39 魔導球(ロラン・クドリン)
クソ、何ですぐ死んじまうんだよ。
あの戦士たちは。
魔王城攻略のためユーリの代わりを補うべく入れた戦士達は魔王の間到着まで持たず、オレ達は引き返すこととなった。
チッ。
別に攻撃に加勢するのまで求めてねえよ。
黄金級の冒険者二人してただの的ぐらい出来ねえのか。
あっという間に死にやがって。
魔法詠唱もビビりながらやらなきゃいけないなんて、アイツの背中を見てた時にはなかったことだ。
今、オレとソフィアは王の間に引きずり出され、魔王城が攻略できなかった言い訳をさせられている。
クソみてえな貴族どもが安全な位置から、「慢心」「環境の違い」などクソみてえな御託を並べやがる。
オレもソフィアも顔もあげず、ただただ聞き流していた。
大臣が何を勘違いしたのか、ソフィアに近づいて杖で顔を殴打するまでは。
バチィッ
「ユーリを造反させたこともそうだが、魔王討伐を失敗させた罪軽くはないぞ!」
初老の大臣がソフィアを叱責し、あろうことか杖で殴打。
ソフィアの頬は赤く膨れ上がった。
「すみません、次こそは必ず……」
「殴打一つで済んで、感謝するんだな」
オレは立ち上がり、大臣へ向かって歩く。
「一つよろしいでしょうか」
「何だ、ロラン。
全くお前が頼りないからワシがこの手でソフィアを叱責するようなことになるんだ。
これに懲りたら、しっかりと役割を果たせ」
オレは、大臣に近づくと親指大の黄色の宝玉を大臣の口腔内へ放り込んだ。
「な、何をする?」
「ロラン、やめなさい!」
ソフィアが言い終わる前にオレは指を鳴らした。
【岩石積】
大臣の体内に石が積み上がる。
「ひぎ……」
ボタボタボタ
内部から体を食い破る岩石に耐えきれず、大臣はあっという間に肉塊へと変わり岩は真っ赤に濡れた。
「だ、大臣が………」
「魔法陣も詠唱もなかった、だれが……」
「こんなことを出来る魔導士は一人しかいない……」
ざわめきが起こりオレに注目が集まった。
【沈黙羊】
既に宙に描いていた魔法陣を使って、うるさい奴らを黙らせた。
「グググ……」
「言いたいことがある方は、発言されてはいかがでしょうか。
何も発言がない。
それでは失礼しますね、皆様方」
オレは、そのまま王の間を出た。
「行くぞ、ソフィア」
「……ごめんなさい」
ソフィアは物言わぬ大臣の方へ礼をし、王の間を後にした。
廊下を歩きながら、ソフィアがオレに話しかけた。
「ロランごめんね。あんなことさせて」
ソフィアがオレの手を引いた。
「違うんだよ、オレが勝手にやったんだ。
気にしないでよ」
その目はやめて欲しい。
オレはソフィアのためにやってるわけじゃないんだ。
腫れた頬を見て大臣を殺してもなお怒りがこみ上げてくる。
「でも、殺すことは無かった気はするの」
生真面目な性格で、気が優しく押しに弱いことろがある勇者様は庶民の人気者だ。
交渉事などからはオレ達が遠ざけている。
面倒ばかり背負い込むからな。
「あと、大臣に使ったあの魔法は何なの?
詠唱も魔法陣の構築もしてなかったみたいだったけど」
ソフィアがオレの瞳を覗き込む。
「ロラン、あなた禁術に手を染めてるんじゃないでしょうね」
「禁術なんかじゃないよ」
オレはしっかりとソフィアの目を見て伝えた。
ウソは言ってないから。
「これは、禁術なんかじゃない。
扱うのが難しいから、オレしか作れないけどとても便利な魔道具なんだ」
オレはポケットから白く半透明な宝玉を数個取り出した。
「魔法陣を布に書いた魔法の巻物って売られてるよね」
「スカウトウルフに囲まれたときににオリガが使ったよね」
「そうそう、魔法陣って書くのに時間がかかるからあらかじめ仕込んでおくんだ」
スカウトウルフの大群に囲まれたとき、【轟音と閃光】という逃走用のスクロールを使った。
詠唱でも扱えるが、効果範囲の広い魔法は魔法陣で増幅するほうが効果が強い。
「でもね、結局魔法陣の魔力って使用者の魔力を使うんだ。
だから、スクロールも魔力がないと扱えないんだよ。
まあ、だいたいの人には微弱な魔力はあるからスクロールは弱い魔力でも発動するものが多いんだけどね」
解説についつい熱が入ってしまう。
オレは魔道具や魔法について語るときに熱くなりすぎるといつもオリガにからかわれている。
「この宝玉、魔導球とでも呼ぼうか。
魔導球は魔力自体、魔法自体を閉じ込めることができるんだ。
そして、使用するときは微弱な魔力を与えるか、物理衝撃を加えれば発動する」
オレは数個取り出した魔導球を弄んだ。
「色がついてないものが、空の魔導球だよ。
さっき、大臣に使ったのは黄色をしていて【岩石積】という初級土魔法を込めてあったんだ。
普通の魔法2回分の威力はあるよ。2回分の力を込めたからね」
ソフィアはじっとオレを見つめる。
「……本当に禁術じゃないのね」
「禁術じゃない。本当だ」
ソフィアの顔が晴れやかになった。
「ふふ、そっか。
魔王城攻略失敗したのロランが一番悔しそうにしてたからね。
悔しくて禁術に手を出すんじゃないかって心配してたんだ」
ソフィアが胸を撫でおろした。
「それならいいんだけど。
私にも一つくれないかな?」
ソフィアが真剣な目で見つめてくる。
「いいよ、大きいものほど威力の高いものができるけどどうする?」
「一番大きいものをもらっていいかな?」
オレはローブから一番大きなものを取り出してソフィアに渡した。
「魔法はオレがつめておこうか?」
「氷魔法なんだよね、あれだけは私の方が得意でしょ?」
オレはこの王国で一番の魔法使いを自負しているが、氷属性はソフィアのほうが適性がある。
「ねえ、威力ってさ、持続効果も長くなるの?」
「色々試した結果、重ね掛けしたら威力も効果時間も長くなったよ」
「……わかった、ありがと。
私、ちょっと剣を振ってから部屋に戻るね」
ソフィアはオレと別れ、剣術の訓練をしに行った。
真面目なことだ。毎日振り続けているんだろう。
オレは自分の部屋の机に腰かけ、ローブに入っていた魔導球を取り出し眺めた。
実際、革命と言ってもいいほどの魔道具である。
これが量産されれば、大砲のたぐいなど過去の遺物となるだろう。
作るのに時間もコストもかかる大砲の球を作るより、素人魔導士が唱えた【火球】を重ね掛けした方が強いんだから。
ただ、これは禁術などでは決してない。
禁術ではないことにソフィアは安心していたし、オレがウソをつくとソフィアにはなぜかわかるのでウソを言ってはいないが、禁術は所詮禁術である。
世界で発見され、使用を禁止しているもので、発明はされているのだ。
禁術より危ないものであることは疑いようがない。
ただ、これがあれば魔王はユーリ抜きでも倒せるだろう。
アイツに頭を下げるなんてごめんだからな。




