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57 拳を掲げろ

 オレはアレクセイ・ペトロフをパーティーで丁重にもてなした。

 もちろん、部屋の中で最大限距離をあけてだけどね。

 そうしないとオレが持つ【生きているだけで殺したいほど嫌われるスキル】のせいでアレクセイがオレに襲い掛かってしまうから。


 聖夜のパーティーだから、みんな一芸を練習していたらしい。

 ブリュンヒルデの剣舞に、ククルの料理、シザープロデュースの可愛らしい衣装を着たカンナとキヅチの打楽器演奏、ともてなしの内容は非常に凝ったものだった。

 

 もてなしの中でアレクセイとオレは友好を深め、アレクセイはオレに忠誠を誓うのであった。


 ……ってオレは思ってるんだけど、アレクセイに聞いてみるとたぶん違うんだろうね。


 オレはアレクセイに届くよう、愛妻ナターリヤを通じて手紙を出した。

 人の好いナターリアは疑いもせず、オレが書いた手紙をアレクセイへ送る。


 アレクセイはナターリアを通じて手紙が来た意味を脅迫と取り、妻と子のため否応なくオレへ協力することにした、ってとこなんだろうな。

 アレクセイは口調は柔らかかったけど、オレをずっと睨んでいたからね。

 

「ユーリ様、こちらへ」


 ククルの作った上手いあぶりチキンと焼き菓子をアレクセイと食べた後、オレ達は小屋の外に出た。

 料理と焼き菓子に関しては紛れもない歓待の気持ちが込めてあるから喜んでくれるといいんだけど。

 真っ暗な中に松明が灯されている。


 オレは正直この明るさでは近くしか見えないがネコ族や、九十九神は平気らしい。

 【共鳴】を使いあたりの様子を把握しながら、ハガネがエスコートしてくれる。


「こっちだよ」


 オレはみんなに連れられて、村の広場に来た。

 レナトがオレを席に案内し、紹介してくれた。


「我らが友人、受けた恩を数えればキリがない、ユーリ様からお言葉をいただく。静粛に」


 あたりは静まり返り、たいまつに照らされたネコ族達の顔が浮かんでいた。

 そこまでビシッとされると逆にオレが緊張しちゃうんだけどな。


 覚悟を決めて前に出る。


「ネコ族のみんな、騎士たちの襲撃を受けたことすまなかった」


 ネコ族はざわついた。


「あなたが何を謝るのです!」

 

 リカルドが立ち上がった。


「氷竜の鱗を置いていくなど、領主ガガーリン家に付け入るスキを与えてしまった。

 そして、オレはそれに気づかなかった……」


 オレは拳を握りしめた。


「できるだけ、元の暮らしに戻れるようにオレが――オレと九十九神達がネコ族を支えていく。

 安寧を望むなら、オレが保証する。

 守り抜くことを約束する」


 オレはネコ族達に訴えた。


「オレは全力でこの村の守護神となる。

 失った友人たちの分まで、オレがこの村を守り抜く」

「ユーリ様……」


 リカルドが頭を下げた。


 オレはネコ族達の後ろ、キレイに並べられている亡骸の側に行く。

 短い間だったけど、100人足らずの村だったから見たことのある顔ばかり。


 はじけ飛んだであろう村長の衣服も並べてあった。


「だが、もしお前たちが……女子どもの悲鳴が耳から消えぬなら、

 切り裂かれた同胞から流れる血液の匂いを忘れられないのならば、お前たちが奴隷として人間に囚われた獣人たちの解放を真に望むなら――

 追いやられたお前たちがやっとたどり着いた、この【世界の一隅ひとすみ】すら奪おうとしたこの世界に、このロシヤに反逆したいなら――」


 オレは右拳こぶしを突き上げた。


「拳を掲げろッ!」


 ネコ族はしばらくの沈黙のあと、全員が拳を突き上げた。


「「オオオオオオオオオオオ‼」」

「「ユーリ様! ユーリ様!」」


 拳を突き上げ、オレの名を称えるものには、老人も、子どもであるノエもいた。

 ノエは泣きはらした目を開け、拳を勢いよく突き上げていた。


 良かった。

 オレだけじゃなかったんだな。

 

 『復讐せよ』という声が頭から離れないのは。


「国旗を!」


 オレはシザーに合図をした。


 ロシヤに忠誠を誓っているポーズを示すため、ネコ族が持っていた国旗をシザーが運んできた。

 

「この国は厳しい冬を越すため、わずかな農地を求めて絶えず人間と獣人が争ってきた」


 士気を鼓舞するため、オレが口上を述べる。


「戦士にとって、負けは甘受するもの。

 ネコ族は人間と戦い負けて流浪の身となった」


 ネコ族達はオレの言葉に聞き入っている。


「土地を追われ、搾取される――そこまでは敗戦の士として甘受してきた。

 そうだろう!」


 ネコ族達は、拳を突き上げ咆哮した。


「ただ、お前らは戦士だ。

 戦士は自分の娘を売女ばいたに落としはしない。

 未来を担う女子どもを奪われても、ひとときの安寧のためと言い訳をして黙っていられるほど、小賢しくはない。

 違うかッ!」


 ひときわ大きく咆哮するレナトにつられ、ネコ族は身体を震わせ全身を使って咆哮し、地面を揺るがした。


「この反逆には人間の協力者もいる」


 ネコ族達がざわつく。

 アレクセイが前に出る。


「説明しなくてはわからないだろうが、名前は……」


 オレはアレクセイを見る。


「アレクセイでかまいません」

「アレクセイ・ペトロフ。

 獣人族の反乱を制圧したときにオレの部下であった人物だ」

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