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06 ソフィア・クドリン

 透けるような白い肌に腰あたりまで伸ばした金の髪。

 蒼い瞳は宝石のように輝いていて――


 その剣技は他を圧倒し、その場の皆がを息を飲むほど流麗だった。

 それは相対するオレさえしばらく手を止めてしまうほど……

 あ、いけね。


 スパァアン!


 村の稽古場中に響き渡るようないい音。

 教科書のような一撃を脳天にもらって倒れ込む。


「何してるのよ」

「イテテテ」


 あきれたような顔で手を差し出してオレを引っ張って立たせた。

 

「模擬戦で初めてユーリに勝ったわ」

「おめでとう」


 オレは素直に称賛の気持ちを拍手に込めた。

 少女はジロリとオレを睨む。


「まあ、今みたいな腑抜けた試合に勝ってもうれしくないけどね」

「ははは」


 全くもって今の試合はオレが悪いので言い返す言葉もない。

 嬉しくないと言いながら、少女の足取りは軽かった。


 ソフィア・クドリン。

 【勇者の加護】を持つ少女だ。


 ☆★


 まだオレが、俺達が――勇者パーティとして村の外にも出たことなかった頃のことを思い出していた。

 まだオレのスキル「ゴキブリ」は大人しくしてくれていて、みんなが俺を職業である「戦士」じゃなくて「ユーリ」と読んでくれていた頃の話だ。



 村を出て街道を歩く。

 剣術の稽古を終えたオレ達は、今日初めて冒険者ギルドの依頼をこなす。

 最初の依頼ということでとても簡単なものをチョイスした。


 薬草の採取。

 冒険者ギルドの依頼の中でもカンタンなものだ。


 ただ、モンスターが生息する地域の薬草採取であるので冒険者ギルドへ依頼するのが定番となっている。

 実際、成人した大人数人であれば問題なくこなせるだろう依頼。

 危険に出会うとしてもゴブリンやアンガーラビット等の亜人や魔獣の類いだろう。


 パーティーリーダーであるソフィアは慎重な性質で、最初の依頼をとても安全な採集依頼にした。

 ソフィアの意見に特に反対はしなかった。

 オレは最初から討伐依頼がしたかったけど。


 目印の大岩を右手に街道から外れ、森の中を目指す。


 さあ、いよいよ冒険の始まりだ。

 ダンジョンを進んでいくとしようか!


 もちろん先頭はオレだよ。

 戦士が先頭ってのは冒険物語の定番だからね。


 オレを先頭にドンドン奥へ進んでいく。

 大まかな方向は頭に入れてあるからいちいち地図を見なくても大丈夫。

 ソフィアはその辺細かいんだよな。


「ねえ、ユーリ。

 ヤツマタキノコの群生地はこんな奥じゃないと思う。

 もっと手前に分岐があったんじゃないかな」


 ソフィアが地図を片手に立ち止まった。

 【癒し手の加護】を持つオリガが心配そうに地図を覗き込む。


「迷い込んでいるのかもしれません。

 ほら、聞こえませんか。オオカミでしょうか。

 遠吠えが聞こえてきませんか、それもかなりの数じゃないですか」


 オリガは支援魔法で集音する。

 その鳴き声をソフィアが分析した。


「ウルフ、スカウトウルフが十数名ってとこかな」

「スカウトウルフか。

 以前はぐれを一匹やっつけたことがある。大丈夫だ」

 

 オレが戦ったことのある魔獣で良かった。

 正直、大したことは無い。


「ユーリはギルドの座学を全く聞いていないのね」


 ソフィアがオレをつねる。

 まあ、言われる通りなんだけど。


「痛いってば」

「スカウトウルフは知能が高いわりに、プライドがなくって他のモンスターの支配をうけることがあるんだ。

 そして、一匹だけで行動することは少なく、遠吠えでの意思疎通や足の速さを利用したグループでの偵察行為と奇襲にこそ真価を発揮する……だったっけ」


 ロランが自信満々に答える。

 ロランはソフィアの二つ年下の弟で、このときはまだ【魔法使いの加護】を発動させていなかった。


 小さいのに【剣技】スキルを持っていて、オレに事あるごとに勝負を挑んでいた。

 このころのロランはオレも戦士になるんだって息巻いていたっけ。

 

「偉いね。ロラン、ちゃんと座学を聞いてたんだね」


 ソフィアがロランの頭を撫でてあげようとした。

 

「バ、バカ。

 オレも勇者パーティーなんだからな、子ども扱いするなよ!」


 ソフィアの手を振り払い、ロランは口を尖らせた。


「だからといってソフィアに褒められないと怒るんですよ。

 ロランは」


 オリガはそう言ってロランをからかった。


「……そんなことないよ」


 ロランがぶすっと膨れている。

 このままにしておくと、またオレがロランのご機嫌取りをしなきゃいけなくなるんだよな。

 こいつ気難しいからな。


「まあまあ。

 そんなことより、ヤツマタキノコの群生地を探そうよ。

 そろそろ採集終えないと今日中に村に帰れないぞ」


 オレは話題を変えた。

 森の中が暗くて時間間隔が怪しくなっているが、村を出発して随分たっているはず。

 どちらにせよ、もう少しだけ生息地を探して見つからなければ切り上げて後日また来よう。


「でも、スカウトウルフが複数で遠吠えをしている場合、すぐに逃げたほうがいいって言ってたよね」


 ロランが座学の知識を披露する。


「スカウトウルフが姿を現すとき、それはボスが得物を捕捉したとき――でしたっけ」


 ボソリと座学時に学んだことをつぶやくオリガ。


 ソフィアが何かに気づいたのか、騒がないようにジェスチャー。

 スカウトウルフの気配はする。

 だが、姿は見えない。


 オリガも気配に気づいているようだ。

 オリガとソフィアはすべきことを把握しているだろう。

 全員で散開。


 ソフィアがロランを引っ張り二人で地面に伏せた。


 オリガが既に作成済みの魔法陣を広げて手早く詠唱した。


 オレは詠唱中のオリガを襲ってくるモンスターに対して備えていた。


 かなりの数だな。剣を握る手にじっとりと汗をかいていた。

 オリガの詠唱が完了した。オレたちは目をつぶり耳を押さえて魔法に備えた。


 【轟音シャウトアンド閃光スパーク

 

 既製品の一度限りの魔法陣だが、この際仕方ない。

 光と音が当たりに襲いかかる。

 さすが、ギルド一押しの逃走用魔法だ。


 スカウトウルフは質の良い目と耳を持っているため、殊更効果がある。


 目を回したスカウトウルフがヨロヨロと歩いているところを刈取る。

 オレ達を捕捉していたことは間違いないな。


 隙ができるタイミングをじっと待っていたのだろう。

 殺害に躊躇など出来ない。残忍な性質のモンスターなのだ。


 オレたちは目に見える範囲のスカウトウルフをつぶし終わった。

 ただ、どこかに強力なモンスターと残りのスカウトウルフがいるかもしれない。

 大きな音をさせないように静かに森から出よう。


 ソフィアを先頭に地図をオリガに任せ、ロラン、オレの順で脱出する。

 ソフィアは行きで地図を見ていたため、大体の道を把握しているから先頭を任せる。

 しんがりはオレ。


 帰り道を慎重に歩いているとロランが木の根っこに足を引っかけて転んだ。


「イタタタ。大きな木だね」


 ロランが引っ掛かった足を抜こうとするが、木自体の重さで抜けなかった。


「ん、重い」

「まったく、世話が焼けるな。

 少しびっくりすると思うがガマンしろよ」

「う、うん」


 オレは大剣を取り出して木の根っこを切り落とすことにする。


「ユーリ、どうした?」


 先頭を急ぐソフィアが遅れているオレ達を心配して声をかけた。


「ああ、ロランが転んで木に足を挟まれてしまってな。」

「大丈夫? ケガはない、ロラン」

「別に大丈夫だよ」


 ソフィアはロランに対して心配性であるし、ロランはソフィアになかなか素直になれないらしく、ロランは最近いちいちソフィアに突っかかる。

 反抗期って奴だろうか。


「よし、今から斬るからな」

「うん」

「それにしても大きな木……」


 ソフィアが木の大きさに圧倒されていた。

 木の様子を触って丹念に確認していた。


「はあああああ!」


 オレは大剣を上段に構え、木に一撃を加えようと飛び掛かった。


「え?……ユーリやめろ!」


 ソフィアが木への攻撃をやめるよう叫ぶが、途中で技を止められなかった。

 木の幹に思いっきり大剣をぶつける。

 金属同士のぶつかり合う音がしたが、幹はびくともしなかった。


「ゴオオオオオオオオ」


 幹は上に持ちあがり、先にツメがついているのが見えた。


「ツメ?」

「スカウトウルフのボスはこいつだったんだ」


 ソフィアがいまだ全容の見えない大きな幹とツメを見ていた。


「怒らせてしまったかな?」

「だろうね……」


 地面を震わすような咆哮。怒ってらっしゃるようだ。


「なあ、この森にこんなヤツがいるって報告あったか?」

「あればこんな駆け出しが受ける依頼のランクにしてないよ」


沈静化カームダウン


 オリガが魔法での鎮静化を図ってみたが……


「ダメです。

 会話をする気がありませんね。

 何も言わず攻撃してきたことについて、ヒドく怒ってるようですね」

「逃げるぞ。しんがりはオレがやる」


 オレは剣を構えた。

 もう少し注意深く確認をしていれば良かった。

 ソフィアはしっかりと確認をしていたっていうのに。


 竜がこちらを見ている。

 だれが眠りを覚ましたかは把握しているようだ。


「オリガ、ロランを連れて逃げろ!」

「それしかないですね。ロラン、行きますよ!」

「嫌だ、オレも戦うんだ」


 オリガはロランに笑いかけた。


「その意気やよし、ですが。ここは逃げましょう。

 私は足が遅いのです。手を引いてくれますか、ロラン」

「わ、わかった」


 オリガがロランと手をつないで叫んだ。


「隙をつくったら、二人も逃げてくださいよーーー」


 二人で走りながらオレ達に声をかけていく。

 

「ソフィア、付き合わせてすまない。オレだけで注意を引けなかった場合、一瞬だけ気を逸らしてくれ」

「……一緒に帰ろうね、ユーリ」

「ああ。行くぞ」


 二人で竜に対して向かい合った。

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