41 ネコ族の少年少女
「……ねえ、名前は?」
ハガネは茶色毛をしたネコ族の少女に名前を聞いた。
「ベロニカです、ハガネ様」
ベロニカが離すと同時に尻尾を振った。
剣術稽古の休憩中、ベロニカと名乗る少女にハガネは昔の話を始めた。
ハガネはまだただの武器で、オレが勇者パーティーの一員だった時の話。
他のネコ族の少女たちも話に耳を傾けている。
「知っているかもしれないけど、ユーリは勇者パーティーの一員だったんだ。
いつも冒険から帰ったときでも遅くまで剣を振っていたし、仲間のことを守るため前線で戦ってたよ。
でも、無謀なことはしなかったかな」
ハガネにとっても懐かしい思い出なんだろうか、空を見上げながらゆっくりと話している。
「敵と戦う前にはいつも逃げ道を確保してて、敵わないって思ったら誰より早く退却の判断をして、進むべきときには自分で道を切り開いていたよ。
ふふ、王都の人たちはみんな勇者や魔法使いを褒めていたけどね」
ハガネは悲しそうな顔をしていた。
オレはハガネのその表情を見たことがあっただろうか。
「だれからも褒められなかったけど、ユーリは勇者パーティーの盾として、剣としてとても頑張っていたんだよ」
ハガネは話を続ける。
「亜竜っていってね、赤竜や氷竜みたいな大きいのじゃないんだけど、ユーリ達は亜竜の大群に囲まれたことがあったんだ。
亜竜が炎のブレスを吐いたんだけど、勇者の女の子がその炎を見て青ざめたの。
勇者様は炎が苦手でね。
昔、ヤケドして死にかけたことがあったから」
ネコ族の女の子たちは真剣に聞き入っている。
「そのときにユーリはすぐに勇者様のところに飛んで行って、いまにもブレスを吐きそうだった亜竜のクビを切り落として勇者様を抱え上げると、安全なとこまで連れて行ったんだ」
「その後、どうなったんですか」
ネコ族の女の子たちは冒険話として聞いているのでワクワクしているみたいだ。
「その後はね、ユーリと魔法使いが二人で亜竜に取り囲まれるようにして大立ち回りを行ったんだ。
その間に、氷竜の周りに特大の魔法陣を描いていた勇者様の【氷柱】って氷魔法が、亜竜にドドドドと突き刺さって、あとは一匹ずつ倒して言ったって聞いたよ」
「それだと、ユーリ様は無事だったのですか?」
ハガネは笑って答える。
「ユーリが勇者様を抱え上げている間に作戦会議を行ったんだ」
「あ、そっか! その時に既に作戦が決まってたんですね」
ベロニカが納得したようにうなずいた。
「うん、ユーリ達を取り囲んでいた亜竜を取り囲んでいた氷魔法が四方八方から亜竜目掛けて伸びて来たけど、魔法使いは土魔法も使えるからね、地面を掘って、二人で氷魔法から逃れたの」
「みんなで活躍して切り抜けたんですね!」
子どもたちはみんな冒険話に満足いったようだ。
「一生懸命頑張ってるのに他の人だけ評価されて、いつも人間から嫌われるユーリを守りたい。
私はずっとそう思ってるんだけど、勇者様を抱え上げて必死になって守っているユーリを見ているとね、私も守って欲しいなあって思っちゃうんだ。
変だよね、私は武器なのに」
「カッコ良かったんでしょうね、ユーリ様」
ベロニカがヒゲをピコピコと動かしながら頷く。
「うん。
あ、でも聞いてよベロニカ」
「なんですか、ハガネ様」
二人は仲良くなったみたいだ、ハガネの表情に硬さが取れてきた。
「氷竜の洞窟でね、私が魔法で攻撃されたときものすごい勢いで助けに来てくれたんだよ」
ハガネはとても嬉しそうにしている。
「ふふ、私剣なのにいつもユーリに守られてるんだ。変だよね。
前だって人質に取られた時もユーリは助けに来てくれた」
ハガネは、ベロニカを見つめて答えた。
「どうしてユーリが強いのか聞いたよね。
ユーリは守りたかったんだ、だから剣を振って強くなった。
それだけだよ」
ベロニカがハガネに聞いた。
「じゃあ、ハガネ様はどうして強くなったんですか」
「ふふ、私は強くないんだ。いつもユーリに守られてる。
でもね、ユーリの側にいたいから強くなりたいんだよ」
ハガネはベロニカに答えた。
「ユーリを支えたいからね」
「ハガネ様は旦那様を支えるとってもいい奥様ですね」
「お、奥様……」
ハガネはその響きに満足している様だ。
「ベロニカ、私とユーリ奥様と旦那様に見える?」
「はい、みんな行ってますよ。いいご夫婦だって」
ベロニカは憧れの眼差しで答える。
「お菓子あげるから、もっと広めておいで。
私のことは、奥様って呼んでいいよ」
ハガネはキモノからごそごそと紙にくるまれた砂糖菓子を取り出す。
「いいんですか? ハガネ様、あ、奥様」
「もちろん、みんなで食べていいよ」
ハガネは大きな声で周りの女の子に呼びかけると、ベロニカに渡した。
「「やったー!」」
さっきまでの敬礼での姿勢は忘れ、ただの子ども達に戻り、ベロニカの手元から砂糖菓子をもぎ取っていく。
「こら、ハガネ様に礼を言いなさい!」
「ありがとうございます!」
小さい子が元気にお礼を言った。
その様子を遠目で見ながら、クリームが独り言ちた。
「そうよ、ハガネ。
そうやって外堀を埋めるのよ。
フフフ、正妻の座をつかむため、周りから固めていくのよ」
何言ってるんだか。
「もうお開きにしようか」
オレは、ハガネ達に声をかけた。
「今日は、お披露目会だろ?
もうお昼にしようよ、おなか減ったぞ」
「そうですね、そうしましょう。
今日の昼ごはんはですねえ、ネコ族の皆さんの分も作って来たんですよ」
クリームがそう告げると、ククルが重箱を大量に持ってきた。
とはいっても、九十九神は眷属を自由に動かせる。
重箱が浮いているけど、料理だからだろうね。
フワフワというよりしずしず浮かんでいるぞ。
カンナとキヅチもお手伝いをしているみたいだ。
「机そんなになかったから作って来たよ」
「大変だったよ、頑張ったよ」
「よしよし」
オレは二人を誉めてあげた。
二人とも頑張っているのできちんと褒めて伸ばして行こう。
カンナとキヅチの本領発揮なので作れてうれしいみたいだ。
二人の後ろを机がフワフワ浮かんでいる。
立食なのかな。
何個か椅子もついてきているけど。
カンナやキヅチ、ククルたち九十九神の合図で、机が整然と並び、その上に音もなく重箱がセットされる。
九十九神って戦闘以外にもとても役に立つな。
ネコ族の家もカンナとキヅチが家々を回って古くなった部分を補修しているみたいだし、ククルが二日に一回行うお料理教室はいつもネコ族のお母さん方に好評だ。
オレたちを置いてもらってるこの村に恩返しができているみたいだな。
「このご飯、オレ達ももらっていいんですか?」
ネコ族の子ども達を代表してノエがオレに聞きにきた。
尻尾はぶんぶんと動いているので食べたいに違いない。
「もちろんだ、椅子もカンナとキヅチがみんなの分用意してくれたよ。
ククル、おかわりもあるよな」
ククルが頷く。
「ある……。なくても、すぐ、あるよ」
すぐ作ってくれるって言いたいのだろう。
「よし、みんな席に座って食べよう」
「「はい!」」
子どもたちは息の合った大声で喜んでくれた。
「いただきます!」
「「いただきます!」」
オレのいただきますでみんな一斉に食べ始めた。
ふふ、顔を見るだけで喜んでいるのがわかる。
時折、「うめええええええ」という叫び声も聞こえるが、ククルはホント料理上手なんだよ。
重箱の中には、揚げ物や挽肉が多く、おまけにイモをもっと甘くなめらかにしたおやつもつけられていた。
「うんうん。子ども達は私の好物が好きみたいだね、私のファンが多いんだきっと」
オレの側でハガネが重箱を美味しそうに食べながら言った。
こっそり重箱をもうひとつ確保してあるみたい。
「子どもが好きなものをハガネが好きなだけだと思うけどな」




