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46 襲撃

 税の受け渡しに備えて、氷竜の鱗は武器一振り分を残し、ネコ族に渡した。

 一つ目巨人由来の獲得品も渡した。


 クリームは渋っていたが、またダンジョン攻略でもすればいい。

 ただ、魔鉱石は九十九神にとって食料のような、血液のようなものなのでネコ族に渡す分はない。

 

 オレ達がネコ族の村、グローバーズコーナーズを出て7日ほど経った。


 村から離れる前に騎士たちの野営地を奇襲し、剣や槍、弓を壊しておいた。


 戦えない状況にして変な気を起さないようにしたかった。

 昨日が、税の受け渡しの日であるが、領主の屋敷から馬車で片道4日ほどかかる距離だ。

 騎士たちも武器の補充は間に合わないだろう。


「騎士の方たち、殺さずにおいて良かったのでしょうか」


 ブリュンヒルデがオレに尋ねた。


「あそこで騎士たちを殺すと、ネコ族と人間の間の問題になってしまう。

 そうすると、オレたちが村を出た意味がないからな」

「……それより、これからどこを目指しましょうか」


 クリームが地図を広げてオレに見せた。


「地図なんて持ってたんだな」


 ブリュンヒルデはファッションショーでお披露目した黒い帽子に黒いコートの新しい装いである。


「きっと、新しい場所を目指す時が来る。

 そう思って準備していました。

 できれば、あの村にずっと居れたらとは思っていましたが」


 クリームもどうやら名残惜しいようだ。


「世界って広いよねえ、ユーリ」


 ハガネはオレにつとめて明るく話しかける。

 

「……そうだな」


 ハガネも新調した銀のプレートメイル。


「南西のエルフの領域などどうでしょうか」


 クリームが提案してきた。

 

「人間とは敵対しているか」

「……はい」


 そうすると、またオレの存在が人と交わったハーフエルフの存在を明らかにしてしまうのだろう。

 

「はあ。魔族の領域でも行くかな」


 ブリュンヒルデがオレに近づいてきた。


「ネコ族の村の方から、獣人が一人こちらへ向かっています」


 ブリュンヒルデは夜間でも生物の位置を把握できる偵察能力を持っていて、ヒト型でも発揮できる。

 温度と、振動で把握しているのだと言っていた。


「ん、リカルドか誰かか?」

「少しお待ちください。

 精度を上げるのは集中を要します」


 ブリュンヒルデはその場に立ち止まると目をつぶった。


「少年のようです。

 ユーリ様がノエと呼んでいた少年が一人、こちらに駆けています」

「レナトや、リカルドじゃないんだな」

「はい、ノエと呼ばれていた少年です」


 このあたりは街道と言えど、モンスターも出る。

 ノエを一人で村から出すことは通常ないはずだ。


「嫌な予感がするな」

「……ええ」


 クリームが答えた。


「ブリュンヒルデ、ネコ族の村の様子はわかるか」


 ブリュンヒルデはクビを振る。


「少し離れすぎているようですわ。感知範囲の外です」

「ブリュンヒルデ、ノエのところに先行しろ。

 モンスターに襲われるかもしれない。

 ノエの回収が終わったら、ネコ族の様子を探れ」


 ブリュンヒルデはうなずいた。


「ご命令通りに。

 村の偵察結果は、お姉さまとハガネに【共鳴】してお伝えします」


 ブリュンヒルデは言い終わらないうちにその場を離れた。


「クリーム、みんなを頼むぞ。後からついて来い」

「任されました。後ほど合流いたします」


 クリームは敬礼して頷いた。


「ハガネ、飛ばすぞ。ついて来い」


――うん!


 オレは地面を蹴り、空中に飛び上がった。

 九十九神であるハガネを装備することでオレの身体能力が向上するのだが、ハガネと心が通じ合ったからなのか、黒翼が生え、飛翔能力まで手にしてしまった。

 クリームによるとまだまだ強くなれる余地があるらしい。


 ただでさえ、人外の身体能力を得ていたのに、人間離れしていくな。


――ノエ、一人で走ってきてどうしたのかな。


 ハガネがオレに聞いてきた。

 予想はある。

 ノエしか動けなかったのだと。

 ただ、オレは口に出す気になれなかった。

 

「ハガネ、もっと早くならないのか」


――速いとコントロールできないんだ、ごめんね。


 ハガネは最善を尽くしているはず、自分の狭量さを責めた。


「ごめん、ハガネは悪くないんだ」


――心配なんだよね、わかるよ。


「……オレが落ち着かないとな」


 ハガネの制御できる限界のスピードで飛んでいるが、いまだ見えてこない。


 ハガネが自分の体を震わせた。ブリュンヒルデから連絡がきたのだろう。

 九十九神であるハガネは共鳴と呼ばれる振動をやり取りすることによって、他の九十九神と連絡を取ることができる。


――ブリュンヒルデ様が、ノエと合流したみたい。


「無事なんだな!」


――背中に矢が刺さってて、まだ息はあるけど出血量が多くて危ないから、抜いて止血するって。


「……何があった」


――うわごとのように、ユーリさま、みんなを助けてって……


「今、行くぞノエ!」


――ノエは頑張ったんだね。一生懸命走ったんだね、矢を受けたまま……


「なんだよ、騎士たちの剣も矢も壊してたのに!」


 オレは唇を噛んだ。


――見えたよ、ユーリ!


 前方にノエとブリュンヒルデが見えた。

 急いで行き、着地してノエの元へ急ぐ。

 ハガネもヒト型に戻った。


「矢を抜く激痛に耐えかね、たった今、気を失ったのです。

 ユーリ様に伝えるんだと、うわごとのように必死で……よく頑張ったと私は思いますわ。

 あなたは戦士でしたよ、ノエ」

「ああ。この姿で全て理解した。

 ノエ、ありがとう」


 ブリュンヒルデは偵察の結果を伝えた。


「ネコ族の村にほぼ生存反応はありません、生存者は……」

「……ハガネ、来い!」


――う、うん。


 オレはブリュンヒルデの報告を聞きたくなかったのか、ハガネを剣型にして飛翔しネコ族の村へ限界の速度で飛んでいった。


――ユーリ、私この速度じゃコントロールできない。


 目の前に大木。

 避けるより速いため、ハガネで切り裂いて勢いを殺すことなく前進した。

 

 地面を揺らし、大木が倒れる。


――落ち着いてよ、ユーリ。


「落ち着けるかよ!」


 オレはオレの意思で最高速度でネコ族の村まで飛ばしながら叫んだ。


「ノエが走ってきた理由はなんだ!

 リカルドも、レナトも動けないんだろうが!

 理由は決まってる、村が攻められたんだ」


 オレが目立ち過ぎたのか?

 いい気になって氷竜からの獲得品を周りに売りさばいたからか?

 一つ目巨人を撃退したからか?

 

――ユーリ、今はみんなを助けるのが先だよ。一人でも多く、助けようね。


「……そうだな」


 ハガネにだけは、オレが何考えてるかあっという間に伝わってしまうな。

 

「もうすぐだよ」


 ネコ族の方から煙が上がっているのが見えた。

 

「頼むから、無事でいてくれ……」


 ネコ族の村は、火と煙に包まれていた。

 オレは、村の中心へ着地した。

 驚くほどに人の気配がしない。


 騎士たちの気配も、ネコ族の気配もしなかった。


「ハガネ、あたりを確認しろ! 生存者を見つけたら報告するんだ」

「う、うん」


 ハガネはヒト型に戻り、あたりを探し始めた。


 オレは、目についた家の扉を開けた。

 家の中は鉄の匂いが充満し、床一面を赤く染めていた。


 小さな子どもを守るように、首から血を流した女が背中を丸めて倒れていた。

 母親なのだろうか。

 その女たちを守るために戦ったのだろう。

 男達二人は入り口付近で目を見開いたまま、胸に槍を突き立てられ、剣で腹を切り裂かれて死んでいた。


「おい、大丈夫か!」


 オレは生存確認をするため、声をかけ、体を仰向けにむかせた。


 母らしき女の獣人に抱かれていた小さな子どもの耳が取れ、泣き声が聞こえた。


 見覚えのある顔だった。

 泣いているのは、半獣の女の子、プリシラ。

 

 倒れていた獣人はフィトとマルコと呼ばれていた。

 

 母親と思っていた獣人の女――長い耳のキツネ族の女。


「イザベラ……」

「……プリシラを……」


 オレはイザベラに駆け寄った。


「大丈夫だ、助けるからな」


 イザベラの出血量は言葉を話せるのがおかしいくらいの量だった。


「フィト、フィトとマルコは無事、ですか?

 私を守ってくれていたから」


 イザベラはすでに目をやられていたのだろうか。

 

 オレはウソをついた。


「……無事だよ」

「そう、良かっ……た」


 オレは手を握ってやった。

 

「……はじめて、手を握りましたね。……ユーリ」


 イザベラ、リズの手から力が抜けていくのを感じた。


「死んじゃだめだ、リズ!

……イザベラ!」


 その小屋の中にはプリシラの泣き声だけが響いていた。

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