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40 剣術の稽古

 氷竜の住まう洞窟から帰還して2週間ほど経った。

 カンナとキヅチの【魂継たまつぎ】のために抜かれた血も、氷竜のブレスにやられた足も、大分調子が戻ったようだ。


 みんなで夕食をとった後、いつものようにハガネがオレの足をマッサージしようと準備をしてくれていた。

 薬湯につけてオレの足先を温めた後、ハガネがふくらはぎから太ももまでマッサージをしてくれた。

 オレが冷たくないようにハガネの手は念入りに温めてあるようだ。


「だいぶ良くなったかな」

「うん、痛みは引いてる。

 動かすのも問題なさそうだ」


 オレは足の小指を動かす。


「ちゃんと動くね」


 足の指をハガネが触って確認している。


「痛いところはない?」

「うん。もう大丈夫。

 明日から剣術の稽古始めるよ」

「ふふ、良かった。あ、そうだ」


 ハガネが何かを思い出したように嬉しそうに笑顔になった。


「明日ね、新しい服が出来るからみんなでお披露目会をするんだよ」


 服の【九十九神】シザーがみんなの服を新調してくれたそうだ。

 氷竜の素材と魔鉱石で潤っているので布類と装飾品はいいものを用意できたとシザーが言っていた。


「みんなユーリに見て欲しいだろうから、広間に来てね。

 剣術の稽古が終わってお昼を食べてそれから準備だよ。

 準備が終わったらユーリに声かけるからね」

「わかった」

「うん、来てね。

 すごくみんなの可愛いんだよ」


 ハガネが太ももまでマッサージし終わったようだ。

 オレとハガネは向かい合って座った。


「ねえ、ユーリ。何で採寸のとき、私たちの裸を見に来たの?

 前の日に採寸するから開けないでねって言ってたよ」

「え?…忘れてて開けちゃっただけだよ」

「そっか。ほら、今カンナとキヅチも一緒に寝てるから。今私も服を着てるから」


 ハガネは少し赤くなっている。


「久しぶりに裸が見たくなったのかなーって」

「うーん。間違えただけなんだよ」


 本当に間違えただけなんだよな。


「あのね、クリーム様がね、夜伽部屋が使われてないって心配してたよ」

「……ああ、あの部屋か」


 寝室の外に作られた豪華な天蓋付きベッドのある部屋。

 オレはそんな部屋を作ったてことは知らなかった。


「ユーリは女の子が好きなの?」


 真剣な瞳に動揺してしまうが、オレは至ってノーマルだと思う。


「うん、そうだよ」


 そうだよ、って返答もどうかと思うけどね。


「あのね、裸を見に来たってことはそういう気分ってことなのかなってクリーム様が言ってたよ」


 アイツ焚きつけるようなこと言いやがって。


「アリシアも可愛いけどね、私も最近可愛いってネコ族の人に言われるし。

 お、お勧めだよ?」


 ハガネが顔を真っ赤にして話してくるが、えっと、今聞き捨てならないことがあったぞ。


「ハガネ、ネコ族の男が話しかけてきたのか?」

「う、うん。

 買い物に出たりするときに話しかけられるよ」


 神事を行ってから、うちの九十九神たちは気に入ったのか、いつもキモノを着ている。

 ハガネもキモノを自分で着付けられるようになっていた。


 今もキモノを着て、髪の毛をアップにしてオレがあげた蝶の髪飾りをつけている。


 オレから見ても魅力的だと思う。

 以前のハガネはどこか冷たい表情だったが、いまは自然な笑顔も出来、勘違いする男がでてもおかしくはないな。だけど……


「……なるべく近くに居てよ、買い物なんか行かなくていいから」


 オレはハガネの手を取った。


「……ヤキモチやいてるの?」

「……やいてる」


 オレは後ろから抱きしめた。


「……じゃあ、もう話したりしないし、外に出たりしないよ。

 ずっとユーリの側にいるね」

「それだと生活できないだろ」


 オレは笑った。


「……私、いつでもいいからね」


 ハガネはオレを見上げて話した。

 主語のない発言だが、ハガネの顔が真っ赤になっているから何を意味しているかは分かる。


「ユーリ様―」

「お風呂よ」


 カンナとキヅチが呼びに来た。


 後ろから抱き合っているオレ達と目が合った。


「仲いいね」

「ねー」


 ちょっと気恥しくなってハガネと目を合わせた。


「風呂入ってくるね」

「うん、いってらっしゃい」


 ☆★


 次の日の朝、久しぶりの稽古。

 オレがいない間はクリームが指揮を執っていてくれていた。

 

 アリシアやリカルドも武術の稽古に混ざっている。

 クリームが激励をかけて型の稽古をしていた。


 っというか、いつのまにネコ族の少年たちが来てるの?

 30人ほど子供たちが増えてるんだけど。


 声を上げながら、木剣を振っている子どもたちの真剣な目をみているとオレも子どものころを思い出してしまうな。


「ユーリ様、もう足は良いのですか」


 クリームがオレを見つけて声をかけてきた。


「うん。ありがとう、アリシアとリカルドだけ来るって言ってなかったっけ?」


 クリームが頷いた。


「どうもユーリ様が人間だっていうことで大人は抵抗感があるみたいなのですが……

 アリシアとリカルドが私たちと一緒に訓練をしていることが知れ渡ると、子どもたちが我先に押し寄せてきまして」


 ハガネが訓練場に来て、子ども達に声をかけていた。


「みんな、頑張ってるね」

「「ハガネ様!」」


 ネコ族の少年少女たちはハガネの声掛けに直立不動で敬礼している。


「うんうん。ビシッとしていてカッコいいよ」

「「ありがとうございます!」」


 少年少女たちは、ハガネを憧れの眼差しで見つめている様だ。


「何だか、ハガネ人気あるみたいだね」

「一つ目巨人との戦いを見ていたんでしょうね。

 ユーリ様はもちろんですが、ハガネも女の子に人気みたいですよ。

 私は直接見れなかったのが残念ですが、眷属の扱いも上手くこなしていたようで」


 ハガネは色々なことを吸収しようとしている。

 昔よりずいぶんいろんな表情も出るようになった。


「あ、ユーリ」

「「ユーリ様!」」


 敬礼をしてくれた。


「みなさん、ユーリ様が来てくれました。少し、休憩にしましょうか」

「「はい!」」


 オレは、少年たちに取り囲まれた。


「ユーリ様、僕たちもやっぱり武器を持つことにしました」


 ネコ族は伝統的にキバやツメを用いた無手での兵法を重視していたらしい。

 人間相手などは、身体能力で圧倒できるのでそれでもいいが、さすがに巨人はそうはいかない。

 

「自分より大きな巨人を一人で仕留めて見せたユーリ様、カッコよかったです!」


 黒毛の少年は、大きな声で伝えてくれた。


「ありがとう。ねえ、名前は?」

「ノエと言います!」


 少年は元気満々に答える。

 

 ハハ、オレが子どもに好かれるなんてな。

 12歳で加護が出て以来、どうも苦手であまり子どもの相手をする気にならなかったけど……


「モンスターって人間やネコ族より大きな者たちも多いからね。

 カンタンな棒術を今日は教えるよ」

「剣じゃないんですか?」


 ノエ達子どもたちはあからさまに残念そうだ。

 子どもだからリアクションが正直だな。


「うん、棒術だよ。

 剣より長くて軽いものだね、ヤリでもいいけど」


 オレは、クリームから渡された棒術を持って構える。

 感嘆の声が上がるが、構えが見せたいわけじゃない。


「行くよ」


 オレは、そこで牽制の仕方と、一撃を足に加えて逃げるやり方を教えた。

 最初は派手な技を教えて欲しそうだったけど、身を守るやり方と逃げ方が一番大事なんだとしっかり戦士の心得を話したら納得してくれた。


 守るのが戦士だと、お前らにも守りたいものがあるだろうと少年心をくすぐってやる。

 そして、自分の命も大事だぞ、とちゃんと伝えておいた。

 血気に流行る少年を諫めるのも先達の義務かなあと。


 オレが講義と模範演武をしたあとは、木剣での乱取りをクリーム監督で始めた。

 クリームの指示はいちいち的確で、30人ほどの少年たち一人一人に目を配っている様だった。


「指導が様になってるな」

「お褒め頂き光栄です。

 戦士の側仕えとして、王宮での軍事訓練などに付き合っていますからね。

 ただの慣れですよ」


 クリームは、オレと話している間も目線は子ども達から外さなかった。

 男子たちはクリームに任せてよさそうだ。


 少し離れた女子達の様子を見に行く。

 女子達の様子を見ると、ハガネを囲んで座ったまままお話をしていた。

 

「ねえ、ハガネ様。

 どうしたらユーリ様や、ハガネ様みたいに強くなれるんですか?」


 女子の中では年長の茶色毛の少女がハガネに聞いた。


「……ユーリはね。私と会った時からずっと一生懸命だったよ。

さぼったところなんて見たことないなあ」


 ハガネは昔を思い出すように話し始めた。

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