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55 聖夜の恋人

 唇を重ねたまま、ハガネの体のラインを堪能するように後ろに回した手で肩口と腰のあたりを撫でていく。

 肩を触っていた手が腰まで伸ばした銀髪に触れた。


「キレイにしてあるんだな」


 髪を撫でてやるが、はじめて会った時よりも髪に艶が出ているように思う。


「アリシアはね、いろいろ知っててね。

 キモノの着方とか、髪の手入れとか」


 ハガネとアリシアは仲がいいんだよな。

 話が合うみたい。


「艶がいいな」

「いい香りもするんだよ」


 たしかに部屋に漂う果物の香りだけでなく、ハガネの髪からまた違う香りがした。


「青椿から取れる油だよ、気分がね、情熱的になるんだって」

「……そうか」


 オレもハガネもこれからのことを考えているのか、少しぎこちない。

 ハガネの唇にもう一度触れ、唇から頬、首筋から肩へ舌を這わせた。


「……ん……」


 肩にかかるキモノが邪魔で脱がせようとするが、これ思ったより固いんだけど。


「なあ、どうやって脱がすんだ?」

「あ……難しいんだよね、脱がすの」


 ハガネは布団に座り、帯をほどき出した。

 

「難しそうだな。

 ハガネが着れるようになるの、時間かかったんじゃないの?」


 ハガネは後ろを向いているから、どんな顔をしているかはわからないけど声は嬉しそうだ。

 

「いやー、だって可愛いんだもんキモノ。

 ネコ族のみんなが着るのもわかるなあ」


 カンナとキヅチを作る九十九神の神事で衣装として使ってから、九十九神にはキモノが大流行りしていて、ハガネもクリームも普段はキモノを着て生活している。

 例外は自作の青いドレスのブリュンヒルデと、これまた自作の水着みたいな服のシザーだけ。


 普段の生活で、みんな着物を着ているのだ。

 ネコ族の生活様式と関係あるのかもしれない。

 ネコ族は、木造建築にタタミとキモノと東方文化の影響が大きいのだ。

 

 生活様式と相性のいい服を着ているだけなのかもしれない。


 ハガネが帯をほどく間、そんなことを考えていた。


「帯は解いたよ」


 ハガネは、そのまま座っている。

 ……そういうことか。

 オレは、帯が解かれたキモノと襦袢を脱がした。


 座ったままのハガネの傷一つない背中を見つめる。

 肩口から腰までのラインに見とれたあと、背中から抱きしめた。


「甘えたいの?」


 前にも、背中を見ていたことがあったなあ。

 あの時は泣いてしまった。

 

 あれ。


 今も、オレの目には涙がたまっていて、こらえようとしたけど、オレの目から涙が零れ落ちた。


「泣いてもいいんだよ」


 オレの涙がハガネの背中を伝う。

 

 さっきハガネから「好きだよ」と想いを伝えられたとき、オレはすぐに言葉が返せなかった。

 それを察してか、ハガネはキスをしてオレの口を封じた。

 少し悲しそうな顔をしていたのはオレの見間違いではなかった。


 きっと、オレの心の奥底にはソフィアがいる。

 そうじゃないと、ハガネをこんな姿で作らない。

 

 金髪と銀髪。

 蒼い瞳と、赤い瞳。

 あとは、背中のヤケド。

 

 それ以外は同じなんだ。


 でも、それでも――オレはハガネに側にいて欲しいんだ。


 ハガネは後ろにいるオレに全体重をかけてきた。


「えい」


 オレはバランスを崩して倒れてしまう。

 倒れたハガネと向きあう。

 横を向いたハガネの裸身が目に入った。


「キレイだよ」

「……泣いてないで、おいでよ」


 ハガネの手招きに応じ、横になったままオレはハガネの胸を借りた。

 

「ここに挟まれたらもう逃げられないんだよ」


 ああ、そうだな。

 もう、ハガネから逃げたりしないからな。


 オレは、ハガネに覆いかぶさるとハガネの首筋に手をあて、ゆっくりと唇を合わせオレの体に触れるハガネの柔らかな全身の感触を味わった。


 そして――


 ☆★


 ――しばらくたって


 体がべたべたするので、二人で風呂を浴びた。

 風呂に一緒に入るとまた気恥ずかしくなるのはなんでだろうか。


「おなか減ったね」


 風呂上り。

 オレはごろごろしているが、ハガネは髪の毛をしっかりふきあげて乾かしている。

 またキレイにセットするのだろうか。


 大変だなあ。

 あ、眠気がしてきた。


「ユーリ、寝るんならこっちおいでよ。

 私しばらく座って髪を乾かすから」


 ハガネの招きにあずかり、膝枕をしてもらうことにする。

 体力も使ったし、風呂にも入って心地よい疲労が残るオレに膝枕はとっても気持ちが良かった。


「このままじゃ、寝てしまうな」

「ごはんできたら起こすから寝ていいよ」

「じゃあ、お言葉に甘えるから」

 

 オレはハガネが髪を乾かすのを待ちきれず深い眠りに落ちた。

 

 ☆★


 クリーム様がゆっくりと部屋に入ってきて寝ているユーリに魔法をかけた。


 【睡眠羊スリープシープ


 クリーム様が、ユーリのまぶたを開いて確認する。


「よし、しっかり寝てるわ。

 みんな、入ってきて!」

「「はーい!」」


 カンナやキヅチ、ククルにシザー九十九神達が入って来た。

 シザーを中心に、またカンナとキヅチが文句を言いながらも設営を始める。


 ここは、私たちが暮らしていた広間みたいに大きくはないけど、みんなでご飯を食べる広さくらいはある。


 ユーリ達は忙しくて忘れていたけど、今日は聖夜。

 なんでも宗教的な儀式で、どこかの偉い人が生まれ変わった日らしくて、昔は教会に言ってお祈りをしていたらしいけど、ネコ族達はお祭りのひとつとしか考えていないみたい。


 鳥をあぶって御馳走を用意して、大人も子どももお祭り騒ぎ。

 若い子たちは、思いを伝えあったりするみたい。

 

 それで、聖夜に出来た恋人たちはずっとうまく行くんだって。

 きっとユーリは知らないけど、私はずっと一緒に居るからね。


 聖夜にはもう一つ言い伝えがあって、子どもは靴下を枕元に置いておくと、大人は星に願いを伝えると、叶えてくれるらしい。


 ホントかな。

 叶わない願いだってある。


 ユーリはソフィアと一緒にいることは出来ない。

 私が人間になることだって、きっと出来ない。


 でも、それでも――ユーリを幸せにすることはできるはずなんだ。

 すうすうと可愛らしい寝息を立て、膝で眠るユーリの頭を撫でながら、私は星に願った。

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