が多芸で良かったね。ユーリ。


蘇生リザレクション


 光が刺した。成功を告げるように、物凄い殺意が湧いてくる。


 ユーリ、殺してやる、殺してやるぞ。

 

 私は大きな声で笑いながらその場を後にした。

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