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67 戦いの女神

 ノブドグラード城下町の元貴族居住区にネコ族の家の設営が完了したので、夕食をみんなで取ることにした。

 九十九神達と、ネコ族からはレナト、リカルド、アリシア。

 ロシヤ王国からは、アレクセイと女騎士。

 

 アレクセイと女騎士は上座にいるオレからは距離をとってある。


「リンマ、自己紹介しなさい」

「はッ!」


 リンマと呼ばれた騎士はアレクセイに呼ばれ立ち上がった。

 直立の姿勢には、育ちの良さと意志の強さが見て取れた。


「この度騎士団の副団長を拝命しました、リンマ・シャロヴァと申します。

 以後、お見知りおきを」


 クリームはリンマに近づき、ジロジロと品定めをした。


「アレクセイ、この娘は健康ですか?」

「は、副団長を務めるにふさわしい武勇と精神を持っております」

「武勇や精神はどうでもいいのです。

 子を産めるほどに健康的か、魅力溢れるかどうか、それを聞いているのです。

 ユーリ様、どう思いますか。

 美しい女性であるとは思いますが」


 オレはリンマを見た。

 意思の強そうな青色の瞳、肩で切りそろえた金色の髪。

 会食ということで軽装鎧を着ているが、長身でスタイルが良いことは鎧の上からでもわかる。

 

「そうだな、美しい人だと思う。

 戦士として頼りにもなりそうだ。

 リンマ、これからよろしく頼む」


 身体の線を見るからに武術の心得のあるリンマを頼もしく思った。


「夜伽に呼ぶこともあるかもしれませんから、いつ呼ばれてもいい様に身体を清めておきなさいね」

「ははッ! 光栄です」


 クリームの問いに、リンマがひざまづいて頷いた。


「おい、オレの夜伽相手を勝手に決めるなよ」


 クリームはオレの気持ちというよりただ単に【九十九神】スキル所持者を増やしたいのだろうが、オレは馬や牛ではない。

 気持ちってもんだってあるんだ。


「では、リンマ。

 ユーリ様に騎士の誓いを」


 アレクセイがリンマに起立を促した。

 リンマは立ち上がり、オレの元へ向かう。


 九十九神達は全員この後で行われる惨劇を予想しているので、右手を出して構えていた。


 リンマはオレの元へ歩みを進める。


「ユーリ様、私はあなたにこの剣を捧げ……死ねええええええ!」


 突如リンマはオレに捧げるはずの騎士剣を水平に構え両手で握るとオレの心臓へ狙いを付け、地面を蹴った。

 さらに呪文を詠唱し、風魔法で推進力を全身へまとわせ突撃してきた。

疾風迅雷ラピッドアサルト】!


「リンマが悪いわけじゃないけど、止めさせてもらうよ」


 ハガネはオレの前へ出て宙へ浮くと、響く声で命を発した。


「我は九十九神。

 そこなつるぎよ。

 我らが当代様へ逆らう愚挙、わからぬお前ではあるまい。

 天に坐し、しばし反省せよ!」


 ハガネの声が響き渡った。

 リンマの剣は瞬時に上方へと飛ばされて天井を鞘とし突き刺さって、リンマを宙づり状態にした。


「うわあああああ」


 リンマは自分に何が起こったかわからず、叫んだ。


【風のウインドワゴン


 クリームは風魔法で足場を作り、リンマを地上へ導いた。

 地面に足をつけたことに安堵したのか、へなへなと崩れ落ちるリンマをクリームが支えた。


「はあ、距離をおけばアレクセイとは大丈夫だったし、イザベラもオレと話をしてても平気そうだったから油断してたけど、そうだよなあ。

 これが普通の人間の反応だよなあ」


 オレはがっくりと肩を落とした。

 人間に嫌われるってのはもう慣れたはずなんだけど、やっぱりね。

 拒絶って辛いもんがあるよな。


 何も言わなくてもハガネはオレに寄り添ってくれる。

 カンナとキヅチがオレの頭を撫でてくれる。

 ククルはライスボールをオレの口の中にぶち込んだ。


「うめえ……」

「……中にね……お魚の卵の塩漬け……すごくおいしい。

 私の……手作り」


 ククルの手作りのライスボールはとっても美味しく元気が出て来た。

 オレはプチプチとした食感に癒された。


「ありがとう」

「……いつも、ユーリ様用のごはん……用意してる。

 ……美味しいと元気」


 オレはククルにもう一個ライスボールをもらった。


 シザーはオレに手作りの腹巻を持ってきた。


「手触りも滑らかだしさ、匂いもいいんだ、これ。

 ユーリ様にピッタリじゃないかな」

「ありがとう。

 でもシザー、腹巻を今渡す必要あるかな?」


 九十九神達はみんなオレを心配していた。

 

「やはり……」

「ええ……あの作戦で行くしかないようですね」


 アレクセイとクリームは何やらごにょごにょ相談していた。


「ユーリ様、あまたの英雄には人間的魅力がありますが、やはりユーリ様には人望がありません」


 クリームがオレに痛いことを言う。

 ……心が痛い。


「そ、そんなことありません!

 ネコ族はみんなユーリ様のこと大好きです!」


 アリシアが頬を真っ赤にしてオレに伝えてくれた。

 ありがとう。


「ええ、ユーリ様大好きですとも」

「……ユーリ様、大好きだぞ」


 リカルドとレナトも言ってくれた。

 ……君たちは、できれば他の言葉で言い換えて欲しいんだけどな。

 いや、嬉しいけどさ。


「わかってますよ、人望ならぬ、ネコ望はあるんです。

 ただですね、これから革命を起こすにあたり、象徴シンボルが必要なんです。

 民衆から熱烈に支持され、歓声を持って迎えられる英雄が」


 クリームは、革命における象徴の必要性について訴えていた。


 この国に変革をもたらす英雄。

 ただなあ、オレは助けた子どもにウンコを投げつけられるくらい人望がないからなあ。

 アレクセイがクリームの話を継いだ。


「そこでユーリ様という英雄に侍る、ヒロインが必要になるわけです。

 王国最強の戦士の側に仕える戦いの女神。

 故あって王国を追放された戦士を、奮い立たせた少女。


 英雄と少女は、このロシヤの曇天を晴らす明けの明星となる。

 民衆が革命を成し遂げるには、希望という光が必要なのです」


 クリームとアレクセイがオレにかしづいたまま話を続けた。


 オレでは足りない人望を、補うためか。

 ははは、オレは大事な時はいつもお前に頼っているんだ。


「お前たちの書いたシナリオは理解した」


 クリームとアレクセイは、顔を上げた。


「ハガネをみんなに紹介する。

 それでいいだろう?」

「ええ。

 民衆の前に立ち、ユーリ様がハガネを紹介する。

 それだけで十分です。

 希望に飢えた民衆は、自分達の望む英雄の物語をお二人に見出だすでしょうから」


 クリームは瞳を輝かせていた。

 アレクセイもほんのちょっとだけ目を見開いて笑っているようだ。

 

 オレは新しい国の王として、革命の象徴として皆の前に立つ。

 一人じゃ荷が重いからできれば隣にいて欲しい。

 オレはハガネの手を取った。


「おいで、ハガネ。

 ネコ族や騎士たちみんなに紹介しよう。

 新しい国の、戦いの女神さまをね」

「……私でいいの?」


 ハガネは少し自信がなさそうだ。

 

「何も変わらないよ。

 もともとハガネはオレの側にずっといたんだ。

 それをみんなに紹介するだけだよ」

「……うん」


 やっぱりハガネは自信なさげだ。


「もしハガネが嫌なら、だれか他に頼むけど……」


 ちらっと、クリームやブリュンヒルデやアリシアをみやると大きく挙手をしていた。

 ……お前たちにも感謝してるからな。 


「……うーん、それは嫌だなあ。

 だってユーリに紹介されるの嬉しいもん。

 認められたって気がするよ」

「じゃあ、頑張ってよ」

「……頑張る」


 ハガネも決意を固めたようだ。


「ユーリ様。

 ネコ族や騎士たちに集合をかけますから……ハガネ、その間に着替えてはどうですか」


 クリームは荘厳なドレスでも提案するつもりだったのだろう。

 オレはクリームに首を振った。


「いや、ハガネはこの装備のまま行こう。

 オレの傍らに立つ戦いの女神さまだからね。

 民衆を導く自由の女神に、ドレスなんか似合わない」


 ハガネはオレと同じような鎧装備をしている。

 それでも可愛らしい印象を受けるのはシザーの愛情と技術のなせる技だろう。

 プレートメイルの浮彫だったり、各箇所の飾り付けで可憐さを演出していた。

 

「これからもずっと一緒に戦ってくれるんだろう?

 ……女神様」


 ハガネはオレに走りよってきた。


「もちろんだよ!」


 オレはハガネの飛び込んできた力を利用してくるくる回す。


「うわー、目が回るー」


 ハガネは嬉しそうにオレにされるがままにしていた。

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