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42 洋服お披露目

 屋敷の大広間はシザーの指揮で飾り付けられていた。


「カンナ、キヅチ。

 ちょっと上にできる? あ、うんオッケー」


 シザーは美意識が高くちょっとしたことにもしっかりこだわる。

 シザーデザインの衣装のお披露目会であるが、舞台プロデュースも彼女が行っており、カンナとキヅチは紙材、木材、建築関係素材を幅広く眷属として扱えるため、こき使われている様だ。


 あっという間にオレ達の屋敷の大広間が、花道と客席も備えたステージへと変わる。


「あ、ユーリ様もう少しだからちょっと待てる?」


 シザーがオレに気づいて声をかけた。

 金髪に紫メッシュを編み込んだツインテールを揺らし、白いラバーの露出の高いワンピースというか水着みたいなハイレッグを着て、腰には透ける素材のショールをまとわせている。

 足には金のアンクレット。


 シザーは王都の方で使われていた職人道具をネコ族が高い金を出して交換したものらしく、【九十九神つくもがみ】として目覚めた当初は物珍しさにキモノ暮らしを楽しんでいたが、この水着的な装いがいつもの格好らしい。


 背中もぱっくりと割れているし露出は高いのだが、本人のキャラクターなのか色っぽいというよりアーティストっぽさを感じさせる服。

 

 目元はいつもキラキラしていてハガネに聞いたところによると金箔をみじん切りにしたものを少しずつ張り付けているらしい。

 ハガネがみじん切りにしてあげたって言ってたな。

 ハガネは金属を扱えるから。

 

 物珍しさに出来上がっていく舞台を眺めていると、ネコ族の女の子たちが数人ほど入って来た。

 新作のお披露目会という看板を見て入って来たらしい。

 なんだか宣伝もして大々的にやってるみたいだな。


 子どもたちを皮切りにネコ族の女性たちがわらわらと客席へと入って来た。


「ふふ、満員御礼ですよ」


 クリームもシザーの活躍が嬉しいのだろう。


「なあクリーム。オレ達、ネコ族とも仲良くやれてるよな。

 みんなシザーが作った服のお披露目会に来てくれてさ。

 オレのことも、九十九神達のことも受け入れてくれて……嬉しいよな」


 オレは、大人になって初めて受け入れられた場所、ネコ族の村グローバーズコーナーズを気に入っていた。

 何だかここにずっといられるような気がしている。


 クリームは感極まったのかオレに抱きついてきた。


「……クリームどうしたんだ?」

「嬉しいのは私です。

 ……ユーリ様。みんなを家族のように扱ってくれてありがとうございます。

 武器である私たちには、家など不要と考えてきました。

 でも、受け入れてくれる――帰る場所があるっていうことは素敵なことなんですね」


 クリームは涙を拭う。

 

「後ですね、さっきの笑顔はずるいです」

「クリーム様、仕事の話があるのですが」


 どこからか現れたハガネがクリームを引っ張っていった。


「何ですかハガネ」

「山リンゴとブドウはどちらがいいですかね、受付の飾り」

「どっちでもいいわよね、私はユーリ様と仕事の話があるのです」


 ハガネは引っ張っているがクリームが抵抗している。


「ユーリを笑顔にする仕事、ですか」

「そうです、ハガネ。

 これ以上に立派な仕事がこの世にありますか?」

「世界一立派な仕事だけど、その仕事は私の方が得意です」


 言い争っている二人がシザーから呼ばれた。


「ちょっとハガネ、クリーム様も。

 もう新しい服に着替えないと。

 特にクリーム様は一番初めでしょ?」


 二人は怒られて冷静さを取り戻したようだ。


「あ、行くよ」

「ごめんなさいね、シザー」


 ハガネとクリームは慌ただしく立ち去っていく。

 ハガネがふと足を止めると、オレの方を振り返って言った。


「ユーリ、今から着替えだけど見に来る?」

「からかうなよ。前は覗いて悪かったよ」


 ハガネは歯をのぞかせてからかうように笑った。


「ふふ、私は覗いて悪いだなんて言ってないよ。

 ねえユーリ。私の服、カッコいいから見ててね」

「うん、待ってる。行っておいで」


 ハガネは手を振って出て行った。


 と、同時に天井からブリュンヒルデが降ってきて、首筋に息を吹きかけた。


「ふう……ユーリ様、気が緩んでいませんか」

「うわああああああ」


 オレはブリュンヒルデが一切気配を感じずに現れたので叫んでしまった。


「ユーリ様、ハガネにデレデレしてらっしゃって周りへの警戒がおろそかでしたわ」


 ブリュンヒルデは黒い傘を畳みながらオレに話しかけた。


「お前は心音も一切しないし、足音だってしないじゃないか。

 挙句の果てに天井から降ってくる奴の気配なんて読めるかよ」


 オレはブリュンヒルデに文句を言った。


「ユーリ様、そうおっしゃいましても暗殺者は文句など聞いてくださいませんわ」


 ブリュンヒルデは切れ長の目でオレを睨みつけた。


「これからもユーリ様が気を抜くことのない様に、暗殺者が入り込むことのない様に、私は陰から見守っておりますわ。

 けれども、ユーリ様。

 お風呂場での警備で、床上や天井裏は私もつらいのです。

 お風呂だけは、私と一緒に入っていただけませんか?」


 ブリュンヒルデに四六時中監視され、風呂ですら自由がないだと?

 ふざけてんじゃねえ。


「頼むから、風呂とトイレくらいゆっくりさせてくれよ……」


 とかなんとかやっていると、舞台上の幕が斬って落とされた。

 

 そこには頭を垂れたシザー。

 リカルドとアリシアが太鼓と音で盛り上げている。


 幕は、ひとりでにくるくると片付けられた。

 シザーがやったんだろう。布の扱いは一番うまいから。


「皆さま! ご来場まことに感謝するよ!」


 シザーが顔を上げた。


「九十九神達の新しい戦衣装と、ネコ族の女と、子どもの服を今からたっぷりご紹介するからね!」


 会場はネコ族の奥様連中が多いが、盛り上がっているようだ。

 外の看板の近くにかけていた衣装もネコ族が好みそうな体のラインのくっきり出る健康的なおしゃれな服だった。


 シザーが今着ている露出の高いアーティスト然とした服もネコ族の受けは案外悪くないのかもしれないな。


「では、さっそく行くからね! まず始めはこの人!

 世界最強の戦士ユーリ・ストロガノフ様のメインウェポン兼参謀を担う、我らが九十九神筆頭武器

 ――竜殺し(ドラゴンスレイヤー)、クリームヒルト・グラム様!」


 黒いコートに黒い帽子を着たクリームが優雅に歩いてくる。

 地味目な装いだな、これはこれでカッコいいけど……と思っていると、クリームは舞台中央で止まり、コートを脱いだ。


 観客から感嘆の声。


 白いふちで彩られた黒いジャケットは袖口も飾り付けられており、どこか軍を思わせるカッコよさと、甘さを兼ね備えたジャケットから白いフリルのシャツが顔をのぞかせていた。


 黒いスカートからすらりと伸びるクリームの足を白いタイツとガーターベルトが魅力的に飾り付けていて、全体としてはモノトーンでまとめられた中に、胸元の青いリボンがクリームのかわいらしさを表していた。


「カッコいいです、クリーム様!」


 アリシアが叫ぶように感動を伝えていた。


「お姉さまがこのようなおしゃれな装いを受け入れるとは思いませんでしたわ。

 洋服の存在自体に疑問をお持ちの方ですのに」

   

 ブリュンヒルデが驚いたようにつぶやく

 どんな心境の変化か知らないが、オレも素直に感動を伝えよう。


「可愛いぞ、クリーム!」

「ありがとうユーリ様。

 あなたの隣に居たいから、美しくありたいと願いました。

 シザー、私の願いを込めた服を作ってくれてどうもありがとう」


 巻き起こる拍手に包まれ、クリームヒルトは舞台袖に戻っていった。


「お次は、この人!

 無銘の一刀ながら氷竜を倒したその実力は本物!

 笑顔と人柄はネコ族達をも魅了する、クリーム様の一番弟子で、ユーリ様の7年来の相棒、その名はハガネ!」


 ハガネが赤いマントをつけて歩いてきて、クリームと同じように中央でマントを取った。


「よ、鎧?」


 観客席は驚いていた。


 真銀のプレートメイルが胸部を保護しており、動きやすさを重視して肩周りの装甲は外してある。


 銀色に輝く具足に籠手、男っぽく見える出で立ちをせめてかわいらしくしてあげたいという作成者シザーの思いなのか、プレートメイルには彫刻などの飾りつけが各所に施されていて、プレートメイルの胸部にはアネモネの浮彫レリーフがしてあった。

 

 鎧の下は白いプリーツスカートに黒いタイツ。

 腰まで伸ばした銀髪には瞳と同じ色の赤い蝶の髪飾りがつけてあった。

 あれはオレがあげた蝶の髪飾りを瞳の色に合わせて色を塗ったのかな。


「私は九十九神だから、身を守るのには剣型になったほうがいいので、本当の意味では鎧に意味なんかないんだけど。

 私はユーリと並び立ちたいと思って、鎧を選びました」


 観客がハガネに大きな拍手をくれていた。


 そのままだと武骨なスタイルを、可愛らしく仕上げてくれたのはシザーの技術と優しさのなせる技だろう。

 ハガネの肩の装甲のない鎧はまさしくオレがしている装いだった。

 オレとともに戦ってくれるというハガネの意思を感じた。


「ユーリ様」


 ブリュンヒルデがオレに話しかけた。


「お気づきでしょうか」

「オレはネコ族やブリュンヒルデほど気配が察知できたりしないよ」

「村からそう遠く離れてない距離に騎士が215名おります」


 ブリュンヒルデの偵察に「約」「ほど」という言葉はない。

 しっかりと事実を教えてくれる。


「先見を行っている斥候は5名。

 騎士たちの存在にようやく村の見張りが気付き、村長の耳にようやく入ったところです。

 一人、水溶性の毒を持っていたもののみ殺しました。

 井戸に毒を放り込まれでもしたら村の壊滅の危険性がありますから」


 最小限の殺生とするようにというオレの言いつけは守ってくれている様だ。


 しかし、いい雰囲気のお披露目会を壊したくはないな。


「オレと、ブリュンヒルデで先行して、何かあったら対応するぞ。

 クリームとハガネに連絡して、後でついてくるように伝えてくれ」

「わかりました」


 ブリュンヒルデは身体を振動させ、ハガネとクリームに連絡を取ってくれた。


「他の九十九神には待機を命じておきます」

「任せた」


 ブリュンヒルデが軽く振動して他の九十九神と連絡を行ったみたいだ。

 すると、シザーがオレを見てウインクをしてくれた。

 他の九十九神に連絡は行き届いたようだな。

 

「行きましょう」

「ああ」


 ブリュンヒルデと屋敷の外に出た。

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